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ラブストーリーはカレから突然に ~加賀~ カレ目線



【個別教官室】

サトコが補佐官の仕事を終わらせる頃に、俺は教官室に戻ってきた。

サトコ
「あっ、教官。お疲れ様です」

加賀
ああ。資料のまとめは終わったんだろうな?

サトコ
「はい、バッチリです!」

加賀
そうか、そこに置いとけ。お前の今日の仕事は終わりだ

サトコ
「はいっ、お疲れ様でした。お先に失礼します」

サトコは元気に言うと、軽い足取りで教官室を出て行った。

加賀
あいつ、なんであんな上機嫌なんだ?

(‥ああ、そういえばさっきなんか言ってたな)

加賀
今度のテスト、確かお前の苦手なとこだったな
それでもしトップになれたら、デートしてやるよ

サトコ
『えっ、いいんですか!?』

加賀
思いつきで言ったが‥

(あいつ、本気にしてんのか)
(そういや、付き合い始めてからデートなんてほぼ行ったことなかったか‥)
(あいつも自分の立場を分かってるし、文句も言わねぇが‥)
(デートの話を持ち出したら、やけに嬉しそうだったな)

加賀
たまには褒美をやらねぇとな

俺はそうひとりごちながら、残りの仕事に取り掛かった。

【個別教官室】

それから数日後。
急な任務が入った俺は、いつも以上に慌ただしく動いていた。
すると、サトコが教官室にやってきて、俺の前にテスト用紙を広げる。

サトコ
「教官、見てください!トップを取りましたよ!」

加賀
お前は俺の補佐官だろ。そのくらい当たり前だ

(そういや、今日がテストの返却日だったか‥)
(くそっ、この忙しい時に‥)

サトコ
「うっ‥そうだとしても、トップですよトップ!約束、覚えてますよね?」

加賀
あ?

サトコ
「次のテストでトップをとったら、デートしてくれるって」

加賀
クズが。たかが小テストだろ

サトコ
「えぇっ!?で、でも‥」

加賀
同じことを何度も言わせるな
それよりも、お前にはやることがあんだろ

サトコ
「はい‥すみませんでした」

サトコはデートができないことに落ち込んだのか、がくりと肩を落とす。
そこへ外から歩の声が届く。


加賀さん、ちょっといいですか?

加賀
ああ、今行く
おい、今日はそこの資料をまとめとけよ

サトコ
「はい‥」

気のない返事をするサトコをそのままに、俺は現場に向かった。

現場に向かう途中、歩は笑みを浮かべながら話しかけてくる。


サトコちゃんと何かあったんですか?

加賀
あ?


落ち込んでるように見えましたけど

加賀
知らねぇよ


せっかくテストでトップをとって喜んでたのに
あの落ち込みようだから何かあったのかなって思いまして

加賀
俺には関係ねぇ


関係ない、ねぇ。サトコちゃんもかわいそうだな

加賀
もったいぶってんじゃねぇよ。さっさと言え


おえ、特にありませんよ。あっ、そろそろ現場に着きます

加賀
ったく‥

(まぁ、歩の言う通りではあるか)
(アイツ、分かりやすく凹んでたしな)
(そのうち埋め合わせでもしてやるか)

【廊下】

数日後。
廊下を歩いているとサトコを見つけ声を掛けると、目の前にチケットを広げられた。

サトコ
「あの!これ‥行きませんか?」

俺はサトコからチケットを取ると、まじまじと見る。

加賀
ナイターのチケットか

サトコ
「教官がよかったら‥ですけど」

加賀
野球か‥まぁ、悪くない

サトコ
「悪くないって‥あっ、加賀教官!」

加賀
予定、空けとけよ

強引に話を切り上げ、教官室へと向かう。

(ちょうど仕事も片付いたところだちょうどいい)
(‥野球を観るのも久しぶりだな)



【野球場】

当日。
レストランに行き、その後映画に行った俺たちは、ナイターにやってきた。

サトコ
「わぁ、すごい!また打った!」

加賀
ああ。今の一点はでかいぞ

サトコ
「あと少しで追いつきますね!」

サトコは子どものようにはしゃぎながら、グラウンドを見つめている。

サトコ
「あ、ついに追いつきましたね!」

加賀
ここからが正念場だろ。ここで気を抜いたら、またすぐ差がつく

サトコ
「そうなんですか?」

加賀
ああ

つい説明的になってしまったが、サトコはキラキラとした目で俺の話を聞いている。

(ったく‥無邪気な顔しやがって)

加賀
女は野球なんか見ねぇよな

サトコ
「ありますよ!なので大体のルールは知ってます」
「だけど、戦術とかそういうのはあまり詳しくなくて‥」

加賀
そうか

その後もサトコは俺の話を興味深そうに聞いている。

(こいつ、野球の事には全然詳しくねぇのに、あれだけ騒いでたのか)
(‥酒を飲まなくても酔えるタイプだな)

サトコ
「それじゃあ、この場合は‥」

加賀
ああ、それは‥

(アニメの映画を観に行こうって言われた時はどうしようかと思ったが‥)
(こいつの楽しそうな姿を見てると、こっちまでつまんないもんも楽しく見えてくる)

加賀
‥あ?

