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あの夜をもう一度 東雲1話



【東雲マンション】

それは、私と教官が「2度目の夜」を迎えた翌朝のこと。

サトコ
「う···ん···」

(あれ、ここ···ベッドじゃない?)
(ソファ···?)

サトコ
「!?」

(なに、この添い寝状態)
(なんで私、教官と一緒にソファで寝て···)

サトコ
「あ···思い出した」

(久しぶりのデートで「セクシー大作戦」を決行したけど、全部失敗して···)
(そうしたら、教官が···)


東雲
どうする?
開催してもいいけど。『ハニトラ』の特別補習
日にちは今日
場所はオレの家
まぁ···泊まりってことで

(そんな「特別補習」のあと、夜中に目が覚めて···)
(リビングに来たら、教官がソファでうたた寝してて···)
(眼鏡を外してあげたら、そのまま抱きしめられて···)

――『おやすみ』

(···そっか、あのあと一緒に寝ちゃったんだ)
(そっか···そっか···)

少し体勢を変えて、教官の顔を覗き込んでみる。
長いまつ毛をこんなに間近で見るのは、「初めての夜」以来だ。

(あの日も、こんなふうに教官の寝顔を眺めたよね)
(そうしたら、途中で教官が目を覚まして···)
(慌てて起きようとしたら、ぎゅうって強く抱きしめられて···)

東雲
やだ···
いて···ここに···

サトコ
「○■×△×■※~~~~!!!」

(もう···もう···)
(もう――っ!!)
(寝ぼけてる教官って、どうしてあんなに可愛いんだろう)
(思えば、初めて寝起きの教官を見たときだって···)

東雲
ホットケーキ···
ふわふわ···の···

サトコ
「■○×※×■△~~~~!!!」

(ダメだ、思い出しただけで心臓が···)
(今日は、どんな寝起きの教官が見られるのかな)
(早く見たいなぁ)

東雲
う···ん···

(きた!?)
(ついに、目覚めのときが···)

東雲
んーん···
···すぅ···すぅ···

(···あれ、違った?)

東雲
すぅ···すぅ···

(···ダメだ、寝ちゃった)
(寝起きの教官、早く見たかったのになぁ)

サトコ
「···ま、いっか」

(私も二度寝しようっと)
(でもその前に···ちょっと移動して···)

チュッ!

(···しちゃった!唇、奪っちゃった!)
(教官には、ナイショにしておこうっと)

サトコ
「おやすみなさい」

(なんか、いい夢見られそう···)



【教場】

サトコ
「う···ん···」

(あれ···ここって教場?)

???
「嬉しいよ、俺のこと受け入れてくれて」

(···うん?)

???
「ずっと好きだったんだ、氷川のことが。だから···」

千葉
「お互い、同じ気持ちだってわかって、すごく嬉しい」

サトコ
「!?!?」

(なんで千葉さん!?)
(ていうか『同じ気持ち』??)

千葉
「氷川···顔を上げて···」

(えっ、ちょ···)
(待って···待って待って!)
(きゃああああっ)


【東雲マンション】

サトコ
「ダメーっ、千葉さん···っ」

思わず叫んで、私は飛び起きた。

サトコ
「はぁ···はぁ···」

(あれ···夢···?)
(なんだ、よかった···)

東雲
誰が『千葉』だって?

(ぎゃっ!)

サトコ
「お、おはようございます」

東雲
は?『おそよう』だけど
もう昼過ぎだし

(うっ···)

東雲
お昼どうする?

サトコ
「ええと···よければ何か作ります」

東雲
あっそう

眠たそうにあくびをしながら、教官はキッチンへと消えていった。

(ああ、びっくりした。へんな夢みちゃったな)
(千葉さんが私を好きとか、ありえないのに)
(ほんとごめん、千葉さん!)

東雲
ちょっと。まだ?

サトコ
「はい、今行きます!」

【キッチン】

サトコ
「冷蔵庫、なにがありますか?」

東雲
食パン、たまご、冷凍野菜···
あと、これ

(エビ!しかも、すでに衣付き!?)

東雲
···昼からブラックタイガーか

サトコ
「そ、そうとは限らないじゃないですか!」
「大丈夫です!今日こそ、おいしいエビフライにしますから」

東雲
どうだか

肩をすくめる教官を尻目に、私は揚げ物の準備をする。
ちなみに教官は、冷凍野菜とたまごで「ココット」を作るようだ。

(それにしても、どうしてあんな夢を見たんだろう)
(二度寝の前に、こっそり教官にキッスしたから?)
(だったら、相手は教官でもいいはずなのに···)

東雲
そろそろじゃない、油

サトコ
「あ、はい···」

(···じゃあ、深層心理的ななにか?)
(実は私、「千葉さんが好き」とか?)
(いやいや、それはさすがに···)

東雲
エビ、ひっくり返したら?

