莉子
「私は隅々まで知ってるわよ。秀っちのこと」
「教えてあげましょうか」
たった今会ったばかりの莉子さんの微笑みの意味が、すぐには理解できない。
(隅々までって‥)
嫌な予感に、小さく拳を握りしめる。
サトコ
「‥‥‥」
(もしかして、莉子さんって石神教官の‥)
なんとなく莉子さんを直視できなくて、少し俯いた時‥‥
莉子
「なーんて、冗談よ」
「ウフフ~やっぱりそうなんだ!」
サトコ
「へ‥?」
莉子さんはカラッと笑うと、楽しそうに肩を揺らした。
莉子
「ごめんなさいね。まさかそんなに固まっちゃうとは思わなくて」
「隅々まで知ってるなんてウソよ、ウソ」
サトコ
「うそ‥?」
莉子
「ふふ」
(なんだ‥ウソなんだ‥)
莉子
「あらあら、あからさまにホッとしてるじゃないの?」
サトコ
「!」
莉子
「そんなに秀っちのこと好きなのね?」
サトコ
「な‥っ」
莉子
「行動心理学上、瞬きの回数は緊張の度合いを示す」
「視線をキョロキョロと忙しく動かすのは不安や警戒の現れ」
サトコ
「!!」
(心理学‥!?)
(そっか‥莉子さんはそのスペシャリストだもんね‥)
(隠せるわけないか‥)
もう、見透かされ過ぎてどこかに隠れたくなる。
莉子
「ウフフ、その髪を撫でる仕草なんてもう自己親密行動でしかないわね」
「秀っちへの恋心は隠したい感じかしら?」
サトコ
「‥‥‥」
何度か口をパクパクさせて、やってとのことで口から声が出た。
サトコ
「ま、参りました‥」
莉子
「で、秀っちのどこが好きなの?」
サトコ
「ど、どこって‥」
サトコ
「‥‥‥」
(そんなの口に出したことないし、どうしたら‥)
莉子
「やだ、なんだか私まで甘酸っぱいじゃない」
「それにこの健気な姿‥」
「気に入ったわ、サトコちゃん!」
サトコ
「へ?」
莉子さんは、今度は大真面目な顔で私の両手を握る。
莉子
「いつでも相談にいらっしゃい。応援するから」
サトコ
「え、でも‥」
「相手は教官ですし、私はこっそり片思いでいいと‥」
莉子
「何言ってるの!若い女の子のセリフじゃないわ!」
「いい?相手が鬼で嫌味な冷徹教官であろうが何だろうが、好きなら好きでいいのよ」
サトコ
「莉子さん‥」
莉子
「ね?」
サトコ
「‥ありがとうございます」
何度も頷いて浮かべる笑顔が、
今度は裏なんて考え隙もないくらいとても優しく見えた。
莉子
「さて、楽しくなってきたわ!仕事しよーっと」
サトコ
「そういえば、莉子さんの専門って‥」
莉子
「体液よ♪」
サトコ
「た、体液ですか‥?」
莉子
「人体の神秘が詰まってて好きなのよね~」
サトコ
「そ、そうなんですか‥」
(なんだろう‥女版黒澤さんっていうか、ものすごくパワーのある人だなぁ)
(こんなにキレイなのにサバサバしてて話しやすいし‥)
(相談‥か、困ったら聞いてもらおう!)
サトコ
「では、私もこれで失礼します」
「コーヒー、ごちそうさまでした!」
莉子
「また、いつでもいらっしゃい」
サトコ
「はい、ありがとうございます」
冷やかすでも、からかうでもなく、莉子さんがふわりと微笑む。
頭を下げると、堅苦しいのはやめてと頭をポンと撫でられた。
【学校 廊下】
(いきなり館内放送で呼び出されるって何だろう‥)
(な、何かやらかしたのかな私‥)
粛々とカリキュラムをこなしていたある日。
資料室での予習中に教官室に呼び出され、変にドキドキしながら廊下を急ぐ。
【教官室】
サトコ
「失礼しま‥」
(う‥帰りたい‥!)
