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雨音は愛のMelody 加賀2話



家を飛び出して、加賀さんの家へと向かう。
天気予報通りの大雨で、風もすごかった。

(ダメだ···!時間もないし、タクシーを使おう)

そう思って大通りまで出たけど、どうやらこの大雨でタクシーはすべて出払っているらしい。

(···待っている間に、トマトがダメになるかもしれない)
(こうなったら、駅まで歩こう!)

電車に乗るため、駅へと走った。


【加賀マンション】

ずぶ濡れになりながら、やっとのことで加賀さんのマンションまでたどり着いた。
インターホンを押すと、加賀さんがドアを開けてくれる。

【玄関】

加賀
······

サトコ
「······」

加賀
テメェ···なんだその格好は

サトコ
「···え!?加賀さんこそ、なんでそんなに濡れてるんですか!?」

私を部屋に入れてくれた加賀さんは全身ずぶ濡れで、髪からは雫が滴っている。
濡れたその姿がかっこよくて、つい見惚れてしまいそうだった。

(って···今はそれどころじゃない!トマト···!)

【リビング】

急いでベランダに出ようとしたけど、トマトの苗が家の中に移動されていることに気付く。
強風にあおられたせいか少し傾いていたけど、大丈夫そうだ。

サトコ
「よかった···」

加賀
···そのために、こんな早く来たのか

サトコ
「トマト、家に入れてくれたんですね。加賀さんが早く帰って来てくれてよかったです」

加賀
···たまたまだ

でももしかしたら、“たまたま” ではなく “わざわざ” 急いで帰って来たのかもしれない。
トマトのために家へと急ぐ加賀さんを想像すると、なんだかかわいかった。

加賀
ニヤけてんじゃねぇ

バサッと、後ろからタオルを頭にかぶせられた。
お礼を言う前に、加賀さんの大きな手が私の髪を乱暴に拭き始める。

サトコ
「加賀さん、痛いです!もっと優しく···!」

加賀
喚くな

サトコ
「だ、だって···」

(···もしかして、照れてる?)
(いや、加賀さんに限ってそんな···)

髪を拭いてくれる手が緩んだので、タオルの隙間から加賀さんを覗き見る。
まだ濡れた髪もスーツもそのままで、どうやら私を先に拭いてくれたようだった。

サトコ
「加賀さんも早く着替えてください。風邪ひいちゃいますよ」

加賀
そんなヤワじゃねぇ

自分の分のタオルを持ってい来ると、加賀さんがスーツを脱ぎ捨てて上半身裸になる。
そのまま、がしがしと髪を拭いた。

(水も滴るいい男···って、このことかな···)
(かっこいいし、色っぽいし···目のやり場が)

加賀
···何見てんだ

サトコ
「えっ!?あ、いえ···えっと」

私の視線に気付いて睨みをきかせる加賀さんに、慌てて言い訳をする。

サトコ
「急いでたので、食事の材料を買ってくるのを忘れたなって思って!」
「今日のごはん、どうしましょう。とりあえず、冷蔵庫のもので···」

キッチンに向かいかけて、加賀さんがベランダから避難させてくれたミニトマトが目に入る。
この間赤くなりかけていたトマトはすっかり熟して、食べごろになっていた。

(今日のごはんの付け合せにしようかな···でもやっぱり、加賀さんは食べてくれないかな)
(だけど、あんなに野菜嫌いの加賀さんが、ミニトマトを守ってくれた···)

それだけで充分な気がして、髪を拭いている加賀さんを見つめる。
私の視線に気付いた加賀さんが、小さく舌打ちをした。

加賀
···ダメになったら、またピーピー喚くだろうが

サトコ
「え···」

(じゃあ···もしかして、私のために?)

