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子供と戯れる彼が見たかったので 津軽1話

津軽
さてと

バスを降りて1番に声をかけてきたのは津軽さんだった。

(しかも真後ろから!)
(耳に息かけてるの、絶対わざと!)

サトコ
「何かご用でしょうか?」

津軽
またまた、そんな他人行儀な言い方しちゃって
今日はどうやって楽しませてくれるのかな?

サトコ
「···っ」

耳朶をくすぐるのは、とびきり甘い低音。

(いつもはやる気のない、のらくらボイスのくせに!)

津軽さんがこんな声を出してくるのには理由がある。

津軽
約束は守るよね?ウサちゃんはいい子だから

サトコ
「それは···」

百瀬
「津軽さん」

サトコ
「わ、百瀬さん!?」

どこから現れたのかー-
私の背から津軽さんを引き剥がすように、にゅっと間に顔を出してきた。

津軽
こら、神出鬼没な出方はやめなさい

百瀬
「コイツといったい何を約束したんですか」

津軽
お昼のお弁当にタコさんウインナー入れてってお願いしたの

百瀬
「それなら···それなら俺にも出来ます!カニウインナーだって!」

津軽
えー、あー、そっかー

百瀬
「ウインナー水族館だって!」

津軽
モモ、どうしてそんなウインナー細工できるの!?

サトコ
「······」

(なに、この展開···)

拳を震わせる百瀬さんに、またもや睨まれながら。
記憶は少し前へと遠ざかりー-

銀さんに呼び出され、直々の命を受け課に戻ると。

津軽
ねーねー、何の話だったの

サトコ
「銀室長に話していいか確認してから、お話します」

(遠足の企画、引率なんて私ひとりじゃ無理だけど)
(どこまで協力要請をしていいのか、緊張で確認し忘れてしまった···)

津軽
俺になら言ってもいいに決まってるじゃん
隠し事なんて無理ってわかってるよね?

サトコ
「だから別に隠してるわけじゃないですってば」
「確認するまで待ってくださいって言ってるだけで···」

津軽
モモじゃないから『待て』なんてできない

サトコ
「そんなことまで知りません」
「後ろに張り付かれてると、コーヒー淹れられないんですが」

津軽
それが班長に対する態度?

おんぶオバケとばかりに張り付いていた重みが消えた。
次には、くるっと身体を回転させられている。
そして迫る津軽さんの顔。

津軽
ねぇ

サトコ
「は、はい」」

(ち、近い!近い近い近い!)

背中を反らしすぎて、痛い。

津軽
ここで言わないなら

サトコ
「言わないなら?」

津軽
息が止まるキスするよ

サトコ
「!?」

(息の根を止める!?)

サトコ
「わ、わかりました!吐きますから、それだけは勘弁してください!」

津軽
そこまで俺とキスしたくないわけ!?

サトコ
「キ、キス!?何言ってるんですか!」

津軽
いや、キスするって言ったよね!?

サトコ
「息の根を止めるって···」

津軽
君の耳って、どうなってんの···

サトコ
「人の話聞かない選手権で優勝する津軽さんに言われたくないですよ」
「とにかく···」

両手でぐっと目の前の身体を押し返す。

サトコ
「津軽さんなら銀さんも許可してくれると信じて話します」
「今回の任務は、警察庁管轄保育園の親子遠足の企画と引率です」

津軽
保育園の親子遠足?
へぇ···

あからさまに興味がないという顔で、津軽さんが私から離れた。

津軽
じゃ、頑張って

サトコ
「ちょ、聞いたからには最後まで話聞いてくださいよ!」

津軽
ウサちゃんが任された仕事でしょ

サトコ
「そうですけど、私ひとりで対応するのは無理です!」
「皆さんにお力を貸してもらえないか考えていて···」

今度は私が津軽さんを捕まえる番だった。
その上着の裾を軽く握る。

津軽
···なによ、その手

サトコ
「津軽さんも手伝ってくれますよね?銀さんからの任務ですし」

津軽
それはどーかなー

私を見下ろした津軽さんが顎に手を当て考えて···にやっとその口角を上げる。

(こ、これはよくない笑い!)

津軽
手伝ってあげてもいいよ

サトコ
「···条件付きで?」

津軽
俺がそんな鬼上司だと思う?なーに、簡単なことだよ

笑顔の津軽さんが今度は正面から私の耳に顔を寄せてくる。

津軽
俺を楽しませて

サトコ
「!」

津軽
そしたら、何でもしてあげるよ

そういうわけで親子遠足の引率+津軽さんを楽しませるという謎任務が発生している。

サトコ
「まずはピクニックです」

津軽
俺の楽しめるピクニック?

サトコ
「大事なのは自分から楽しもうと思う心ですよ」

津軽
それで誤魔化してるつもり?

絡んでくる津軽さんを適当にあしらいながら、並ぶ親子の皆さんの前に行く。

サトコ
「このあとはピクニックエリアで、各班ごとに自由に遊んでください」
「先生方、よろしくお願いします」

石神
ああ

後藤
任せてくれ

何とか頼み込んで来てくれた元教官先生たちに頭を下げる。

加賀
アスレチックで遊びたい奴は、こっちに来い

黒澤
記念写真撮りたい人は、こちらへー!

