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加賀さん密着24時 1話



~カレ目線~

【加賀マンション 寝室】

捜査のあと学校へ寄り、報告書を仕上げてから家に帰って来た。
半ば強引にサトコを連れて帰ると、そのままベッドに押し倒して肌の柔らかさを堪能する。

サトコ
「ふふ···」

さっきまで力尽きたように眠っていたくせに、目が覚めた途端、サトコが笑い出した。

加賀
気色悪ぃ

サトコ
「笑うことさえ許されない···」
「だって加賀さん、疲れてたんだなって」

加賀
あ?

サトコ
「私に触れる時は、癒されたいときなのかな~って、最近思うんですよ」
「長い付き合いなので、だんだん加賀さんのことが分かってきたっていうか」

加賀
調子に乗るな

サトコ
「ぎゃっ」

顔面を手でつかむと、サトコが悲鳴を上げる。
気にせずベッドの端に放り投げてやったが、また戻って来た。

サトコ
「ひどい···」

加賀
うるせぇ

サトコ
「加賀さん、好きです」

加賀
なんだ、いきなり

サトコ
「言いたくなったんです。好きです」

腕にまとわりつきながら、サトコが嬉しそうに何度も『好き』を口にする。

加賀
···ああ

サトコ
「ふふ···」

加賀
笑ってんじゃねぇ

サトコ
「そろそろ、笑うことくらいは許してくださいよ···」

サトコの『好き』は、今に始まったことではない。
突然思い出したように口にすることもあれば、意を決したような顔で言うこともある。

(こいつが訳わかんねぇのは、今に始まったことじゃねぇ)
(だいたい、そんなことは言われなくても分かってる)

サトコも同じだろう。わざわざ口にしなくても、俺の気持ちは分かっているはずだ。
再び眠ったのか、隣から寝息が聞こえてきた。

(···幸せなヤツだな)

身体の向きを変えて、サトコを抱きしめる。
髪に頬をつけ、目を閉じた。

物音と気配で目を覚ますと、着替えたサトコが出かける準備をしていた。
学校の始業時間を考えると、確かにそろそろ出なければならない。

サトコ
「あ、すみません。起こしちゃいましたね」

加賀
別にいい

サトコ
「加賀さん、今日は休みでしたよね?」
「ぐっすり寝てたから、起こさないで行こうと思ったんですけど···」

(···クズの分際で、余計な気回しやがって)

サトコが起きたのに目を覚まさなかったこと、
誰かが隣にいるのに熟睡したことに納得がいかない。
布団から腕を伸ばし、サトコの手を掴んでベッドに引きずり込んだ。

サトコ
「え!?かっ、加賀さん!」

加賀
まだ時間あるだろ

サトコ
「そんなにないですよ···!もう行かないと!」

加賀
このまま遅刻させてやろうか

ベッドの中で抱きしめると、サトコが身じろぎしながら生意気に軽く俺を睨んできた。

サトコ
「ひどい!担当教官の言葉とは思えない···!」

加賀
喚くな。黙ってろ

サトコ
「黙っていられません!今日の最初の講義、石神教官なんですよ···!」
「もし遅刻なんてしたら、何を言われるか」

加賀
黙ってろって言ってんだ

サトコ
「ちょっ、ぁっーーーー」

服をめくって肌を弄んでやると、サトコが身体を小刻みに震えさせる。
遅刻ギリギリまで愉しみ、解放してやった。



【リビング】

真っ赤になって涙ぐみながら出て行ったサトコを見送り、二度寝を決め込んだものの···
目が覚めてしまったので、仕方なくベッドを抜け出した。

(さて、どうするか···)

ふと空腹感を覚えて、冷蔵庫を開ける。
中には、サトコが作っていったらしい朝食が入っていた。

(そういや、昨日は晩飯食うの忘れてたな)

ということは、飯も食わずにサトコを抱いたことになる。
ただ、こういうのは今に始まったことでもない。

(腹減って耐えられなくて、冷蔵庫のもんで適当に飯作って食っていったか)

