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子供と戯れる彼が見たかったので 颯馬2話

颯馬
氷川先生、ちょっと

ユウタくんに引っ掻かれた私に、颯馬さんがそっと囁いた。

颯馬
彼はあまり人の輪の中で生活するのが得意じゃないのかもしれません

サトコ
「え···」

颯馬さんの足にしがみついているユウタくんに聞こえないよう、小声で話す。

颯馬
集団の中で安心する子もいれば、不安になる子もいるでしょうから

サトコ
「確かに···そうですね」

(1人じゃ寂しいだろうって思ってたけど···)
(それは私の勝手な思い込み···)

というより、私の価値観にすぎない。

(自分にとっていいと思えることが、この子にとって良いこととは限らないのに···)

かえって可哀想なことをしてしまった。

サトコ
「ユウタくん、嫌なことしてごめんね」

ユウタ
「···」

謝りながら頭を撫でるも、ユウタくんはさらに颯馬さんの足にしがみつく。

サトコ
「もう無理強いはしないからね。好きなように今日を楽しんでね」

颯馬
では、コスモス畑に行きましょうか

黙ったままのユウタくんに聞こえるように言って、颯馬さんは歩き出した。
その颯馬さんのあとを、ユウタくんはしっかりとした足取りでついて行く。
ぎゅっと颯馬さんの服の裾を握り締めて。

(ユウタくんは、それでいいんだよね)
(ううん、そうしたいんだよね!)

颯馬さんのおかげで、とても大事なことに気付くことが出来た。

女の子A
「わ~、きれい!」

男の子A
「すげー!」

目の前に広がる一面のコスモス畑に、子供たちの歓声が上がった。

石神
壮観な眺めだな

黒澤
メルヘンですね~

サトコ
「これからみんなでお花摘みをします!」
「綺麗なお花をたくさん摘んで、お土産に持って帰りましょう」

子供たち
「はーい!」

コスモス畑の中を子供たちが駆け回り、思い思いに花束を作っていく。

女の子A
「帰ったらパパにあげるの!」

男の子B
「オレはばあちゃんに持って帰る!」

女の子B
「アタシは···モモ先生にあげる!」

女の子C
「アタシもあげるね、モモ先生!」

百瀬
「···」

(百瀬さん···いつの間にそんなファンを···)

津軽
さすが俺の部下、女の子の扱いが上手いね

百瀬
「あ、いや······お褒めに預かり光栄です」

(そこは否定してもいいかと···)

お母さんA
「あら、津軽先生はモモ先生の上司さんなんですか?」

津軽
ええ、まあ。彼はなかなかデキる部下なんですよ

お母さんB
「それはきっと、上司の津軽先生がデキる方だからですわね」

津軽
いやいや···まあ、そうかな?
隠そうとしてもつい洩れちゃうんですよね~、男としての才能が

お母さんC
「ふふふ、津軽先生って面白くって素敵!」

(津軽さんってば···ちゃっかり奥様ハーレム作ってるし)

百瀬
「情報収集の鬼、さすがだ···」

(えっ···百瀬さん、この状況に感動してる?)
(確かに情報収集も目的ではあったけど···)

颯馬
氷川先生

サトコ
「?」

ハーレム状態の津軽さんに気を取られていると、颯馬さんに手招きされた。

(なんだろう?)

近くまで行くと、颯馬さんは黙って前方を指差した。
その先を目で追うと、ユウタくんがコスモス畑の中に座り込んでいる。

サトコ
「何してるんですかね···?」

颯馬
手元をよく見てください

サトコ
「···花冠?すごい、上手に作ってる!」

颯馬
ええ。とても器用です

コスモス畑の中にポツンと座り込み、ユウタくんは積んだ花で見事な花の冠を作っている。

サトコ
「ユウタくん」

思わず駆け寄って声をかけた。

サトコ
「それ、すごい素敵だね」

ユウタ
「···ほんと?」

サトコ
「うん、とっても素敵。みんなにも見せてあげたい」

(あっ···)
(好きなようにさせてあげようと思ったばかりなのに···)

ついまた余計なことを口走ってしまった。

(あんまり上手だから、ただ純粋に他の子たちにも見せたいって···)
(そう思っただけなんだけど)

ユウタ
「···いいよ」

サトコ
「えっ、いいの?」

ユウタ
「うん···じょうずにできたから」

ユウタくんは少し誇らしげな表情を見せた。

(そっか、ユウタくんは集団でわいわいするのが苦手なだけで)
(周りとコミュニケーションを取りたくないわけじゃないんだよね)

小さく頷いてくれたユウタくんの横で、私は立ち上がった。

サトコ
「みんなー、ちょっと来て!」

周りに声をかけると、すぐにわらわらと子供たちが集まって来た。

サトコ
「ほら見て!ユウタくんが凄い素敵なもの作ってるの!」

男の子A
「お、なにそれ!」

女の子A
「すごい!」

女の子B
「ステキ!」

ユウタ
「···」

みんなに囲まれたユウタくんは、一瞬また困ったような顔をした。
でもーー

男の子B
「ユウタすげーじゃん!」

女の子C
「どうやってつくるの?」

男の子C
「オレにもおしえてよ!」

ユウタ
「う、うん···いいよ」

(ユウタくん···!)

照れくさそうに呟いたユウタくんの姿に、思わず颯馬さんと顔を見合わせる。

サトコ
「いい顔してますね、ユウタくん」

颯馬
ええ。誰だって頑張ったことへの正当な評価は嬉しいものです

颯馬さんも、ユウタくんに負けないくらいうれしそうに微笑んだ。

サトコ
「では皆さん、順番にバスに乗って下さーい!」

無事にお開きの時間を迎え、参加者たちが満足そうな顔でバスに乗り込んでいく。

お母さんA
「とっても楽しい遠足だったわ」

お母さんB
「本当に。子供たちも大喜びだったものね」

お母さんC
「またこんな企画をしてくださると嬉しいわぁ。ね、津軽センセ!」

津軽
え···ええ、もちろん考えておきますよ。ねえ、ウサちゃん

(わ、私に振らないで···!)

