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子供と戯れる彼が見たかったので 津軽2話

加賀
そんなところで、何うなだれてやがる

石神
どうかしたのか

片想いとヤキモチに身を焦がしていると、加賀さんと石神さんが様子を見に来た。

サトコ
「いえ、ちょっと花占いを···」

石神
花占い?

サトコ
「それから花冠も作りました!後藤先生がプレゼントしてもらって可愛いんですよ」

石神
···なるほど

花冠を着けた後藤さんを見て、石神さんはそのメガネを押し上げる。

(感想は···聞かない方がいい?)

石神
氷川は割と面倒見がいいんだな

(割と···)

加賀
同じレベルで楽しめるだけだろ

(同じ···)

サトコ
「おふたりもよかったら花冠、いかがですか?」

石神
ほう

加賀
面白いこと言うじゃねぇか

少しばかり抵抗を···と思ったのが、大きな間違いだった。
石神さんと加賀さんの手がガシッと私の頭に置かれる。

サトコ
「あ、頭グリグリしないでください!髪がボサボサに!」

石神
花冠で隠せば問題ない

加賀
てめぇの頭を花だらけにしてやろうか?

サトコ
「そんな葬るような真似は許してください!」
「もうおふたりに花冠とか言いませんから!」

石神
舌は禍の根、だ

サトコ
「は、はい···ん?あれ?急に肩のコリがなくなってきたような···」

すっと軽くなった方と背中に驚くと、大きな2つの手は静かに離れた。

加賀
そろそろ飯の時間だろうが

石神
集合させろ

サトコ
「は、はい!」

(え?頭グリグリだと思ったら、あれ頭皮マッサージだったの!?)

先に原っぱに向かう加賀さんと石神さんの背中を見つめていると。
自分の背にも強い視線を感じて振り返った。

津軽
······

(津軽さん?)

津軽
······

目が合ったかと思った次の瞬間には、フイッと顔を横に背けられた。

(な、なに?感じわるっ)

そんな津軽さんが戻っていくのは、お母さん方の輪の中で。
他班の班長2人と、自分の班の背中ー-私が追いかけられたのは、他班の班長の背中だった。

なんとなく津軽さんと距離を取ったまま時は流れー-

(もうすぐ帰りの時間に···なんか、気まずいような···)
(私が勝手にそう思ってるだけかもしれないけど)

片想いは思考を空回りさせる。

津軽
ウーサちゃん

サトコ
「うわっ」

突然背後から声をかけられ、文字通り跳び上がった。

津軽
なにほんとにウサギやってるの

サトコ
「いきなり声かけてくるの、ほんとやめてください!」

津軽
その方が、ときめけるでしょ

サトコ
「ドッキリで心臓止める気ですか」

津軽
なーんか、今日の君との会話、ちぐはぐな気がするんだよね

サトコ
「そう、ですか···?」

(私が津軽さんを意識してるから···?)
(だとしたら、余計に恥ずかしい···!)

津軽
今日の行程もそろそろ終わりだけど、楽しませてくれるんじゃないの?

サトコ
「十分楽しんでるように見えましたけど?」

津軽
なにそれ

サトコ
「お母さん方と和気あいあい楽しんでたじゃないですか」

振り返らないまま言ってしまう。

(ああ、もう!これじゃヤキモチ全開!)
(私が勝手に好きになってるだけなのに!)

サトコ
「すみません!今のは失言···っ」

津軽
ねぇ

肩に手が置かれた。
津軽さんからはあまり感じたことのない、強い力で振り向かされる。

津軽
···もしかして妬いてる?

サトコ
「な···っ!」

(や、妬いてますけど!!)

サトコ
「そ、そんなわけないじゃないですか!」

津軽
じゃあ、なにそんなプリプリしてんの

サトコ
「別に···わ、私のことより、津軽さんは自分のこと考えた方がいいですよ!」
「人妻相手に鼻の下伸ばしちゃって、みっともない」

津軽
鼻の下伸ばすって···人をチンパンジーか何かみたいに
失礼なこと言わないでよね

サトコ
「本当のこと言っただけです」

津軽
ふーん···

津軽さんがムッとした顔を見せる。

(へぇ、意外と子供っぽい···こういう表情もするんだ···)

こんな状況でもそんなことが気になってしまうから、恋は恐ろしい。

津軽
君の言うことが本当だったとして
俺が人妻相手に鼻の下伸ばしたって、ウサちゃんには関係ないだろ

サトコ
「そっ、それはそうですけど!上司の威厳に関わると思って、私は···」

津軽
威厳がどうとかって言うなら、そっちはどうなの

サトコ
「私が何だって言うんです?」

津軽
花占い、花冠。頭グリグリ

サトコ
「は?」

津軽
自分だって誠二くんや秀樹くんや兵吾くんに随分かまってもらってたじゃん

明らかに非難めいた口調で言ってくる。

サトコ
「あ、あれは仕事をしていただけです!」
「私は津軽さんと違って、ちゃんと子どもと遊んでましたー!」

津軽
はー!?親子遠足なんだから、保護者の相手をするのも仕事だろ

サトコ
「下心0なら、お仕事デスネ」

津軽
そこ!やっぱ妬いてんじゃん!

サトコ
「妬いてません!」

津軽
この焼きウサギ!

サトコ
「あ、頭もじゃ臣!」

津軽
なにその小学生レベルの悪口!

