カテゴリー

ラブストーリーはカレから突然に ~加賀~ 1話



【教場】

講義が終わり、同期の皆は先ほど返却された小テストの用紙を眺めては一喜一憂していた。

(はぁ‥よかった)

私はテスト用紙を見て、思わずニヤける。

鳴子
「サトコ、何ニヤけてるの。怪しい~」

サトコ
「な、なんでもない!」

鳴子
「まぁ、トップとったんだからニヤけたくなるのも分かるけどね」

サトコ
「そう、それ!嬉しくてつい、顔がニヤけちゃって‥」

鳴子
「それにしても、今回のテストすっごく難しかったよね」
「それなのにトップになるなんて‥何か裏ワザでも使ったの?」

サトコ
「実力です、実力」

鳴子
「あははっ、冗談だって。サトコ、ここのところ根詰めて勉強してたもんね」

サトコ
「うん、だって‥」

(今回のテストでは、何が何でもトップの成績を取りたかったから‥)

私は加賀教官と約束をした時のことを思い出す。



加賀教官の雑用をするため、今日も講義が終わると教官室に来ていた。

加賀
そこのやつまとめとけ

サトコ
「はい」

デスクを見ると、大量の資料が乱雑に置かれていた。

(うっ、これをまとめるのか‥結構時間がかかりそう)

私はすぐさま、まとめ作業に入る。

(大変だけど、教官の雑用にもだいぶ慣れたな)
(全部を言われなくても、だいたいわかるようになってきたし)

チラリと、教官を見る。

(教官と付き合い始めて少し経ったけど、少しは恋人っぽく‥)

加賀
おい、手が止まってるぞ

サトコ
「す、すみません!」

(見えるわけないか‥)
(そもそも教官と生徒という立場だし、そう見られない方がいいんだろうけど‥)
(って、こんなこと考えてる時間があるなら資料まとめなきゃ!)

資料まとめに集中し、全てが終わる頃には外が真っ暗になっていた。

サトコ
「教官、終わりました」

加賀
ああ、そこにまとめて置いておけ

サトコ
「はい」

(これだけの量の資料をまとめたのに、労いの一言もないんだ‥)
(いつものことだけど、ちょっぴり寂しいな)

加賀
何ボケッとしてる

サトコ
「その‥」

(素直に言ったら、絶対にイヤな顔されるよね)

サトコ
「‥次のテストの事を考えてました」

加賀
んなもんあったか

サトコ
「教官、覚えてないんですか‥」

加賀
テストなんざ知らん。そんなもんより実践が力になる

サトコ
「そ、そうですよね‥」

(教官ならそう言うと思ったけど‥)

加賀
まあ、お前にとったら成績に関わるし大事なんだろうが‥

教官はそこまで言うと、思いついたと言わんばかりの表情をする。

加賀
今度のテスト、確かお前の苦手なことだったな
それでもトップになれたら、デ-トしてやるよ

サトコ
「えっ、いいんですか!?」

加賀
なんだその返答は

サトコ
「い、いえ」

加賀
それよりも、お前はこの方がいいか?

そう言って、私の腰をグッと寄せる。

サトコ
「あ、あの‥!」

加賀
なんだ

(まさか、私の考えてたことバレてた‥とか?)

サトコ
「ほ、本当にいいんですか?」

加賀
ダメだったら初めから言わねぇ

軽いキスを落とし、教官は部屋を出ていった。

サトコ
「‥‥‥」

(教官とデート‥まともなのはほとんどしたことがなかったから嬉しいな‥)
(よし!そのためには頑張って勉強!)

それからの私は、テスト当日まで猛勉強に励んだのだった。

【教場】

鳴子
「‥サトコ?おーい、サトコ?」

サトコ
「あ‥ゴメン」

鳴子
「もう、どうしたの?」
「急に何か考え始めたかと思ったら眉間にシワ寄せたりニヤニヤしたりして」

サトコ
「え、そんな顔してた?」

鳴子
「自覚なし?それはそれでサトコらしいけど」
「そういえば、今日は加賀教官のところに行かなくていいの?」

サトコ
「はっ!そうだ、急がなきゃ!じゃあまたね、鳴子」

鳴子
「うん、またね~」

私はテスト用紙を握りしめ、教官室に向かった。

【個別教官室】

教官室に着いた私は、加賀教官の前にテスト用紙を広げた。

サトコ
「教官、見てください!トップを取りましたよ!」

加賀
お前は俺の補佐官だろ。そのくらい当たり前だ

手元の資料から目線を外さずに答える。

サトコ
「うっ‥そうだとしても、トップですよトップ!約束覚えてますよね?」

加賀
あ?

サトコ
「次のテストでトップをとったら、デートしてくれるって」

加賀
クズが。ただの小テストだろ

サトコ
「えぇっ!?で、でも‥」

加賀
同じことを何度も言わせるな
それよりも、お前にはやることがあんだろ

サトコ
「‥‥‥」
「‥はい‥すみませんでした」

(頑張ってたくさん勉強したんだけどな‥)