一度開けたドアをもう一度締めたくなるくらい、教官室は何やらピリピリしていた。
石神
「さっさと入れ」
サトコ
「な、何かご用でしょうか‥」
加賀
「お前、人のこと言えねぇだろ。強引に進めやがって」
石神
「もう決定事項だ」
加賀
「完全にマトリとバッティングするじゃねぇか。組対五課も黙ってねぇぞ」
石神
「知ったことか」
サトコ
「‥‥‥」
加賀教官がとても不機嫌なことだけは分かるけれど、訳が分からない。
(マトリ‥?組対五課‥?)
麻薬取締官に、組織犯罪対策五課が一体なんだというのか‥
(とりあえず麻薬が絡む捜査のことでモメてるのかな‥?)
石神
「氷川には捜査に同行してもらう」
サトコ
「はい‥え、ええっ!?」
不意に振られた話に思いきりたじろぐ。
東雲
「はぁ。これだから公安は煙たがられるんだよ」
加賀
「コイツの場合は公安云々以前に煙たい」
颯馬
「フフ‥でも、サトコさんにとってはいい経験になるんじゃないですか?」
石神
「とにかく決定事項だ。明日丸一日、外出届を出しておけ」
サトコ
「あ、明日の分の講義は‥」
石神
「どうせ予習だ何だで俺が付き合うんだ。問題ない」
サトコ
「はい‥」
(なんか色々と唐突過ぎて‥大丈夫かな私‥)
東雲
「へぇ、すっかりいい感じにまとまってるんだね」
サトコ
「え‥?」
颯馬
「ええ。専属補佐官がすっかり板についてます」
<選択してください>
サトコ
「そ、そうですか?」
石神
「そんなわけないだろう」
サトコ
「もう少し優しくしてくれても‥」
颯馬
「石神さん相手にそういうやりとりができるあたりが、褒められるところですよ」
サトコ
「‥だそうです」
石神
「調子に乗るな」
サトコ
「ありがとうございます!」
加賀
「こんな冷徹野郎に懐くとは、お前も相当ドMだな」
サトコ
「な‥!加賀教官の専属補佐官ほどじゃありません」
東雲
「ハハッ、言えてる」
石神
「そもそも懐かれてはいないだろう」
サトコ
「そんな‥まだまだです」
石神
「分かっているようだな」
サトコ
「一応は弁えてます」
東雲
「従順で扱いやすそうだもんね、サトコちゃんって」
サトコ
「そんなことは‥あるかもしれませんね。単純ですし」
石神
「扱いにくいことこの上ないじゃじゃ馬だ」
石神教官の声を遮るように、バンと豪快にドアが開く。
サトコ
「!」
黒澤
「サトコさーん!石神班へようこそ~☆」
後藤
「‥黒澤」
温度差の激しい黒澤さんと後藤教官が入ってきた。
加賀
「何がようこそだ。くだらねぇ」
「使える女くらいSで賄え」
黒澤
「加賀さん厳しい!」
「別にいいじゃないですか~」
「意思相通バッチリなサトコさんだからこその大抜擢ですよ」
後藤
「まぁ、そうだな」
サトコ
「あの、まだよく分かっていないんですが、なおさら荷が重すぎる気が‥」
後藤
「俺たちが追っている組織の一端に、女子大生を相手に薬を売り捌いている男が浮上した」
「確実に捕まえて情報を聞き出したい」
サトコ
「‥つまり、私は女子大生役ってことですか?」
黒澤
「そういうことです。そしてマトリなんかに先を越されれば」
「オレたちが欲しい情報が得られない可能性が高いので‥」
