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子供と戯れる彼が見たかったので 石神2話

遠足中に突然の雨に降られ、予定していたスケジュールは大幅な変更になってしまった。

(元教官方が上手く進めてくれたkら、それに頼っていたけど)
(甘えてないで、私もこの状況で出来ることをしないと!)

サトコ
「あ、私が好きだった絵本···」

(この絵本では夢を見続けることの大切さを教えてもらった···)
(私も秀樹さんみたいに、子供の心に残せる読み聞かせができるかな)

サトコ
「このウサギの絵本、読んでみたい子いないかなー?」

女の子1
「読みたーい!」

女の子2
「氷川先生、読んでー!」

女の子を中心に集まってきてくれる。

男の子1
「石神先生、このご本読んでー!」

石神
魔法使いの本か···面白そうだな

秀樹さんの周りにも子供たちが集まり、雨音をBGMに時間は過ぎていってーー

黒澤
石神先生と氷川先生は、こっちにいたんですねー

加賀
あのメガネがラスボスの魔王だ

子供たち
「ついに魔王を見つけたぞー!」

図書館探検に行っていた班が戻ってくる。

女の子3
「東雲先生、この絵本の王子様にそっくり!」

東雲
え、オレ?

女の子4
「ほんとだ!王子様!」

男の子1
「王子様は魔王を倒すんだよ!」

黒澤
東雲さんVS石神さんですか!?
これは●RECですね!

女の子たち
「王子様、がんばれー!」

男の子たち
「魔王もがんばれー!」

サトコ
「いやいや、ここは平和的な解決を!」

後藤
王子も魔王も話し合えば分かり合えるはずだ

津軽
えー、どっちが勝つかモモと賭けようと思ってたのに

百瀬
「拳で勝負が1番手っ取り早い」

颯馬
ここにある、どうぶつ将棋で決着をつけるという手もありますよ

男の子たち
「どうぶつ将棋、やりたーい!」

サトコ
「オセロとか、すごろくとか···ボードゲームあるよ。ゲーム大会やろうか」

子供たち
「わーい!」

雨は降り続き、1日この図書館で過ごすことになってしまったけれど。
何とか子供たちを飽きさせず、遊ばせることが出来た。

帰りのバスでは、子供たちを中心に多くの人が眠っていた。
そして、私の隣には秀樹さん。

サトコ
「ハイキングの予定が図書館ツアーになってしまいましたね」

石神
だが、帰りのバスで寝るほど楽しんだんだ。成功だと言える

サトコ
「そう思っていいでしょうか···全然予定通りに進められなかったのに」

石神
今回の遠足の目的は何だ?スケジュールをすべてこなすことか?

サトコ
「···いえ、子供たちを楽しませることです」
「成功···ですね」

石神
臨機応変の対応は今後も必ず役に立つ

サトコ
「はい!」

(臨機応変の対応という意味では、予測不能な子供たちの引率はいい訓練になったのかも)

石神
津軽が『将来、いろんなことに挑戦できるといい』と言っていたが
それはあながち間違いとは言えない
俺たちの仕事には、いかなる経験も役に立つ

サトコ
「今日の石神さんの読み聞かせからも、勉強させてもらいました」

石神
···そうか

サトコ
「はい」

(迷いの中でも、正義の追及を続ける···)
(迷ってばかりの私だけど、諦めずにこれからも頑張ろう!)

翌日の午後。
私は昨日の遠足の報告書をまとめていた。

(予定外の行動が銀さんにどう評価されるか、わからないけど)
(精一杯やった結果なんだから堂々と報告しよう)

昨日秀樹さんからもらった『成功だ』という言葉を励みに仕上げていく。

津軽
ウサちゃん、昨日は楽しかったねー

イスを滑らせて横に来た津軽さんに手を止める。

サトコ
「津軽さん、昨日ほとんど見かけませんでしたけど、どこに行ってたんですか?」

津軽
気になる?俺のこと

顔を覗き込んでくる津軽さんに小さく頷く。

津軽
へぇ、今日は素直だね

サトコ
「津軽さんの行動がわからないと、報告書に書けないので」

津軽
そういうつまらない理由なら、教えてあげない

サトコ
「銀さん宛ての報告書に津軽さんは所在不明って書いていいんですね?」

津軽
班長の行方すら把握してない無能っぷりを、自ら書くんだ?
ウサちゃんってドMなんだね

サトコ
「津軽さんの動向は百瀬さんに聞きます···」

津軽
やっぱドM]

サトコ
「そりゃ百瀬さんから、津軽さんの話を聞くのは大変なのはわかってますけど!」
「上手く乗せれば津軽さんのことなら延々と話してくれるのも、百瀬さんです!」

津軽
ウサちゃんがモモを手玉に取る日が来るとはね~
上手くいくといいね

完全に他人事という顔で津軽さんは自席に戻っていく。
そしてーー

百瀬
「戻りました」

津軽
モモ、ウサちゃんが用があるって

サトコ
「え、あ。まだその準備が!」

百瀬
「あ゛?何の用だ」

サトコ
「昨日の津軽さんのことで···というか、百瀬さんたち、どこにいたんですか?」

百瀬
「テメェに教える筋合いはねぇ」

サトコ
「報告書のためにあるんです!」

ギロリと睨む百瀬さんに、今日ばかりは負けじと応じる。

津軽
今日は頑張るね~

(諦めなければ手に入れられる未来もある!)

