カテゴリー

本編④(後編) 津軽2話

賢く貯めるならモッピー。1P=1円で交換先も多数!

どんなことが起こっても日常は流れていく。
この仕事に就いてから、それを嫌というほど思い知った。

百瀬尊
「これ、全部整理しとけ」

登庁するなり、ドサッとデスクに置かれたのはファイルとバインダーの束。

サトコ
「これは···」

百瀬尊
「『三邑会』と『Ti-love』について集まった情報だ」
「分類して、まとめておけ」

サトコ
「この量を、ひとりで···?あの、私たちは『礼愛会』の潜入だったので」
「この調査に関わった人もいた方が···」

百瀬尊
「必要な情報は全部入ってる。お前ひとりでできんだろ」
「つーか、やれ」
「津軽さんを危険な目に遭わせた報いだ」

サトコ
「······はい」

置かれた資料の重さは津軽さんにしてしまったことの重さだと示されれば、やるしかなかった。

津軽
「おはよ~」

サトコ
「!」

百瀬
「おはようございます」

(平常心、平常心···)

私の頭の中の津軽さんは夕暮れに染まったまま。
振り返るのが怖い···だけど、ここは職場、上司と部下だ。

サトコ
「おはようございます」

津軽
おはよ

近くに来た彼を振り仰げば、いつも通りゆるっとした笑顔。

津軽
朝から仕事熱心だね~。それ、全部ひとりでやるの?

サトコ
「今日中にまとめます」

津軽
モモに押し付けられた?ま、頑張って。働きウサギ

差し入れとばかりにデスクに放られたのは、コンニャクゼリー焼きそば味。

(問答無用でマズそう···)
(何もかも元通り···何でもなかった頃の私たちに)
(こんなにあっさりしたものなんだ)

長い夢を見ていて、本当に何もなかったような気さえしてしまう。

(まあ、そうだよね···付き合ってるわけでもなかったんだから)
(付き合ってないから、別れたわけでもない)
(肩書のない関係って、こんなに呆気ないんだ···)

まるで海岸の砂みたいだ。
さらさらとあっという間にこぼれ、崩れ落ちてしまう。

津軽
···ウサ、書類作業は一旦中断

スマホを片手にした津軽さんに肩を叩かれた。

サトコ
「何か動きが?」

津軽
蔀純恋が予定より早く着いた。取り調べ、行くよ

サトコ
「はい!」

失ったのものを悲しむのも、キリがない堂々巡りにはまるのも、事件が片付いてからだ。
少し前の自分に戻ったと思えばいい。
気持ちが通じなくても、返って来なくても···有能な部下として残る道はあるのだから。

茶円の時と同じように、百瀬さんが取調室に、私と津軽さんはミラーの向こう。
取調室の進みが著しくないのも、茶円の時と同じなのだけれど。

蔀純恋
「ひぐっ···ん゛っっ···うぅっ」

百瀬尊
「聞いたことに答えれば、それでいい」

蔀純恋
「う゛ぅぅぅ~~~······!!」

百瀬尊
「新宿にいた夜、何をしていた。誰に会っていた」

蔀純恋
「な゛にも···ぁ゛、ぁりま゛せん゛······」

百瀬尊
「未成年が、あんな時間に補導もされずにうろつくなんて、何でもないわけないだろ」

蔀純恋
「ふぅ゛~~~······ひっく···!」
「こ、怖い顔、やめっ···やめてくださっ···うっ、うぅ···」

百瀬尊
「······」

タオルハンカチを顔に押し当て続ける純恋ちゃんの取り調べは、進展せず。
埒があかないとばかりに、百瀬さんが額に手を当てて天井を仰いだ。

津軽
モモじゃ厳しいか
ウサ、行ける?

サトコ
「はい」

こちらに顔を向けられ、強く頷いて返す。

(部下として役に立てるところを見せたい)

津軽
行って

サトコ
「はい!」

私は百瀬さんが座る方の部屋へと移動した。

新生活をお得に始めるならモッピー 新規申込・切替でポイントが貯まる!

サトコ
「失礼します」

蔀純恋
「刑事さん···」

百瀬尊
「······」

津軽さんの指示だとわかっているのだろう、百瀬さんが立ち上がり席を代わる。
百瀬さんがドアの横に待機し、
私が前に座ると純恋ちゃんの肩からわずかに力が抜けたように見えた。

サトコ
「ティッシュいる···かな?」

蔀純恋
「ぁ゛···ぁりがとう゛ござい゛ます······」

(まずは···どう話を始める?)

