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加賀 エピローグ 1話



【寮自室】

ある休日、鳴子が部屋に遊びに来た。

鳴子
「は~、なんかこうやって、休みの日に寮でだらだらしてるっていうのもね~」

サトコ
「でも平和だよね。刑事になったらこうはいかないかもしれないし」

鳴子
「まぁ確かに。教官たちは公安課の仕事もあるから休みなんて関係なしだもんね」

お菓子を食べながら、ふと鳴子が私を見る。

サトコ
「ん?どうしたの?」

鳴子
「サトコ‥なんか、綺麗になった?」

サトコ
「へ?」

鳴子
「いや、そうやってお菓子をむさぼってる姿は前と変わらないけど」

サトコ
「む、むさぼる‥」

鳴子
「なんていうか、全体的に‥どこはかとなく‥」

サトコ
「別にいつもと同じだよ」

鳴子
「いや!本当にそう思うよ!お肌もつるつるになった気がするし‥」
「もしかして、いい出会いとかあった!?」

鳴子の言葉に、心臓が跳ね上がる。

(いい出会い‥っていうか、加賀教官と‥あの夜)



【加賀マンション 寝室】

加賀
今夜はじっくり聞いてやる。お前の気持ちってヤツをな
まぁ‥体に聞いてもいいが

教官の手と唇が、体の奥の奥を熱くさせる。

サトコ
「あの‥教官は‥私のこと‥」

加賀
さぁな

サトコ
「ずるいです‥私は」

加賀
もう黙ってろ

サトコ
「んっ‥‥」

【寮自室】

不意に教官との初めての夜のことを思い出して、さらに頬が熱くなった。

鳴子
「えっ、なになに?もしかして本当に!?」

サトコ
「い、いや、何もないよ」

鳴子
「ほんと~?でも加賀教官の専任補佐官になってから」
「サトコってば、他の特別教官たちとも仲いいしなぁ‥」

サトコ
「それは‥仲良くっていうか、皆さんにいいように使われてるっていうか‥」
「確かに勉強になることも多いけど、恋愛とかそういうのとは無縁で‥」

鳴子
「でも羨ましいよ。東雲教官とか颯馬教官とか、すごく優しいんでしょ?」

サトコ
「えっと‥」

(東雲教官は実はものすごく意地悪だし、颯馬教官もたまにサラッと冷たいこと言うけど‥)
(でも鳴子も、まさか私があの加賀教官と付き合ってるなんて思わないよね)

鳴子
「私もサトコみたいに、自主練とかしようかな」
「そうしたら教官たちと‥きゃっ」

(もう、鳴子ってばまた妄想してるし‥)

サトコ
「自主練、意外と楽しいよ。一向に体は引き締まらないけど‥」

鳴子
「確かに、サトコって太ってないのにぷにぷにしてるよね」

サトコ
「わっ!気にしてるから言わないで!」

(でも、教官はその触り心地がいいって言ってくれてるから、これはこれで‥)

そんなことを思い出すと、つい頬が緩んでしまう。

鳴子
「サトコ、なんでニヤけてるの?」

サトコ
「え?」

鳴子
「やっぱりなんかあったんでしょ~」

サトコ
「な、ないない!何もないよ!」

(ニヤけてたかな‥鳴子の妄想って意外と鋭いし、悟られないよう気をつけなきゃ)
(いくら教官と恋人同士になれたとは言え、生徒と教官なんだから‥こんな浮ついた状態じゃダメだ)

鳴子
「だけど実際、私たちが刑事になったらデートする暇ってあるのかな」
「デート中も容赦なく呼び出しとかかかりそうじゃない?」

サトコ
「うーん‥言われてみれば」

(教官とはあの夜以来、電話もメールもしてない‥)
(翌日にランチには行ったけど、ましてやデートなんて絶対無理だし)
(むしろ教官は毎晩捜査に出かけて、ちゃんとごはん食べてるのすらわからない状態なんだよね)

サトコ
「はぁ‥体、心配だな‥」

鳴子
「何?ダイエットの話?」

サトコ
「えっ?あ、そうそう!」

鳴子の言葉に、慌てて笑顔を作る。

(明日は久しぶりに教官の講義があるし、少しでも話をする時間があるといいな)

私はあの日から、加賀教官の恋人という関係になっていた。

【射撃場】

翌日、加賀教官の指導の下、銃で的確に相手の急所を狙う訓練が行われた。

(ターゲットは人の形をした的だけど、どこから出て来るかわからない)
(ちゃんと弾を装填して、いつでも狙えるようにしておかなきゃ)

加賀
クズが、何やってやがる

男性同期
「す、すみません!汗で手が滑って‥」

加賀
言い訳してんじゃねょ

冷たい視線に、みんなが息を飲む。

加賀
おい、次

サトコ
「は、はい!」

サッと的が現れて、すぐに銃口を向けて撃つ。
でもそのあとの装填が遅れたせいで、少し手間取ってしまった。

(あ‥!)