「サトコさんも一緒に煙たがられましょうね!」
後藤
「どんな勧誘だ‥」
石神
「まあ、概ねそんなところだ」
サトコ
「は、はい‥」
(頑張らなきゃ‥)
大きすぎる不安をごまかすように、ギュッと拳を握った。
【カフェ】
石神
「‥‥‥」
サトコ
「あの、顔怖いですよ」
女子大生に扮した私の前で、石神教官は眉間に皺を寄せている。
石神
「何故俺なんだ」
サトコ
「仕方ないじゃないですか」
「後藤教官も黒澤さんも、長い期間追尾してたから、面が割れてる可能性があるって‥」
「颯馬教官は講義抜けられませんし」
石神
「お前1人で行けば済む話だろう」
「カップルでいる意味がない。いいところ兄妹でいいだろ」
サトコ
「‥‥それはそうですけど」
(黒澤さんが完全に悪ノリしてたしね‥)
若い女性に人気の、なかなかファンシーなカフェに、仏頂面の石神教官。
顔を突き合わせて小声で話すものの、照れよりもちぐはぐな背景に笑ってしまう。
サトコ
「‥ふふっ」
石神
「覚えていろ」
サトコ
「す、すみません‥」
(だって、全然似合わなくてちょっと笑っちゃう‥)
サトコ
「あ、このパンケーキ美味しいですよ?」
甘党の教官には口に合うだろうと、ふわふわのパンケーキのお皿を差し出す。
石神
「‥‥‥」
サトコ
「あれ‥あんまりお好きではないですか?」
「こっちのフルーツみつまめと交換しましょうか」
石神
「こっちでいい」
(石神教官はみつまめよりパンケーキ派なんだ‥)
石神
「和菓子は加賀の顔を思い出すからな」
サトコ
「え‥そんな理由でですか?」
石神
「アイツは大福マニアだ」
サトコ
「‥‥‥」
(食べ物でくらい張り合うのやめればいいのに‥)
笑ってしまいそうなところを、咳払いでごまかす。
石神教官は眉間に皺を寄せたまま、さりげなく店内に視線を巡らせた。
(それにしたって、こんな麻薬とは無縁に見える場所で取引だなんて‥)
(許せない!)
石神
「‥その様子だと、ポーカーフェイスというものは無縁だな」
サトコ
「う‥これから身に付けます。たぶん」
石神
「期待しないでその日を待つとしよう」
サトコ
「‥‥‥」
店員
「コーヒーをお持ちしました」
「よければ、カップルのお客様にはこちらをサービスしております」
コーヒーと共に、ラッピングされたクッキーが差し出される。
(か、カップルに見えるんだ‥)
サトコ
「あ、ありがとうございます」
石神
「いいところ保護者だろう」
サトコ
「そこまで子どもじゃないです」
相変わらず仏頂面のまま、教官はコーヒーを手に取る。
その瞬間、インカムから後藤教官の声が聞こえた。
後藤
『氷川、今入ってきた黒髪の女だ』
黒澤
『連れの男は表の車で待機中。一気に行きましょう』
サトコ
「はい」
石神
「‥‥‥」
石神教官の後ろの席に、黒髪の女性が座る。
(タイミングを間違えれば、黒澤さんたちの1ヶ月が水の泡になる‥)
被疑者確保は、全てが見える私の合図にかかっていた。
【学校 教場】
翌日。
事後処理に当たる石神教官の代理で、午後は後藤教官の講義になった。
後藤
「今日の講義は以上だ」
生徒
「ありがとうございました!」
(あ!レポート提出しなきゃ‥!)
