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研修 東雲 1話

東雲

オレですか?」

難波

「そりゃそうだろ。お前が担当教官なんだから」

東雲

‥分かりました

じゃあ、氷川さん。一緒に頑張ろうか

サトコ

「は、はぁ‥」

(嘘だ!この笑顔は、絶対全部押し付ける気だ!)

【合宿所】

というわけで当日‥

男子訓練生A

「すげー!いかにもリゾートって感じじゃん!」

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男子訓練生B

「あっちの施設はなんだよ」

千葉

「プールじゃなかったっけ」

「確かウォータースライダーで評判の‥」

男子訓練生C

「マジで?」

男子訓練生B

「やべ‥水着美女とウォータースライダー‥」

鳴子

「何言ってんの。私たちが行くのは、あっちの砂浜」

「ねっ、サトコ」

サトコ

「うん」

「あと、これ‥千葉さんたちの部屋の鍵ね」

サトコ

「鳴子はこれ。私と同じ部屋だから」

鳴子

「ありがと」

千葉

「でも、なんで氷川が鍵を配ってるんだ?」

サトコ

「それが、なりゆきで幹事になっちゃって‥」

加賀

テメェら、なに浮かれてやがる

さっさと移動しろ、クズ共が

全員

「は、はい‥っ」

(そうだ。30分後には砂浜で最初の訓練が‥)

プルル‥

(あ、東雲教官からメール‥)

‥‥『ボカーリスエット買って来て。10分以内』

サトコ

「ええっ!?」

(ひどい!今回の雑用、全部私に押し付けたくせに!)

(ホテルやバスをおさえるのも、1週間分の食事の手配も、それから‥)

プルル‥

‥‥『限定ピーチ味ね』

サトコ

「く‥っ」

(こ、こうなったら反抗してやる!)

(補佐官だって、たまには教官に噛みつくんだから‥!)

【砂浜】

10分後。

サトコ

「お待たせしました」

東雲

遅い。1分遅刻

で、ボカーリスエット限定ピーチ味は?

サトコ

「すみません。それ、売店になかったので‥」

「かわりに、この‥」

<選択してください>

A: 炭酸飲料を

サトコ

「炭酸飲料を」

(もちろん、来る前に思いっきり振って来たけど!)

(たまには教官だって、痛い目に‥)

東雲

じゃあ、開けて

サトコ

「えっ」

東雲

キミが開けてよ。そのフタ

サトコ

「そ、それは‥」

東雲

なんで躊躇うの?なにか不都合でも?

サトコ

「そ、そんなことは‥」

東雲

だったら開けろ

(くっ‥こうなったら‥)

サトコ

「えいっ!」

ブシャ‥ッ!

東雲

ぷっ‥すご‥っ!

炭酸まみれ!

(わ、分かってたけど‥!)

東雲

でも、まぁ‥

おいしそうだけどね

(えっ‥)

B: 子供向け乳酸飲料を

サトコ

「乳酸飲料を‥」

東雲

なにこれ。子供向けじゃないの?

『スクスク大きくなーれ』って書いてあるし‥

サトコ

「さ、さぁ‥」

東雲

‥‥‥

‥わかった、キミが飲みなよ

まだ成長過程みたいだし

サトコ

「えっ、なにが‥」

東雲

その胸

サトコ

「!?」

(ひどい!この10年、ほぼ変化がないのに‥!)

サトコ

「セクハラですよ、今の!」

東雲

ハイハイ

サトコ

「う、訴えてやるんですから‥っ」

東雲

あっそう。じゃあ‥

こういうのは?

(えっ‥)

東雲

訴える?

これからすることも‥

C: 缶コーヒーを

サトコ

「缶コーヒーを」

東雲

え、いらない

サトコ

「そ、そんなこと言わないでください」

「ちゃんと糖分入りのを買って‥」

東雲

でも、それホットだよね

キミの指先、やけに赤いし

サトコ

「!」

東雲

大方、これを渡して‥

『熱っ』って驚いてほしかった‥ってとこ?

サトコ

「そ、そんなことは‥」

(ていうか近‥っ)

(なんで顔、近づけて‥)

サトコ

「きょ、教官‥?」

東雲

‥‥‥

サトコ

「あの‥なんか距離が‥」

東雲

まだ分かんない?

なんで早めにキミを呼び出したのか

(え‥)

東雲

2人きりだよ

たぶん、あと10分くらいは

(教官‥?)

東雲

だからさ‥

させてよ‥今日から1週間分の‥

キ‥

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黒澤

ああ、いたいた!歩さーん!

