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出会い編 後藤4話



【階段】

華やかな男性
「後藤の女か」

サトコ
「え!?」

華やかな男性
「俺が通りかかったことに感謝するんだな」

資料を抱えて階段を下りているとき足を踏み外し、通りがかった男性に助けられた。

(この学校で初めて見る人···後藤教官のことは知ってるみたいだけど)

サトコ
「あの、あなたは···」

華やかな男性
「名乗ってやってもいいけど、このままの恰好で?」

サトコ
「!」

(抱っこされたままだった···!)

サトコ
「す、すみません!」

慌てて下りると、資料を抱え直して頭を下げる。

サトコ
「助けていただいてありがとうございました。ええと···」

一柳昴
「一柳昴。警視庁警備局警護課から出向で来てる。教官の顔くらい覚えておけよ」

サトコ
「申し訳ありません!一柳教官の講義をまだ受けたことがなかったもので···」

(警護課からの出向ってことは、一柳教官も特別教官なのかな)
(公安課以外にも警察関係の各所から、優秀な教官が来るって話だったっけ)

一柳昴
「しかし、アイツがお前をねぇ···」

サトコ
「あの···後藤教官とお知り合いなんですか?」

一柳昴
「まあな」
「お前が後藤の専任補佐官なんだろ?」
「相変わらず、つまんねぇ趣味だな」

小さく笑う仕草は様になっているけれど、どうも褒められている気はしない。

(つまらない趣味って、私を指してるんだよね?)
(専任補佐官は後藤教官が指名したんじゃないって言っておいた方がいいのかな···)

どうしようか迷っていると、階段を下りてくる石神教官の姿が見えた。

石神
氷川、なに油を売っている。もうすぐ講義が···
······

一柳昴
「はぁ。後藤の女は振ってくるし、お前と顔を合わせるし···今日の運勢は最悪だな」

石神
それはこちらのセリフだ。生徒の学習意欲を削ぐようなことはやめてもらおうか

一柳昴
「は?」
「冗談は髪型だけにしろよ。誰のためにここまできてやってると思ってんだ」

石神
自分の昇進のためだろう
お前に後輩を育成しようという考えがあるわけもないからな

一柳昴
「人のこと言えんのか?」
「お前がこの学校を仕切ってんのだって上へのアピールだろうが」

石神
気楽なお祭り課と違い、我々の人材育成には金も時間もかかる。警察庁の要だからな

一柳昴
「そのお祭り課に何だかんだと助けられてんのは、どこの横ワケ課だ?」
「オレが来て、お前らのメッキが剥げないようにせいぜい気を付けるんだな」

一柳教官は私たちの隣を通り過ぎて上の階に上って行ってしまう。

サトコ
「あの、今の方は···」

石神
臨時教官のひとりだ。行くぞ

サトコ
「はい。あ···」

かさばる資料にもたもたしている私を見て、教官は小さく息を吐く。

石神
···持てそうにない量なら、誰かに手伝ってもらえ
しっかり判断しろ

サトコ
「···すみません」

石神教官は私の腕からファイルの3分の2を取って持ってくれた。

サトコ
「あ、ありがとうございます!」

(石神教官も厳しいだけじゃないんだよね)
(加賀教官とは違った感じで、石神教官は一柳教官とも仲良くないみたいだったけど···)
(後藤教官と一柳教官はどんな関係なんだろう)



【裏庭】

翌日の昼休み。
午後の実践演習の要項を皆に配ったあと、私は食堂に向かっていた。

(もう鳴子、お昼食べ終わっちゃったかな)
(食堂が混んでるなら、購買でパンでも買って食べるのもアリか)

公安学校の敷地内にはコンビニくらいの購買部があって、一通りのものは揃うようになっている。

サトコ
「食堂に行くには裏庭が近道だって千葉さんが言ってたっけ」

普段は通らない裏庭を抜けていると、芝生の上に寝転がっている人がいた。

(こんなところで何してるんだろう···昼寝···?)
(···えっ···!)

サトコ
「後藤教官!?」

後藤
ん···

サトコ
「!」

口を両手で抑え、静かに後藤教官のもとに近づいて行く。

(戻ってきたんだ···無事に帰ってきてよかった···)
(しかし、よく眠ってる···)

私は間近で後藤教官の顔を覗き込む。

<選択してください>

 A:息を吹きかける 

(どれくらい深く眠っているのかな···)

湧き上がったイタズラ心が抑えられず、私はふっと後藤教官の額に息を吹きかける。

後藤
ん···

(お、起きちゃった!?)