加賀
まさかこんなところでミスなんかしねぇよな?俺の自慢の専任補佐官は

サトコ
「っ‥‥」

慌てて装填を終えて、次の的が出て来るのに間に合った。

加賀
ヘマしやがったら、とびっきりの罰をくれてやる

サトコ
「え‥」

加賀
楽しみにしとけ

サトコ
「へ、ヘマしないように頑張ります‥!」

加賀
どうだろうな?

みんなが見ている中、教官はわざと顔を近付けて周りには聞こえないように囁く。

(聞こえないようにだってわかってるけど‥逆に怪しまれるよ‥!)
(いや、逆に私をからかって楽しんでるんだ‥)

そのあとも、みんなの視線が気になりつつも、教官に翻弄されっぱなしの訓練は続いた。

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【階段】

ヘトヘトになりながら、加賀教官の訓練を終えた。

(疲れた‥体力以上に、精神的に疲れた)
(教官、なんでわざわざ、みんなに見せつけるように‥)


兵吾さん、やっぱり激しいの?

突然背後から意地悪な声色聞こえて、慌てて振り返る。

サトコ
「し、東雲教官!」


体が持たないよね、兵吾さんの相手は

サトコ
「あの‥どういう意味なのかさっぱりです‥」


毎晩付き合わされてるんじゃないかと思って心配してるんだけど

(まさか‥東雲教官、私と加賀教官が付き合ってることに気づいてる!?)
(いや、だけど‥!)


大変だよね~。兵吾さんの補佐は

サトコ
「わ、私と加賀教官は、そんな‥毎晩なんて!」
「‥あれ?」


専任補佐官でしょ?サトコちゃん
それともまたエッチなこと考えてた?

その笑顔に、からかわれたのだと気づいた頃には時すでに遅し。

(東雲教官、とても楽しそう‥)

サトコ
「教官‥そのうち加賀教官に怒られますよ」


大丈夫
オレがあの人に怒られるのは、サトコちゃんを横取りした時ぐらいだから

サトコ
「え!?」


さーて、モニタールームに行こうっと

(‥東雲教官ってほんとに、どこまで気づいてるんだろう‥)

【廊下】

数日後のお昼休み、いつものように報告書の仕事のため、教官室に向かう。
ドアを開けかけた時、中から女性の声が聞こえてきた。

女性
「いいの?助かるわ」

加賀
いや、助かったのはこっちの方だ

続いて教官の声が聞こえてきたので、咄嗟に曲がり角の向こうに身を隠した。

(なんとなく隠れちゃったけど‥)
(今の加賀教官だよね‥?なんだか、普段よりも優しい声だったような)

女性
「じゃあね、また来るわ」

加賀
ああ

教官室のドアが開き、見たことのない女性が出て来る。
続いて教官が姿を現すと、女性が振り返り、頬にキスした。

(!?)

女性
「フフ‥素敵よ、兵吾さん」

加賀
おだてるな。わかってるだろ?

親しげな言葉を交わすと、教官は少し向こうの廊下まで彼女を見送っていった。

(ど、どういうこと‥?今の、誰?)

動けずにその場に立ち尽くす私に気づかず、加賀教官が教官室に戻ってくる。


帰ったんですか?

加賀
ああ

【教官室】

そっと壁から向こうを覗くと、教官室のドアが少し開いていた。

(こんな、立ち聞きみたいなの‥よくないってわかってるけど)
(足が動かない‥あの人、教官にキスしてた‥)


あの人、なかなか使えますね

加賀
ああ。あそこまでの女はめったにいねぇ


こういう仕事は自分の補佐官に任せればいいのに
サトコちゃんが知ったら、悲しむんじゃないですか?