視線を感じてサトコを見ると、じっと俺のことを見ているようだった。

サトコ
「‥‥‥」

無意識なのか、見つめあっている状況にサトコも気づいていない。

いつもならバカみたいに真っ赤になるっつーのに)

俺はいたずら心が動き、サトコの腰を抱き寄せる。

加賀
‥人に見られる方が興奮するんだったか

恥ずかしさが勝ったのか、サトコは俺から顔を背ける。

加賀
何、横向いてる

サトコ
「そ、そんなこと言われても、ひ、人が‥」

(初々しいつうか、なんつうか‥飽きねぇな‥)

本気でキスしてやろうかと距離を詰めた瞬間‥‥

サトコ
「あ、打った!教官!」

加賀
あぁ?

サトコ
「見てください!バッターが打ちましたよ!」

バッターが打ったボールはどんどん伸び、こちらに向かって飛んでくる。
そして‥‥

パシッ!

サトコ
「見てください!ホームランボールですよ!キャッチできました!」

サトコは見事にボールをキャッチし、ピョンピョン跳ねるようにはしゃぎ始める。

はぁ‥こいつは‥)
直前まであんな状況だったっつうのに)

必死に俺にボールを見せるサトコの笑顔に、オレも自然と笑みがこぼれた。



【ホテル】

あの後、雨が降り始めてナイターが中止になり、
俺は予約していたホテルにサトコを連れてきた。
ごたごた言うサトコを無理矢理シャワー室に押し込む。

加賀
遅ぇ

サトコ
「す、すみま、せん‥」

長風呂から出たサトコの顔は赤く、俺はベッドまで運んでやった。

加賀
大丈夫か?

バシッ!

少し強引に頭を撫でると、サトコは俺の手を振り払った。

(なんか言いたい顔してんな)
大方、またくだらねぇことでも考えてんだろ

俺の予想通り、
サトコは『俺の過去の恋愛』を答えが出るわけでもないのに考えていたらしい。

加賀
お前は本当にバカだな

サトコ
「あっ‥」

加賀
過去に嫉妬したって仕方ねぇだろ

サトコ
「んっ‥」

強引に唇を重ねると、次第にサトコの身体から力が抜けて行った。

加賀

‥悔しかったら、俺の中に入り込んでみろ

サトコ
「っ!き、教官だって‥ちゃんと捕まえていないと知りませんから!」

加賀

ちゃんと捕まえてないと知らない、か‥上等だ

サトコ
「んっ‥」

俺は息ができないほどのキスをサトコに与える。

十分、俺の彼女してんじゃねぇか‥だけど、まだまだだな
覚悟、しとけよ?)

【個別教官室】

数日後。
俺はこの前サトコからもらったボールを手に取り、それを眺める。

普通の女だったら避けてんだろ
嬉しそうにはしゃぎやがって

ボールをキャッチしたときのサトコの笑顔を思い返す。

サトコ
『教官、見てください!ホームランボールですよ!キャッチできました!』

加賀
くくっ‥

俺はデスクの一角にボールを置く。
それからしばらくして、サトコが教官室にやってきた。

サトコ
「あの、教官‥」

加賀
なんだ

サトコ
「‥‥‥」

(コイツ、なんでこんなにビクついてんだ)

加賀
話があるならさっさと話せ

サトコ
「は、はい‥」

それからサトコはテストでいい点をとれなかったと嘆き始めた。

加賀
この前トップをとったと言ってたのはどこのどいつだ?

サトコ
「す、すみません‥」

加賀
俺の補佐官がこんな点数取ってんじゃねぇよ、クズが

サトコ

「はい‥」

バカでグズで鈍感で
なんでもかんでも空回りしやがる

俺の補佐官だというのに、仕事もできねぇ、勘もよくねぇ、おまけに色気もねぇ。
こんなヤツが自分の配下にいることが、始めは不思議でならなかった。

がむしゃらで、一生懸命で、前向きで

気づいた時には自分の中で特別な存在になっていた。
そう思ったのはいつからだったか‥

相変わらず、色気の方は成長してねぇが
‥今じゃ心配で目も離せねぇ

そんなサトコのことを愛おしいと、可愛いなどとがらにもないことを思いながら、
俺はどうコイツに仕置きをしてやろうと意味ありげに笑みを浮かべたーー

Happy End

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