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メリー・オ世話シマス!? 後藤1話

医師
「肩関節の脱臼で全治3週間ですね」

後藤
···わかりました

(脱臼で3週間···)

医師からの宣言に目眩がする。

(私が下敷きにしてしまったがために、誠二さんが全治3週間···)

後藤
···大丈夫か?

サトコ
「いえ、あの、それは誠二さんの方で···」

固まる私を見て、心配そうな顔をしてくれる。

(クリスマスに、こんなことになるなんて···!)

クリスマスの夜の救急病院は意外と混んでいた。
この日の救急はそれなりの事情がある人たちが多いようで、若干の混沌状態だった。

サトコ
「本当に本当に申し訳なく···!」

会計と薬を待つ間、病院のロビーでひたすら頭を下げ続ける。

後藤
気にするな。アンタにケガがなくてよかった

サトコ
「でも全治3週間なんて···」

後藤
今は幸い、大きな事件も抱えていない。脱臼なら固定しておくだけだから簡単だ

サトコ
「誠二さん···」

後藤
左肩だったしな

(私のお尻で誠二さんの左肩を壊してしまうなんて···)
(しかもカサを届けてくれた優しい誠二さんに!)

サトコ
「私がもっと受け身をちゃんとっていれば···」

後藤
俺の入り方も悪かったんだ。今回のことは事故だ
アンタは悪くない

右手で私の頭をポンポンとしてくれる。

(どうして、こんなに優しいの···)

後藤
石神さんに連絡してくる。呼ばれたら教えてくれ

サトコ
「わかりました」

病院の外はまだ雪が降っている。
白い息を吐きながら電話している姿を見つめる。

(本来ならクリスマスプレゼントを渡さなきゃいけない夜に)
(全治3週間をプレゼントしてしまうとは···)
(完治するまでは私が誠心誠意尽くします!)

数分の電話で戻って来た誠二さんの頬も手もすっかり冷たくなっていた。
右手を取って、両手で温める。

サトコ
「石神さんは、なんて?」

後藤
今日はこのまま帰っていいそうだ。労災になるかも確認してくれるらしい

サトコ
「そうですか···私も誠二さんの家に行っていいですか?」

後藤
構わないが···この腕じゃ面倒をかけるだけだ

サトコ
「お手伝いできることがあるなら、させてください!」

(むしろ、その面倒をどっさりかけられたいんです!)

会計を済ませ薬をもらうと、タクシーで誠二さんの家に向かう。
途中でコンビニに寄って必要なものを買ってから。

サトコ
「とりあえず、片手で飲んだり食べたりできるものを揃えておきました」

後藤
助かった、ありがとう

サトコ
「いえ。他に必要なものはありますか?どんなものでも探してきます!」

後藤
···なら

少し考える顔を見せた後藤さんが、ちょいちょいと手招きをした。

サトコ
「?」

(何だろう?)

呼ばれるまま彼の元に行くと、右腕が私の背中へと回された。

後藤
···いまいちだな

サトコ
「誠二さん?」

見上げると、苦笑した顔と出会う。

後藤
これじゃ、しばらくサトコを抱き締められない

サトコ
「私が抱き締めます」

その背に腕を回し、胸に顔を埋める。

後藤
サトコ···

サトコ
「いつでも抱き締めますから」

後藤
···思わぬクリスマスプレゼントだ

サトコ
「え?」

後藤
こうして、アンタに···

右手が私の頬に移り、穏やかな瞳に吸い込まれそうになった、その時。
誠二さんのポケットから振動音が聞こえてくる。

後藤
···石神さんから電話だ

サトコ
「じゃあ、私は···」

離れて待とうとすると、小さく首を振られた。

(このまま抱きついてろってこと?)
(この体勢だと、気にしがみつくコアラかセミのよう···)

それでも抱きついていられるのは嬉しくて、その胸に頬を寄せた。

後藤
後藤です

私を抱きつかせたまま、誠二さんは電話に出る。

後藤
···いいんですか?俺なら問題ありません
はい···はい、わかりました

電話を切ると、誠二さんは小さく息を吐いた。

サトコ
「あの、どうでしたか?」

後藤
明日から3日間、休みをもらえた

サトコ
「よかった···私が誠二さんの代理になれるとは思いませんけど」
「石神班で手が足りないときは精一杯頑張ってきます!」

後藤
気にしすぎるな。さっきも言ったが、あれは事故だ
今夜はアンタも疲れただろう。今タクシーを呼ぶから、もう帰った方がいい

サトコ
「···その、泊って行ったら、ダメですか?心配ですし···」

後藤
俺も出来たら、そうして欲しいんだが···

誠二さんが私の髪を優しく撫でる。

後藤
着替え、今置いてないだろう?

