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愛の試練編 カレ目線 加賀3話

加賀
報酬だ

封筒に入れた金を、エスである看護師に渡す。
指定された廊下は、めったに人が通らない場所らしかった。

加賀
何か分かったか?

看護師
「今のところ、加賀さんが言ったように氷川さんを狙うような行動はありません」
「あ···でも、別の意味で狙ってるような場面はありましたけど」

加賀
何?

看護師
「今日は氷川さんの診察の日でしたよね」
「若先生、診察が終わったあと氷川さんを中庭に連れ出して···こうして、手を握って」

そう言って看護師は俺の手を取り、真剣な顔になった。

看護師
「僕は、君を守りたいんです!」
「···って言ってましたよ」

加賀
そうか

手を振り払ってやると、看護師は残念そうにしながら金を胸元にしまって立ち去った。

(守るだ?どの口が言ってんだ)
(···あの医者が、サトコたちが抱えてる事件に関係してんのは間違いねぇ)

百瀬の話では、サトコは証拠になるファイルを見つけたと言っていた。
おそらくそれが、あの医者にとって不都合なものなのだろう。

(公安の手に渡ったことも、パスワードを書き換えられたことももう知ってるはずだ)
(偶然ここの医者だったのか、それともサトコが運ばれる病院を調べて先回りしたか)

どっちにしろ、奴の『医者』という立場は隠れ蓑でしかない。
いくら今のサトコは記憶を失っているとはいえ、必ずまた狙ってくるはずだ。

(俺の女に触るとは、いい度胸だ)
(必ずしょっぴいて、地獄に落ちた方がマシだと思うくらい洗いざらい吐かせてやる)

加賀
······

サトコ
「······」

そのあと、病院から出てきたサトコを無理やり車に乗せた。
『乗れ』と言われて大喜びで尻尾を振り、いそいそと乗り込む普段のコイツとは正反対の態度だ。

(これはこれで新鮮かもしれねぇな)

新鮮、と言えば聞こえはいいが正直、妙な気分だ。
いつもならうるさいくらいに喋るサトコが、気まずそうにチラチラとこちらを見ている。

加賀
あの男と、何話してた

サトコ
「あの男って、若先生のことですか?」

何を話していたのかは、エスを通じてだいたい把握している。
だが。

加賀
···隠してることは

サトコ
「えっ、な、ないですよ」

加賀
······

サトコは手を握られたことは話すつもりはないらしい。

加賀
テメェは···

『俺のもんだろうが』という言葉を呑み込んで、ハンドルを握り直す。
イライラが伝わったのかサトコは焦った様子でバッグを探り、中に入っていたポチを取り出した。

サトコ
「あ、あの···これ、お貸しましょうか?」

加賀
······

サトコ
『あの豆柴、ポチっていうんです』

加賀
勝手に名付けてんじゃねぇ

サトコ
『ふふ···かわいがってくださいね』

(···そのボールの名前も知らねぇテメェが、貸してやるなんて言うんじゃねぇ)

理不尽だとわかっている。今のコイツが覚えていないのは当然で、仕方のないことだ。

(だが···)

加賀
···いらねぇ

サトコ
「······!」

突っぱねた俺に、サトコはそっとポチをしまうと頭を抱える。
そんな姿を見ながら、病院へ行く前のことを思い出した。

加賀
···護衛?

津軽
そ。ウサちゃんのね

内々に俺を呼び出した会議室で、津軽が楽しそうに頷いた。

津軽
ほら、記憶がない状態でふらふら歩かせるのも不安だし
今のウサちゃん、護身術も使えなければ銃も撃てない、役に立たないただの女の子でしょ?

加賀
そういうのは、頭では忘れてても身体が覚えてんじゃねぇのか

津軽
うーん、だとして一応今のウサちゃんの記憶的には、銃なんて見たことないだろうし
犯人と取っ組み合ったこともないし、ぶん投げたこともないーーことになってるよね
そんな気持ちが『素人』の子に、いきなり銃を撃てって言っても抵抗ありそうじゃない?

確かに、いくら身体が覚えていても、
そもそも撃とうという気持ちがなければとっさの時動けないだろう。

(それに、身体も覚えてねぇ可能性もある)
(どっちにしろ、あいつの護衛になんのは好都合だ)

加賀
が···なんでそれを俺にやらせる?

津軽
だって兵吾くん、やりたくない?

加賀
俺の話をしてんじゃねぇ。何企んでんだって聞いてんだ

津軽
やだなー、何も企んでないって
···だってさ、誰だって嫌でしょ。大事な存在を失うのは

加賀
······

一瞬だけ声のトーンを落としたあと、津軽はいつもの調子に戻った。

津軽
ま、そういうわけだから。頼むね

加賀
まだやるとは言ってねぇ

津軽
まったまた~、やってくれるでしょ?っていうかやりたいでしょ?
あ、でもウサちゃん、今兵吾くんのこと毛虫のように嫌ってるよね

加賀
······

津軽
もしかして、それを目の当たりにするのが嫌だから引き受けたくないとか?
だよね~、可愛がってた弟子に手のひら返されたらショックだろうなー

加賀
······

津軽
でもさあ、兵吾くんも悪いよ。いきなり車いす蹴っ飛ばしたんだって?
ウサちゃん、初めてここで兵吾くんに会った時、言ってたよ
あの車いす蹴っ飛ばし男、刑事だったんですか?って

加賀
······

津軽
車いす蹴っ飛ばし男ってすごいよね。ネーミングセンスなさすぎ。アッハッハ!
まあでもほら、自分の手であの子を守れると思えば···
ププ、車いす蹴っ飛ばし男···

加賀
そんなにあの世に行きてぇなら、早くそう言え

津軽
な、ちょっ!?ちがっ···わー!暴力反対!

(···あいかわらず、つかみどころのねぇ野郎だな)
(テメェが何企んでんだか知らねぇが、そういうことなら利用させてもらう)

こうして、サトコが知らないところで俺と津軽の協定は結ばれた。

to be continued

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