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本編カレ目線 颯馬4話

「夫婦の姿」

隣で眠る彼女にいろいろな想いを馳せながら、ふとあの時のことを思い返す。

(そういえば···あんなこともあったな)

石神さんに呼ばれて個別教官室に行くと、驚くべきことを言われる。

石神
今度の潜入捜査は氷川と疑似夫婦を演じて欲しい

颯馬
疑似夫婦ですか?ということは、つまり···

石神
2人にはしばらくの間、同棲してもらうことになる。マンションはすでに手配済みだ

(次は潜入捜査だと聞いてはいたけど、まさかサトコさんと夫婦···)
(それも、同棲をすることになるなんて···)

颯馬
フフ···了解です

(これは楽しくなりそうですね)
(このことを知ったら、彼女はどんな反応をするだろうか···)

任務ということももちろん分かってはいたが、
サトコさんと同棲て言うことに少しだけ心が躍った。

私はサトコさんに任務のことは黙って、同棲先のマンションまで連れて行く。

颯馬
はい。この部屋の鍵です

サトコ
「どうして···ですか」

颯馬
「···オレたち、夫婦だから」

サトコ
「···っ」

颯馬
ダメ?

混乱するサトコさんに、クスリと笑ってみせる。

(本当、純粋な人だ···)

颯馬
実はこのマンションに、接触したい夫婦がいるんです

サトコ
「へ?」

サトコさんの驚く顔を存分に堪能した後、私は任務の説明をする。

颯馬
少し長い任務になるので、週末はここで、2人で過ごすことになります

サトコ
「ふ、2人で!?」

颯馬
マンションの中では、夫婦として過ごしますから

サトコさんは突然のことに慌てていたが、こうして私たちの期間限定の同棲生活が始まった。

数日後。
週末になり同棲生活をしているマンションに帰ると、サトコさんが玄関まで迎えてくれる。

サトコ
「おかえりなさい」

颯馬
ただいま、サトコ

サトコ
「っ···」

颯馬
クスッ、どうしたのですか?そんなに顔を赤くして···

サトコ
「い、いえ···」

颯馬
私たちは結婚、しているんですよ?

サトコ
「そ、そうですね···あっ、ご飯を作ったんです。ちょっと待っててくださいね!」

サトコさんは逃げるように、台所に行った。

(フフ···これくらいで慌てるなんて)

私は台所に立つサトコさんの後ろに立ち、髪に触れる。

サトコ
「ひゃぁっ!そ、颯馬教官!いきなり、何を···」

颯馬
おや?颯馬教官、ですか?

サトコ
「あっ、その···周介さん···」

颯馬
よく出来ました

ご褒美と言わんばかりに髪の毛にキスをすると、サトコさんの顔はさらに真っ赤になった。

そんな同棲生活が、暫くの間続く。
今日も家に帰るとサトコさんが私を出迎え、ご飯を作って待っていてくれていた。

サトコ
「周介さん、おかえりなさい」

颯馬
ただいま、サトコ

(サトコさんも、だいぶ慣れてきたな···)

家に帰り、誰かがいる。
そして一緒に食卓を囲み、他愛のない会話をする。

(任務だと割り切っていたけど···)

サトコさんがいる家に帰るのが、楽しみになっている自分がいた。

ある日、パーティー会場への潜入捜査直後にマンションに帰ると、
サトコさんはぐったりとしていた。

(今回の潜入捜査だけじゃない。学校と自主練にトレーニングを欠かさず行い)
(その上、この潜入捜査のために家事までしてもらっているんだ)
(疲れるのも無理はない···なのに、弱音を吐かずに頑張っているな···)
(今日はオレが料理を作るか···)

キッチンで炒め物をしていると、サトコさんに声をかけられる。

サトコ
「教官?」

颯馬
貴女は休んでいてください。慣れないパーティーで疲れたでしょうから···

そしてクリームチーズパスタを作り、食卓に並べた。

サトコ
「わぁ···いい匂い!」

サトコさんは「いただきます」と言うと、美味しそうにパスタを食べる。

(これだけ美味しそうに食べられると、作り甲斐がある)

サトコ
「すみません、私、教官に甘えすぎですよね。こういうことも、私がやらなきゃいけないのに」

颯馬
この世に、完璧な人間なんていませんよ

サトコ
「でも···明日は私が作りますね!」

(フフ···本当、頑張り屋だな···)

目を細めて、サトコさんのことを見つめる。
するとサトコさんは少しだけ顔を赤くし、その姿も可愛らしく感じた。
そして目の前の粉チーズを取ろうとすると、サトコさんの手と触れる。

颯馬
······

サトコ
「あ···」

その瞬間、思わずドキッとしてしまい、手を引っ込めてしまった。

颯馬
···お先にどうぞ

サトコ
「えっ?あ···す、すみません」

(どうしたんだ···)
(こんなことでドキッとするなんて···オレらしくもない)

私は動揺を悟られないように、笑顔でそう返した。

翌日。
教官室で、昨日の出来事をぼんやりと考えていた。

(まさか、サトコさん相手にあんな反応をするなんて···)

後藤
···さん

(私も、まだまだですね···)

後藤
···周さん

(次に、マンションに帰るのは···)

後藤
周さん?

颯馬
後藤···?どうかしましたか?

後藤
さっきから、何度も呼んでたのですが···

颯馬
すみません、ちょっと考え事をしてました

後藤
周さんが考え事なんて···珍しいですね

颯馬
まぁ、ちょっと···ね

ニッコリと笑みを浮かべると、後藤は押し黙った。

後藤
···石神さんが呼んでいます

颯馬
分かった、ありがとう

(いったい、何の話なんだろう?)

しばらくすると、サトコさんもやって来た。

石神
昨日、政治資金パーティーに潜入したそうだな

サトコ
「はい。颯馬教官が、森尾の名刺をもらって···」

石神
報告は颯馬から受けた。これで現状欲しい情報は手に入れた。今回の任務はひとまず終了だ

サトコ
「終了?」

石神
週末は颯馬と夫婦役を演じるように命じていたが、今日から普段通りの生活に戻っていい

石神さんの言葉に、私の心は小さく波立った。

石神さんの話が終わり、私は個別教官室で捜査資料に目を通していた。

(今日で同棲生活も終わり、か···)

同棲生活に終わりを告げられ、少し寂しいと感じている自分がいた。

(···いや、あれはただの潜入捜査のためだったんだ)

そう自分に言い聞かせ、任務に集中するためにも寂しいという思いに蓋をした。

事件の捜査のため、本部との行き来に疲れた私は、
息抜きと情報を聞き出すために御子柴くんのバーを訪れた。

颯馬
···そうですか。ありがとうございます

御子柴
「いいえ、気にしないでください。これもオレの仕事っすから!」
「そういえば、姐さんは元気っすか?」

御子柴くんに聞かれ、毎日頑張っているサトコさんの姿を思い浮かべる。
その瞬間、彼女との同棲生活を思い出した。

颯馬
···彼女なら、元気じゃない日なんてないですよ

御子柴
「そうっすか!さすが姐さんっすね!」

颯馬
フフ、今度はサトコさんも連れてきますね

そう笑顔で御子柴くんに約束をし、私は店を出た。

to be continued

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