加賀
知ったことか
あんなクズに、あの女と同じ真似ができるわけねぇ

サトコ
「‥‥‥」

(それって‥仕事のこと?それとも‥)

さっきの女性が教官の頬にキスしている映像が、頭から離れない。

(もしかして女性として教官を悦ばせている‥とか)
(じゃあ、教官はあの人と‥)

【廊下】

いたたまれなくなり、そっとその場を離れた。

(加賀教官と恋人になれたと思ったけど‥もしかして勘違いだったのかな)

誰もいない廊下で、小さくため息をついた。

【寮自室】

(はぁ‥なんだか、1人で浮かれてた自分が恥ずかしい)

サトコ
「教官のことは好きだけど‥生徒と教官だってことを考えたらやっぱり‥」
「訓練に集中した方がいいのかもしれないな‥」

そんなことばかり考えているとまったく寝付けず、気が付けば深夜になっていた。

(明日の講義、居眠りしないように気をつけなきゃ‥)

その時、突然部屋に携帯の着信音が鳴り響いた。

(え‥加賀教官!?)

サトコ
「はい、氷川です。教官、こんな時間にいったい‥」

加賀
今すぐ下まで降りてこい。正門前だ

サトコ
「え?」

加賀
さっさとしろ

理由を聞けぬまま、電話が切れてしまう。

(降りてこいって、まさか寮の外に‥?でももうこんな時間なのに)
(こんな夜中になんだろう‥)
(もしかして、2人きりで会いたいって思ってくれてた‥とか)

少しだけ淡い期待を抱えながら、急いで身支度を整えて部屋を出た。

【寮門】

外へ出ると、加賀教官が目の前に停まっている車の助手席に私を押し込む。
そして運転席に乗り込んでくると、何も言わずに車を出した。

サトコ
「あの‥教官」

加賀
とっととシートベルトしろ

サトコ
「は、はい。でも、どこに行くんですか?」

加賀
じきにわかる

サトコ
「でも、こんな深夜に‥誰かに見られたら‥」

加賀
そんなヘマしてねぇだろうな

サトコ
「それは大丈夫ですけど‥でも、こんな時間に寮を出たのがみんなにバレたら」
「教官はスーツですけど、家に帰られたんですか?」

加賀
ピーピーうるせぇ。黙ってろ

サトコ
「はい‥」

(何も教えてくれないってことは、やっぱり捜査?それとも‥)
(あ、まずい‥車の振動のせいで、眠くなってきた)

部屋ではあんなに目が覚めていたのに、今ごろになって眠気が襲う。
でも、教官に運転させて、自分だけ寝るわけにはいかない。
そうわかっているのに、まぶたが落ちていき‥結局眠ってしまったのだった。

加賀
おい

サトコ
「ん‥なん‥ですか‥」

加賀
俺に運転させてテメェだけお休みとは、いいご身分だな

サトコ
「ハッ!?」

パッと身を起こすと、目の前に不機嫌そうな教官の顔があった。

サトコ
「す、すみません‥揺れが心地よくて‥」

私の言葉をさえぎるように、教官が膝にファイルを投げる。

加賀
そこに載ってる男が通ったらすぐ連絡しろ

サトコ
「えっ?教官は‥」

加賀
別を当たる

それだけ言うと、さっさと車を降りて行ってしまった。

ファイルを開くと、人相の悪い男性の顔写真とプロフィールの書類が挟まっている。

(何も話してくれないけど、やっぱり捜査だったんだ)
(そうだよね‥2人で会いたいと思ってくれてる‥なんて、ちょっと期待しちゃったけど)

サトコ
「‥って、いやいや!こっちに集中!」

捜査ならなおのこと、しっかりやらなければ大変なことになる。

サトコ
「そもそも私は、教官のそばで色々学びたいと思って」
「夢の刑事になるため、補佐官を続けさせて下さいってお願いしたんだから」

自分に言い聞かせるようにそうつぶやき、通りを歩いて行く人たちを観察する。

(こんな時間でも、この辺はまだまだ人通りがあるんだな)

その時、向こうからカップルが寄り添いながら歩いてくるのが見えた。

(いいな‥私も加賀教官とあんな風に‥)

サトコ
「‥‥」

(いや‥教官があんなに優しくしてくれるのなんて、想像できない‥)

カップルに気を取られそうになった時、後ろから写真と同じ男が2人を追い越した。
その姿をしっかり確認して、教官に連絡を入れる。

サトコ
「もしもし、教官ですか?写真の男が通りすぎました!」

加賀
尾行しろ。絶対ミスるなよ

サトコ
「わ、私がですか!?」

加賀
他に誰がいんだ。とっとと車出せ

サトコ
「は、はい!」

電話しながら、慌てて運転席に移動する。
電話を切ると静かに車を発進させ、男を尾行し始めた。
でもこれは、このあと起こる教官との思いがけない出来事の始まりに過ぎなかった。

to be continued

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