この日は皆が呆れ、心配するほど百瀬さんに食いついた結果。
昨日の津軽・百瀬の行動詳細を手に入れることに成功したのだった。

その日の夕方。

石神
氷川

サトコ
「石神さん」

廊下を歩いている私に、後ろから声をかけてきたのは秀樹さんだ。

石神
今日はまた随分粘っていたな

サトコ
「あ、百瀬さんの件···お恥ずかしいです」
「でも、諦めなければ手に入れられるものもあると、どんぐり君に教えてもらったので」

石神
そうか。よくやった

頷いてくれる秀樹さんに頑張って良かったと思う。
彼もどこか嬉しそうだ。

(思い出の絵本って、すごく大切な存在なんだな)
(あの本、秀樹さん持ってないよね···?)

彼の部屋で絵本を見た記憶はない。

(帰りの本屋に寄ってみようかな)

帰り道にある数件の本屋に立ち寄ったものの、
『どんぐり君の大冒険』を見つけることが出来なかった。

(もう絶版になってるみたいだけど···諦めるのは早い!)
(ネットオークションかフリマアプリで探してみよう!)

そして絵本を探し始めてから、数日後ーー

石神
夕食、美味かった。鍋はひとりでは、あまりする機会がないからな

サトコ
「そうなんですよね。また一緒に食べましょう!」

石神
ああ。片付けは俺がやる。お前は休んでいろ

サトコ
「いえ、片づけは私がしますので、秀樹さんはこれを読んでいてもらえますか?」

棚から取り出したのは、『どんぐり君の大冒険』。

石神
この本···どうした?

秀樹さんが軽くその目を見張る。

サトコ
「もう絶版になっていたので中古しか手に入らなかったんですけど」
「秀樹さんにとって思い出の絵本のようなので、持っていてもらいたくて」

石神
······

両手で本を持ち、感慨深げな顔で絵本の表紙を見ている。

石神
俺も昔、探したことがるんだが見つからなかった
絵本はそもそもの発行部数が少ないらしい。見つけるのは大変だっただろう

サトコ
「フリマアプリで見つけました」
「ネットが一般的になってる今の方が、そういうのは見つけやすいかもしれませんね」

石神
そうだな···ありがとう

嬉しそうに微笑まれれば、私も嬉しくて堪らなくなる。

サトコ
「秀樹さんの話で、私も好きだった絵本があったことを思い出しました」
「だから、私も買っちゃいました」

私が好きだった絵本もテーブルに出して並べる。
それを見る秀樹さんの瞳は優しい。

石神
お前らしい、柔らかいタッチの本ばかりだな

サトコ
「今度は大事に取っておいて、自分の子どもに読んであげられたらなって」

石神
···子供、か

秀樹さんの目が一瞬泳ぐ。

サトコ
「え、あ、あの、深い意味があるわけではなく!」
「いつかの未来の話で···っ」

石神
あ、ああ。それは···その、良いと思う
俺もいつか···これを読んでやれる未来があったら···

長い指先が表紙のどんぐり君に触れた。
見つめる秀樹さんの瞳には、どこか切なさも孕むような複雑な色だった。

石神
···俺も無意識に諦めていた未来があったんだな

サトコ
「え···?」

石神
いや、何でもない。お前は俺に多くの気付きをくれる

サトコ
「そんなことないです!私がいつも勉強させてもらうばかりで···」

石神
片付けはやはり、俺がやる。それが終わったら帰らせてもらう
遅い時間まで邪魔をした

サトコ
「そ、それなんですが···っ」

石神
ん?

立ち上がろうとした秀樹さんを止めると、怪訝そうな顔をされてしまった。

サトコ
「実は···秀樹さんが昨日午前休なこと知ってしまいまして···」

石神
ああ。それが?

サトコ
「私も午前休、とったんです···遠足の代休で」
「だから···その、今夜は泊っていけますか···?」

石神
あ、ああ

私から誘って泊まってもらうことは、これまでにもあまりなく。
秀樹さんが驚いた顔をするから、こちらも余計に気恥ずかしくなってくる。

(お互いの家に泊まるなんて何度もしてるんだから、今さら恥ずかしがることもないんだけど!)
(今夜は何か···)

石神
···子供を作るか

サトコ
「!!??」
「は、え···ひえっ!?」

石神
冗談だ

サトコ
「で、ですよね!わ、分かってましたよ!」

(し、心臓が止まるかと思った!)

混乱しすぎてどんな顔をしているか分からない私の肩に、手が置かれる。
メガネが外され、近づく瞳はどこか熱っぽくて。

石神
今は···な

サトコ
「え、今はって···」
「んっ···」

唇が塞がれ、抱き寄せられる。

(秀樹さんが諦めていた未来···)

彼が取り戻したと願う未来に、私の存在があったらいいなと思う。
想いを伝えるように見つめれば、応えるようなキスが返ってきて。
同じ未来を見るように、私たちは固く手を握り合った。

Happy End

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