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Ishigami’s Home 3話

そして週末。

今日はターゲット宅にランチに招かれている。

私たちは打ち合わせをしながら準備をしていた。

サトコ

「お土産のお菓子は持ったし‥忘れ物はないですよね」

石神

ああ、こういったケースの場合、食事に招いて麻薬を勧めてくることもあるからな

レコーダーを仕込んでいく。そういった話が出たら‥

最後まで話をさせて、物証を出して来たら現行犯逮捕だ

サトコ

「了解です」

石神

あとは‥くれぐれも夫婦だということを忘れないようにな

サトコ

「はい!」

【笹岡宅 リビング】

笹岡さんは料理が得意のようで、並ぶ料理はレストランのようだった。

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サトコ

「本当に美味しかったです!笹岡さん、お料理の教室に通ってらしたんですか?」

笹岡妻

「ええ。もう10年も前の話ですけど‥食後のコーヒーをお淹れしますね」

食卓テーブルからリビングのソファに場所を移動し、私は石神さんと並んで座った。

笹岡

「今日は妻がすみません。せっかくのお休みなのに」

石神

いえ、お邪魔したのは私たちの方ですから‥ご迷惑をおかけしたのは、こちらかと‥

笹岡

「とんでもない!妻のせいで奥様がお怪我をされたそうで‥お加減は?」

サトコ

「ただの捻挫ですから、気にしないでください」

石神

昔から、そそっかしいところのある妻で‥

サトコ

「っ‥そ、そうなんです!いつも秀樹さんに心配ばかりかけてしまって‥」

夫婦らしく‥と、石神さんの腕に手を掛けてみせる。

石神

放っておけないのは、出会った頃から変わらないな

サトコ

「!?」

フッと苦笑いする石神さんは、とても演技に見えない。

むしろ、反応を楽しんでいるような‥?

笹岡妻

「いい旦那様ね」

そう奥さんに微笑まれ、私はドキッとする。

サトコ

「は、はい‥本当に私にはもったいないくらいの人で‥」

(演技だとわかってても、旦那様なんて言われると、ドキッとしちゃうよ!)

石神

いや‥私にはもったいない妻ですよ

サトコ

「ひ、秀樹さん‥」

(そんな素敵な旦那様スマイルを浮かべるのは反則です!)

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笹岡妻

「まぁ、ラブラブなこと!」

「本当に仲が良くて羨ましいわ。あなた、少しは佐藤さんたちを見習って」

笹岡

「おいおい、こっちはもう結婚10年だぞ。無理を言うなよ」

奥さんがコーヒーを持ってきて、旦那さんの隣に座る。

(でも、仲のいいご夫婦だよね)

(これで薬にさえ手を出してなければ本当にいい人たちなのに‥)

他愛のない話をしたあと、石神さんが少し身を乗り出した。

石神

そういえば‥通販をよくご利用されるんですか?

笹岡妻

「え?」

石神

旦那さんがよく、段ボールのゴミを運んでいるのをお見かけするので‥

信頼できる通販サイトがあるなら、是非教えて頂きたいな‥と

サトコ

「私、この通りのそそっかしさなので、ネットも心配されてるみたいで‥」

笹岡妻

「あら、そうなんですね‥」

笹岡さん夫婦は顔を見合わせて、少し気まずい顔をする。

(これって、やっぱり‥)

笹岡妻

「ここだけのお話なんですけど‥」

笹岡

「おい、佐藤さんたちにまで声をかけるつもりか?」

笹岡妻

「いいじゃない。佐藤さんたちなら、信頼できるし‥」

一瞬、石神さんの顔を見ると、石神さんも目だけで頷いた。

笹岡妻

「佐藤さんたちにお勧めしたいものがありますのよ」

(ついに、証拠が‥!)

息を飲むなか奥さんがキッチンに向かい、その手に抱えてきたのは‥‥

サトコ

「ダ、ダイエット食品!?」

笹岡妻

「それだけじゃないの。健康食品もたくさんあるし‥ご近所さんにも勧めてるんだけど」

「最近、やっと効果のある商品を見つけられたのよ」

笹岡

「荷物はこういうものばかりなんですよ。お恥ずかしい」

石神

そうだったんですか‥あの、商品をいくつか見せて頂いても?