よく見ると、ベランダの脇にペットボトルのじょうろが置いてあった。

サトコ
「この間来た時は、なかったはずなのに···」
「加賀さん···トマトにお水、やってくれたんですか?」

加賀
テメェが、枯れるだなんだってうるせぇからだろ

サトコ
「それじゃ、苗の土が濡れてたのって」

(雨が降ったからじゃなかったんだ)
(加賀さん、ちゃんとお水をやって、育ててくれてた···)

加賀
たかが草のために、必死になりやがって

タオルで拭いたとは言え、私の服はずぶ濡れのままだ。
ぬれねずみ状態の私に、加賀さんが呆れたように目を細める。

サトコ
「だって···自分で育てた野菜なら、加賀さんも食べてくれるんじゃないかって」
「加賀さんの身体が心配だったんです。最近ずっと、顔色が悪いから」

加賀
······

小さくため息をついて、加賀さんが私の頭に手を置いた。

加賀
トマト食ったくらいじゃ、何も変わんねぇ

サトコ
「わかってます···でも、そこからちょっとずつ食べられるようになるかもしれないし」

加賀
俺は食えねぇんじゃねぇ。食わねぇだけだ

サトコ
「人はそれを、『食べれない』って言うんじゃ」

加賀
······

じろりと睨まれて、思わず首をすくめる。
もう一度トマトを振り返り、恐る恐る加賀さんに尋ねてみた。

サトコ
「加賀さん···トマト、食べごろですよ」
「この品種、甘いって評判らしいです」

加賀
······

(やっぱりダメか···いや、わかってたことだけど)

加賀
···チッ

大きく舌打ちして、加賀さんがソファに座った。

加賀
食ってやる

サトコ
「···え!?」

加賀
早く持って来い

サトコ
「は、はい!ただいま!」

加賀さんの気が変わらないうちに、一番食べごろになっているトマトを採って持って行く。
でも加賀さんはいつまで経っても、私からトマトを受け取ろうとしなかった。

(これは、まさか···)

サトコ
「あ、あーん···?」

加賀
クズが
どうしても食って欲しいなら、口移ししろ

サトコ
「く、口移し!?」

声が裏返る私を、加賀さんはまったく表情を変えずに見ている。
急に恥ずかしくなって、持っていたトマトに視線を落とした。

(これを、口移し···!?は、恥ずかしすぎる···!)
(だけど、そうすれば加賀さんが野菜を食べてくれる···)

思い切ってトマトを口に入れて、加賀さんに覆いかぶさるように顔を近づける。
舌でトマトを加賀さんの口に押し込むと、加賀さんはそのまま口に含んだ。

(た、食べた···!)

加賀
······

(けど···ものっすごく嫌そうな顔!)

これまで見たことがないほど険しい表情を見せながら、加賀さんがトマトを飲み込む。
その瞬間、拍手したい気持ちだった。

サトコ
「加賀さんが野菜を食べた···!」
「今日は記念日です!カレンダーに書いておきます!」

加賀
ふざけんな

身の危険を感じて逃げる前に、加賀さんの大きな手が私の顔面をつかむ!

(アイアンクロー···!でも今日は、これでもいい!)
(だって、加賀さんが野菜を食べてくれた、記念すべき···)

加賀
テメェの願いを聞いてやったんだから、それなりの見返りはあるんだろ

喜んだのも束の間、加賀さんが意地悪に笑うのが、指と指の間から見えた。

サトコ
「···と、申しますと···」

加賀
さぞかし美味しく育ってんだろうな

サトコ
「!!!」

(それはまさか···私のこと!?)
(しまった···逃げられない!)

サトコ
「ふ、服がびしょ濡れなので···先にお風呂に」

加賀
却下だ

噛み付くようなキスをされて、逆にソファに押し倒された。
濡れたジャケットを脱がされ、ブラウス一枚にさせられる。

加賀
······

サトコ
「か、加賀さん···?」

加賀
···脱がしにくいな

大雨のせいで、ジャケットの下もずぶ濡れだった。
ブラウスが肌に張り付いて、確かに脱ぎづらい。

サトコ
「や、やっぱりお風呂に···」

加賀
させるか

ソファに倒れ込んだ私を起こして、加賀さんが後ろから抱きしめる。
濡れたブラウスから透ける肌を手でなぞり、ニヤリと笑った。

加賀
たまにはこういうのも悪くねぇ

サトコ
「え···」

よく見れば、ブラウスから透けて見えているのは肌だけではない。

サトコ
「やっ···」

加賀
無駄だ。今は大人しく抱かれとけ

私の手をつかんで、加賀さんが後ろを向かせる。
今度は唇を舌先でなぞり、私に吐息を零させた。

(こんなキス、ずるい···)

身体の力が抜けて、抵抗できない。
濡れた身体を温め合うように肌を重ねる私たちに、雨の音だけが聞こえ続けていた···

Happy End



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