後藤
······

(よかった···眠ってる···)

 B:静かに見つめる 

(疲れてるみたいだし、起こさない方がいいよね)

サトコ
「気持ちよさそう···こっちまで眠くなっちゃう」

思わず出そうになったアクビをかみ殺して、後藤教官の寝顔を見つめていた。

 C:匂いをかぐ 

(なんか···後藤教官、お日様の匂いしそう···)

そっと顔を寄せて匂いをかぐと、お日様と芝生のいい匂いがする。

(安心する匂い···って、私ちょっと変態っぽい!?)

後藤
ん···

サトコ
「!」

後藤教官が身じろいで慌てて身体を離すと、後藤教官は目を覚まさず眠り続けてくれていた。

(···よかった···)

(後藤教官が戻ってきたなら、今日からまた手伝いができるのかな)
(あとで教官室に行ってみよう)

起こさないようにそっと傍を離れようとした時、ガサッと茂みが動いた。

ブサ猫
「ぶみゃー」

サトコ
「?」

(···猫?)

ノラっぽいけど、まるっと太っていて、ふてぶてしいブサカワ猫は
後藤教官に近づくとゴロゴロとじゃれ始めた。

(後藤教官と猫のツーショット!写真に撮りたい···)

携帯を取り出そうと思ったが、教官の寝顔を勝手に撮るわけにもいかずグッと堪える。

ブサ猫
「みゃー」

後藤
うっ!

猫はしばらく喉を鳴らしてすり寄っていたが、
後藤教官が構ってくれないのを感じたのかお腹へと飛び乗った。

(意外とジャンプ力ある···)

後藤
っな、なんだ···?

ブサ猫
「みゃっ!」

急に起き上がった後藤教官に驚き、ブサカワ猫は後藤教官の手を軽く引っ掻くと逃げて行った。

後藤
猫か···

サトコ
「大丈夫ですか?」

後藤
···氷川?

サトコ
「すみません···お休みのところお邪魔してしまって···」

後藤
いや、寝過ごさなくてよかった
今まで起きると傷があることが何度かあったんだが···
あいつのせいだったのか

寝起きで乱れた髪を直す後藤教官はいつもより話やすい気がする。

サトコ
「捜査から戻って来てたんですね」

後藤
ああ
講義は石神さんが代わってくれていたそうだが···変わったことはなかったか?

サトコ
「はい。後藤教官が不在の間は、石神教官の補佐官として動いていました」
「そういえば···一柳さんってご存知ですか?」

後藤
一柳···

その名を口にして、後藤教官の顔があからさまに嫌そうなものに変わる。

後藤
なぜ氷川が嫌な偽のことを知っている

サトコ
「先日、校内で助けていただいて···」
「『お前が後藤の女か』って言われたもので」

後藤
相変わらず下品な言い方をする野郎だ

その言い方が一柳教官の口調とそっくりで、思わず笑いそうになってしまった。

後藤
一柳は警備局警備課のSPだ。ここに来たってことは、いくつか講義を持ったんだろう

サトコ
「石神教官は臨時教官だと言ってました」

後藤
一柳の言うことは適当に聞き流しておけ

サトコ
「は、はい···」

(後藤教官も一柳教官とは仲が悪いのかな?)

サトコ
「でも、後藤教官が無事に戻ってきて本当によかったです」

後藤
捜査に出るのが仕事だ。いちいち気にしてたら身が持たない

サトコ
「そうなんですけど···何日も姿を見ないとやっぱり心配で···」

後藤
······

サトコ
「すみません!心配とか生意気ですよね。以後気を付けます!」

後藤
いや···仕事のことで心配されるなんて、久しぶりだったから
ちょっと変な感じがしただけだ

サトコ
「そ、そうですよね、皆さん忙しいですし···」

後藤
······

視線が合ったまま沈黙がおりて、私は言葉を探す。

<選択してください>

 A:傷の手当てしましょうか? 

サトコ
「あの···傷の手当しましょうか?確か、教官室に救急箱があったと思うので···」

後藤
いや、かすり傷だ。洗っておけば問題ない

サトコ
「猫の引っ掻き傷って油断できないので、気を付けてくださいね」

 B:お昼は食べましたか? 

サトコ
「あ、えっと···お昼は食べましたか?」

後藤
いや···これからだ
もう時間もないしな。適当に買って食べておく
そういう氷川はもう昼済ませたのか?

サトコ
「私もまだなんです。食堂に近道をしようと思って裏庭を通ったら後藤教官を見つけて···」
「何か軽く食べておきます」

 C:また心配してもいいですか? 