サトコ

「秀樹さん、興味あるの?」

石神

健康は基本だからな‥どんな商品があるのか、見てみたいんだ

(なるほど!そう言って中身を確認するつもりなんだ)

サトコ

「私も見てみたいです!」

笹岡妻

「佐藤さんなら、そう言ってくださると思ってたの!」

奥さんに商品を見せてもらった結果‥全部が健康食品だと無事に確認することができた。

【公安学校 室長室】

石神

ということで‥今回は空振りでした

難波

まあ、犯罪を犯していないなら、それに越したことはないだろう

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サトコ

「とてもいいご夫婦だったので、よかったです!」

難波

そうか‥ご苦労だったな。これでこの任務は完了だ

サトコ

「はい!」

石神

はい

(任務が終わりってことは、石神さんとの暮らしもこれで終わりか‥)

捜査のためとはいえ、二人きりで過ごせる時間は貴重なものだった。

難波

あの部屋、明日まで借りるから。明日の夜までいてもいいぞ

石神

はい。報告書は後日提出します

石神さんと一緒に一礼し、私は室長室をあとにした。

【車内】

サトコ

「まだ早い時間ですし、今から片付ければ今日中に出られそうですね」

石神

明日の夜まで借りているんだ。そう急ぐこともないだろう

サトコ

「でも‥報告書を書いたり、事後処理にいろいろ‥」

石神

任務が終わった日くらい、肩の力を抜け。そうしなければ、長く続かないぞ

サトコ

「は、はい‥」

(石神さんから、こんな優しい言葉が出るなんて‥)

石神

せっかくだ。もう一晩だけ2人きりで過ごそう

サトコ

「!」

こちらを見ないまま告げられた言葉に、私は顔を赤くしながら頷いた。

【潜入家】

この家で一緒に過ごす最後の夜。

早めに夕食を済ませ、荷物をまとめる。

石神

ステーキはいくらなんでも、気合いが入りすぎじゃないか

サトコ

「最後のディナーにいいかと思って‥手頃なお肉も売ってたので」

石神

最後?もう作ってくれないのか?

<選択してください>

A: 毎日でも!

サトコ

「い、いや!石神さんが望むなら、毎日でも!」

石神

ああ‥また、食べられる日を楽しみにしている

サトコ

「今度、お弁当とか作って行ってもいいですか?」

石神

ダメと言うわけがないだろう

B: プロポーズですか!?

サトコ

「そ、それってプロポーズですか!?」

石神

‥本気で言ってるのか?

チラッと見られ、私は大きく首を振る。

サトコ

「じょ、冗談です!でも、食事だったら、いつでも作らせてください」

C: そんなに美味しかったですか?

サトコ

「そんなに美味しかったんですか‥?私のご飯」

石神

こういうのは、味より気持ちの問題だろう

サトコ

「不味かったんですか!?」

石神

美味かった。いちいち聞くな

サトコ

「ふふっ、石神さんの口から聞きたかったんです」

石神

あまり私物は持ち込んでいないだろうが、忘れ物のないようにな

サトコ

「はい!最後にもう一度チェックしてみます」

家の中を見て回り、忘れ物を確認してキッチンに戻ると石神さんの姿がない。

サトコ

「石神さん?」

石神

こっちだ

石神さんの声は縁側の方から聞こえた。

【縁側】

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サトコ

「わぁ‥桜が満開になってる‥!」

石神

この数日、暖かかったからな‥一気に咲いたんだろう

縁側には日本酒とお猪口が用意されている。

石神

少し付き合ってくれないか?

サトコ

「はい‥」

(石神さんとお花見できるんだ‥)

桜の花を見つめながら、その隣に座る。

サトコ

「綺麗ですね‥」

石神

こんなふうに桜を見たのは久しぶりだな

周囲は静かで、流れる時間がやけにゆっくりと感じられる。

サトコ

「あの‥今回のこと‥捜査から外さないように言ってくださって、ありがとうございました」

「石神さんに信頼されてるみたいで‥嬉しかったです」

石神

みたい‥じゃない。信頼していなければお前を選んだりしない

サトコ

「石神さん‥」

石神

捜査中に階段を踏み外して負傷するのは、言語道断だがな

サトコ

「はい‥すみません」

穏やかな声の中にも、そのメガネが光ったように見えて背筋を正す。

緊張する私を横目に、石神さんはフッと笑った。

石神

お前がいい刑事になることを楽しみにしているぞ

サトコ

「はい!」

(石神さんの期待に応えられるように、明日からまた頑張ろう!)

石神さんの気持ちが嬉しくて、一気にお酒を煽ると顔が熱くなる。

石神

お前の頑張りは、わかっているからな

サトコ

「え‥?」

こちらを向いた石神さんの手が伸びてきて、私の頬に触れる。

(もしかして‥石神さん、酔ってる‥?)

石神さんの手元を見ると、小さな日本酒の瓶が空になっていた。

(事件が片付いて、石神さんも開放的な気分になってるのかな?)

