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子供と戯れる彼が見たかったので 東雲2話

その後も、子供たちはキノコ狩りを楽しんでいた。

女の子
「はぁ···ほんとにキノコの王子様···」

男の子
「王様の方がかっこいいって!」

東雲
どっちでもいいんだけど

(子どもからもキングオブキノコ扱い···)
(相変わらず歩さんの目は笑ってないけど、体調はもう大丈夫そう)

黒澤
いやー、歩さんは大人気ですね

津軽
ね~

サトコ
「津軽さん、黒澤さん。お疲れさまです」

津軽
うん、ウサちゃんもおつかれ

サトコ
「保護者の方と話してくださってありがとうございます」

津軽
結構色々聞けたし、報告できることもあると思うよ

サトコ
「あれ、そういえば百瀬さんはどこに···」

(いつも津軽さんがいるところに百瀬さんあり!って感じなのに)

黒澤
あっちで保護者の方と話してますよ

津軽
モモも聞き役だったからね

サトコ
「あ、そっか。そうでしたよね」

黒澤さんたちの視線の先を追いかけると···

保護者
「でも、わざわざ話すような悩みじゃ······」

百瀬
「···俺じゃ頼りになりませんか」

保護者
「えっ···?」

(手、握ってる!?)

保護者
「あの、手···」

百瀬
「···すみません」
「ただ、心配で···」

保護者
「も、百瀬先生···」
「あの、実は······」

津軽
落ちたね

黒澤
落ちましたねー

(す、すごい···百瀬さん、普段とは別人のよう···)
(まあでも、結果的にお母さんの悩みを聞き出せたからいいのか)

津軽
秀樹くんもいろいろ聞けたって言ってたし、これだけあれば大収穫だよね
まさに今歩くんの前にあるキノコくらいは

黒澤
実りに実ってますね★

(私も、せっかく任された仕事なんだしもっと頑張らないと)
(でも、まずは···)

女の子1
「あっ、どろぼうねこよ、どろぼうねこ」

女の子2
「ちののめたんに色目を使わせないようにしないと···」

(尾を引いている···)
(ううん、このままじゃよくないし、ここはどんな手を使ってでも!)
(······歩さん、すみません!)

サトコ
「ねえ、この東雲たんかっこよくないかな?」

遠くから撮影した写真を見せると、大きな目がきらきらと輝きだした。

女の子1
「わあ!かっこいい!」

女の子2
「足ながーい!さすが王子様!」
「でも、どうしてこんな離れたところから撮ってるの?」

女の子3
「あたししってる!これってとうさつ、っていうんだよ」
「やましいことがあるから、かくれてしゃしんとってるの」

サトコ
「えっ」

女の子1
「なーんだ、じゃあただならぬ関係じゃなかったの?」

女の子2
「ごめんね、せんせい。仲直りのしるしにいっしょにキノコさがそう」

女の子3
「うん、ちののめたんに振り向いてもらえるようにいっしょにがんばろ」

サトコ
「う、うん、ありがと···」

(またなにか誤解をされてしまったような···)
(しかも、励まされてしまった)

なにはともあれ、女の子たちとは無事仲直りをし···

サトコ
「今日は本当にありがとうございました」

親子遠足は、子供たちと保護者から大好評のまま一日を終えた。

津軽
おつかれ、ウサちゃん
あ、報告書は俺によろしく。明日でいいから

サトコ
「はい、わかりました」

百瀬
「無駄な報告して津軽さんの手煩わせるなよ」

サトコ
「もちろんです···!」

(お母さん方と話していた時とは別人···)

庁舎に戻ったり、帰路に就いたりとその場をあとにする皆さんに頭を下げる。

(私は直帰の予定だけど、歩さんはどうするんだろう)
(少し話せたら嬉しいけど、朝体調も崩してたし疲れてるかな)

黒澤
いやー、それにしても歩さんはまさしくキングでしたね

東雲
なに、急に

黒澤
あれっ、聞いてませんでしたか?
キノコを集めた歩さんを見て、サトコさんが言っていたんですよ

(······ん?)

