外での捜査の帰り。
一息入れようという津軽さんと大型チェーンのカフェに入った。
先に注文を済ませるシステムで、津軽さんはメニューを見ている。
津軽
「パンプキンラテトリプルショットエクストラクリームシナモンミントシロップグランデ」
店員
「パンプキンラテトリプルショットエクストラクリームシナモンミントシロップグランデですね!」
(魔法か?)
津軽さんの注文も何味になるか疑問だが、それを笑顔で正確に繰り返す店員もプロだ。
津軽
「モモは?」
百瀬
「本日のコーヒーのトールで」
津軽
「それ、ただのブラックコーヒーでしょ」
「もっとてんこ盛りにしていいんだよ。俺が出すし」
「ケーキは?チョコチャンククッキーもあるよ?」
店員
「ふふっ」
百瀬
「······」
微笑ましいという顔で店員の女に笑われ気恥ずかしい。
百瀬
「コーヒーだけで」
津軽
「そう?こっちには···」
「······」
津軽さんがレジ横にあるカゴに目を留めた。
そこにあるのは、カフェのマスコットキャラのウサギのキーチェーン。
サツマイモの着ぐるみを着て、どことなく間抜けな雰囲気がーー
(あいつに似てる···)
(···買うのか?)
津軽
「···以上で」
店員
「かしこまりました」
(買わないのか)
(あれは欲しいって顔だったのに)
(···俺の目を気にしたのか?)
津軽
「でさ、こないだ『空飛ぶゾンビ2』を観たんだけどさ。ウサがね···」
パンプキンラテトリプルショットエクストラクリームシナモンミントシロップグランデ
ーーを飲みながら、津軽さんがするのは、アイツの話ばかり。
このところ仕事以外のことでは、口を開けばウサ、ウサ···だ。
百瀬
「最近、アイツの話が多いですね」
津軽
「え?そう?」
意外という顔で目が見張られた。
(無意識かよ)
頭の中、どんだけあのウサギに占拠されてんだ。
津軽
「ごめんね。気を付けるよ」
百瀬
「いいですよ、別に。津軽さんの好きで」
「普段班長してるんですから、俺の前ではしたいようにしててください」
津軽
「モモってさ~、男殺しだよね」
百瀬
「は?」
津軽さんは頬杖を突きながら、俺を見て目を細める。
(最近···表情が柔らかくなった気がする)
津軽
「そゆこと、あんまよそで言っちゃダメだよ」
「男前は、どの班でも欲しがるから」
百瀬
「俺には津軽班だけです」
津軽
「ん、わかってる」
ふっと笑った津軽さんがまた、レジ横に視線を流した。
さっきの様子だと、これも無意識なんだろう。
百瀬
「水、もらってきます。津軽さんは?」
津軽
「1杯もらおうかな」
水を取りに行きがてら、レジ横のサツマイモウサギを買っておく。
津軽さんの望みは俺の望み。
このサツマイモウサギがどんなに間抜けでも、やる相手がどんなに間抜けでも。
津軽さんが欲しいなら、俺が調達する···それが俺のすべきことだから。
Happy End