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ラブストーリーはカレから突然に ~加賀~ 2話

【駅前】

デート当日。
楽しみしていたせいか、待ち合わせ時間よりだいぶ前に駅前についてしまった。

(ちょっと早く着きすぎたかな?でも、遅れるよりいいよね)

それから少し経った待ち合わせ時間ピッタリに教官がやってきた。

(あっ、教官だ!)

私が小さく手を振ると、タバコをひと吹きしてから目線を合わせる。

(か‥かっこいい‥)
(教官の私服、普段と違いすぎる‥こんな風にカジュアルな服も似合う‥)

休日の姿に、ドキッと胸が高鳴る。

加賀
見惚れてんじゃねぇよ

サトコ
「はっ!」

加賀
行くぞ

サトコ
「あっ、はい!」

背を向けて歩き出す教官の後ろを、慌ててついていく。

加賀
先に飯行くか。腹空いてんだろ?

サトコ
「あ、はい!ペコペコです!」

加賀
そうか

教官はフッと笑みを浮かべる。
私服なせいか、いつもより柔らかい表情をしているように見えた。

サトコ
「どこに行くんですか?」

加賀
ついて来ればわかる

教官はそう言って、こっちを見ずに歩く。
だけど、歩調は私に合わせてくれているようだった。

(教官って、本当わかりにくいな)
(でも、優しい‥)

そんな彼の横顔を見て、温かい気持ちになった。

【レストラン】

教官に連れて来られたのは、オシャレなレストランだった。

(内装もすごく素敵‥)
(まさか、教官がこんな素敵なレストランに連れてきてくれるなんて)

慣れた感じで注文すると、教官は私を見て目を細める。

加賀
オレがこんなところに連れて来るなんてって顔してんな

サトコ
「い、いえ!そんなこと思ってませんよ!?」

加賀
顔に出てる

サトコ
「うっ‥」

(まぁ、教官に隠し事は無理だよね‥)

でも、それだけ私の事を見ていてくれているのかと思うと、顔がニヤける。

(少し自意識過剰かな‥)

加賀
お前はこういうところに慣れてなさそうだな

サトコ
「‥あまり来たことないです」

(ナイフとフォークは外側から使えばいいんだよね‥?)

そわそわとして、肩に力が入る私に、目の前の教官がふっと笑う。

加賀
俺が食わせてやろうか

サトコ
「そ、そんなに子どもじゃないです」

加賀
ハッ、どうだかな

それからしばらく教官にからかわれた後、料理が運ばれてくる。
教官の優雅に食べるその姿に、思わず見入ってしまう。

加賀
食わねぇのか?

サトコ
「いえ、いただきます!」

それから教官と他愛もない話をしながら、料理に舌鼓を打った。



【街】

レストランを出てから少し時間があったため、街中を歩く。

加賀
まだナイターまで余裕だな

サトコ
「そうですね。どうしましょうか‥」

加賀
お前行きたいとこねぇのか

サトコ
「え、いいんですか?」

加賀
ああ

サトコ
「それじゃあ‥映画とかどうですか?」

加賀
そこまでの時間はねぇだろ

サトコ
「短編の映画なんです!雑誌とかで話題になってて‥気になってたんです」

加賀
‥なんの映画だ?

サトコ
「短編のアニメなんですけど‥嫌、ですよね‥?」

加賀
アニメ‥

教官は私の言葉に、スッと目を細める。

(さすがに見ないよね‥)
(教官がアニメ見る姿とか想像できないかも‥)

サトコ
「あの、嫌だったら別の映画でも‥‥」

加賀
‥いい

サトコ
「え?」

加賀
映画、見んだろ

教官は態度を崩さないまま、私の手を取る。
そしてそのまま映画館へと足を向けた。

サトコ
「‥‥‥」

(もしかしなくても、無理に付き合ってくれてる、よね‥)
(無理して私に合わせてくれて、申し訳ない気持ちもあるけど‥)

私を引く大きくたくましい手にキュンとする。
教官の何気ない優しさが胸を打った。

(今の私たち、すごく恋人らしいよね‥?周りからも、そう見えてたらいいな)

この時の私は少し浮かれていて、周囲から自分たちが『恋人』に見えるのだと思っていた。
あのことが起こるまでは‥‥



【映画館】

数時間後。
映画を観終えた私たちは、ロビーに出た。

サトコ
「映画、すごく面白かったですね!」

加賀
ああ、思ってたよりは悪くねぇ

サトコ
「最後のシーンなんて、特に‥」

そう言いかけて売店に目を向けると、
女の子が泣きそうな顔をしながら辺りをキョロキョロと見回していた。

サトコ
「あの子、もしかして迷子でしょうか?」

加賀
さぁな、だったらどうするんだ?