東雲
······

黒澤
あの時オレ、歩さんが楽しそうだったんで録音してたんですよね

東雲
へぇ···聞かせてもらおうかな

黒澤
ちょっと待ってくださいね、確かこの辺りに保存を···
あっ、ありました

(録音···?)
(なんかイヤな予感が···)

サトコ
「ま、待ってください!!黒澤さーー」

『すごい···キングオブキノコだ······』

東雲
······

サトコ
「······」

黒澤
いやー、絶妙なセンスですよね☆

(あの時の言葉、録音されてたー!)

サトコ
「な、なんで録音してるんですか!?」

黒澤
楽しそうだったからですよ

東雲
ふーん···キングオブキノコね···
そんなふうに思いながら見てたんだ

サトコ
「いえ、あのこれは···」

(まずい、笑顔だけど目が笑ってない···)

東雲
せっかくだから報告書に書けば?
じゃ、おつかれ

黒澤
あれ、もう帰っちゃうんですか?続きは···

東雲
聞かない

サトコ
「えっ、ちょ、待っ······」

(あ、歩さん帰っちゃったんですけどー!!)

一時間後。
私はコンビニで買った期間限定ピーチネクターを持って歩さんの家を訪ねているのだけど······

サトコ
「どうしてチェーンロックを外してくれないんですか!」

東雲
無理

(うっ······)
(でも、歩さんが怒るのも仕方ないよね)

企画をするときにアドバイス貰った恩を返そうと思っていたのに、
結果的に、いろいろと···意図しない形だけど仇で返してしまったのだ。

サトコ
「今日はいろいろとすみません!」
「これお詫びにもならないかもしれないですが···」
「このあいだ発売したばかりの期間限定ピーチネクターです」

東雲
······
···入れば

(···よし!)
(って、いやいや彼女なのに家に入れただけで喜んでしまった!?)

それでも、ピーチネクターの力で歩さんの家に入ることはでき···

東雲
なに、その大荷物

サトコ
「今日の収穫物です。今からそれを使って料理をしようかと!」

東雲
へー···
オレへの貢物だったキノコとか?

(うっ···)
(まずい、せっかく家に入れてもらえたのに歩さんの機嫌がまた···)

サトコ
「メインはこれです!」

東雲
···栗?

サトコ
「はい!」

東雲
ふーん······
それならいいけど

(とにかく歩さんへの謝罪を込めて美味しい料理を···!)

東雲
ごちそうさま
栗ご飯、悪くなかった

サトコ
「!」

(悪くない···つまり美味しい)
(歩さんの美味しい、いただきました!)

キノコ料理については特にコメントはなかったけれど、
歩さんのお皿にはもうなにも残っていない。

(歩さんっていつも、残さず食べてくれるんだよね)
(これがすごく嬉しいというか···)

東雲
貸して、運ぶから

サトコ
「あっ、洗い物なら私が」

東雲
いいって
夕食作ってくれたし、これくらいは

サトコ
「じゃあ手伝います!」

こうして一緒に洗い物を終え···

サトコ
「ありがとうございます」

東雲
お礼を言うのはこっちじゃない?夕飯作ってくれたのはキミだし
まあでも、栗ご飯焦がさなくてよかったね

サトコ
「さすがに炊飯器があれば大丈夫です」

(喜んでくれてよかったな)
(またつくろう、栗ご飯···)

東雲
···

(···うん?)

サトコ
「どうしたんですか?」

東雲
泡残ってる
···ん、とれた

サトコ
「ありがとうございます」

手首に残っていた泡を、歩さんの指先がすくっていく。
視線を上げると、まだ私をにじっと見つめている歩さんと目が合った。

(これは···)
(キッスの予感···!)

鼓動を高鳴らせながら、その瞬間を待つように目を閉じる。

(···)
(······)
(キッスの···予感···?)

東雲
誰もするとは言ってないけど

サトコ
「!?」
「えっ、だって今間違いなくキッスする雰囲···」
「ふがっ」

(鼻つままれた!)

