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出会い編 石神 シークレット1

エピソード 4.5

「恥ずかしの教官室」

【廊下】

(はぁ‥うっかりしてた‥)

(今日中って言われてたのに‥!)

自主練としてトレーニングルームで走り込みをした後、教官室へ向かう。

手には総務部へ提出する書類を抱えていた。

【教官室】

サトコ

「失礼します」

(タ‥タイミング間違えたかも‥)

そこには石神教官以外の教官たちが勢ぞろいしていた。

(私にはまだ敷居が高いというか‥)

とにもかくにも、背筋がピンと伸びる。

サトコ

「あの、石神教官は‥」

颯馬

先ほど本部に戻られましたよ

サトコ

「そうでしたか‥」

教官に渡す書類をどうしようかと思っていると、

パソコンから顔を上げた東雲教官と目が合う。

東雲

ああ、その書類早く出せってうるさく言われてるんだよね

オレが預かってあげようか

サトコ

「お願いしてもいいでしょうか‥」

東雲

うん。いいよ

サトコ

「すみません」

東雲

預かる代わりに、なにかしてもらうけどね

サトコ

「えっ‥?」

東雲教官は意味深な顔で私を見ている。

後藤

‥歩。遊んでやるな

颯馬

そうですよ。顔が引きつってるじゃないですか

加賀

‥‥‥

(‥からかわれてたんだ)

(や、やりづらい‥)

加賀教官に至っては、まったく眼中にない様子で、不機嫌そうに手元の書類を眺めている。

東雲

それにしてもサトコちゃん、この数十秒でどっと疲れてない?

颯馬

フフ‥石神さんがいないと落ち着かないんですね

サトコ

「そ、そういうわけじゃ‥」

東雲

へぇ、あの人にそんなに懐く子いるんだ。透が泣くかもね

サトコ

「いや、べつに懐いてるわけじゃ‥」

後藤

少なくとも、あの人相手にビビらずにやり合うことは誰にでもできることじゃない

女となればなおさらだ

颯馬

ええ。大したものだと思いますよ

サトコ

「ありがとうございます‥?」

(でも石神教官ってああ見えて、意外と話しやすかったりするんだけどな)

(黙ってたら怖いし、一歩間違えれば鬼になるけど‥)

後藤

それに、あのバカも大人しくなるだろうし助かる

東雲

あのバカって透?

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後藤

それ以外に誰がいる

東雲

ハハッ、大人しくなるどころか、ライバル心が芽生えて余計に騒がしくなりそうだけど

後藤

‥‥‥

(すっごく嫌そうな顔してる‥)

加賀

サトコ

「!」

突然、苛立った様子で立つ加賀教官に、ビクッと肩が跳ねた。

東雲

はい?

加賀

こんなめんどくせぇことはメガネ野郎に回せ

放り投げるように書類を手渡すと、加賀教官は個室へと引っ込んでいく。

加賀

‥‥‥

(な、何‥?無言の圧力が怖い‥!)

すれ違いざまに凝視された気がして、ますますビクついた。

ガチャ。

ドアが開く音に振り返ると、今度は石神教官が戻ってくる。

颯馬

お早いお帰りですね

石神

ああ

東雲

これ、サトコちゃんから預かってますよ

あと、これも

サトコ

「あ‥お願いします」

石神

‥‥‥

表紙だけをサッと見て、何も言葉を発することなく受け取る。

そして、東雲教官からの書類を見て怪訝な顔をした。

石神

‥‥‥

(さっき加賀教官が言ってた書類だよね‥)

サトコ

「で、では私はこれで‥」

石神

待て

サトコ

「はい‥」

石神

ここに居るからには暇だということでいいな

サトコ

「‥はい?」

【個別教官室】

訳のわからないまま、石神教官の個室に通される。

サトコ

「あの‥」

石神

任せた

サトコ

「え‥」

否応なく差し出されたリストを手に取ると、明日から始まる特別訓練について書かれていた。

(警察庁警備局警備企画課・総合情報分析室室長‥)

(すごい偉い人の講演があるんだ‥)

サトコ

「ええっ!?」

(候補生分の資料が膨大すぎ‥!)

(もしかしてこれを私に用意しろってこと‥?)

サトコ

「あのぅ‥これって」

石神

遠慮せずコピー機をフル稼働させろ

サトコ

「‥はい」

(鬼すぎる‥)

軽く眩暈を覚えながらも、黙々と作業するほかない。

石神教官が報告書らしきものに目を通している間、部屋の中はコピー機の音だけが響いていた。

(よし、あと1種類で終わる!)

作業の終わりが見えて来て、ホッとひと息つく。

黒澤

あれー?サトコさんじゃないですか!

こんにちは~

サトコ

「黒澤さん、お疲れ様です」

石神

‥‥‥

石神教官は突然の訪問者に、容赦ない鋭い視線を向ける。

石神

何をしに来た

黒澤

やだなぁ。難波室長に頼まれて、加賀さんに届け物を渡しに来ただけですよ☆

石神

この部屋に来る必要はないだろう

黒澤

せっかく来たんですから、顔くらい見に来てもいいじゃないですか~

なんか石神さん、最近冷たくありませんか?

サトコさんばっかり構って、オレちょっと妬‥

石神

‥‥‥

黒澤

ウソですってば、やだな~

サトコ

「ふふっ」

なんだかんだで仲のいい雰囲気に吹き出すと、黒澤さんがなぜか首を傾げる。

黒澤

って、あれ、サトコさん‥襟が片方立ってますよ

サトコ

「え!」

(わ!ホントだ‥)

自主練のあと、急いで着替えたためだろうか。

慌てて襟を直していると、石神教官がため息混じりにPCに向かう。

こんなマヌケな状態で、さっきまで教官室で喋っていたのかと思うといたたまれない。

石神

身だしなみくらいちゃんとしろ

サトコ

「う‥」

(返す言葉もない‥)

黒澤

これくらい可愛いものじゃないですか。オレなんてこの間‥

石神

お前と比べるな。さすがに気の毒になる

黒澤

ええ~それはオレが気の毒じゃないですか?

石神

お前は用が済んだのならさっさと行け

黒澤

「‥なんだかオレのポジションが危うくなってきた気がするなぁ

サトコさん!負けませんからね!

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サトコ

「ええっ?」

ニコッと笑って、黒澤さんが部屋を出ていく。

嵐が去ったみたいに、また部屋の中が静かになった。

サトコ

「黒澤さんって、石神教官のことが大好きなんですね」

石神

気味悪いこと言うな

サトコ

「いいことじゃないですか」

石神

‥お前は黒澤のようにはなってくれるなよ

やかましいのが増えるのは困る

(私もそこまで大人しいわけじゃないし‥)

(どうなんだろう‥)

サトコ

「では、考えておきます!」

石神

‥先が思いやられるな

げんなりとした様子で言うものの、いつものような冷徹ビームは飛んでこない。

(少しはまともに働ける専属補佐官にならなきゃね‥!)

そんなことを思いながら、残りの作業を静かに再開させたのだった。

End

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