サトコ
「あ、はい···」

(だとしたら、何かの暗示?)
(千葉さんの身に、なにか起きるとか?)
(それか、千葉さんがトラブルを運んでくるとか···)

東雲
もういいんじゃない、それ

サトコ
「あ、はい···」

教官に言われるまま、私はエビフライを揚げ油から取り出した。

東雲
······

サトコ
「······」

(ええっ!?)

サトコ
「きょ、教官!」
「見てください!エビが···エビフライが、ついに!!」

東雲
当然
オレが指導し···

サトコ
「教官ーっ!」

東雲
ぐっ
ちょ···抱きつくな!離れろ!

サトコ
「だって、教官!」
「卒業です!ブラックタイガーも卒業ですよ!?」

東雲
どうだか
仮免じゃないの。せいぜい

サトコ
「だとしても嬉しいです!」
「食べる前に、記念撮影しましょう!」

東雲
···バカ

初めて上手に揚げられたエビフライは、サクサクですごく美味しかった。
けど、教官はなんだか微妙な様子で···

東雲
ヘンな感じ
ブラックタイガーじゃないとか

サトコ
「···っ、ブラックはもう卒業です!」

東雲
(仮)ね

サトコ
「そんなことないですってば!」

こうして、昼食も無事に食べ終えて···


【キッチン】

サトコ
「うーんっ」

(これで片付けもおしまい···っと)

【リビング】

サトコ
「教官、このあと···」

(···あれ?)

東雲
すぅ···すぅ···

(···また寝ちゃってる)
(よっぽど疲れてるんだろうな。昨日も真夜中に仕事してたくらいだし)

教官に毛布を掛けて、私は床にペタリと座り込む。

(さっきのエビフライの写真、見ようっと)

サトコ
「···ふふふ」

(いい揚がり具合だよね)
(うんうん、どの写真も美味しそう···)

シャッ!

サトコ
「あっ!」

勢いよく、スワイプしたせいだろう。
スマホ画面に、少し前に撮った写真が表示された。

(これ、教官と行ったガーベラ畑の···!)
(きれいだったなぁ。遺影面が色とりどりの花だらけで···)

シャッ!

サトコ
「うっ」

(こ、これは、卒業式の夜の写真···)

シャッ!

(この泣き顔は···卒業式後かぁ)

シャッ!

(で、これは···)

(海···)
(そうだ、あのとき、教官···)

――「好きだよ、サトコ
――「ああ···意外と悪くないね
――「キミのこと、名前で呼ぶの

(···あれ、すごく嬉しかったなぁ)
(で、次の写真は···)

(あ、恐竜展!)
(教官、恐竜の「VR」で大はしゃぎしてたっけ)
(それと、ようやくカップルっぽい写真が撮れて···)

――「···へぇ、悪くないじゃん
――「1年越しで目標達成

(···うんうん、1年越しだった。長かったなぁ)
(で、他には···)

(クリスマスのときのスケートリンク!教官めっちゃふてくされてる)

――「これをどう見たら大丈夫に見えるの?
――「自分の方が珍しく優位だからってドヤ顔しないでくれる?

(最初滑れなくて、ずっと震えて手すりにしがみついてて···)
(あ、でも写真は撮るなって怒られたから隠しておかなきゃ)

(これは···「サバイバル訓練」のときのだ)
(最後の最後にやらかして、教官に怒られたっけ)

――「公安だって言うなら盾になんかなるな
――「庇うならせめて押し倒せ。間違っても撃たれるな

(って···)

順番にさかのぼっていくたびに、思い出が鮮やかによみがえってくる。
どれもこれも、私にとってはかけがえのない大切な思い出だ。

(教官は、どこまで覚えてくれているかな)
(案外けっこう忘れていたりして)

サトコ
「···ありえる」

(もともと私の肩思いから始まっただもんね)
(教官を好きになって、必死に追いかけて···)
(これからも、ずーっと私が教官を追いかけてるんだろうなぁ)

サトコ
「···ま、いっかー」

今は、追いかけた先で、教官が待っていてくれていることを知っている。
追いついて抱きつけば、ちゃんと受け止めてくれることも。

(だって大事にされてきたもん、私)
(その証拠に、どの写真にも素敵な思い出が···)

サトコ
「···そうだ!」

(この写真で「アルバム」を作ろう!)
(2年間のお礼と、「これからもよろしく」的な気持ちを込めて)

ちらりと振り返ると、教官はまだ爆睡している。
この様子だと、当分起きることはなさそうだ。

(よーし!)

