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子供と戯れる彼が見たかったので 東雲1話

東雲
······

(か、顔色わるっ!)

声をかけられて振り返った先には、真っ青······
を通り越して、真っ白な歩さんがふらりと立っていた。

(すごく酔っている···)

サトコ
「歩さん、大丈夫ですか?」

東雲
これが大丈夫に見える?
···はぁぁ···バスの運転手、脳力低すぎるんだけど
子供はうるさいし···

ふらついた歩さんを支えると、そのまま体を預けるように寄り掛かられた。

(こんな時に不謹慎なのはわかってるけれど、頼られたのは嬉し······)

サトコ
「うっ」

(重···っ!)
(歩さん、体重かけてる!?)

東雲
寄り掛かっていいんだよね?

サトコ
「え」

東雲
嬉しそうだし、キミ

サトコ
「!」

(不謹慎なことを考えていたことがバレてる···!?)

とはいえ、歩さんの顔色が悪いことに変わりはなく。

(喜んでいる場合じゃない)
(今日は全力で歩さんのサポートしよう)

東雲
で?この後はどうするの?
キミ、いろいろ考えて来たんだよね

サトコ
「あっ、はい」
「この後はですね···」

思い出すのは、数日前のことーー

その夜、私は銀室長に任された初めての任務ーー
親子遠足のしおり作りに励んでいた。

(企画から任せてもらったわけだし)
(せっかくだから、子供たちが楽しんでくれる遊びがいいよね)

東雲
なにしてるの
···『わくわく☆親子遠足のしおり』?

お風呂から上がった歩さんが、私の手元を覗き込む。

東雲
ああ、今度のね···
それにしてもこの企画、今どき中学生でもないんじゃない?

サトコ
「そんなことないですよ」
「子供たちが楽しんでくれることを全力で頑張りたくて!」

東雲
······

サトコ
「まだ途中ですが、他にもいくつか企画を考えたので歩さんもどうぞ」

東雲
なになに···親子で楽しめるスペシャル企画プラン1···
···
······

(あれ?)

ぱらぱらと冊子を捲っていた歩さんの顔が、どんどん険しくなっていく。

東雲
······本気?

サトコ
「え、なにがですか?」

東雲
この企画
オレだったら絶対にムリ

サトコ
「えっ!?」
「自信のある企画ばっかりだったんですけど···」

東雲
ま、キミにセンスがないのは今に始まったことじゃないか
でもさ、こういうのはもっと······

歩さんはテーブルにしおりを広げ、その前に腰を下ろす。
そして、開いたページにペンを走らせた。

サトコ
「一緒に考えてくれるんですか!?」

東雲
キミだけに任せてたら、もっとセンスないものになりそうだし
ほら遠足なんだからさ、例えば······

(優しい······)

サトコ
「歩さんのアドバイスを元に考えた『森の植物収穫祭』を開催します!」

東雲
植物収穫ね···
キミが張り切るとイヤな予感がするのはなんで?

サトコ
「心配しなくても大丈夫です」

(一応プランAからDまで考えて来たけど)
(歩さんは体調崩してるし、今日はできる限り負担をかけないようにしよう)
(お世話になった分、ここは私が頑張らないと!)

サトコ
「というわけで、今日はプランAでいきましょう!」

サトコ
「皆、このスタンプラリーカードは手に持ったかな?」
「カードに載っている植物を見つけたら、先生たちに教えてね」

子供
「はーい!」

青空に子供たちの元気な声が響く。
プランAーー午前は植物スタンプラリーだ。

サトコ
「植物を見つけられたらスタンプ押すよ」
「わからないことは、この先生たちに聞いてね」

黒澤
はーい★オレたちがなんでも答えちゃいますよー

颯馬
一緒に頑張りましょうね

保護者
「今日は初めて見る先生たちばかりですね」

サトコ
「全員、普段は違う保育園で働いているんです」
「研修も受けていますし、経験豊富な者ばかりですからご安心ください」

保護者
「確かに皆さん頼りになりそうね」
「それにしても、顔がいいわ···」

(まさか、公安刑事だとは言えないし···)
(とりあえず子供たちは張り切ってくれてるし、保護者の方の印象も悪くなさそう)