サトコ
「解散前に、ひとつ!トイレに行きたくなったら、すぐに先生かお母さんに言うこと」
「約束だよー」

津軽
先生、約束って大事だよねぇ

(また津軽さん···)

津軽
あーあ、楽しみたいなー。楽しませてくれる子いないかなー

サトコ
「······」

(とりあえずでも、何か津軽さんの気を引けるものを用意しないと)
(子供たちの相手も出来ない!)

サトコ
「厄介な子供がひとり増えただけ···」

津軽
ん?

サトコ
「ええと、津軽さん向きの遊びと言ったら···」

いっそのこと黒澤さんあたりにプロデュースしてもらえないかと周りを見回すと。

母親1
「きゃあっ」

サトコ
「どうしたんですか!?」

女性の声が聞こえてきて振り返ると、草で滑ってしまったお母さんの姿が見えた。

津軽
ケガは?

(え···)

私が向かうより早く、横にいた津軽さんが駆け寄った。

母親1
「足首を捻ってしまったみたいで···」

津軽
ああ、捻挫は最初の手当てが大事ですから。俺が手当てしますよ

母親1
「いいんですか?先生に、そんな···」

津軽
ええ。百瀬先生、救急箱持って来て

百瀬
「はい」

母親たち
「津軽先生、優しい~!」

サトコ
「······」

(あっという間に蚊帳の外···)
(さっきまで、あんなに絡んで来てたくせに!)

母親2
「津軽先生、お手伝いできることありますか?」

母親3
「私も、何か···」

津軽
じゃあ、お子さんの方見ててもらっていいですか?

(フツウの人みたいに振る舞っちゃって!)
(いつも話の通じない異星人なのに、鼻の下のばして···っ)

女の子1
「せんせ」

サトコ
「······」

女の子1
「氷川せんせ!」

サトコ
「! な、なに?」

気の陰に屈んでコッソリ様子を見ていた私に、いつの間にか女の子たちが集まっていた。

女の子2
「そんなに強く握ったら、お花さん、かわいそう」

サトコ
「え、あ!」

女の子の悲しそうな視線の先には、いつの間にかぎゅっと握られた名も知らない小さな花。

サトコ
「ご、ごめんね!そうだよね、お花さんかわいそうだよね」

(今日の私の仕事は津軽さんの観察じゃない!)
(子供たちと、いっぱい遊ばないと!)

後藤
氷川先生は、ここにいたのか

サトコ
「後藤先生!」

後藤さんの後ろには津軽さんとは対照的に、小さな女の子たちが並んでいた。

(子どもは人の本性を見抜くっていうから···後藤さんの優しさは全年齢共通···!)

後藤
この子たちが花冠を作りたいというんだが、作り方分かるか?

サトコ
「はい!子供の頃よく作りました」

後藤
よかったな。氷川先生が教えてくれるそうだ

女の子たち
「わーい!」

サトコ
「花冠はね、こうやって···」

花冠を作ってみせると、興味のある子たちは真似して作っていく。

後藤
器用なもんだな

サトコ
「コツさえつかめば、案外できるものですよ。後藤先生もやってみませんか?」

後藤
いや、無駄に花を炒めるだけだ。やめておく

女の子2
「じゃあ、花占いしない?氷川先生もやろー」

サトコ
「花占いって言うと···『好き』『嫌い』っていうやつ?」

女の子2
「そう!先生対t、好きな人いる?」

サトコ
「そ、それは···」

頭の中に人妻相手にだらしない顔をしていた津軽さんの顔が浮かんでくる。

(認めるのが、いろんな意味で悔しい!)

サトコ
「その、後藤先生は、どうですか···?好きな人とか···」

後藤
俺は特に···

後藤さんも困った反応を見せる。

(そうだよね。好きな人がいたとしたって、言えないよね)

女の子2
「すき、きらい、すき、きらい···」

やろうと言い出した子は、私たちの反応などもう気にせずに始めていた。

女の子1
「後藤せんせー、この花冠プレゼントー!」

後藤
···いいのか?

後藤さんは花冠を完成させた女の子に呼ばれ、少し離れた場所に行く。

(後藤さんと花冠···何だろう、なぜかそこに癒しを感じる···)

女の子たち
「後藤先生、かわいー!」

女の子たちが後藤さんの周りに集まって行って、私の手の中に残った一輪の花。

サトコ
「······」
「好き、嫌い、好き、嫌い···」

小声でこっそりと占った結果はー-

サトコ
「き、らい···」

(嫌い···津軽さんは···くっ!は、花占いなんて!)

茎を握り締める手に力が入りながらも、しみじみと現実を思い知る。

(私が勝手に想ってるだけなんだから、妬くのもおかしな話なんだよね)
(現実とは虚無···)
(楽しませるって一応約束したのに、何も出来てないのも確かだし···)

片想いを噛み締めていると、ザッと草を踏む音がした。

(え、もしかして、津軽さ···)

加賀
そんなところで、何うなだれてやがる

石神
どうかしたのか

サトコ
「加賀先生、石神先生···」

打ちひしがれる私の前に現れたのは、津軽さんと肩を並べる班長のおふたりだった。

to be continued

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