(ぎゃっ!)

ドンッ!

東雲

痛っ!

黒澤

ああ、サトコさんも一緒だったんですね。お疲れさまでーす

って、どうしちゃったんですか、歩さん。砂浜に座りこんじゃって

東雲

‥べつに

それより透、手貸して

黒澤

ハイ、どう‥

痛たたっ!

歩さん、手!手、ちぎれる‥っ

(教官‥いったいなにを‥)

ようやく立ち上がった教官は、忌々しそうにズボンについた砂を払った。

東雲

で、何の用?

黒澤

あ、そうでした!

実は、難波さんに歩さんを呼んでくるように頼まれたんです

なんか、スマホでアプリをダウンロードしちゃったらしくて‥

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東雲

また?

しょうがないなぁ、室長も‥

サトコ

「あの、飲み物は‥」

東雲

いらない

透にでもあげれば?

サトコ

「‥そうですか」

遠ざかる後ろ姿を見送りながら、私はそっと自分の唇に触れてみた。

(さっきの‥キスするつもりだったよね)

(教官、『キ』って言いかけてたし‥)

(じゃあ、まだ2人きりだったら、今頃1週間分のキスを‥)

黒澤

いやー、すみませんね

2人きりのところを邪魔しちゃって

サトコ

「いえ‥」

(じゃなくて!)

サトコ

「違っ‥え、ええと‥」

「私はただ教官に頼まれたものを持ってきただけで‥」

黒澤

大丈夫、気にしないでください

いつだってオレは恋する女性の味方ですから☆

サトコ

「は、はぁ‥」

黒澤

それにしても、これから1週間大変ですよねー

地獄地獄、また地獄!って感じで

サトコ

「‥そうなんですか?」

黒澤

ええ、なんといっても今回の訓練メニューは‥

伝説の『桂木スペシャル合宿版』を参考にしたって話ですし

サトコ

「桂木スペシャル?」

黒澤

あれ?ご存じありませんか?

警護課に桂木班ってあるじゃないですか

あそこの班の人たち、たまにみんなで合宿するらしいんですよね

で、そのときの訓練メニューが、そりゃもうすごいらしくて

石神さんの話だと、今回はそれを参考に訓練プログラムを組んだらしいんですよね

サトコ

「それって、具体的には‥」

黒澤

体力作りと筋トレがメインですね

あと滝業があるはずなんですが‥

サトコ

「滝!?」

黒澤

でも、さすがにそれはここじゃ無理ですからね

かわりに『トライアスロン』をやるらしいですよ

それも最終日に

(ええっ!?)

黒澤さんの情報は、ほぼ事実だった。

訓練初日。

石神

姿勢を崩すな

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バイクを漕ぐペースは一定に保て

(うう、でも足がもうガクガクして‥)

【砂浜】

訓練2日目

後藤

全員ペースが落ちてるぞ!

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砂浜でのランニングだ!もっと足をしっかりとあげろ!

(そ、そんなこと言われても‥)

【海】

加賀

とっとと泳げ!このクズ共が!

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全員サメのエサになりてぇのか!?

(無理‥!かっぱでも無理‥っ)

【海岸】

サトコ

「はぁ‥はぁ‥」

鳴子

「き‥キツイ‥ね‥」

サトコ

「うん‥前の強化合宿以上‥かも‥」

千葉

「佐々木、ちょっと来てくれないか」

「後藤教官が、用があるらしいんだ」

鳴子

「うん‥わかった‥」

(すごい‥2人とももう動けるんだ‥)

(私、まだまだ無理だよ‥)

サトコ

「はぁぁ‥」

(いいお天気‥まさにデート日和だよね‥)

(こんな日こそ、教官とデートできたら‥)

サトコ

「!?」

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東雲

‥ああ、意識あるね

大丈夫です。元気です

颯馬

では、倒れているわけでないのですね?

東雲

ええ、おそらくは

(まずい、教官たちの前でこんな格好‥)

私は、慌てて身体を起こした。

サトコ

「お、お疲れさまです!」

東雲

お疲れさま

はい。これ、キミの分のスポーツドリンク

サトコ

「ありがとうございます」

(あ、すごい冷えてる‥)

颯馬

サトコさん、歩は‥

貴女のことをずっと探していたのですよ

そのドリンクを手渡すために

(えっ、教官が?)

東雲

そりゃ、探しますよ

彼女は、オレ大事な補佐官ですから

サトコ

「‥っ!」

(ズ、ズルい‥!)

(不意打ちで、そんな優しい言い方‥!)

