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津軽高臣クッキング

ある夜の19時。
私の家のキッチンには津軽さんが立っていた。

サトコ
「あの、本当に大丈夫なので···」

津軽
なに言ってるの。頑丈だけが取り柄のウサが風邪で休んだんだから
今夜は俺が看病してあげるから安心しなさいな
必要な買い物もしてきたから

(それが怖いんですが···)

すぐ近くに置かれているスーパーの買い物袋の中身は見えていない。

津軽
お腹空いたでしょ?

サトコ
「いえ!全然!食欲なくて!」

津軽
大丈夫じゃない証拠じゃん
食べないと治らないよ?
津軽さんが美味しいもの作ってあげるから、大人しくしてなさい

ベッドに戻るように回れ右で促される。

津軽
たくさん食べて、早く元気になりなね

サトコ
「は···い···」

両肩に手を置かれ、労わる声で言われれば···お断りするという選択は消えざるを得なかった···

ベッドに入ったものの、台所の様子が気になって仕方がない。

津軽
んー···そっか。なるほど、なるほど

(何が、なるほどなの?)

津軽
ああ、そっか。そういう意味ね

(何かを調べてる?ご飯を作ってくれてるんだよね?)
(調べながら作るってことは、新料理に挑戦してるってこと?)
(レトルトのおかゆとかで十分なんですが···!)

あの味覚で料理されたら、どうなるのか···

(そういえば、前に津軽さんが風邪ひいた時、風邪の時はカレーって言ってたよね)
(カレーを作ってるのかな···津軽さんが好みの調味料がてんこ盛りの···)
(ま、まあ風邪にスパイスは有効だっていうし···ガンバレ、私の胃!)

覚悟を決めて待っていると。

津軽
お待たせ~

サトコ
「わ、わざわざ、ありがとうございます···」

トレイに乗せられた浅いお皿。
お皿の中にあるのは、ドロドロの緑色の物体。

(こ、これは···?ジャイ〇ンシチュー···?)

サトコ
「これは···」

津軽
おかゆ

サトコ
「···グリーンカレーではなく?」

津軽
風邪の時はカレーじゃなくて、おかゆって言ったのウサでしょ

サトコ
「覚えててくれたんですね···」

(興味のないことは、あっさり忘れる津軽さんが覚えててくれたのは嬉しい)
(嬉しいけど···謎味はカレーの方が誤魔化しやすいと思ってたのに!)

津軽
あい、あーん

サトコ
「あ、あーん···」

緑色の謎の物体がスプーンに載せられて接近してくる。
津軽さんとの距離の近さが···今ばかりは気にならない。

(う···に、匂いが···何だろう···香草?スパイス?)
(どっちにしても、おかゆの匂いじゃない!)
(ええい、考えたらダメ、味わったら負け!食べるしかない!!)

思考を放棄して、スプーンを口の中に入れると···

サトコ
「ん···?」

(あ···れ···?)

サトコ
「これ···バジル?ほんのりコンソメの味がする···」

津軽
バジル粥だよ

サトコ
「バジル粥···」

津軽
混ぜたせいで、ちょっと全体的に緑になっちゃったけど
SHIBA社のスマホに入ってるヴィクトリアあるじゃん?

サトコ
「音声アシストですよね」

津軽
そのヴィクトリアがレシピ読み上げてくれたから便利だったよ

サトコ
「なるほど···レシピ通りに作ってくれたんですね···」

津軽
どこで検知してるのか知らないけど、隠し味入れようとすると反応するんだよね
『その調味料は必要ありません』ってさ

サトコ
「はは、そうだったんですね···」

(ありがとうヴィクトリア!ありがとうSHIBA社の人!)
(あなたは私の勝利の神です!)

サトコ
「すごく美味しいです!」

津軽
ウサは味がほとんどしないおかゆが好きだもんね

(ヴィクトリアを無視して作ることだって、できたはず)
(そうしなかったのは、私の好みを考えて···気を遣ってくれたんだよね。風邪だから)

お粥に籠った思いやりを感じて胸の奥が温かくなる。

サトコ
「ありがとうございます。元気、出てきました」

津軽
よしよし、きれいに食べたね。じゃ、お熱測るよ

(熱···津軽さんのことだから···)

津軽
俺がおでこで測ったげるよ
んー、37度8分くらい?

おでこをくっつけて適当に測るかと思いきや···

津軽
ウサ?
ほら、体温計

サトコ
「あ···はい···」

津軽
アイスノン取り替えるね。シャワー浴びるかどうかは熱測ってからか
リンゴすりおろしたら食べる?

食器を下げながら、テキパキと動いてくれる。

(え···津軽さんって、意外と看病上手···?)
(唯我独尊の···というか、独特の津軽流適当看病をされるかと思ってたのに!)

サトコ
「津軽さんからスパダリ味を感じる···」

津軽
ん?何か言った?

サトコ
「いえ、何でも···津軽さん、看病上手なんですね」

津軽
彼女の看病なんてしたことないよ

サトコ
「そ、そですか···」

(そこまで聞くつもりはなかったけど!)
(嬉しい···かも)

カッと頬が熱くなり、隠すようにうつむくと···クッとアゴを持ち上げられた。
目の前に来ている、S級の顔。

サトコ
「つ、津軽さん?」

津軽
なに?

サトコ
「ちょ、キスはダメですよ!うつります!」

津軽
もらってあげるよ

サトコ
「ダメですってば!」

津軽
俺、ウサへの抗体あるからヘーキ

サトコ
「な、なに訳わかんないこと言ってるんですか!」

津軽
そんな大騒ぎして···熱上がったら、どうすんの
仕方のない子だね
なら、これで我慢してあげるよ

ちゅっと唇が押し当てられた先は···おでこ。

津軽
早く治るおまじない
こっちへのキス、そんなに待ってあげないからね

人差し指で私の唇に触れ、微笑む津軽さんはーー津軽高臣スパダリVer.だった。

Happy End

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