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本編④(後編) 津軽7話

向かっていた駅から随分離れたところまで来てしまった。

(ただ帰ってただけなのに···似たような語感の映画あったような···)
(って、そんなことを考えてる場合じゃなくて!)

今、身を潜めているのは居酒屋の裏手に当たる細い裏路地。
外にある大型冷蔵庫とゴミ置き場の隙間に隠れていた。

(臭い···1カ所に留まるのは危険···でも、道を歩くのも危ない···)

走ってる途中で、横に滑り込んできた黒いバンから伸びてきた手に引き込まれそうになった。

(津軽さんがくれたボールペンに救われた···)

あれは新宿で純恋ちゃんを探してた時。

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津軽
···もっとさりげなく使えるのも持っときな

スカジャンのポケットを探った津軽さんが、ペンを取り出すと私の胸ポケットに差し込んだ。

サトコ
「ペン···?」

津軽
こういうのも武器だよ。いざって時は太い血管狙って

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退庁後は拳銃は所持していないので、武器らしい武器はなかった。
このペンで手の甲を思い切り突き刺し、逃げてきた。
男の手だった···と思う、手袋をしていたのがチラッと見えた。

(ここに居続けるわけにもいかない)
(とにかく冷静になって、事態を把握しよう!)
(どうして、あんな輩が血眼になって私を捕まえようとしてるのか···)

<選択してください>

ただの暴漢

(ただの暴漢···にしては、数が多すぎる)
(車に連れ込もうとする流れも···手袋をしてたし、あれは計画的な犯行だ)
(ただの暴漢は、こんなことはしない)

何かしら私への恨み

(何かしら私への恨み···?)
(これまでの事件を考えたら、いくらでもありすぎる···)
(これだけの規模となると、大きな組織が関わってる事件?)

津軽さんへの恨み

(津軽さんへの恨み···とか?)
(金髪の津軽さんと一緒にいたから、昔の敵が私を狙ってくる可能性もある)
(だとしたら恨みますよ、津軽さん!)

(こういう時は応援を呼ぶのが定石)
(やっぱり班長の津軽さんに···)

連絡しようとして、指が動かなかった。
蘇ったのは···
鉄骨が落ちる轟音とアスファルトが削れる音と匂い。

サトコ
「······」

(また、あんなことになったら···)
(後藤さんはまだ庁内に残ってた。後藤さんに連絡して、応援をお願いしよう!)

後藤さんに電話しようとした時、ザッと複数の靴音が聞こえる。

男C
「あそこだ、いたぞ!」

サトコ
「!」

近付く足音に物陰から飛び出し、路地の外に出るとーー

???
「こっち」

サトコ
「!?」

まるで逃げ道を教えるかのように、誰かの手に腕を掴まれた。

腕を引かれ連れて行かれたのは歩道橋の上だった。
下を走る車の往来が歩道橋を揺らしてくる。
少し先に見えるのは、逃がすように私を引っ張って来てくれた背中。
彼はーー

茶円
「···大丈夫?」

サトコ
「······」

(保釈されたばかりのはず···)

サトコ
「···どうして?」

助けてくれた···のかどうかは分からないが、とりあえず追っ手を撒くことはできている。

茶円
「女性が困っていたら助けるものですから」
「それが “ 刑事 ” さんでも」

サトコ
「···!」

刑事と言われた瞬間、腕を掴んでいた茶円の手を振り払った。
もしや···と思っていたことが確信に変わったから。

サトコ
「···どうして、私が刑事だって知ってるんですか?」

茶円
「それは尋問の時に···」

サトコ
「私は···あなたを、ミラー越しにしか見ていません」
「あなたと···一緒に顔を合わせたことはないんですよ」
「さっき、私を車に押し込もうとしたの···あなたですね?」

私の目は茶円の右手を見ていた。
さっき振り払った時に見えた、手の甲の黒い点。

(私が刺したボールペンの痕···)

一歩下がり、距離を取る。
徐々に上がっていく、茶円の薄い唇。

茶円
「···君のことばかり考えていたから、とうに知り合ったと錯覚しちゃいましたねぇ」

下がった分だけ詰められる距離。
茶円の目は私を捕えていて、その視線は1mmもずらされずに真っ直ぐに射抜いてくる。
口の中が渇く···これは生存本能からくる警鐘だ。

(逃げられない···)

本能でとらえた危機感を証明するように、迫ってくる靴音に全身から嫌な汗が噴き出す。

(茶円の向こう···私の後ろからも···)

聞こえる足音が格段に増えた。
私を追っていた男たちに前後を抑えられ、逃げ道が閉ざされたのだとわかる。

(この男たちは茶円の手下···ということは、『三邑会』の構成員···)
(どうして私が茶円のターゲットに···?)
(いや、そんなことを考えてる場合じゃない···)

茶円
「今度こそ、一緒に来てもらいますよ」

サトコ
「······っ」

逃げ場なしーー暴力団に掴まれば、この男に掴まれば、そのあとはーー
さらに距離を詰めてくる茶円に、一瞬歩道橋の向こうに視線を流した。

(ここから飛び降りる?)
(轢かれるだろうけど、まだ助かる可能性が···)

自分のつばを飲み込む音がやけに大きく聞こえる。
覚悟を決めて、歩道橋から身を躍らせようとした、その時ーー
耳を貫いた、バイクのエンジン音。

サトコ
「!?」

男A
「な、なんだ!?」

茶円
「!」

ブォンッという激しい排気と共に、茶円の後方から一台のバイクが歩道橋を乗り上げてくる。
男たちを蹴散らしながら走ってきたバイクから、何か筒状のものが投げられた。

発煙筒!?···誰が!?

視界が白い煙に覆われる。
バイクに乗っていたヘルメットの人物が敵か味方かわからない。

サトコ
「けほっ」

(とにかく、今のうちに···!)

逃げようーーと思った瞬間、煙の裂け目からバイクが乗り捨てられるのが見えた。
私の前に着地するバイクの持ち主。
声を上げる間もなく、その人のヘルメットを被せられ、抱き上げられていた。

???
「舌、噛むなよ」

サトコ
「!」

顔を見ようと思った時には、歩道橋の手すりの上からの視界になっていた。
揺れる彼の髪越しに見えた月が、やけに澄んだ輝きを放っていてーー

サトコ
「あ···」

私たちは歩道橋から、飛んだ。

to be continued

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