サトコ
「あ···」

(最近、お互いに忙しくて泊る時間もなかったから···)

後藤
この状態で、明日も同じ服というのは···

サトコ
「誠二さんのところに泊まったって、分かっちゃいますね」

(ケガさせたからって言い訳はできるけど)
(皆さんからの追及は、なかなか厳しそうだから···)

サトコ
「明日も来ていいですか?」

後藤
···待ってる。送ってやれなくて、すまない

サトコ
「大丈夫です。誠二さんこそ、お大事にしてください」

視線を合わせ、どちらともなく唇を重ねると。
ちょうどクリスマスが終わった。

翌日、登庁すると視線が一気に突き刺さった。

公安員A
「許せねぇ···あいつの尻が後藤さんを···!」

公安員B
「とんだゴリラ女だな」

(ゴリラ女···甘んじて受け入れるしかない)
(公安のエースの肩を潰してしまったんだから···)

針のむしろ状態で席に座ると、イスに座ったまま津軽さんが横に滑り込んできた。

津軽
骨折させるなんて、ウサちゃんってば情熱的。どんなことしたの?

サトコ
「骨折じゃなくて脱臼です!滑ったら、後藤さんを下敷きにしてしまって···」

津軽
へぇ、ウサちゃんのお尻って、そんなに激しいんだ~

サトコ
「冗談言える状況じゃないです!全治3週間なんですから···」

百瀬
「···災難だったな、後藤は」

サトコ
「返す言葉もありません···」

津軽
公安のエースを病院送りにした女として、今日から頑張ってね

サトコ
「······」

針を尖らせる津軽さんの息の根を止められ、
その日はできる限り石神班のヘルプに入らせてもらった。

何とか定時であがることが出来た私は夕飯の材料を買って、誠二さんの部屋を訪れた。

サトコ
「今日は煮込みハンバーグ丼の予定です!片手でも食べやすいように作りますね」

後藤
助かる
あー···その···

サトコ
「?」

私の前に立った誠二さんが何か言いあぐねているように見える。

サトコ
「追加の買い物があったら、すぐに行ってきますよ?」

後藤
そうじゃない

誠二さんは緩くかぶりを振った。
そして私を見つめるとーー

後藤
···おかえり

サトコ
「ただいま···帰りました」

後藤
ああ、おかえり

サトコ
「ただいま!」

笑顔で答えると、誠二さんも喜んでくれる。

サトコ
「あの、それで···」

言いあぐねていたことは何だったのか···聞く前に片手で抱き寄せられた。

後藤
今日は大変だったか?

サトコ
「いえ。大きな事件もなかったので、大丈夫でした」

後藤
外は寒かったみたいだな

抱き締める代わりに、頬を合わせてくれる。

(あったかい···)

後藤
外の匂いがする

サトコ
「誠二さんはおウチの匂いがします」

ぎゅっと抱きつくと、片手で抱き締め返してくれた。

後藤
帰りを待っていると、長く感じるものだな

サトコ
「私も早く誠二さんに会いたかったです」
「朝ごはんとお昼ご飯は食べられましたか?」

後藤
ああ。アンタが食べやすく作ってくれておいたから助かった

サトコ
「それなら、よかったです。夕食の支度もすぐにしますね」

後藤
手伝えること、あるか?

サトコ
「大丈夫です。誠二さんは休んでいてください」
「あと、それから···」

後藤
ん?

サトコ
「今日は着替え用意してきたので、その、泊ってもいいですか?」

後藤
もちろんだ

こうして3日間のプチ同棲が始まった。

翌日も定時に帰ると、誠二さんが玄関で出迎えてくれた。

後藤
おかえり

サトコ
「ただいま」

(帰ってきて誰かがいてくれるのって、こんなに嬉しいんだ···)

誠二さんの『ただいま』が待っていると思うと、帰りの足取りは弾むようだった。

クリスマス明けから3日後。
誠二さんが無事復帰した。

(嬉しいけど、私の誠二さんが···)

黒澤
オレの後藤さーん!会いたかったですよー!

後藤
来るな。お前が来ると調子が悪くなりそうだ

黒澤
いやいや、オレの陽の気の持ち主ですよ?
きっと元気になりますって

公安員A
「後藤さん、おかえりなさい!」

公安員B
「待ってました!」

(くっ、私が近寄る隙もないほどに囲まれてる!)
(この人気者!)

