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愛の試練編 カレ目線 加賀6話

サトコ
「か・が・さんっ」

加賀
······

(うぜぇ···)

サトコ
「なんで私の手紙、取っておいてくれたんですか?」

加賀
27回目

サトコ
「つまり26回も無回答ってことですよ」

サトコが俺の隣に座り、耳タコの質問をニコニコしながらぶつけてくる。
そしてそのまま倒れてきて、俺の膝に頭を乗せた。
何の気なしに前髪を分けてやると、無防備なデコが見える。

サトコ
「もしかして私が記憶を失ってる間、毎日読み返してたとか?」

加賀
······

サトコ
「それなのに、記憶があってもなくても関係ないなんて言ってくれたんですか?」

加賀
······

サトコ
「私、愛されてますね。くふふ···」

加賀
うぜぇ

そのデコに、チョップを落とす。

サトコ
「あいた!」

加賀
うぜぇ

サトコ
「そんな何度も言わないでください···!」
「で、でも!わかってるんですよ!」
「これも愛情表現だって···!」

加賀
······

サトコ
「私、まさかそんなに愛されてたなんて知りませんでした···」

(知らねぇのはテメェだけだ)

こいつはたまに、わざとらしく大袈裟に自意識過剰なことを言う。
俺が “ それほど思っていないだろう ” と思いながら。
予防線なのかなんなのか知らねぇが。

(クズが···)

それほど、思ってんだよ。
ただ、のんきなツラには、だんだんムカついてくる。
もう黙らせようと、額に親指をめり込ませた。

サトコ
「いたたたた!あだだだだー!」
「穴!穴が開いちゃいますから!」

加賀
ちょうどよかったな。開いた穴から知性を吸収しろ

サトコ
「知性は物理的な穴からじゃなくて、普通に自分で吸収しますから···!」

(···腹立つくらい無防備だな)
(記憶がねぇ時は、手負いの猫かってくらい警戒してたくせに)

最後に、額を指を弾いてやった。

サトコ
「いたっ」

加賀
捨て忘れてただけだっつってんだろうが

後生大事に持っていたーー
わけではないが、たまに持ち歩いていたと言えばまたこいつを調子づかせる。
だがサトコは俺の言葉を信じていないのか、むくりと起き上がった。

サトコ
「素直じゃないですね?」

加賀
···うぜぇ···

呆れる俺に、サトコが触れるだけのキスを寄越した。

加賀
···子供だましか

サトコ
「···ちょっと、言って欲しいだけなのに」

見れば、サトコはさっきの幸せそうな顔から一転、唇を尖らせている。

加賀
うぜぇ上にめんどくせぇのか

サトコ
「兵吾さんがそれでいいなら、いいですけどー···」

加賀
うるせぇ唇は引き千切るぞ

サトコ
「引き千切る!?」

もう一度チョップすると、サトコが頭を抱えた。
確かに病院に運び込まれたあの日、病室であの手紙を読んでサトコを思い出していた。

(口が裂けても拷問されても、絶対に言わねぇが)
(万が一知られたら、この程度のウザさじゃ済まねぇだろうからな···)

サトコ
「加賀さん?」

加賀
······

細い髪を耳に掛けてやると、心を許すように空気を和らげてくる。
まるで、好きだと、言葉にしなくても伝えてくるように。
氷川サトコは、思ったよりもずっと、面倒で手のかかる女だった。
本当のところはでは俺の思い通りになんざならねぇ。
いつだって。
ーーだが。
そんなサトコに、燻る熱を刺激される自分もいた。

(···末期か)

手を取り、唇を奪う。
噛みつくようにしながら舌を絡め、ソファに押し倒した。

サトコ
「···」
「ここで···?」

加賀
嫌なら向こう連れてけよ

握っていた手を一度離し、指を絡めた。
サトコはそれを自分の方へ引き寄せて、俺の手の甲に頬を摺り寄せる。

サトコ
「···いい、です」

加賀
······

サトコ
「すぐしたいから、ここで···」

ベッドが軋む音に呼応して、サトコの声はさらに甘く、切なくなる。
ソファの下に落ちた衣装はそのままに、寝室に場所を移動して身体を揺さぶり合った。

サトコ
「っ······ぁ······」

加賀
······

何度目かの限界のあと、サトコは浅い息のまま俺にしがみついていた。

加賀
···足りたか

呼吸が落ち着くのを待ってそう尋ねると、サトコはキスをねだるように顔を近づけてくる。
触れるだけのキスを何度かしてやると、再び俺に抱きついた。

サトコ
「もう、無理···です、けど」
「でも···足りてはいない、です」

(···めずらしく、くっついて離れねぇと思ったら)

きっと今は、ひっぺがそうとしても剥がれないだろう。

(いつもは、テメェのほうからもう無理だなんだって泣き言言うくせに)

それでもこっちが満足するまで付き合わせる。
それが俺たちの夜だった。

サトコ
「兵吾さん···」

加賀
······

サトコ
「兵吾、さん···」

この感覚を、俺は知っている。

サトコ
『はああ~~~···」

加賀
······

サトコ
『すーっ、はー···加賀さんの匂いだ···』

あの時と同じように、こいつはきっと今、充電しているのだろう。
離れていた分。
忘れていた間の分を。

(記憶が戻った今は、記憶がなかった頃のことも覚えているらしいが)
(···あのときのお前は、お前からすると “ サトコ ” じゃなかったんだろ)

あのとき、きっと今の “ サトコ ” はこの身体のずっと奥の奥で眠っていたのだろう。
だから目の覚めた今、眠っていた分を充電しているのかもしれない。

(···そうだな。不安だったな、お前が一番)
(自分のことがわからねぇなんて、想像できねぇくらいの恐怖だろ)

それでも必死に、明るく振る舞っていた。
戻るかどうかも分からない “ 記憶 ”、自分が知らない自分を知っている “ 周囲 ” と闘いながら。

(だがお前のことだからどうせ、そんな泣き言なんて言わねぇんだろ)

俺を振り回した。
迷惑をかけた。
誰よりもコイツ自身が、その意識にさいなまれているのだろうから。

加賀
付き合ってやるよ。どこまでも

サトコ
「え···?」

加賀
駄犬が満足するまでな

自分の思惑に気付かれて照れているのか、サトコが目を伏せる。
だがその前に、柔らかい唇にかぶりついた。

サトコ
「ん、む···ぅ」

加賀
好きなだけ充電しとけ

サトコ
「兵吾さん···」

サトコが記憶を失っていた間のことが、一気に脳裏を駆け巡る。
『誰?』と聞かれたことも、反発されたことも。
抱きしめる腕に力が籠った。

ーーだが、帰って来た。
それでいい。
こいつがここにいるなら、それ以上のことはない。

Happy End

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