(まずはアルバムの台紙···駅前の百貨店に行けばあるよね)
(あとは、マスキングテープとサインペンを買って···)
(コンビニで、スマホの写真を現像して···)

サトコ
「ただいま···」

(教官は···)

東雲
すぅ···すぅ···

(···よし、寝てる!)
(今のうちに、寝室に行って···)

【寝室】

(一番古い2ショットは「公安学校★秋の大感謝祭」の写真だっけ?)
(でも、できればもっと前の写真も入れたいし)
(クリスマスも、お花見も外せない···)
(っと、ホワイトデー!これ、絶対に入れないと!)

レイアウトを決めて、写真を貼り付ける。
さらにコメントを書いて、マスキングテープでデコレーションをしてみた。

(うんうん、いい感じ)
(これなら最高のアルバムができそう···)

サトコ
「!!!」

(しまった···絶対に外せない1枚を忘れてた!)

【居酒屋】

(室長主催の飲み会で、教官が泥酔してしまったときの···)

東雲
ひょーごしゃーん···

加賀
······

東雲
ひょーごしゃー···もう飲めな···

後藤
おい、歩···

颯馬
これはなかなか貴重な光景ですね

黒澤
そのとおり!まさにレア中のレアですよ!
今のうちに写真におさめておかないと···

(あのあと、黒澤さんがこっそり送ってくれた写真···)
(たしか、別のフォルダに···)

サトコ
「···あった!」

(これ、外したらダメだよ!)
(絶対アルバムに残しておかないと)


【コンビニ】

そんなわけで、再び···

サトコ
「データ転送、OK!]
「あとはボタンを押して···」

少し待っていると、プリントアウトされた写真が出てきた。

(ああ、もう···!何度見ても可愛すぎ!)
(遊園地で「女豹カチューシャ」をつけたときの「あざと可愛さ」も捨てがたいけど···)
(こっちは「天使系」の可愛さなんですけど···!)

悶えたいのを堪えて、プリントアウトしたばかりの写真を鞄に仕舞い込む。
あとは、この写真を貼れば「アルバム」はほぼ完成だ。

【東雲マンション】

(この写真のコメント、どうしようかな)
(「天使」とか書いたら、さすがに怒られそうだし)
(いっそ「ひょーごしゃーん」にする?それとも···)

???
「···氷川?」

(うん?)
(ぎゃ···っ!)

千葉
「よかった、やっぱり氷川だ」
「偶然だな、こんなところで会うなんて」

サトコ
「う、うう、うん!ええと···」
「お久しぶり」

千葉
「久しぶり。先週の飲み会以来だよな」

サトコ
「う、うん···」

(どうしよう、めちゃくちゃ気まずい)
(今朝、あんな夢見ちゃったせいで···)

千葉
「そうだ!氷川、東雲教官の家、知ってる?」

(な···っ)

サトコ
「どどど、どうして私が、東雲教官の家を···」

千葉
「???」
「だって氷川、この間まで東雲教官の補佐官だっただろ?」

サトコ
「···っ、そ、そうだね!そうだった!」

(落ち着け、私!もっと冷静になって···)

サトコ
「ええと···家なら知ってるよ。案内しようか?」

千葉
「いいのか?」
「氷川、なにか用事があったんじゃ···」

サトコ
「あったけど終わったから!もう帰るところだったから!」

千葉
「そっか。じゃあ、お願いしようかな」
「実は、颯馬教官から、資料をもらってくるように頼まれてさ」

サトコ
「そ、そうなんだ···」
「卒業してからも頼りにされてるんだね」

千葉
「そうなのかな」
「まぁ、颯馬教官からはいろいろな仕事を任されたから···」

サトコ
「ははっ、たしかに···」

(···ダメだ、冷や汗が止まらない)
(資料って、玄関先で受け取るんだよね)
(まさか、家の中まで入ったりしないよね?)

千葉
「···氷川、もしかして具合が悪い?」

サトコ
「えっ?」

千葉
「さっきから顔が真っ赤だけど···」

サトコ
「そ、それは、ちょっと暑いせいじゃないかな?」
「あー暑い!ほんと暑い!」

千葉
「そうかな。今日の気温、たしか5度のはず···」

サトコ
「あっ、ほらあそこ!」
「あのマンションが東雲教官の家だよ」

千葉
「へぇ、そうなんだ。立派なマンションだなぁ」
「···あれ?」

ふいに、千葉さんが立ち止まった。

千葉
「なぁ、氷川···あの入口のところにいるの···」

(え···)
(え···)
(ええっ!?)

千葉
「···やっぱりそうだ」
「あれ、東雲教官と宮山だよな?」

to be continued



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