3日間独り占めできていたこともあり、寂しい気持ちもあるけれど。

(順調に回復してるみたいでよかった)
(手伝えることがないか、こっちでも様子を見てよう!)

必要があれば、いつでも参上ーーと、意気込んだものの。

黒澤
はい、あーん。ア・ナ・タ♡

後藤
······

黒澤
ほらほら、カツ丼のカツ切ってあげますから
ご飯粒、ついてますよ。お茶目さん♪

後藤
···放っておけ

黒澤
オレが後藤さんのこと、放っておけるわけないじゃないですか~

サトコ
「······」

(くっ···私がしたいと思うことは全部黒澤さんが···!)

甲斐甲斐しく世話を焼く黒澤さんを、コロッケ蕎麦をすすりながら離れた席で見つめていた。

誠二さんと黒澤さんのラブラブっぷりを眺めながら昼食を終え、廊下を歩いていると。

後藤
氷川

後ろから呼び止められ足を止める。

サトコ
「後藤さん。調子はどうですか?」

後藤
悪くない。だが···

周囲を確認した誠二さんが屈んで耳元に顔を寄せてきた。

後藤
もう少し、ウチに来て欲しい
いいか···?

サトコ
「もちろんです!」

実は少しくすぶっていたモヤモヤが、あっという間に消えていった。

今日も定時に終わり、夕飯の買い出しに急いでいると。

石神
氷川

石神さんの声が掛かる。

サトコ
「はい!何かお手伝いできることでも···」

石神
ああ

サトコ
「やります!任せてください!」

(夕飯は昨日冷凍しておいた分もあるし)
(仕事での面で役に立つのも大事!)

石神
週末は休んで、後藤のフォローをしてやってくれ

サトコ
「え···?」

石神
土日は後藤も休みだ。週末のうちに立て直す手伝いをしてやれ

サトコ
「いいんですか?私のせいで、こんなことになってしまったのに···」

石神
だから、お前が責任を取れ
津軽には俺から話しておく

サトコ
「でも···」

私にとっては有り難い話だけれど。
本当にいいのか、頷くのを躊躇っていると、石神さんはその眼鏡を押し上げた。

石神
遅れたクリスマスプレゼントだとでも思え

サトコ
「石神さん···ありがとうございます!」

一礼して退庁し、途中でスーパーに寄ってから誠二さんの家に向かった。

石神さんと話し、買い物をしてきたこともあって、誠二さんの方が先に家に帰っていた。

後藤
おかえり

サトコ
「ただいま」

(最近、このやりとりが当たり前みたいで嬉しいな)
(これまでも言ってくれる事はあったけど、必ず言ってくれるのは···)
(クリスマスの次の日から?)

サトコ
「あの···最近、『おかえり』って出迎えてくれますよね?」

後藤
···ああ

サトコ
「すごく嬉しいんですが···どうしてかなって」
「深い意味がないなら、それで全然いいんですが!」

後藤
···長く実家に帰れてないと言っていただろう?

サトコ
「はい···」

それがどうつながるのか···首を傾げると、誠二さんは少し照れたように視線を外した。

後藤
『おかえり』って言えば、家に帰って来た気がするかと
家族に···出迎えてもらった気持ちになれればと思ったんだ

サトコ
「せ、誠二さん···」

(実家には帰れないって話をしたのを覚えてくれていて···)
(肩を脱臼させたのに、私のことを考えて出迎えてくれてたなんて!)

後藤
少しでもアンタが寂しくなくなれば···

サトコ
「全っ然、寂しくないです!」

嬉しさのあまりに飛びつくと、誠二さんが小さく呻く。

サトコ
「あ、肩···!す、すみません!大丈夫ですか!?」

後藤
ああ。抱き締められなくて悪い

サトコ
「そんなこと···治ったら、その、思いっきり抱き締めてください···」
「それまでは、私が抱き締めますから」

後藤
そうだったな

サトコ
「それから···今日は私が誠二さんの髪と身体を洗います!」

後藤
え···

サトコ
「ひとりだとシャワー浴びづらそうでしたし。今日は私が隅から隅まで磨きます!」

後藤
いや、それは···マズい、多分···

サトコ
「なにもマズくないですよ!とっておきのボディソープがあるんです!」

後藤
······

誠二さんの言うマズいが、どういうことだったのか。
それがわかるのは、彼の身体を泡泡にしてからのことだった。

Happy End

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