『お腹空いた···』と寝起きの状態でフラフラしながら冷蔵庫を覗くサトコの姿が目に浮かぶ。
冷蔵庫から皿を取り出し、コーヒーを淹れて朝食にした。

(よし···野菜は入ってねぇな)
(たまには朝から飯を食うのも、悪くねぇ)

普段、朝飯を食う習慣はない。
徹夜で張り込みした時など、車の中で軽く食べるくらいだ。

加賀
······

カレンダーを見たが、今日は特になんの予定も入っていない。
普段は仕事でほとんど家にいないので、こうして朝から時間を気にせず過ごすのは久しぶりだった。

(···目が覚めちまったな)
(仕方ねぇ···たまには家のことでもやるか)

コーヒーとタバコで一服したあと、寝室へと戻った。



【寝室】

思い立って掃除を始めたものの、普段あまり家にいないせいで、たいして汚れていない。
サッと住居用のワイパーでフローリングを綺麗にしていると、ベッドの下で何かが光った。

(···なんだ?)

拾い上げてみると、見覚えのあるイヤリングだった。
昨日の潜入捜査で必要だったので、サトコがつけていたものだ。

(チッ···こういうところが、詰めが甘ぇって言ってんだ)
(潜入先でやらかしたら、どうするつもりだ)

舌打ちして、イヤリングをサイドテーブルに置く。
失くして焦っているサトコの顔が思い浮かび、微かにため息をついた。

(罰として、あいつが気付くまで黙っとくか)
(···あいつの場合、しばらく気付かねぇだろうがな)

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【リビング】

掃除を終えたあと、特にすることもなくリビングに戻ってくる。
時計は12時を回ったが、普段食わない朝飯を食ったせいか腹も減っていなかった。

(たまの休みだ、普段できねぇことをしとくか···)

その前に、テーブルに置いたスマホを確認する。
もう昼休みは始まっているはずなのに、サトコからの連絡はない。

(案の定、イヤリングには気付いてねぇか)
(刑事失格だな···あとでしっかり、教育し直してやる)

そう思う反面、自分自身に苛立ちを感じる。
いちいちサトコから連絡があるだろうかと気にしている自分が、少し腹立たしい。

(他人に振り回されるなんざ、ごめんだってのに···)

学校に入学してきたときには、使えねぇ“捨て駒”以下だと思っていた。

(それが、こうなるとはな···人生、何が起こるかわかんねぇもんだ)

柄にもなく少ししみじみしながら、車のカギを手に取り部屋を出た。


【ショップ】

部屋にいてもやることがないので、ドライブがてら、行きつけの店にやってきた。
普段、服を買うのはいつもここだ。

店長
「加賀さん、お久しぶりです」

加賀
ああ

特にこだわりはなかったが、ここの服や小物は身につけやすい。
店長とは通ううちに顔馴染みになったこともあり、他の店よりも来やすかった。

加賀
···悪くねぇな

店長
「加賀さんでしたら、サイズはこちらですね」

店長から服を受け取り、うなずく。
それだけで、店長は笑顔を見せて服をレジへと持って行った。

(勝手知ったる相手だと、余計なことを言わなくても通じるからいいな)
(そこを行くと、あの脳内プリン野郎は10を言っても1すら伝わらねぇが)

逆に、最近のサトコは1を言えば10とはいかなくとも、5くらいは伝わる。
あいつより長い付き合いである他のヤツらと比べれば、上出来と言えなくもない。

店長
「加賀さんは、恋人にもそんなに口数が少ないんですか?」

加賀
あ゛?

店長
「うわ、怖っ」

加賀
悪かったな

店長
「いえ···加賀さんの恋人は大変だろうなと思って」
「なかなか、言葉で気持ちを伝えるタイプじゃないですよね?」

加賀
まあな···
だが、お前にはそれなりに伝わってるだろ

店長
「自分は接客業ですからね。お客様のお気持ちを察するのも仕事です」
「でも、恋人はそうじゃないですから」

言われてみれば確かに、よくついてくるなと思うことはある。
だがいつの間にか、それが当たり前だと思うようになったのも事実だった。

加賀
···言葉にしなくても、そこそこは通じてる

店長
「そのくらいじゃないと、加賀さんの恋人は務まらないかもしれませんね」

話ながら、気に入ったものを適当に選んでいく。
その間にも一度スマホを見たが、サトコからの連絡はない。

加賀
あの野郎···

店長
「えっ?」

加賀
···なんでもねぇ

(いつになったら気付く···?罰どころじゃ済まねぇな)
(今度会ったら、きつい仕置きしてやる)