教場を出ていく後藤教官の後を追いかける。
【廊下】
サトコ
「後藤教官!」
後藤
「なんだ」
サトコ
「すみません、レポートを‥」
後藤
「ああ、預かる」
サトコ
「お願いします」
後藤
「‥昨日はよくやったな」
「思っていたより手際が良くて少し驚いた」
サトコ
「いえ、それは石神教官がいたからで‥」
私の視線ひとつで合図を読み取ってくれた石神教官は、即座に女の逃げ道を塞ぎ‥
突然現れた暴力団関係者と思われる仲間も、鮮やかに取り押さえた。
(私がしたことといえば、お店のお客さんの避難指示と)
(すでに伸びてた男に手錠をかけたくらいだし‥)
同じ方向に歩きながら考えていると、隣でフッと笑う気配を感じる。
後藤
「咄嗟の状況判断は褒めてやれる」
サトコ
「あ、ありがとうございます!」
後藤
「黒澤の悪ノリに突き合わせたのは申し訳なかったが‥」
「‥でも、アンタと関わり出してから、少しだが石神さんが変わった気がする」
サトコ
「え‥?」
(それってどういう意味だろう‥)
後藤
「いい意味で言ったまでだ」
サトコ
「ふふっ、そうですね。最初に比べれば随分と話しやすくなった気がします」
後藤
「そうか」
サトコ
「あの‥」
(こんなチャンス滅多にないし、今なら聞いていいかな‥)
後藤
「なんだ?」
サトコ
「あの、石神教官って‥」
<選択してください>
サトコ
「昔からああなんですか?」
「なんというか、あんまり自分を見せないっていうか‥」
「もちろん、仕事柄仕方ない部分なのかもしれませんけど‥」
後藤
「そうだな‥俺が石神さんに引っ張って来られた時には、もう今の石神さんだった」
「それまでのことは俺も知らないし、聞くこともないだろう」
サトコ
「誰にでもあんな感じなんですか?」
「あんまり人を寄せ付けないっていうか‥」
後藤
「公安の刑事なんてそんなものだろう」
「黒澤みたいなのは天然記念物だとでも思っておけ」
サトコ
「やっぱりそうですよね」
「今までの石神教官がどうだったのか、少し気になっただけなんです」
後藤
「俺も昔のことはよく知らない」
サトコ
「‥実は優しいですよね」
後藤
「‥まぁ、俺はそれには同意しておくか」
サトコ
「分かりにくいですけどね」
後藤
「そうだな」
サトコ
「分かりにくいから、なんとなく気になってしまいまして‥」
後藤
「あまり自分のことは話さない人だからな。俺も部下になる以前の石神さんのことは知らない」
サトコ
「そうですか‥」
(こんな仕事してなくても、自分のことを語る人とは思えないよね‥)
【階段】
サトコ
「では、私はこっちなので‥」
後藤教官と別れようと立ち止まると、下から軽快な足音が上がってくる。
黒澤
「あ、後藤さ~ん!早く行きますよ!」
「おっとサトコさんも一緒だったんですね」
「こんにちは」
サトコ
「お疲れ様です」
後藤
「‥‥‥」
黒澤
「石神さん、しばらく本部から動けないんで」
「サトコさんは鬼の居ぬ間に羽を伸ばしてくださいね!」
ニコッと笑う黒澤さんに対して、少し寂しい思いもあった。
サトコ
「やっぱりしばらくは本部なんですね‥」
「石神教官がいない間に、少しは賢くなっておきます」
(予習と復習は自分でしっかりやらないと)
黒澤
「ご、後藤さん‥」
後藤
「なんだ」
黒澤
「サトコさんが健気です‥」
後藤
「お前と違っていい心がけだ」
黒澤
「う‥おっしゃる通りで‥」
「サトコさん、頑張ってくださいね!」
サトコ
「はい」
2人の背中を見送って、寮へと向かう。
と、足を一歩踏み出したところで胸ポケットの携帯が震えた。
【科捜研】
電話の相手は、莉子さんだった。
(まさかまたここに来ることになるなんて‥)
莉子
「サトコちゃん!ごめんなさいね、急に」
サトコ
「いえ、予定もなかったので大丈夫です」
莉子
「そうそう、秀っちも本部に缶詰なんだってね」
「兵吾ちゃんもなぜか捕まらないから、サトコちゃんに来てもらったんだけど‥」
「これ、秀っちに渡してもらえる?」
サトコ
「あ、はい」
前と同じような封筒を手渡される。
サトコ
「あの、今度いつ教官と会えるか分かりませんし、本部に送った方が早いかも‥」
莉子
「それがそういうわけにもいかなくてね」
サトコ
「え‥」
莉子
「足がつくと面倒だしね」
「秀っちも、サトコちゃんなら信頼できると思ってこの間ここへ来させたんだろうし」
(内密なやりとり‥なのかな)
(独自捜査とか‥?)