東雲
しないから、今日

サトコ
「な、なんでですか!?」
「意地悪しないでください···!」

東雲
いいじゃん。好きそうだし、キミ
お仕置きとかそういうシチュエーション

サトコ
「え···!?」

東雲
だから、今夜はこれで

サトコ
「よ、よくないです!ダメです!」
「その前にお仕置きシチュエーションを望んでいるわけでは···っ」

東雲
ふーん···
じゃあ、何が欲しいの?

サトコ
「それはもちろん歩さんのキッスですよ。熱いキッス!」

東雲
ええ···
無理

(こうなったら···)

<選択してください>

めげずにキスをお願いする

サトコ
「そこをなんとか」

東雲
ウザ···
ていうか、必死すぎて怖···」

(うっ···)

東雲
さすがすっぽんだよね

(ダメか···)

自分からキスをする

(隙をついて歩さんの唇を奪うしかない!)

東雲
······

(隙をついて···)

東雲
······

サトコ
「······」

(···全然、タイミングがつかめないんですけど!)

東雲
なに、さっきから
キミの視線で穴が開きそうなんだけど

サトコ
「お気になさらず!」

東雲
怖···

(ああっ!背を背けられてしまった···)
(ダメか···)

諦めたフリ

(押してダメなら引いてみろ作戦!)

サトコ
「···じゃあ、今夜は諦めます」

東雲
ああ、そう

サトコ
「······」

東雲
······

サトコ
「······」

東雲
なに、チラチラ見て
片付け終わったし、リビング戻るよ

(えっ、全然効果なし!?)
(ダメか···)

東雲
本気になりすぎ

サトコ
「え···」

声に導かれるように、歩さんの瞳を見上げた瞬間。
頬に柔らかな感触が触れた。

サトコ
「いっ···」
「今、頬にキッス···!」

東雲
これ以上しつこいとウザいから
すっぽんだし、キミ

サトコ
「それでもいいです!」

東雲
······あと
···オレも、したくなかったわけじゃないし

サトコ
「!!」
「歩さんっ!」

東雲
ちょっ、抱きつこうとするな!
汗くさい!

サトコ
「いいじゃないですか、歩さんも一緒ですよ!」
「というかこんなお仕置きなら大歓迎です!」

東雲
······はぁぁ
大体、キミが変なことを言ったせいだから
なに、キングオブキノコって

サトコ
「そ、それはすみません···でも悪い意味ではなくて···」

東雲
知ってる

サトコ
「え···」

東雲
追加ピーチネクターで許してあげる

サトコ
「!?」
「さっき渡したのは···」

東雲
足りる訳ないじゃん。あと5本ね
明日の昼までに

サトコ
「そ、そんな···」

(やっぱり意地悪···)
(ん?待って!?)
(明日の朝までってことは、今夜は歩さんと一緒にいられるってこと···!)

東雲
あとは···
これで許す

サトコ
「!」

驚く間もなく、今度は唇にキッスが落とされて。
イタズラっぽくて···でも優しい歩さんの笑顔に迎えられた。

サトコ
「いっ···」
「今のもう1回···っ」
「もう1回お願いします!」

東雲
無理

サトコ
「歩さん!」

東雲
!!
ちょ、だから汗くさ···っ
はぁぁ······

今度こそハグを受け入れてくれた歩さんに、ぎゅっと抱きつく。
キノコの王子でも王様でもない、私だけの大事な歩さんに。

数日後···

サトコ
「皆さん、子供たちからお礼が届きました!」

石神
「画用紙に書かれた似顔絵か」

後藤
「上手く描けてるな」

津軽
「えっ、俺もっとかっこよくない?」

加賀
「十分美化されてんだろ」

津軽
「え、逆でしょ」

東雲
······

(ん?)
(どうしたんだろ、歩さ···)

手元を覗き込んでハッとする。
そこに描かれていたのは、色とりどりの冠を頭に乗せた······

サトコ
「キ、キノコのイラスト···!!」

東雲
······

(あんなに保育士として頑張ってたのに人間の絵じゃない···)
(いや、親しまれていたからこそ···?)

サトコ
「まさにキングオブキノコですね···!」

東雲
キミのせいでね

怖いくらいの笑顔を浮かべる歩さんの手元では、
画用紙の中でキングオブキノコが輝いていた。

Happy End

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