デートができると思ったのもつかの間、
私はがっくりと落ち込んで、講義もまったく身に入らなかった。

【廊下】

数日後。
昼休憩の時間になり食堂に向かっていると、千葉さんと出会った。

千葉
「氷川、お疲れ様」

サトコ
「あ、千葉さん。お疲れ」

千葉
「あのさ、氷川って野球興味ある?」

サトコ
「野球?昔、球場に見に行ったことはあるけど‥どうかしたの?」

千葉
「実はナイターのチケットが2枚あるんだけど、行けなくなっちゃって」
「よかったらもらってくれない?」

サトコ
「え?もらってもいいの?」

千葉
「もちろん。空席を作るのもイヤだしね」

サトコ
「ありがとう!野球観に行くの久しぶりだな~」

千葉
「よかった。それじゃあ」

千葉さんは私にチケットを渡すと、その場を後にした。

(教官と行けたらいいけど‥デートもなくなったし、誘いづらいな‥)
(鳴子にでも声かけてみよう)

???
何突っ立ってる

サトコ
「わっ」

突然、後ろから声を掛けられる。
振り返ると加賀教官が立っていた。

サトコ
「教官‥」

加賀
邪魔だ

サトコ
「す、すみません」

まさか教官に出くわすと思わなかったので、思わずチケットを隠す。

サトコ
「‥‥‥」

(タイミングが‥)
(うぅ‥どうしよう。教官と行きたいけど、でも‥)

悶々と考えるが結論はでないまま。

(せっかくもらったんだし)
(うじうじしてないで、誘ってみるだけでも‥!)

意を決して、私はチケットを教官の前に広げた。

加賀
あ?

サトコ
「あの!これ‥行きませんか?」

教官は私の手からチケットを取ると、まじまじと見つめている。

加賀
ナイターのチケットか

サトコ
「教官がよかったら‥ですけど」

加賀
野球か‥
まぁ、悪くない

サトコ
「悪くないって‥あっ、加賀教官!」

加賀
予定、空けとけよ

教官はチケットを持ったまま、その場から立ち去った。

(予定空けとけよって‥行ってくれるってこと?)
(この前は小テストぐらいで‥って言って、取りつく島もなかったのに‥)
(完全に振り回されてる‥でも、嬉しいな‥)

サトコ
「‥はっ!早く食堂に行かないと食べる時間なくなっちゃう!」

私はうきうきした足取りで、食堂に向かった。

【寮 自室】

夜になり寮へ戻ると、携帯を開く。

(予定を空けとけとは言われたけど、待ち合わせ時間は決めてないんだよね)
(教官から連絡来るの待った方がいいかな?)
(でも、こういうのは早めに連絡しておいた方がいいよね)

当日の待ち合わせ時間を決めようと、教官にメールをする。
すると、すぐに電話の着信で返ってきた。

(教官から電話だ!)

サトコ
「もしもし?」

加賀
クズが。さっさと出ろ

サトコ
「開口一番それですか‥着信が来てすぐに出ましたよ」

加賀
口答えするな
時間だが、15時に駅前だ。遅れるなよ

サトコ
「あっ、教官‥‥」

教官は私が何か言う前に電話を切られた。

サトコ
「はぁ‥教官切るのが早い‥」

(だけど、待ち合わせ時間は決まったし本当にデートできるんだ‥)

教官からの電話に、徐々に実感がわいてくる。

(当日はどんな服を着て行こうかな)
(あまり気合い入れすぎると引かれる‥っていうか、教官のことだからあきれちゃうかな?)
(でも、せっかくのデートだし‥)

デートまではまだ日があるけど‥
私は遠足が楽しみな子どもの気分でタンスを開け、服を選び始めた。

【食堂】

デート前日。
昼休憩の時間になり、私は鳴子と昼食をとっていた。

鳴子
「なんかさ、最近のサトコ機嫌よくない?」

サトコ
「え、そう?」

鳴子
「妙にウキウキしているというか‥」
「なんだか、デートを控えてる女子!みたいな」
「この前もファッション雑誌見てニヤニヤしてなかったけ?」

サトコ
「ニヤニヤって‥そ、そんなことないよ!デートだなんて、ほら‥」

鳴子
「まあ、そうだよね~」
「こんな生活していたら、とてもじゃないけど彼氏なんて作る余裕ないし」
「でも、デートか~。教官たちはデートをするならどういうとこに行くのかな」

サトコ
「っ!?」

鳴子
「って何、そんな驚いた顔して」

サトコ
「う、ううん。なんでもないよ!」

鳴子
「そう?で、話の続きだけど‥」
「颯馬教官だったら、どんなところでも華麗にエスコートしてくれるんだろうな~」
「後藤教官は‥意外にファンシーなところに連れて行ってくれたりとか」

サトコ
「ファンシーなところ‥なんだか、想像がつかないかも」

鳴子
「あはは、だよね~。加賀教官は」


加賀さんなら、上手にエスコートしてくれると思うよ

サトコ
「し、東雲教官!?いつからそこに‥」


面白そうな話をしてるなって思って
石神さんはどう思います?

石神
くだらない
そもそも、あいつとデートをする物好きな奴がいるのか


ハハッ。加賀さんは見た目もいいし、結構モテますよ?まあ、あの性格だから遠巻きだけど
サトコちゃんはどう思う?

サトコ
「わ、私ですか!?ええっと、その‥」


あはは、動揺しちゃって

東雲教官は私にだけ聞こえるように呟く。


そんなんじゃ、バレバレだよ?

サトコ
「っ!?」


それじゃ、サトコちゃん。頑張ってね

東雲教官は意味深な笑みを残して石神教官と去って行った。

鳴子
「ねぇサトコ。東雲教官が『頑張ってね』って言ってたけど、何を頑張るの?」

サトコ
「さ、さあ?なんのことだろう」

(東雲教官、絶対に分かっててからかってるよね‥)
(他の人にはバレないように、気を付けよう‥)

to be continued

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする