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子供と戯れる彼が見たかったので 後藤2話

男の子
「2人に水かけちゃえー!」

サトコ
「え、ちょっ!」

ドングリ拾いのレクリエーションだったはずが、水遊びになりかけている。

(川近くでの遊びは危険だから、やめさせないと!)

サトコ
「皆、待って!水遊びは、おしまい!ドングリ拾いしよう!」

男の子2
「ドングリより水遊びの方がたのしーいー」

女の子1
「わたしもー!」

後藤
完全にスイッチが入ってるな

サトコ
「でも、水遊びは危険なので」

後藤
ああ

私を乾いた石の上まで連れて行くと、そっと肩から手を離す。
そして子供たちに向き直った。

後藤
よし、じゃあ競争をしよう

男の子1
「きょうそう!?」

女の子1
「なにやるのー?」

後藤
氷川先生が作ってくれたしおりに、落ち葉の図鑑があるだろう?
ここに載っている落ち葉を、誰が1番集められるか、勝負しよう

男の子2
「あー、見つけた!」

男の子1
「ぼくもー!」

女の子
「わたしも探すー!」

(あっという間に川から森の方に子供たちを!)

サトコ
「後藤先生、子供の扱い、こんなに上手かったんですね···」

後藤
弟は競争だって言うと、食いついてきたからな
まあ、わかるのは男の扱いだけなんだが

サトコ
「女の子は私が一緒に探します」

女の子1
「氷川せんせーい、見てー!ハートのかたちの葉っぱ見つけたー!」

サトコ
「わ、ほんとだ。それは···」

ポケット図鑑を取り出して調べようとするとーー

颯馬
それは桂の葉ですね

サトコ
「颯馬先生!」

颯馬
甘い香りがしますよ

女の子1
「ほんとだー!」

サトコ
「ほんと···颯馬先生、詳しいですね」

颯馬
皆には、好きな人はいますか?

女の子たち
「いるー!」

颯馬
では、ハートの葉っぱを見つけて、それを好きな人にプレゼントしましょう

女の子たち
「きゃー!」

女の子たちはこれまで以上に夢中になって、ハートの葉っぱを探し始めた。

(さすが颯馬さん···小さいレディの扱いも心得てる!)

サトコ
「皆の好きな人って、誰?」

女の子1
「お母さん!」

女の子2
「お父さん!」

(うんうん、そうだよね。これくらいの子たちの好きな人って言ったら、家族だよね)

女の子3
「わたしはねー、たかおみくん!」

サトコ
「ぶっ···!」

(た、たかおみくん!?たかおみって···え、あの高臣?)

サトコ
「ねえ、その、たかおみくんっていうのは···」

女の子3
「つがるせんせーのことだよ。わたしがおとなになったら、デートするって約束したんだ~」

サトコ
「そ、そうなんだ···」

(まったく、津軽さんは!人妻ハイキングから、こんな小さな子とデートの約束まで···)
(百瀬さんに言っちゃおうかな)

颯馬
氷川先生は、誰にあげるんですか?

サトコ
「え···」

(わ、私の好きな人っていったら、それは···)

女の子1
「氷川せんせい、カレシいるのー?」

サトコ
「いや、それはその···」

颯馬
いるんですか?

サトコ
「···っ」

(こ、この颯馬さんの笑顔!)
(誠二さんと付き合ってることは知られてる気がするけど、でもハッキリうわけには···)

サトコ
「そ、そういう颯馬さんは誰にあげるんですか?そのハートの葉っぱ」

颯馬
そうですね···

ハートの葉っぱで口元を隠した颯馬さんが、妖しげにその瞳を細める。

颯馬
私だったら···

(え、な、何か、距離が···)

桂の葉の甘い匂いが感じられる近さになった時。

後藤
颯馬先生

サトコ
「!」

(せ、誠二さん!)

屈む颯馬さんの後ろに、ぬっと立ったのは誠二さん。

後藤
向こうで木の棒を使って、子供たちがチャンバラを始めて
安全に遊べるよう、よかったら指導してもらえませんか?

颯馬
いいですよ。では、これは後藤先生に

立ち上がった颯馬さんが桂の葉を誠二さんに渡す。

後藤
これは···

颯馬
ハートの葉っぱ、好きな人に渡すんですよ

後藤
好きな、人···

颯馬さんが男たちの方に向かうと、誠二さんの周りの女の子たちが集まって来た。

女の子1
「ごとうせんせいの好きな人って、だーれ?」

女の子2
「おしえてー!」

後藤
それは···

(誠二さんが困ってる!こ、ここは助け船を···!)

サトコ
「皆、それより···」

後藤
俺の好きな人は、とても頑張り屋な人だ

サトコ
「え···」

女の子の頭を順にポン、と撫でながら真摯な声で答える。

(誠二さん?)

後藤
それから優しくて、思いやりがある。皆にも、そんな人に育って欲しい

女の子たち
「ごとう先生···」

ひとりひとりの目を見ながら微笑んだ彼に、女の子たちの目がぽわ~んとなる。

(これは···多くの初恋を奪ってしまったのでは!)
(罪な誠二さん!)

保育士になっても、その魅力は変わらぬ誠二さんに。
何度目か分からないけれど、私の心もしっかりと奪われたのだった。

そして、日暮れと同時にバスは無事警察庁近くの駐車場へと戻って来た。

父母
「先生方、今日はありがとうございました」

子供たち
「おじちゃん先生たち、またねー」

(お、おじちゃん先生!?)

津軽
だってよ、秀樹くん、兵吾くん

石神
『たち』と言われたのが、耳に入らなかったのか

津軽
だから、2人じゃん

黒澤
いや~、ほんと申し訳ないです。オレはどう見てもお兄さんですからね★

百瀬
「津軽さんの方が若く見える」

黒澤
え、忠犬の若返りフィルタすごいですね!?

百瀬
「てめぇ、ケンカ売ってんのか」

サトコ
「お、落ち着いてください!まだ子供たちの目があるんですから!」

加賀
ガキから見りゃ、お前ら全部おっさんだ

東雲
オレは王子様扱いされてましたけどね

(加賀さんって、子供相手にするの結構慣れてるよね)
(石神さん怪獣、加賀さん怪獣、小さなレディ相手にも紳士な颯馬さんに、東雲王子···)
(相変わらずな津軽さんに黒澤さんに、津軽さん命の平常通りの百瀬さん)
(それから···)

後藤
お疲れ

サトコ
「お疲れさまでした!」

私の誠二さんは、いつだって最高だ。

解散後はいったん解散となり、誠二さんの家で集合した。

サトコ
「誠二さんの部屋、久しぶりですね」

後藤
ああ···すまない

サトコ
「え、どうして謝るん···」

ですかーーという問いは、リビングを見てわかった。

サトコ
「これは久しぶりに、なかなか···」

後藤
このところ、忙しくてな···

サトコ
「私の仕事まで手伝ってくれてたからですよね」
「この部屋は私が責任を持って片付けます!」

後藤
今日はアンタも疲れただろう。その辺に寄せておいてくれて構わないから

サトコ
「いえいえ、これくらいでしたら30分もあれば片付きますよ」
「ちょっと失礼しますね」

ゴミ袋を取り出して、カロリーブロックの空き箱や雑誌の山に手をつける。

サトコ
「誠二さん、ここにある雑誌は全部とっておきますか?」

後藤
どれだ?

サトコ
「この···」

雑誌だと、山から数冊手に取ると。
山が崩れて、かなり大胆な水着の女性が表紙の雑誌がこぼれ落ちてきた。

サトコ
「!」

(こ、これは!え、えっちな本!?)
(ていうか、このビキニ面積なさすぎじゃない!?)

後藤
サトコ?

サトコ
「ひゃ!え、あ、その···っ」

声をかけられ、雑誌をパッと背中に隠してしまった。

(わ、私がえっちな本を持ってるみたいな感じに!)

