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本編④(後編) 津軽GOOD END

『三邑会』と『礼愛会』、そこに関わる宗教法人団体が関与する売春ビジネスと警察上層部の癒着。
売春ビジネスの名簿が手に入ったことで、私から見える事件は一段落。
あとは上で処理されることで、結果は分からないが捜査は終了となった。

(純恋ちゃんと茶円のこととか)
(鉄骨が落ちてきたのは事件だったのか事故だったのか···誰の仕業だったのかとか)
(分からないことはたくさんあるけど、知らされないんだろうな)

公安では、事件の全体像が分かる方がめずらしい。
こうやって呑み込んでいくのも経験だ。

サトコ
「あ!隙見てピザにスパイス山盛ろうとしないでください!」

津軽
ピザにスパイスは普通でしょ

サトコ
「これチョコバナナのデザートピザですよ···」

私と津軽さんの会話も少し前の日常に戻っていた。
百瀬さんが運転する軽トラのホロの上でーーー

津軽
選べないって言ったけど
身体が···本能が選んじゃうんだよ。君を
···どうしよっか?

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あの『どうしよっか』の先は、まだ何も話していない。
ただ今日は『あなしね』の最終回を一緒に観たいと言った私の願いを叶えるために、
隣に居てくれてる。

津軽
結局、全話観ることになるとはね~

サトコ
「銀さんと盛り上がれるからいいじゃないですか」

津軽
盛り上がるって、そこまでは···ノアが出てるから観てるだけでしょ

サトコ
「え、めちゃくちゃ熱入りますよ?」

津軽
···待って。ウサ、銀さんと『あなしね』談義してんの!?

サトコ
「はい。あれ?言ってませんでしたっけ···」

津軽
初耳だよ。ていうか、いつの間に銀さんと共通の話題持ってんのよ···

サトコ
「偶然、銀さんの電話の着信音が『あなしね』の曲だったのを聞いてしまって」
「銀さんは真の『あなしね』ファンですよ!同士です!」

津軽
ああ~、なるほど。そういうことね
口頭の尋問報告にも行けるわけだ

サトコ
「はは···まあ、そういうことです」

室長室での会話。
あの時、私が感じたのは銀さんの息子への愛情···だったと思う。
だけど、そのことについて話そうとは思わなかった。

(あれは親子の会話として、津軽さんが直接聞くべきこと···)
(銀さんの家族になりたいって津軽さんは言ってたけど)
(銀さんはとっくに家族だと、息子だと思ってるじゃないかな···)

津軽
男の顔をジッと見る時は、欲しがってる時だって自覚ある?

サトコ
「え···」

身体ごとこちらに向いた津軽さんが距離を詰めてきたかと思うと···

津軽
はい、チョコバナナピザ

サトコ
「ぐっ!」

久しぶりに食べ物を口に突っ込まれた。
チョコバナナピザの甘さにグリーンチリソースとスパイスの味が混ざり合う。

(せ、せっかくの美味しいデザートピザが···!!)
(でも、こんな時間も嬉しいなんて···)

嬉しさと辛さを噛み締めながら口を動かしていると、『あなしね』が始まる。

サトコ
「あ。この水族館、私が津軽さんにフラれた場所ですね」

津軽
······

偶然にも一緒に行った水族館が舞台になっていた。
ちらっと横を見ると、津軽さんはバツの悪そうな顔をして前を見ている。

(こういう顔、めずらしいかも···発言撤回したこと、一応気にしてるのかな···?)