<選択してください>

友達関係について教えてもらう

(事件より、身近な話題から···)

サトコ
「友達関係は大丈夫?前みたいなことは···」

蔀純恋
「······あれは私が悪いんです···」
「私がバカだから、皆を···苛つかせちゃって···」
「あの人も、多分···」

純恋ちゃんが一瞬視線を送ったのは、後ろに控えている百瀬さんだった。

迎えに行けなかったことを謝る

サトコ
「あの日は行けなくて、ごめんね」

蔀純恋
「そんなっ···私の方こそ···私が電話したせいで、あんなことに···」
「本当に···ごめんなさい···お怪我は···」

サトコ
「大丈夫だよ」

百瀬尊
「人が1人死にかけたんだぞ」

蔀純恋
「す、すっ、すみませんっ!私、バカで···っ。あんなことになるなんて···!」

最近、どこにいたのか尋ねる

(まずは答えやすい問いから···)

サトコ
「最近、学校にも家にも帰ったなかったみたいだけど···」
「どこにいたのか教えてくれる?」

蔀純恋
「······いろんなところ、です···」

サトコ
「たとえば?」

蔀純恋
「ゲームセンター···とか···」

百瀬尊
「どこで寝泊まりしてたかって訊いてんだよ」

蔀純恋
「で、ですよね···す、すみません。私、バカで···っ」

純恋ちゃんは『怖い、怖い』と、消え入りそうな声を零し続けている。
百瀬さんを振り返ると、私は口を挟まないように人差し指を立てた。

百瀬尊
「チッ」

渋々と言った表情で顔を背けるものの、わかってくれたようだ。

サトコ
「純恋ちゃん、わかることだけでいいから、話してくれる?」

蔀純恋
「私に話せることなら···」

サトコ
「まず···『Ti-love』に所属してるのは、本当?」

蔀純恋
「······」

『Ti-love』の会員リストを彼女の前に置くと、小さい頷きが返ってきた。

サトコ
「前にホテルの前で男の人といたのは、『Ti-love』の仕事?」

蔀純恋
「は、はい」

サトコ
「純恋ちゃんが、どうして『Ti-love』に所属することになったのか疑問なの」
「あんなに怖がってた···自分で望んで始めた訳じゃないんじゃないかって···」

蔀純恋
「それは、その···」

サトコ
「裏路地で純恋ちゃんのことを囲んでいた子たちと関係ある?」

その問いには、めずらしく早く反応して首が左右に振られた。

蔀純恋
「おばあちゃん···」

サトコ
「おばあちゃん?」

(蔀薔子さん···知ってるけど、こっちから話すより純恋ちゃんから話を訊いた方が、情報が出る)

サトコ
「おばあちゃんが、どうしたの?」

蔀純恋
「おばあちゃんが···老人ホームに入ってて···」
「そこのボスが茶円さん···って人、で···おばあちゃんの入居のお金は私が稼げって···」
「だから働いてるんです···『Ti-love』のこととかは、全然···私バカだからわからなくて」
「紹介されたお客さんの相手をするしか···」
「······バカだから、言われた通りにしろって···」

(二言目にはバカ、バカって···茶円に言われ続けた?)
(ある種の洗脳状態に近いのかも···)

サトコ
「おばあちゃんのことを大切に思う純恋ちゃんは」
「少しもバカじゃないよ」

取り調べデスクの上で震えている手に、自分の手を重ねる。
その手は驚くほど冷え切っていた。

蔀純恋
「!」
「氷川···さん···」

重なった手を見つめてから、ずっと落ちていた視線が初めて上がった。
純恋ちゃんは動揺しながらも、ちらちらと私の顔を見てくれるようになる。

サトコ
「茶円について知ってることを教えてくれる?」

蔀純恋
「はい···」

純恋ちゃんはポツリポツリと話し始める。

(おばあちゃんの入居資金のために、売春を強要されるなんて···)
(この子も被害者なんだ)

目新しい情報は得られなかったが、純恋ちゃんは茶円に利用されている。
それだけは、はっきりとわかった。

1日10分からできる!節約・副業でお小遣い稼ぎ!ポイ活ならモッピー

一旦取り調べが終わり、純恋ちゃんが部屋を出ると入れ替わりで津軽さんが入ってくる。

サトコ
「『Ti-love』の他のメンバーについても調べた方がいいですね」
「他にも純恋ちゃんのように脅されてる子もいるかもしれません」

津軽
···証拠がほしいな

(純恋ちゃんが茶円に売春を強要されている証拠···確かに必要だ)

津軽
蔀薔子と『礼愛会』の経理周りを調べて

サトコ
「はい」

百瀬尊
「これから向かいます」

私たちは再び『礼愛会』の潜入をすることになった。

(薔子さんは、自分の入居資金がどこから出てると思ってるんだろう)
(純恋ちゃんが払ってるって知ってるわけでもないだろうし···)

百瀬さんは事務のPCを調べ、私は薔子さんから話を訊いてみる。

サトコ
「蔀さん、お元気ですか?」

蔀薔子
「あら、あなたは···」

サトコ
「お孫さんにスミレの折り紙、渡せましたか?」

蔀薔子
「孫···?」

サトコ
「スタッフの方から聞きましたよ。純恋ちゃんっていう、お孫さんがいるって」

蔀薔子
「純恋···?······どなたかしら?」

サトコ
「え···?」

そんな名前は知らないというように、薔子さんは首を傾げた。

to be continued

賢く貯めるならモッピー。1P=1円で交換先も多数!

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする