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本編④(後編) 津軽3話

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調べを続けている百瀬さんを残し、私は一足先に『礼愛会』を出ていた。

(薔子さんは認知症だったなんて···)

蔀薔子
「純恋···?······どなたかしら?」

日によって症状の差はあるらしいが、最近の調子はあまりよくないという話だった。

(数日前はスミレの折り紙を大切そうに折ってたのに)
(今日は全く覚えてなかった。また思い出す日もあるって話だったから)
(その時を見計らって行くしかないのかな)

記憶というのは残酷だ。
忘れたいことは忘れられないのに、忘れたくないことは忘れてしまう。

(でも、津軽さんとのことを忘れたいかって言うと···)

サトコ
「······」

夕焼けを見るだけで、このところ胸が痛い。
唇を小さく噛んだ時、ブルル、ブルルゥ···という情けないバイクの音が聞こえてきた。

???
「今日は機嫌が悪いみたいで、困りましたねぇ」

駅前の駐輪場でお坊さんがスクーターを前に途方に暮れた顔をしている。

サトコ
「エンジントラブルですか?」

お坊さん
「そのようで。この子とも15年の付き合いでしてねぇ」
「なるべく長く乗ってあげたいんですが」

年季の入った愛着のあるものに触れるように、スクーターのシートを撫でた。

サトコ
「駅前にバイクショップがあるんです。そこまで押して行きましょう」
「お手伝いしますよ」

お坊さん
「これはこれは···ご親切にありがとうございます」

一緒に数メートル先にあるバイクショップ目指してスクーターを押していく。

サトコ
「15年もメンテナンスして乗り続けるって、素敵ですね」

お坊さん
「新しいものに乗り換えられない···ということでもありますからねぇ」
「時には新しくした方がいいときもある···どんなことにも裏の面と表の面があります」

サトコ
「···表にあるものが全てじゃないって、ことですか?」

お坊さん
「おや?これはまた深い···明日の寺の一言に使いますかね」

(津軽班に配属されたばかりの頃に、津軽さんから言われたこと)
(『表にあるものだけが全てじゃない』って)

それから私はなるべく多角的に事件を見るように努めているーーつもりだった。

(ん?今回の件···純恋ちゃんのこと、多角的に見てる?)
(被害者側か、加害者側か、そこに注意は払った。でも···)

『礼愛会』には老人ホームと、暴力団の資金源という裏表がある。

(純恋ちゃんには薔子さんの認知症については、何も言ってなかった)
(···蔀家には、まだ何か···知らない裏がある?)

この件に関しては純恋ちゃんの証言を鵜呑みにし、裏を取っていなかったことに気が付く。

サトコ
「······」

お坊さん
「ここまでで大丈夫ですよ。ありがとうございました」

サトコ
「あ、はい」

考え事をしている間に、バイクショップの前に着いていた。

お坊さん
「これ、よろしければ、どうぞ」

お坊さんがくれたのは、最中の包み。

サトコ
「いいんですか?」

お坊さん
「頂き物で申し訳ないですが。私の昔からの知り合いの坊主も、大好きな最中で」
「召し上がってください」

サトコ
「ありがとうございます。お気をつけて」

最中をバッグにしまうと、お坊さんに一礼して別れた。

直帰予定だった私は、行き先を変更して捜査資料に会った蔀家の前に来ていた。

(日も落ちてきているのに、真っ暗···)
(純恋ちゃんは警察の保護下にあるからいないのは当たり前として)
(本当に他の家族はいないんだ)

捜査資料では、純恋ちゃんの両親は彼女が幼いころに離婚し、家を出ている。
彼女は祖母の手ひとつで育てられたらしい。

(祖母と孫···2人だけの家族···だから、純恋ちゃんも自分の身体を売ってまで···?)

郵便物のチェックをしていると、近所の奥さん方に声をかけられた。

女性A
「あなたは···?」

サトコ
「『礼愛会』のヘルパーです。郵便物の回収に参りました」

女性B
「ああ、そう···薔子さん、もう戻ってこないのねぇ」

女性C
「でも、純恋ちゃんには、その方がいいんじゃないの?」

女性A
「私たちも薔子さんの怒鳴り声、聞かなくて済むなら平和になるわね」

(怒鳴り声?純恋ちゃんにとって、薔子さんはいない方がいい?)
(······あんなに優しそうな、おばあさんだったのに?)

サトコ
「あの、薔子さんの怒鳴り声っていうのは···?」

女性B
「あら、施設では安定してるの?」

サトコ
「はい。とても穏やかに暮らされています」

女性C
「そういう意味では、純恋ちゃんが薔子さんのストレスになってたのかも」

サトコ
「2人の関係は、よくなかったんですか?」

女性A
「薔子さんは、純恋ちゃんに出て行った娘さんを重ねてたから···」

女性B
「罵り声と叩くような音、純恋ちゃんの泣き声は日常茶飯事だったわよ」

サトコ
「そう、なんですか···」

(あの穏やかそうな人が、純恋ちゃんを罵って叩いてた?)

サトコ
「純恋ちゃんは誰かに助けを求めたりは···?」

女性C
「純恋ちゃんもほら、ドンくさい子だったから···」

女性A
「夜にフラついたり危ない子よね~」

会話と表情から、純恋ちゃんもよく思われていないことがわかる。

(あの子は···)

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蔀純恋
「私、バカなので···」

二言目には、自分をバカだと言う純恋ちゃん。
それを染みつかせたのは···

<選択してください>

茶円

(茶円···かと最初は思ったけど、違う)
(純恋ちゃんはもっと子どもの頃から···ご両親が出て行ってから、かもしれない)
(薔子さんにずっと、バカだって言われ続けてたのかも)

薔子

(薔子さんだ。どんな事情があったのかは、わからないけど)
(純恋ちゃんは薔子さんにバカな子だって言われて育ったのかもしれない)

学校の友達

(学校の友達···は、違う。学校でも辛い立場だったのは確かだろうけど)
(純恋ちゃんの自己肯定感があんなにも低いのは、もっと子どもの頃から···)
(薔子さんが、純恋ちゃんをああしてしまったのかも)

(たったひとりの家族だったおばあさんから罵倒されて)
(近所の人からもよく思われてない···学校では、クソビッチなんて言われて···)
(居場所が、ない···)

なら、純恋ちゃんの居場所は?
彼女はホテル街で会った時にーー

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蔀純恋
「私も捕まえてください···」

(助けてほしくて···?)
(居場所が欲しくて、捕まえて欲しいって言った?)
(いや···)

ずっと抑圧されていた彼女、
もしも、もしも···
ーー彼女が、想定以上の強かさを持ち合わせていたとしたら。

(純恋ちゃんの裏は···)

翌日、再び純恋ちゃんの聴取が行われることになった。

津軽
いける?

サトコ
「はい」

私の手には、昨日、夜遅くまでかけて作った、蔀純恋に関する新しい資料があった。

津軽
俺と同じ答えを出してないなら、引っ込んでてもらうつもりだったけど···

津軽さんが目を向けたのは、私が持っているファイル。
朝イチで津軽さんにも目を通してもらっている。

津軽
ウサが自分で、そこまで辿り着くとはね

サトコ
「表にあるものだけが全てじゃない···ですから」

津軽
···だね。いいよ、行ってきな

ふっと微笑み、ぽんと背中を押される。
『好き』は消えても、部下として認めてもらえている。

(よし、行こう!)

恋人への道は途絶えても。
彼の部下という肩書の元で、私は強くなっていく···なって、いきたい。

to be continued

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