ドラマを観つつも、津軽さんの様子も気になってしまう。

(音がない状態で話すより、ドラマ観ながら···の方が話しやすいかな···)
(録画してあるし、集中して観るのはひとりの時でもいいし)

サトコ
「今日はありがとうございます。一緒に観てくれて」

津軽
やりたいことは全部叶えるって言ったじゃん
身体が離れられないんだから仕方ないよね

サトコ
「人に聞かれたら誤解されるような言い方は止めてくださいって」

津軽
ほんとのことなのに

ラグの上に置いていた手を重ねられた。
テレビから視線を外した彼は天井に顔を向けて、ふーっと長い息を吐く。

津軽
まー···選べないんだから、ゆっくり考えるよ

サトコ
「それがいいと思います」

(選ぶ必要があるのかどうか···そこに気付いてくれる時が来るかもしれない)
(そういう日がこなくたって···)

構わないーー私は私の『好き』のかたちを見つけたから。

津軽
ほんとにいいの?ウサには宙ぶらりんな思いさせちゃうけど

膝を立てて頬を預けながら、こっちに視線を送ってくる姿はずるい。

(ハニトラ技が沁みついてるのか···!あざといにもほどがある!)

サトコ
「私も···別に恋人じゃなくていいです」

津軽
え···

クライマックスに差し掛かっている『あなしね』の画面だけを見つめ、
心はあの軽トラの上に戻っていた。
あの時、出た答えーー
私は···あなたが夕暮れに足を取られなければ、それでいい。

サトコ
「私···笑ってる顔が好きなんです。津軽さんの」
「くしゃっていうか、へらっとした感じの」

津軽
···それ、ダサい顔じゃん

サトコ
「でも、私はそれがいいんです」

大事なことだから、ちゃんと顔を見て伝えないと。
横を向けば、津軽さんもこちらを見ていて、少し唇を尖らせた顔に微笑む。

サトコ
「選べないって悩んだり苦しんだりする顔よりも」
「津軽さんが津軽さんのまま、笑ってくれて···それを近くで見ていられたら」
「できれば一緒に笑っていられたら、嬉しいです」

津軽
サトコ···

サトコ
「だから、好きも···もう言いません」
「津軽さん自身の気持ちの邪魔をしたくないから」

好きって言えば、好きって返ってくるのを期待してしまう。
もう彼を好きで縛るようなことはしたくない。

サトコ
「だから、私のことは気にせずゆっくり考えて···」

津軽
···好きは言ってもよくない?

サトコ
「···はい?」

津軽
だって、俺のこと好きでしょ?

サトコ
「···ここまで振り回しといて、よく自分から聞けますね!?」

津軽
好きじゃないの?

サトコ
「けど!好きって言ったら、好きって返してもらいたくなるし···」
「好きって言ったら、恋人とか、関係の定義をどうしても考えるじゃないですか」
「選べない津軽さんの気持ちの邪魔をしたくないって言ったの聞いてましたよね?」

津軽
···だとしても、好きなんでしょ?

サトコ
「···言わない」

津軽
なんで

サトコ
「言ったら、また葛藤することになるのは、そっちですよ!」

津軽
いや、ムリムリムリ。ウサから好きって聞けないの、フツーに無理だから

(もう好きって言わなくていいって言ったの、誰!?)

サトコ
「な、何言ってんですか!津軽さんが言わなくていいって言ったんですよ!」

津軽
だーかーらー···あれから俺の心、ずっと死んでんのよ

サトコ
「はい?」

津軽
好きって言って

ぐっと距離が詰められる。

サトコ
「無理です」

津軽
言えって!

サトコ
「やですってば!」

津軽
好きだろ!?

サトコ
「ノーコメントで」

津軽
うっわ、腹立つ!

サトコ
「お互い様ですよ!」

津軽
···じゃ、いい

(あれ?意外とあっさりと···)

本気で機嫌を損ねたのかと、その顔を見れば。
ガシッと両肩に手を置かれた。

津軽
肩書だけもらうから

サトコ
「へ?」

津軽
結婚しよ

サトコ
「·········」
「???????」

(···結婚?結婚って言った?この人)
(ケッコウとかカッコウとかじゃなくて···結婚?)