後藤
どうした?

サトコ
「ええと···」

怪訝な顔を見せる誠二さんに、何故かヘラッと笑ってしまった。

(完全に挙動不審!私のバカ!)
(こういう時は、見なかったことにするのがマナーなのに!)

後藤
···やっぱり疲れてるみたいだな。今日は家まで送る

サトコ
「ち、違うんです!私は大丈夫なんですが!これが···」

後藤
ん?

(デリカシーがなくて、すみません!)

心の中で謝りながら、水着女性が表紙の雑誌を前に出すとーー

後藤
あ···

(うわああ!ものすごく気まずそうな顔に!)

サトコ
「ぜ、全然、その、気にしなくていいというか!」
「か、可愛いですね!その表紙の子!」

後藤
違うんだ!これは、津軽さんが勝手にカバンの中に突っ込んできて
返そうと思ったんだが、アンタに似てる子がいるからと言われて···

サトコ
「え···?」

視線を逸らした誠二さんの声が若干小さくなった。

後藤
その、何というか···どんなふうに似てるのかが気になったというか···

サトコ
「わ、私も頑張って、これくらいの水着着ましょうか!?」
「全然、大したことになりませんけど!」

後藤
必要ない!サトコは、いつものサトコで十分だ!
俺は今のアンタがいい

ガシッと両手に手を置かれ、真剣な瞳で言われればコクコクと頷くしかない。

サトコ
「じゃあ、この雑誌は···」

後藤
ゴミだ

私の手から取ると、迷いなくゴミ箱に放り込んだ。

後藤
このところ、顔を見られない日も多かったから

誠二さんはソファの上にある本屋クリーニングから戻ってきた服を床へと置いた。
そして私をソファへと抱き上げる。

後藤
気の迷いだ···本当に、悪い

サトコ
「き、気にしないでください!」
「むしろ雑誌の女の子たちのようにセクシーでないのが申し訳ないくらいで!」

後藤
何を言ってる

ゆっくりと押し倒されると、その手が私の顔の横に置かれる。
覆いかぶさる誠二さんは、どこか苦しそうな切なそうな···そんな顔をしていた。

後藤
俺が欲しいのは、アンタだけだ
似てる女じゃ欠片も心は動かない

サトコ
「誠二さん···」

髪を梳かれ、唇を重ねられる。
触れる回数だけ深くなっていく甘い口づけ。
ぼんやりしかけた思考の中で、ソファから降ろされた服や本が目に入った。

サトコ
「ん、あ、あの···」

後藤
どうした?

軽く胸を押すと、誠二さんは完全にハテナマークの顔をする」

サトコ
「片付けが、まだ···」

後藤
あとでいい

サトコ
「でも、その···っ」

後藤
···我慢できないのは、俺だけか?

(うっ···そんな顔で見つめるのはずるい···!)

キスで濡れた唇と熱っぽい瞳で見下ろされれば、その下から抜け出せるはずもない。

サトコ
「ちゃんと、あとで片付けます?」

後藤
約束する

サトコ
「それなら···」

その首に腕を回すと、より深い口づけが与えられて。
深夜に誠二さんがきっちり掃除したことを知るのはーー翌朝になってからだった。

翌日。

津軽
ウサちゃん、おはよ

サトコ
「おはようございます」

津軽
レクリエーション係、お疲れさま~

(この人が誠二さんに、あの雑誌を···)

津軽
···なに、そのジト目

サトコ
「いいえ、何でも。でも、私の勝ちですから」

津軽
は!?

(私に似たグラビアアイドルよりも、私の方がいいって誠二さんは言ってくれたんだから!)

津軽
何の話?

サトコ
「いえ、何でも」

津軽
うわ、反抗期?そういうこと言ってると、素直な誠二くんと取り替えちゃうからね

ぶつぶつと文句を言う津軽さんに、少しだけ留飲を下げながら。

後藤
おはよう、氷川

サトコ
「おはようございます。後藤さん!」

今日も大好きな人との1日が始まる。

Happy End

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