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ふたりで融けて 石神1話

【寮 自室】

サトコの母

『それで、今年は帰ってくるの?』

夏休みが近づいたある日、久しぶりにお母さんと電話していた。

今年は研修合宿もなく、訓練生には夢のように自由な夏休みが与えられていた。

サトコ

「うん。お盆には帰りたいなって思ってるよ」

サトコの母

『お盆なら、お母さんたち家にいないわよ。北海道に行く予定なの』

サトコ

「えっ、そうなの?」

「今年は久しぶりに、家族でホタル見に行けると思ったのに‥」

サトコの母

『あら、それなら彼氏でも作って一緒に行けばいいじゃない』

サトコ

「か、彼氏って‥今はそんな暇ないよ!」

サトコの母

『ふふっ、そんなに慌てるってことは好きな人が‥』

サトコ

「と、とにかく!じゃあ、今年は東京に残るから」

サトコの母

『分かったわ。北海道のお土産、そっちに送るからね』

それから少しだけ話をして、電話を切る。

(もう、お母さんったら。突然何を言い出すんだか‥)

そんなことを想いつつも、石神さんの姿が思い浮かぶ。

(石神さんと一緒にホタル、か。そう出来たら素敵だけど‥)

サトコ

「夏休みの予定、空いちゃったな‥」

【教官室】

翌日。

放課後になり、教官室で石神さんの手伝いをしていた。

石神

氷川。この資料をまとめてくれるか?

サトコ

「はい」

石神さんから資料を受け取り、目を通す。

(これくらいの量なら、すぐに終わるかな‥)

リポーター

『それでは、本日の特集コーナーです!』

『本日は、ホタルを鑑賞できるスポットをご紹介します』

(ホタル‥?)

顔を上げると、テレビが目に入った。

リポーター

『今回ご紹介する場所は、京都にある‥』

画面には夜の水辺が映し出され、ホタルが瞬きながら飛んでいた。

(綺麗だなぁ。ちょっと行ってみたいかも‥)

颯馬

サトコさんは、ホタルがお好きなんですか?

サトコ

「はい。小さい頃は夏になると、家族でホタルを見に行っていたんですよ」

東雲

ホタルがいるなんて、どんだけ田舎なの

サトコ

「確かにうちは田舎ですが‥素敵なところですよ?」

東雲

あ、そう

サトコ

「そんな興味なさげに言わなくても‥」

黒澤

はいは~い!そんな素敵なところなら、オレも行ってみたいです!

サトコ

「黒澤さん!?」

(いつの間に‥)

黒澤

サトコさんの地元って、長野でしたっけ?

サトコ

「そうですよ」

颯馬

ホタルは環境がよくないと生息できませんし、いいところなんでしょうね

黒澤

避暑地・長野でホタルを見ながら優雅なサマーバケーション‥ますます興味が湧いてきました!

もうすぐ夏休みですし、今年も見に行くんですか?

サトコ

「そのつもりだったんですが、家族が旅行に行くみたいで」

黒澤

それは残念でしたね。それじゃあ、夏休みの予定は?

サトコ

「それは‥」

(どうせからかわれるんだろうけど‥)

サトコ

「‥何もないです」

東雲

年頃の女の子がそれで大丈夫?

サトコ

「た、たまたま予定がなくなっちゃっただけです!」

黒澤

そうですよ、歩さん!これから予定が入るかもしれないじゃないですか!

石神

‥なぜ、そこで俺を見る

黒澤

そんなに睨まないでくださいよ~。ちょっと目が合っちゃっただけじゃないですか★

颯馬

ふふっ、そうですね。サトコさん、黒澤の言う通り急に予定が入る可能性だってありますよ

最後まで諦めないでください

サトコ

「は、はい‥」

有無を言わさぬ颯馬教官の笑顔に、頷くしかない。

石神

‥‥‥

そんな颯馬教官の笑顔に、石神さんはため息をつく。

石神

‥氷川

これから資料室に行く。手伝え

サトコ

「あ、はい!」

黒澤

いってらっしゃ~い!

何だかニヤニヤしている黒澤さんに見送られ、私たちは教官室を後にした。

【廊下】

石神

‥‥‥

無言で隣を歩く石神さんを、そっと見上げる。

(夏休みの予定、か)

(石神さんと過ごしたいって言うのが本音だけど‥)

サトコ

「あの‥石神さんは、夏休みに予定あるんですか?」

石神

いや、そもそも休みが取れそうにない

サトコ

「ですよね‥」

予定通りの返答に、心の中でため息をつく。

石神

お前は何でもいいから予定を入れておけ

じゃないと、あいつらに遠慮なく手伝い役に呼ばれるぞ

<選択してください>

A: 石神さんの手伝いがしたい

(教官たちの手伝いが嫌ってわけじゃないけど‥)

サトコ

「それなら、石神さんのお手伝いがしたいです!」

「私は石神さんの補佐官ですし、お手伝いは身になりますから」

石神

お人好しだな

石神さんは苦笑いをしながらも、優しい瞳を私に向ける。

(どうせ暇なら、石神さんの役に立ちたいもんね)

サトコ

「私になにか出来ることはないですか?」

石神

そうだな‥

B: たまにはゆっくり休む

サトコ

「うっ、それは‥」

(教官たちの手伝いは身になることも多いけど)

(東雲教官や加賀教官には、かなりこき使われそうだな‥)

サトコ

「それなら‥たまにはゆっくり休もうと思います」

石神

それがいい。お前は頑張りすぎるきらいがあるからな

休める時に休め

{はい!」と返事しかけて、ふと思い出す。

(石神さんはお休みないんだよね。私ばかり休んでいいのかな)

(身体を休めることも大事だけど‥)

何か石神さんの役に立ちたい、そんな気持ちが浮かぶ。

サトコ

「ゆっくりするって言ったばかりですが‥」

「何か石神さんのお手伝いをすることはありませんか?」

石神

お前な‥

サトコ

「休める時にはちゃんと休みます。だから、何かお手伝いさせてください!」

石神

‥‥‥

石神さんは困ったようにため息をつき、ゆっくりと口を開く。

C: 石神さんと出かけたい

サトコ

「それなら、石神さんと出かけたいです!」

石神

サトコ‥

苦笑いする石神さんに、はたと気づく。

サトコ

「す、すみません。お休みが取れないって言ったばかりすね‥」

(つい気持ちが先走っちゃった‥)

(でも、寮にいても暇を持て余しちゃうだろうし‥どうせなら、石神さんと一緒に過ごしたいな)

サトコ

「あの、なにかお手伝いすることはありませんか?」

「なんでもやるので、遠慮なく言ってください!」

石神

そう言われてもな‥

石神さんは困ったように口を閉ざす。

(いきなりすぎたかな?)

ドキドキしながら、返答を待っていると‥

石神

それなら、同行して欲しい場所がある

サトコ

「はい!」

こうして、私の夏休みの予定が決まった。

【京都】

一週間後。

(まさか、京都に出張だなんて思いもしなかったな)

朝イチで京都にやってきた私たちは、早々に任務に入る。

ちょうど昼時に時間ができたため、川床のあるお店へやってきた。

サトコ

「このお店、かなりの人気店だそうですよ。空いていてよかったですね」

石神

ああ。たまたまキャンセルがあったみたいだな

ご飯を食べ終わり、座敷から足を伸ばす。

座敷のすぐそばを川が通っており、冷たい水が足に触れた。

サトコ

「わっ、気持ちいい!」

石神

そうだな

石神さんはスーツの上着を脱ぎ、私の隣に座って足を伸ばす。

(石神さんが上着を脱いでるなんて、なんだか新鮮かも)

(汗はかいていないみたいだけど、やっぱり暑かったのかな?)

サトコ

「あっ‥」

ふと視界に入った時計が、そろそろ仕事に戻る時間を告げている。

サトコ

「‥せっかく京都に来たのに、お仕事だけで終わっちゃうのはもったいないですね」

(どうせなら、石神さんと普通の旅行で来たかったな)

残念な気持ちでいると、ポンッと頭に手を乗せられる。

石神

今度またゆっくりな

フッと微笑む石神さんに、先日見たテレビが脳裏を過る。

(ホタルの鑑賞スポット、この近くなんだっけ‥)

サトコ

「あの!」

石神

どうした?

サトコ

「確か、今回の任務は夕方で終わりですよね?」

石神

ああ

サトコ

「この近くにホタルが見られる場所があるんです。任務が終わったら、行きませんか?」

石神

‥‥‥

(唐突過ぎたかな‥?)

ドキドキしながら、石神さんの言葉を待つ。

石神

‥いいだろう

サトコ

「本当ですか!?」

石神

たまには、な

満面の笑顔を浮かべる私に、石神さんは優しい笑みを返してくれる。

石神

それじゃあ、戻るぞ

サトコ

「はい!」

(ホタル見に行けることになったし‥午後も頑張ろう!)

【山道】

サトコ

「この辺りだと思うんですけど‥」

任務が終わり、私たちは車でホタルがいる川辺の近くまでやってきた。

スマホで地図を見ながら、ホタルのいる川辺を探す。

サトコ

「あっ、今向こうから水の音が‥‥きゃっ!」

(あl足が滑って‥‥)

石神

‥危なっかしい

転びそうになる直前、石神さんが身体を支えてくれた。

サトコ

「あ、ありがとうございます‥」

身体は密着しており、すぐ近くに石神さんの顔がある。

<選択してください>

A: 離れる

(なんだか、恥ずかしい‥!)

サトコ

「あっ‥」

離れようとすると、腰に腕が回された。

すごく近くで石神さんの吐息を感じ、鼓動が逸る。

サトコ

「石神さん‥」

思い切って顔を上げると、石神さんもほのかに頬を染めていた。

B: 見つめる

サトコ

「石神さん‥」

石神さんの体温を感じ、頬に熱が上がるのが分かる。

顔を上げて見つめると、石神さんは私の頬をそっと撫でた。

石神

そんな顔をするな

石神さんはフッと微笑み、頬を撫でていた手をそのまま私の頭の後ろに移動させる。

C: 顔を逸らす

(は、恥ずかしいけど‥)

このまま、石神さんと抱き合っていたい。

そんな気持ちがせめぎ合い、私は石神さんに抱かれたまま顔を逸らした。

石神

‥なぜ、顔を逸らす

サトコ

「だ、だって‥」

石神

‥‥‥

サトコ

「!」

石神さんは私の顎に手を添えると、クイッと上を向かせる。

石神

このくらいの距離で、いまだに緊張するのか‥?

サトコ

「っ、そんな意地悪なこと言わないでください‥」

石神

好きなヤツにには意地悪をしたくなると言うだろう?

いたずらな笑みを浮かべる石神さんに、鼓動がうるさいほど鳴っていた。

石神

サトコ‥

唇をそっと撫でられ、顔が近づく。

そして、唇が触れ合いそうになった瞬間‥‥

サトコ・石神

「!」

突然、強い雨が降ってきた。

(ど、どうしてこのタイミングで‥!)

石神

車に戻るぞ

サトコ

「は、はい!」

甘い空気は跡形もなく消え去り、私たちは急いでこの場を後にした。

(石神さんと、ホタルは見れないのかな‥‥)

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