莉子
「お願い、ね?」
サトコ
「わ、分かりました!」
莉子
「それで?秀っちとはその後どうなの?」
(秀っち‥)
何度聞いても、やっぱりこの呼び名に慣れない。
サトコ
「その、ひ、秀っちというのって‥」
莉子
「あら、ごめんなさいね。昔からずっとこの呼び方なのよ」
「これでも同期なの」
サトコ
「同期‥」
(ってことは、石神教官の過去を知ってるってことだよね‥)
コーヒーを片手に、完全に休憩モードの莉子さんが首を傾げる。
莉子
「なになに?何か進展でもあったの?」
サトコ
「いえ、それは皆無なんですけど」
莉子
「あら、残念。けど、何?」
首を傾げる莉子さんに、そっと口を開く。
サトコ
「あの‥石神教官って昔からああなんですか?」
莉子
「根暗だって話?」
サトコ
「い、いえ!そこまでは言ってないです」
莉子
「ふふ、そっか。昔の話なんて知ってる人、なかなかいないもんね」
サトコ
「前に‥恋愛なんて邪魔なだけだって行ってたことがあって‥」
「最初は、石神教官らしい合理的な考え方だなって思ったんです」
莉子
「‥そうね」
サトコ
「でも、恋愛も悪くないものだって話をした時、なんだか表情が曇って見えたんですよね」
“‥俺には分からない感情だな”
その声が、ひどく寂しそうに聞こえた。
サトコ
「きっと、そういう考えに行きつくまでに何かきっかけがあったんだと思うんです」
「石神教官は厳しいけど、厳しいだけじゃなくてこう‥」
「上手く言えないけど、根っこの部分は優しいし」
「それに気付いたら、私みたいに教官を好きになる人なんていくらでもいるはずなんです」
そこまで言ってハッとする。
サトコ
「う‥すみません、つい」
莉子
「ウフフ、ごちそうさま」
(熱弁しちゃった‥恥ずかしい‥)
莉子
「秀樹、恋愛が邪魔だ、愛が邪魔だって言うけど」
「結局は臆病なだけなのよ。ちゃんと知ろうとしないだけ」
サトコ
「え‥」
莉子
「どうしてそういう考えに至ったのか‥それは私が口にすることじゃないけどね」
(莉子さんは何か知ってるの‥?)
(臆病って、どういうことだろう‥)
サトコ
「‥やっぱり、聞かなかったことにしていいですか?」
「誰だって詮索されたら嫌な気分になるし、触れられたくないことだってありますよね」
莉子
「‥‥‥」
莉子さんは少し驚いたように目をパチクリさせて、それからうんと優しく微笑んだ。
莉子
「やっぱり私、サトコちゃんのこと好きよ」
「アイツのことそうやって気にかけてくれる女の子なんて、あなたくらい」
サトコ
「え、そうなんですか?」
「教官はキャリアで、仕事もできるしモテそうなのに‥」
莉子
「でもあの冷徹っぷりを見ればだいたいの女の子は逃げるでしょ」
サトコ
「‥‥‥」
莉子
「ふふっ、その辺サトコちゃんは強いわよね」
サトコ
「強いというか慣れたというか‥」
???
「お前たちがそんな仲になっていたとは知らなかったな」
サトコ
「!」
突然、聞き慣れた声が背後から聞こえる。
莉子
「あら秀っち。来てたの」
「音もなくドアを開けるのやめなさいって何度も言ってるじゃない」
石神
「ノックはした」
莉子
「あら、盛り上がりすぎちゃって聞こえなかったわ。ごめんなさいね」
石神教官はドア付近に立ったまま、私たちに視線を向けている。
サトコ
「石神教官‥」
石神
「‥‥‥」
(もしかして今の話、聞かれてた‥?)
何も言わない石神教官に、瞬きを繰り返すしかできない。
手のひらに、じわりと汗を握った。
to be continued