サトコ
「······」

津軽
······

サトコ
「·········」

津軽
·········

頭の中は大混乱のままに見続けると、津軽さんの視線が泳いだ。

(あ、これは自分でも何言ってんだって顔だ···)
(ほんとにもう···めんどくさい人なんだから···)

サトコ
「自分でも何言ってるかわかってないですね?」

津軽
ほら、『あなしね』がクライマックスだから···俺のテンションも、つい···

サトコ
「ドラマにテンション合わせなくていいですから」

津軽
はは、だよね~
···でも俺、そういうのも似合うかな···とか···

サトコ
「似合うとかの前に、わけわかんないですよ···」

場を和ませるために、ことさら明るい笑顔を作る。

津軽
ははは···

サトコ
「ふふふ···」

津軽
······

サトコ
「······」

何とも言えない沈黙の中、津軽さんがおもむろに立ち上がった。

津軽
······じゃ、俺、そろそろ帰ります

サトコ
「お疲れさまでした。このピザの残り、持って帰ってくださいね」

津軽
いいよ、いいよ。ウサの朝ごはんにしなよ

サトコ
「いえいえ、津軽さんの朝ごはんに!」

食べ物を無駄にはできないので、ピザの箱だけはなんとか持たせて部屋から送り出す。

サトコ
「はぁ···結婚って···」

津軽さんの脳のどこから出てきた言葉なのか。

(これは···プロポーズにカウントされないよね?)

カウントするキスとかプロポーズとか。
津軽さんとの関係は本当にややこしい。

週明け、土日で再び1話から全話完走した私は、すっかり『あなしね』ロスになっていた。

サトコ
「はあぁ···」

(今週から、何を楽しみに生きて行けばいいの···)

始業前に思い切り脱力しておこうとデスクに突っ伏していると。
頭の上にガサッと何かが置かれた。

(ん?冷たい···)

顔を上げると、コンビニの袋と石神さんお顔が見えた。

サトコ
「おはようございます」

石神
間もなく始業だ。糖分摂取して脳を起こせ

加賀
朝の糖分摂取なら、大福に敵うもんはねぇ

サトコ
「あ···」

もうひとつ、コンビニの袋がデスクに置かれる。
それぞれの袋にはプリンと大福が入っているのが見えた。

(おふたりが朝から差し入れしてくれるなんて···)
(この間、みっともない姿見せちゃったからな)

サトコ
「ありがとうございます。気合い、入れていきます!」

石神
その方がいい

加賀
今日の銀さんは、いつも以上に近寄りがたい

石神
何があったのか、随分とひりついている

サトコ
「そうですか···」

(わかります···今週から『あなしね』がないんだから···)

差し入れのプリンと大福をさっそくいただきながらTvitterを見ると、
山本さんからメッセージがきていた。

サトコ
!!

スマホを握り締めると、イスを蹴飛ばすような勢いで立ち上がった。

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走る、朝の庁内の廊下を全力疾走する。

後藤
氷川!?

サトコ
「おはようございます!」

東雲
いつゴリラからダンプカーに転職したの?

サトコ
「おはようございます!」

颯馬
廊下を走ってはいけませんよ

サトコ
「すみません!」

黒澤
サトコさん、今日はとてもお元気ーー

サトコ
「おはようございます!」

すれ違う人たちに挨拶だけ返しながら駆けていると···曲がり角から伸びてきた手に腕を取られた。

津軽
どうしたの

サトコ
「······っ」

(あっぶな!)

車は急に止まれない···ぎりぎりで体勢を立て直す。

サトコ
「銀さんに···!銀さんに言わなきゃいけないことが···!」

津軽
いや、今日は会わない方が···


「なんの騒ぎだ」

サトコ
「銀室長!」

確かにいつもより厳しい顔をしている。
だけど、その顔はこれでーー!
私はバッとスマホの画面を銀さんに見せた。



サトコ
「······」

1本消える、銀さんの眉間のシワ。

(そうなんです···)
(『あなしね』の劇場版が発表されたんです!)
(また、皆さんに会えるんです!!)


「···あとで話そう」

サトコ
「はい!」

津軽
え···な、なに?

銀さんの空気が明らかに変わったのに気付かない津軽さんじゃない。
その背を見送り、ポカンと私を見る。

津軽
···ウサ、なに見せたの···?

サトコ
「それは···」
「私と銀室長の秘密です!」

津軽
な···っ

きっと銀さんに聞けば教えてもらえますよ。
あなたは彼の息子だから。

Good End

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