女の子
「先生、すたんぷ全部集めたらどうなるの?」

黒澤
それはすべて集めてからのお楽しみですよー

女の子
「わかった!みく、がんばるね」

颯馬
頑張るのはいいことですが、はぐれないように手を繋いでおきましょう

女の子
「ぜったいにはなしちゃダメだよ?」
「とおるくんも!」

黒澤
もちろんです!皆で行きましょうね

(さすが黒澤さんと颯馬さん···!)
(もう子供たちに懐かれてる)

男の子
「全然見つからない···」

後藤
木の根元をよく見てみろ
諦めなければ必ず見つかる

男の子
「うん···あっ!あったよ!」

後藤
やったな

男の子
「へへ、ありがと先生」

(後藤さんは安定の誠実さ···)

男の子
「あっ、見つけた!」

加賀
やるじゃねぇか
だが、まだ一つだ。こんなもんで満足か?

男の子
「ま、まだまだ見つけられるし!」

(加賀さんも意外と楽しんでる)
(よかった、どうなることかと思ったけど···)

保育士が板についてきた皆さんに、ホッと胸を撫で下ろす。
津軽さんに石神さん、百瀬さんは保護者の方から保育園の不満や悩みを聞き出してくれるそうだ。

(歩さんは······)

女の子1
「きれいなかみー!王子さまみたい」

女の子2
「さらさらしてる!」

東雲
そう?ありがとう

女の子3
「さわりたーい!」

東雲
んー、それだけはダメかな

(お···女の子に囲まれてる)
(それにしても王子様か···わかるわかる)

どうやら、金髪サラサラヘアーが好評のようだ。

(笑顔だけど、面倒臭そうなオーラが隠しきれてない···)

その時歩さんの視線が動いて、ばっちりと目が合った。

東雲
······

(ん?口パクでなにか言っ······)
(『助けろ』······?)
(懐かれてるからいいような気もするけど···)
(確かに、まだ体調が万全じゃない可能性もあるよね)

自然と会話に入ろうと、女の子たちに近づいて···

<選択してください>

東雲先生となにをお話してたの?

サトコ
「楽しそうだね。東雲先生となにをお話してたの?」

すると、なぜか女の子たちの目が丸くなり···

女の子1
「はなしが気になるなんて···もしかしてシット?」

サトコ
「えっ」

女の子2
「だめだよ、ちののめたんはあたしたちのなんだから」

(東雲たん!?)
(というか、なんか誤解されている···!)

サトコ
「歩さんからもなにか言ってくださいよ」

東雲
こういうのは逆に言わない方がいいんじゃない

サトコ
「そ、それは···」

女の子1
「···いま、ちののめたんのこと名前でよんでたよね」

女の子2
「これってただならぬ関係······」

(ええっ)

採集進んでるかな?

サトコ
「採集進んでるかな?」

女の子1
「あっ、サトコ先生」

女の子2
「見てみて、この葉っぱかわいいよ」

サトコ
「ほんとだね」

女の子1
「ねぇ、ちののめたんはどう思う?」

(し···っ)
(東雲たん······)

東雲
いいんじゃない?キレイキレイ

女の子1
「もうっ!ちののめたんってば、クールなんだから」

女の子3
「でも、こーゆーのもかわいくていいよね」

(いいんだ···)

サトコ
「あれ、東雲先生、髪に落ち葉がついてますよ」

東雲

ああ···ありがと

サトコ
「はい、とれました」

女の子たち
「······」

サトコ
「ん?」

女の子1
「ちののめたん、あたちたちにはかみの毛さわらせてくれなかったのに···」

女の子2
「ずるい、サトコ先生!」

サトコ
「えっ、いや、今のは···」

東雲
ごめんね、そういうことだから

女の子3
「た、ただならぬ関係ってこと···?」

(ええっ)

一緒に採集していいかな?