サトコ
「今日は楽しんでいただけて本当に良かったです」

焦りつつも本心を伝えていると、クイッと服の裾を引っ張られた。

サトコ
「?」

ユウタ
「···これあげる」

視線を落とすと、ユウタくんがモジモジしながらあの花冠を差し出した。

ユウタ
「···さっきはごめんなさい」

サトコ
「ユウタくん···ありがとう!嬉しい」

笑顔で花冠を受け取ると、ユウタくんも満面の笑みを見せてバスに乗り込んでいった。

解散後、課に戻って報告書をまとめる。

(幼稚園の親子遠足を企画するなんて、どうなるかと思ったけど···)

思った以上に満足してもらえたことに、改めてホッとする。

(勉強になる点もあったし、この任務をやらせてもらえてよかった)

そう思えるのは、颯馬さんの力も大きい。

(颯馬さんの助言がなかったら、ユウタくんの気持ちに気付けなかった···)
(あの短い時間の中でしっかりと子供の心を読み解いた颯馬さん、さすがだな)

尊敬の念を抱くと同時に、反省もする。

(今の私に足りない力だよね···)

瞬時に “人” を分析することの大切さを肝に銘じる。

(例えそれが子供であっても)

~♪

(あ、颯馬さんから!)

『報告書の作成は終わりましたか?私も “本日の成果” を用意して待ってます』

サトコ
「本日の成果?なんだろ···?」

『もうすぐ終わります!終わったらすぐ行きます!』

メッセージを返し、急ピッチで報告書をかき上げた。

颯馬
お待ちしていました

颯馬さんの家に着くと、テーブルにたくさんの料理が並んでいた。

サトコ
「すごいご馳走!」

颯馬
ハイキングの際にきのこを採取したので

サトコ
「えっ?」

(いつの間にきのこ狩りなんて···!)

颯馬
遊歩道沿いに美味しそうなきのこがニョキニョキ生えてました

サトコ
「そうだったんですね。全然気付きませんでした···」

颯馬
貴女は責任重大な立場で大変でしたからね

(確かに余裕なかったからなぁ···)

颯馬
その分、私がたっぷり取ってきました

サトコ
「 “本日の成果” って、そういうことだったんですね」

颯馬
天ぷらに土瓶蒸し、バターソテーに炊き込みご飯など、色々ありますよ

サトコ
「どれも美味しそうです!」

颯馬
今日は特殊任務の遂行、お疲れさまでした

サトコ
「颯馬さんも」

颯馬
では食べましょうか

サトコ
「はい。いただきます!」

(とは言ったものの···)
(どれも食べて大丈夫なきのこなんだよね···?)

若干の不安を感じるも、颯馬さんの気持ちは素直に嬉しい。

(こんな風に労わってくれるの、颯馬さんだけだ···!)

サトコ
「うわ、サクサクで美味しい!」

颯馬
山の恵みを堪能しましょう

天ぷらの触感に感動し、土瓶蒸しの風味に唸り、炊き込みご飯の香りに酔いしれた。

秋の味覚をたっぷりと味わい、ひと休み。

サトコ
「それにしても、不思議な任務でしたね」
「しかも班を跨いでの活動でしたし」

颯馬
確かに···
でもまあ、とりあえず今日はリラックスしたら?

ふわっとした笑みと同じくらい優しい力で、包み込むように抱き締められる。

(こ、こんな不意打ちされたら···)

サトコ
「その···リラックスできない···というか」

颯馬
俺がいると?

サトコ
「あ、えっと···」

颯馬
おかしいな、俺はサトコがいるとリラックスできるのに

悪戯っぽい笑みを浮かべたまま、そっとおでこにキスされた。

颯馬
少しはリラックスできた?

(さらにドキドキしてきちゃったかも···)

颯馬
まだ足りないみたいだね

サトコ
「んっ」

ニヤリと笑って唇を奪うと、颯馬さんは甘くやわらかなキスをたっぷりしてくれる。

サトコ
「んん···」

颯馬
だいぶリラックスしてきたかな

いつの間にか身体の力が抜け、私は颯馬さんにしなだれかかっていた。

颯馬
慣れない任務、よく頑張りましたね

サトコ
「···颯馬さんをはじめ、皆さんに助けられました」

颯馬
手は大丈夫?

サトコ
「?」

(あ、ユウタくんに引っ掻かれた時の···)

取られた手を見て思い出した。

サトコ
「大丈夫です。傷にもなっていませんし」

颯馬
ならよかった

手の甲にキスを落とされ、優しく微笑まれる。

颯馬
けど···納得いかないな

サトコ
「え?」

颯馬
俺以外の男からあんなプレゼントを受け取るなんて

サトコ
「プレゼント···」

颯馬
男が女性に花を贈るのは、その人に好意がある証拠···

(···もしかして、ユウタくんがくれた花冠のこと!?)

サトコ
「男と言っても、ユウタくんはまだーー」

颯馬
例え相手が幼稚園児だろうと油断は禁物
後藤も唇を奪われていたしね

(た、確かに···)

颯馬
俺の恋人も危うく傷つけられるところだったよ

サトコ
「···っ!」

再び手の甲にキスされたと思ったら、そのままソファに押し倒される。

颯馬
サトコの身体に爪痕を残せるのは、俺だけ

妖しくも熱っぽい視線と共に、甘く激しいキスの雨が降り始めた。

Happy End

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