サトコ
「また心配してもいいですか···?」

後藤
···その必要ない
俺のことは気にするな

サトコ
「は、はい···すみません、余計なことを言ってしまって···」

後藤
いや···教官が生徒に心配されるのも情けない話だからな

サトコ
「後藤教官は裏庭によく来るんですか?」

後藤
昼寝に時々な

(後藤教官の秘密の場所···なのかな)

サトコ
「今日から後藤教官の補佐官に復帰ですね。できることがあれば何でも言ってください」

後藤
ああ、お前に頼む時間くらいあればいいんだが

サトコ
「もしよければ、教官が頼む前に先回りして教官室に向かいますよ!」

後藤
冗談はやめてくれ。補佐官は小間使いじゃないんだ

私の言葉に、教官も思わず苦笑する。

(教官の笑った顔、なんか可愛いかも)

東雲
あ、教官と生徒が密会してる

サトコ
「っ!?」

後藤
歩···妙な言い方をするな

東雲
後藤さん、最近教官室にいなかったのはこういうことだったんですね

ニヤニヤと笑う東雲教官に、後藤教官は顔をしかめる。

後藤
俺が捜査に出るの、お前も見てただろ

東雲
ハハ、そうでしたっけ?
あ、石神さんが例の事件のことで呼んでましたよ

後藤
わかった、すぐ行く
昼飯は抜きだな···

教官室に向かう後藤教官を見送ると、東雲教官がまだそこに立っていた。

東雲
後藤さんへの差し入れなら、おにぎりがオススメ

サトコ
「え···」

東雲
今、昼を抜いた後藤さんに何か差し入れしよって考えてたよね

サトコ
「!」

(今まさに、そう思ってたところ!)

サトコ
「わ、私もこれで···失礼します!」

(どうして東雲教官には考えてること全部バレちゃうんだろう)
(私が顔に出やすいだけなのかな···)

東雲教官が手を振るのを横目で感じ、
ポーカーフェイスの練習も必要だと思いながら、私はおにぎりを買いに走った。


【グラウンド】

午後は常任教官の成田教官による尾行訓練だった。
成田教官は40代の気難しい教官で生徒たちからの評判もいまいち。

成田
「氷川!そんな動きでターゲットを追えると思ってるのか!」

サトコ
「すみません!」

(全力で逃げる男子生徒を見つからないように追いかけるのって難しい···)

成田
「そこから点検・ハンドオフ・脱尾だ!」

サトコ
「はい!」

(点検は自分が尾行されていないか確認すること、ハンドオフは尾行の引継ぎで···)
(脱尾は尾行から外れること)

覚えた公安の捜査用語を復習しながら走るものの、
次の生徒への引継ぎまで行かずに見失ってしまう。

サトコ
「はっ···はぁっ」

成田
「まったく···尾行1つ満足にできないとは···お前は中間審査で落ちるだろうな」

サトコ
「つ、次はもっと頑張ります···」

成田
「女が警察官を目指すこと自体···」

鳴子
「女性警官で活躍されている方も多くいます」
「成田教官ほどの方がご存知ないわけないですよね」

成田
「佐々木···」
「む···まぁ、お前のように身体能力が高い女は使えることもある」
「だが、氷川のような女は田舎で迷い犬でもさがしているのがお似合いだな」
「ハッハッハ!」

サトコ
「······」

成田
「今日の演習はこれで終わりだ。各自、レポートを提出するように」

成田教官がグラウンドから去り、午後の演習が終わる。

鳴子
「サトコ、大丈夫?」

サトコ
「うん。演習で失敗したのは私の責任だし···」

千葉
「氷川のターゲット役だった坪井って、学生の頃陸上で全国行ったヤツだよ」
「坪井には男だって追いつけないって」

鳴子
「成田教官って男尊女卑で、基本的に女が警察なんか目指すなって思ってるよね。サイアク」

サトコ
「見返せるように頑張るよ」

(私の成績がいいのは、颯馬教官の剣道の講義くらいなのが事実)
(このままだと2ヶ月後の審査で間違いなく落とされる)
(他の人より、もっと努力をしないとダメだ···)


【ジム】

その日から、夕食後に学校に戻り自主練を始めることにした。

サトコ
「はぁっ、はぁっ······」

(早めに起きて朝は知識系、夜はフィジカル面のトレーニングを続けてみよう)

この学校にどうして入校できたのかわからないけれど。
スタートの時点で私が劣っているのは事実だ。

(それなら皆の何倍も努力しないと生き残れるわけがない)
(やっと手に入れた刑事になれるチャンスなんだから、後悔のないように頑張りたい!)

すると、射撃場の方からかすかに銃声が響いてくる。

(他に自主練してる人もいるんだ···負けられない!)

ランニングマシーンの速度を一段階早くする。

(こうして努力を続けていれば···)
(いつか···実際の捜査で後藤教官の役に立てるようになれるかな···)

to be continued



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