会計を済ませると、店長に見送られて店を出た。


【バー】

一度家に帰ったものの、車を置いて再び家を出てきた。
家の近くにある、こぢまりとしたバーの扉をくぐる。

マスター
「いらっしゃい」

加賀
ああ

マスター
「いつもの?」

加賀
ああ

こちらが何も話さなくても、さして気にした様子はない。
なにしろ、マスターも同じように口数が少ないからだ。

(そのおかげか、この店は落ち着くな)
(意外と酒の品数も多いし、静かに飲むにはぴったりだ)

カウンターに座り、マスターからグラスを受け取る。
他には何も注文していないが、クリームチーズを生ハムで包んだものが出てきた。

マスター
「どうぞ。空酒は酔いやすいですよ」

加賀
悪いな

以前、チラリと野菜が好きではないという話をした記憶がある。
それ以来、決して野菜を使った料理は出てこなかった。

(さすが、客が求めてるもんをわかってる)
(ここにあのクズを連れて来た日にゃ、静かな雰囲気が台無しだな···)

サトコを思い出して、微かに口元が緩みそうになる。
が、それを止めたのは背後から聞こえてきた声だった。

女性
「だって不安にもなるでしょ!マーくん、全然好きだって言ってくれないんだもん!」

男性
「それは···だって、そういうのはいちいち言うことじゃないだろ」

女性
「どうせ他の人には言ってるんでしょ!私、知ってるんだから」

加賀
······

視線だけで振り向くと、カップルが言い合いをしている。
静かな雰囲気が台無しになり、マスターが申し訳なさそうに俺を見た。

マスター
「申し訳ありません」

加賀
マスターのせいじゃねぇ
それにしても···くだらねぇな

グラスの中の氷を眺めながら、ひとり言のように零す。
マスターは他の客のグラスを片付けながら、問いかけるように俺を見た。

加賀
言葉なんざ、思ってなくてもどうとでも言える
口にしたことが本音かどうかは、本人にしかわからねぇ

マスター
「そうですね。あのお客様は、まだお若い方のようですから」

カップルは喧嘩した状態のまま、席を立った。
ふたりが店を出て行くと、再び静けさが訪れる。

(ようやく、美味い酒を味わえる)

マスターからおかわりをもらい、つまみに手を伸ばした。


【バスルーム】

家に帰り、酔いを醒ますために風呂へと向かう。
洗濯物がたまっていることに気付いて、全部突っ込んで洗濯機のボタンを押した。

(これで数日分の家事は終わりだな···)
(まあ、こういう何もない日っても、たまにはいいだろ)

服を脱ぎ捨てて、風呂のドアを開けた。

【リビング】

風呂から上がり、冷蔵庫を開けて飲み物を取り出す。
一気にペットボトルを煽り、ひと息ついた。

(···そういや)

ふとスマホを確認したが、相変わらずサトコからの連絡はない。

(あの駄犬が···テメェのものがなくなったことにも気づかねぇのか)

苛立ちの原因は、それだけではない。
だが気付く必要もないと判断して、それ以上考えるのをやめた。

(明日は、朝からガキどものお守りか···)

朝イチで1年生の講義があると思うと、気が進まない。

(サトコたちは、ようやくマシになってきたが···)

去年のあいつらと同じことを繰り返さなければならないと思うと、げんなりする。
タオルで髪を適当に拭いて、寝室へ向かった。

【寝室】

ベッドに横になり、サイドテーブルに置いてあるイヤリングを手に取る。
スマホを放り投げると、再びイヤリングをサイドテーブルに置いた。

(いつ気付くか···それとも、気付かないままか)
(···少し早いが、寝るか)

明日は仕事なので、早めに就寝することに決める。
だが目を閉じても、慣れた温もりがないせいか、寝付くまでには少し時間がかかった···

to be contineud



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