サトコ
「‥私、ちょっと行ってきます」

教官に断りを入れ、子どもの元へ駆け寄る。

サトコ
「どうしたの?」

女の子
「あ、あのね‥お母さんとはぐれちゃった‥」

サトコ
「そっか。それじゃ、お姉ちゃんと一緒に探そう?」

女の子
「いいの‥?」

サトコ
「もちろん!お母さんとはどこではぐれたのかな?」

女の子
「さっきあのアニメの映画をみてたんだけど、気づいたらいなくなってたの‥」

(この子も同じ映画を観てたんだ)
(あの映画は終わったばかりだし、まだ遠くには行っていないはず)

女の子の手を引いて辺りを見て回ると、親御さんはすぐに見つかった。

母親
「すみません、ありがとうございます」

女の子
「おねぇちゃん、ありがとう!」

サトコ
「どういたしまして。もう迷子にならないように、気を付けてね」

女の子
「うん!」

加賀
無事に見つかったようだな

いつの間にか隣に教官が立っていた。

サトコ
「教官!」

母親
「この子がお世話になりました」

加賀
いえ

母親
「素敵な生徒さんをお持ちですね」

サトコ
「せ、生徒‥」

母親
「本当にありがとうございました」

女の子
「おねぇちゃん、ばいばい!」

サトコ
「ば、バイバイ‥」

加賀
‥‥

サトコ
「‥‥」

加賀
‥‥ふっ

サトコ
「き、教官!笑わないでください!」

加賀
くくっ、ここで笑わねぇでどこで笑うんだよ

ツボに入ったのか、教官は珍しく声を上げて笑う。

(教官って言ったのは私だけど、そんなに笑わなくてもいいのに)
(‥私たち、恋人に見えてないのかな‥)

私たちの関係は秘密だからその方がいいんだろうけど。
少しだけ、がっかりしている自分がいた。

【野球場】

野球場に着いた私たちは、席に着いた。
球場はドームではなく屋外球場で、空は少し曇りがかっていた。

サトコ
「もうすぐ試合開始ですね」

加賀
‥くくっ

サトコ
「教官‥もう笑うのやめてくださいよ」

加賀
‥ふっ

サトコ
「‥なんで私の顔を見てさらに笑うんですか」

加賀
お前のそのぶすくれた面は悪くない

サトコ
「むっ‥」

(恋人に見えないこと、気にしてたのに!)

教官の言葉に分かりやすくむくれて見せる。

加賀

くくっ‥そんなに気にしてんのか?生徒に間違われたって
まあ、お前が生徒なのは間違ってはないけどな

サトコ
「そ、それはそうですけど!」
「せっかくのデートなんですから、やっぱり恋人らしく見られたいじゃないですか!」

加賀
恋人らしく、ね‥‥くくっ

サトコ
「あっ、また笑いましたね!?」

(もしかして教官、わざとやってるの!?)

加賀
機嫌直せよ、余計に笑っちまう

教官は売り子を呼び止め、ビールを2つ注文する。

加賀
ほら

サトコ
「いいんですか?ありがとうございます」

(最近は飲む時間もなかったし、久しぶりのビールだ)

サトコ
「‥んー、美味しいです!」

加賀
ビールひとつで機嫌が直るなんざ、本当に単純だな

サトコ
「!?」

(つ、つい‥さっきまであれだけ怒ってたの忘れてた‥)
(‥これじゃあ、生徒に間違われるどころか子どもだよ‥)

まんまと乗せられたことに、軽く自己嫌悪に陥る。
それから間もなく、試合が始まった。
始めは点差が開いていたものの、8回裏でついに同点になり、試合は盛り上がりを見せる。

サトコ
「ついに追いつきましたね!」

加賀
ここからが正念場だろ。ここで気を抜いたら、またすぐ差がつく

サトコ
「そうなんですか」

加賀
お前、野球は詳しくないのか?

サトコ
「昔は球場に見に来たこともあるので、大体のルールは知ってますよ」
「だけど、戦術とかそういうのはあまり詳しくなくて‥」
「教官、よかったら教えてもらってもいいですか?」

加賀
仕方ねぇな、今日は特別に教えてやるよ。ピッチャーも疲れ始めてるみたいだし、ここは‥

教官は、いつもは見ない嬉々とした表情で語り始める。
グラウンドを見つめる横顔は少し無邪気に見えた。

(すごく楽しそう。いつもの教官と違って‥なんだか、可愛いな)

サトコ
「教官は野球のファンなんですか?」

加賀
ファンってほどじゃねぇが‥まぁ、人並みには好きだな

(人並み、か)
(でもそれって教官にとっては、好きってことに等しいのかな‥)

少しづつではあるけど、教官のことを知れていることにふっと頬が緩む。

(教官の事、もっと知っていきたいな‥)

加賀
おい、どこ見てんだ

サトコ
「へ?」

加賀
野球より俺の方がいいのは分かるが

サトコ
「え!?えっとそういうことでは‥」

加賀
お前は‥
人に見られてる方が興奮するんだったか?

そう言って加賀教官はグッと腰を寄せる。
ナイターではあるが、照明もあり周りの人から目につく。

(わ、わっ!)

つい恥ずかしくなって慌てて顔を逸らした。

加賀
よそ見してんじゃねぇよ

耳元に唇を沿わせ、低い声でささやかれる。

サトコ
「そ、そんなこと言われても、ひ、人が‥」

加賀
人が、なんだって

サトコ
「っ!」

耳に軽くキスをされ、思わず身体が反応してしまう。

サトコ
「きょ、教官!」

加賀
周りは野球に夢中になってて見てねぇよ

サトコ
「そ、そういう問題じゃなくてですね!」

加賀
口ではそんなこと言ってるが

顔を逸らしたが、教官に向いている頬にキスされる。

(わっ!?)

サトコ
「こ、こんなところでやめてください!」

加賀
んなにデケェ声出すんじゃねぇよ

頬の次に耳に唇が寄せられる。

サトコ
「っ!?」

さらに息を吹きかけられ、私は声が出そうになるのを我慢する。

(ど、どうしよう‥このままだと、本当に‥)

慌てる私の反応を見て、教官は楽しそうに目を細める。
私はどうやってこの状況を切り抜ければいいのか、必死に思考を巡らせた‥‥

to be continued

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