石神

今日で二人の生活が終わってしまうのは、少し寂しいな

サトコ

「石神さんも、そう思ってくれてるんですか‥?」

石神

お前と二人きりの生活‥俺が少しも意識してないと思ったか?

サトコ

「石神さん‥」

距離が縮まって、石神さんの顔が近づく。

石神

すまん。俺が公私混同をしているな

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サトコ

「ふふ、もう任務は終わりましたよ?」

石神

そうだな‥なら心置きなく、お前を独占できるな

軽く顔を上げられ、目を閉じると‥少し冷たい石神さんの唇が重なる。

いつもとは違う石神さんに、いつまでも胸のドキドキが止まらなかった。

【教官室】

事件解決から数日後。

教官室にたくさんの段ボールが届いた。

加賀

おい‥邪魔だ、どけろ。クズ

サトコ

「ちょっと‥机の上から落とそうとしないでください!」

颯馬

こっちの机に置いたら、どうですか?

サトコ

「あ、ありがとうございます」

黒澤

こんな大きな段ボールにいっぱい‥どうしたんですか?これ

サトコ

「ダイエット食品なんです。先日の捜査で知り合った方からいただいちゃって‥」

「皆さんにお裾分けです!」

加賀

んなもん、ここに持ってくんじゃねぇ

サトコ

「わ、分かりました‥加賀教官は、あとで欲しくなったら言ってください」

加賀

チッ‥

颯馬

このバナナの絵が描いてあるの、美味しそうですね

サトコ

「それ、効果あるらしいですよ!牛乳に溶かすだけでいいんです」

東雲

別に、オレたちダイエット必要ないんだけど

必要なのは、キミの方なんじゃない?

サトコ

「う‥」

(た、確かに、最近コンビニの最新スイーツを食べ過ぎたけども‥)

後藤

この粉末を牛乳に溶かして飲むだけで、腹がいっぱいになるのか?

後藤教官は興味があるようで、段ボールの中を探り始める。

後藤

このウエハース1つで一食分?すごいな‥

黒澤

後藤さん‥そのシャツの下は、もしかして‥

後藤

これで1食分になれば、食事が随分楽になるな‥

石神

後藤、言っておくが、それで3食賄おうとしたら倒れるぞ

(後藤教官‥簡単だからダイエット食品をご飯にって‥)

颯馬

それで、そうだったんですか?石神さんとの夫婦生活は

<選択してください>

A: 普通です!

サトコ

「ど、どうって‥!普通です!」

東雲

いいよ。誰も聞きたくないから

サトコ

「颯馬教官が聞いてきたんですよ!」

颯馬

その様子だと、いい予行演習になったようですね

(よ、予行演習って‥)

B: 任務ですから

サトコ

「任務ですから、そんなわざわざご報告するようなことは‥」

颯馬

毎日の献立を見ると、随分と充実した生活に見えますけどね

東雲

ああ‥最後の夜はステーキだっけ?

サトコ

「な、なんで知ってるんですか!?」

(やっぱり、教官たちは侮れない‥!)

C: 本当の新婚みたいで‥

サトコ

「本当の新婚みたいな生活でした!」

加賀

チッ

サトコ

「ど、どうして、そこで舌打ちするんですか!?」

東雲

聞くだけで腹が立つことってあるよね

颯馬

まあ確かに‥限度はありますね

(颯馬教官から聞いてきたのに、ヒドイ!)

黒澤

それはそうと、みなさん!お花見でもしませんか?

石神

花見の計画の前に、お前は溜まっている報告書を提出しろ

黒澤

う、痛いところを‥

今日中に片付けます!

後藤

あの量を1日で片付けられるのか?

黒澤

オレが本気出せば何とかなりますって。というわけで、お花見決定ですね!

颯馬

特に事件が起こらなければ、いいんじゃないですか?

東雲

こっちで計画しなくても、室長がやるって言い出しそうだけど

石神

‥黒澤が本当に、今日中にすべての報告書を提出したらな

石神さんはそれだけ言って、教官室を出ていく。

【廊下】

後を追って廊下に出ると、風が吹き込んだ。

サトコ

「っ‥」

石神

氷川

サトコ

「は、はい」

石神

桜の花がついてる

サトコ

「あ‥ありがとうございます」

石神さんは私の髪についた桜の花びらを取ってくれた。

そして、耳元で囁かれる声。

石神

お前と見た桜は、ずっと忘れない

サトコ

「!」

(私もです、石神さん‥)

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桜の花は、私にも暖かな春を届けてくれた。

End

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