サトコ
「お互い様じゃないですか!」

(ああ、もう、何言ってるんだろう!)
(ヤキモチだって素直に認めちゃえば···!)

サトコ
「津軽さん、私っ!」

勇気を出して本当のことを言おうと思った、その時。

女の子1
「先生たち、うちのパパとママと同じー!」

津軽
パパ!?

サトコ
「ママ!?」

男の子1
「うちもうちもー!ふうふげんかっていうんだよね」

サトコ・津軽
「夫婦!?」

女の子2
「そのあと、なかなおりのチュッチュするんだよねー」

サトコ・津軽
チュッチュ!?

子供たち
「チュッチュ!チュッチュー!」

いつの間にかはやし立てる子供たちに囲まれている。

津軽
······

サトコ
「······」

(チュ、チュッチュ···)

子供のシンプルな声というのは、意外と来る。
声が大きくなればなるほど、頬に血が上って。

津軽
······っ

(津軽さんの顔も···赤い!?)
(まさか、照れてる!?)

津軽
···こうなったら、するしかない

サトコ
「な、なにを···」

津軽
······

サトコ
「······」

子供たちがはやし立ててくる声が遠い。
その綺麗すぎる顔が近付いて来て、薄く開いた唇に視線が吸い寄せられているとー-

百瀬
「その面近づけんじゃねぇ!」

サトコ
「ほわっ!?」

ラグビーのタックルよろしく、私の身体は百瀬さんごと芝生に倒れ込んだ。

サトコ
「な、何するんですか!」

百瀬
「津軽さんの目が濁る」

サトコ
「私の顔見て濁るって、ひどい言いぐさですね!?」

津軽
···百瀬

百瀬
「え···は、はい」

めずらしく百瀬さんに津軽さんの鋭い声が飛ぶ。
まるで犬のようにびくっと反応した百瀬さんが、私の上から身体を退かして振り返った。

津軽
ふせ

百瀬
「え···」

津軽
ふせ!

百瀬
「は、はい」

百瀬さんは正座をしてシュンと、うなだれた。

サトコ
「あの、これはどういう···」

津軽
バスに戻るよ

サトコ
「え」

津軽
もう出発の時間でしょ

サトコ
「あ、ほんとだ!」
「皆さーん!バスに乗って下さーい!」
「あと5分で出発です!」

百瀬
「······」

サトコ
「百瀬さんも早く乗らないと」

百瀬
「津軽さんにヨシって言われてねぇ」

サトコ
「津軽さーん!忠犬、お忘れですよー!」

百瀬
「てめぇが忠犬言うんじゃねぇ!」

サトコ
「助けてあげたのに!」

津軽
モモ、もういいよー

百瀬
「はい」
「邪魔だ、どけ」

私を押し退けていく百瀬さんによろけながら、
乗り遅れている人がいないか確認し、私もバスに乗り込んだ。

帰りのバスは皆疲れたのか、ぐっすり眠って静かだった。

津軽
ふわ···

(なぜ隣に津軽さんが···)

最後のバスに乗り込んだ私に空いていた席は、そこだけ。

(まあ、津軽さんもあくびしてるし、そのうち寝るよね)
(私ひとまず今日のことを報告書のためにメモ書きしておこう)

タブレットを取り出して報告書のフォーマットを出すと、肩に感じるズシッとした重み。

津軽
本当、ウサちゃんって真面目だね

サトコ
「だから、今回は仕事なので」

呆れ顔で、また突っかかって来るかと思いきや、
津軽さんは私の肩に頭を預けて目を閉じた。

(え?)

サトコ
「津軽さん···?」

津軽
······

(ウソ、寝てる?この一瞬で!?)

津軽さんのことだからタヌキ寝入りかもしれないけれど。

サトコ
「······」

起きていたら決して私たちには訪れない、静かな時間が心地良くて。
私もタブレットを伏せて目を閉じた。

その日の夜。
私は課に残って今日の報告書を完成させていた。

津軽
居残りの子がいる

サトコ
「最後、ちゃんと電気消していきますから」

津軽
明日でもいいのに

サトコ
「記憶が薄れないうちに片付けておきたいんです」

津軽
そういうクソ真面目さは石神班譲り?

頭の上に津軽さんの両手が置かれた。
そしてグリグリっとされる。

サトコ
「ちょ、仕事の邪魔しないでください!」

津軽
···ねぇ、しよっか

サトコ
「はい?」

頭の上に顎を乗せた津軽さんがぼそりと呟いた。

サトコ
「しよっかって···何を?」

津軽
······

頭の上の重みが消え、後ろから肩を抱かれる。
そして耳に感じる吐息。

津軽
ー--

サトコ
「なっ、な···っ!」

津軽
ダメ?

サトコ
「ダ、ダメとか、ダメでないとかっ!そういう次元の話ではなく!」

(もうすっかり忘れたと思ってたのに!)
(どうして、今になって···からかってくるの!?)

津軽
俺と仲直りしたくないの?

サトコ
「ケンカしてません!」

津軽
えー、ほんとに?最後くらい楽しませるって言う約束守りなよ

顔を覗き込んできた津軽さんが、その親指で私の唇をなぞって。

(チュッチュで仲直り···)

顔から火が出そうなフレーズが頭を過り。

津軽
ちょ、ウサちゃん!?顔真っ赤···デコ熱っ!
熱あるの!?

サトコ
「······」

魂が抜けていく中、津軽さんの焦る声が遠くに聞こえた。

Happy End

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