サトコ
「私も一緒に採集してもいいかな?」

東雲
ああ、氷川先生
皆いいよね?

女の子1
「いいよ!」

女の子2
「でもその前にひとつしつもんしてもいーい?」

サトコ
「うん?」

女の子1
「先生は、ちののめたんのなに?」

サトコ
「えっ」

(東雲たん!?)
(か···可愛い······)

東雲
······

(しまった···ちょっとときめいてしまったことが歩さんにバレた···)
(えっと、“なに” って関係性のことを聞かれてるんだよね)
(今の私たちは保育士だから···)

女の子1
「どうしてすぐに答えられないの?」

女の子2
「もしかして、ちののめたんとただならぬ関係?」

サトコ
「たっ···!?」

東雲
そう見える?

女の子3
「えっ、やっぱりそーなの!?」

女の子1
「サトコ先生、ずるい!」

(ああっ···話がややこしいことに···!)

女の子1
「やっぱり、サトコ先生はダメ!!」

女の子2
「ちののめたんに女の色目をつかうなんてヒキョーだよ!」

女の子2
「むちちよ、むち!」

(む···無視!?)

サトコ
「そ、そんなこと言わずに先生とも遊んで欲しいな」
「ほら、あっちにも珍しいお花さんが···」

女の子たち
「······」

(ああっ······)

完全にスルーされた私の肩に、ぽんと何かが置かれる。

黒澤
サトコさん、どんまいです!

サトコ
「黒澤さん、いつからそこに···」

黒澤
いつからでしょう?
まぁ、なにはともあれ、元気出してください★

黒澤さんは私の肩を軽く叩き、どこかへ行ってしまう。

(なんだろう···)
(すごく悔しい···)

それぞれが持ち寄ったお弁当を食べ、休憩した後。

サトコ
「午前中のスタンプラリーは楽しかったかな?」

子供たち
「はーい!」

サトコ
「それじゃあ、午後は皆でキノコを集めます」
「こんなキノコをたくさん集めてね」

先に採取しておいたキノコを、例として掲げると···

女の子1
「ちののめたんだ!」

サトコ
「えっ」

女の子2
「ちののめたんを集めるの!?」

男の子1
「あっ、きっとキノコのお兄ちゃんのおともだちだよ」

男の子2
「みんなでキノコのお兄ちゃんのおともだちをあつめようぜ!」

子供たち
「おー!」

東雲
······

(あ、青筋が······!)

加賀
懐かれてんな

颯馬
ええ、羨ましいです

東雲
交代しましょうか?

颯馬
いえ、歩以外に適任はいませんから

(颯馬さん、髪!)
(歩さんの髪、見過ぎです!)

後藤
······

石神
······

(お二人は明らかに目を逸らしている···)

津軽
子供って正直だよねぇ

百瀬
「はい」

黒澤
はい

東雲

黒澤
えっ、なんでオレだ······
あ···ダメです、歩さん···っ

(ああ···どんどん歩さんの青筋が···)

歩さんがキノコとして親しまれながら、キノコ狩りは続いていった。
そして、子供が見つけたキノコは······

女の子
「はい、ちののめたんにあげる!」

東雲
うん、ありがと

男の子
「あゆむ先生、これもやる!キノコともだちはだいじにしろよ!」

東雲
お気遣いどうも

そのほとんどが、まるで貢物のように歩さんのもとに集まっていた。

(消えない青筋······)

歩さんの傍には、形も大きさも様々な森のキノコたち。
その中央にいる彼はまるで、すべてのキノコを統べる王のようで···

サトコ
「すごい···キングオブキノコだ······」

(拝んでおこう···)

東雲
······

サトコ
「!」

(キング、怖っ)

笑顔の圧力から逃げるように、キノコを集める。
この時の私は、あんな事件が起きるとは夢にも思っていなかったのだったー···。

to be continued

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