東雲

それに、彼女は‥

追加訓練のことを伝えないといけませんし

(‥‥‥‥えっ?)

東雲

氷川さん、兵吾さんから伝言

キミ、さっきの遠泳で規定タイムに届かなかったから追加訓練だって

サトコ

「!」

東雲

しかも、特別に‥

兵吾さんのマンツーマン指導だって

(ぎゃーっ!)

こうして「訓練・訓練・罵倒・訓練」な毎日が続き‥

あっという間に1週間が過ぎて‥

「教官と行く、夏のアバンチュール」最終日。

サトコ

「はぁ‥はぁ‥」

鳴子

「はぁ‥はぁ‥」

「まさか、本当に‥」

「トライアスロン‥やらされるなんて‥」

サトコ

「う、うん‥」

黒澤

お2人さーん、ラスト2キロです!頑張ってくださーい

早く行かないと、バスに乗り遅れますよー

(うっ、そうだ‥)

(規定時間内にゴールしないと、帰りのバスに乗れないんだった‥)

鳴子

「ラストスパート‥かけよっか、サトコ」

サトコ

「うん‥」

私と鳴子は、僅かに残っていた最後の力を振り絞った。

そして‥

(つ、着いたーーっ)

石神

佐々木、氷川‥

共に規定時間をギリギリクリアだな

鳴子

「ほんとですか?良かった‥」

サトコ

「うん‥」

(ど、どうしよう‥足が‥)

(生まれたての小鹿状態なんですけど‥)

後藤

ホッとしているところ、申し訳ないが‥

早急に着替えとシャワーを済ませてくれ

バスの出発時刻まであと30分しかない

(ええっ!?)

【ホテル】

鳴子

「シャワールームってどこだっけ?」

サトコ

「あの青い壁の建物だよ」

鳴子

「うわ‥けっこう遠いじゃん」

「それにしても、地獄の夏休みだったよね」

「この1週間、訓練の記憶しか残ってないよ‥」

サトコ

「わかるよ、それ。私も同じ‥」

「夢の中でも訓練してたくらいだし‥」

鳴子

「サトコ、明け方に『クズですみません!』って叫んでたもんね」

「あーあ‥せっかくのリゾート地なのに!こんなの生殺しだよ」

サトコ

「ウォータースライダー、挑戦したかったね」

鳴子

「ほんとほんと!」

「あとさ、花火大会にも行きたかった!」

サトコ

「花火大会?」

鳴子

「今日さ、地元主催の花火大会があるんだって」

「あーもう!花火見ながら、好きな人とキスしたかったーっ」

(ほんと、そうだよ!)

(教官と2人で、浴衣姿で花火大会に出かけて‥)

(ちょっと肩にもたれていると、顔が近づいてきて‥それで‥)

(憧れの‥花火キッス‥)

東雲

大丈夫?

口、半開きだけど

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(ぎゃっ!)

鳴子

「あ、お疲れさまです」

東雲

お疲れさま

レース、どうだった?規定タイムはクリアできた?

鳴子

「はい、ギリギリでしたけど」

サトコ

「私もなんとかクリアしました」

東雲

そう、良かったね。置き去りにされなくて

鳴子

「ほんとですよ~」

「レースでクタクタなのに、電車で帰るとか絶対無理‥」

「あっ!」

サトコ

「どうしたの?」

鳴子

「タオル忘れて来ちゃった!」

「サトコ、先にシャワールーム行ってて」

サトコ

「わかった」

東雲

‥めずらしいね。彼女が忘れ物をするなんて

サトコ

「そりゃ、かなりキツい訓練でしたから‥」

東雲

だろうね

裏方のオレたちも大変だったし

で、この1週間の感想は?

<選択してください>

A: 大変でした

サトコ

「大変でした」

「昼間はずーっと訓練で、夜はひたすら爆睡って感じで‥」

東雲

ああ、キミ‥いつも眠そうだったもんね

特に夕食の時とか

(うっ‥)

サトコ

「‥見てたんですか?」

東雲

そりゃね。キミ、評判だったし

食事を前にしてもウトウトしてて‥

『そのうち味噌汁に顔を突っ込むんじゃないか』って

(た、確かにそうだったかもしれないけど‥)

東雲

で、今日もそんな感じ?

サトコ

「え?」

東雲

夕食

B: とてもさ有意義でした

サトコ

「とても有意義な1週間でした」

「おかげで体力もつきましたし、たぶん筋力も‥」

東雲

そう?

ぷにっ!

サトコ

「!!」

東雲

‥二の腕、プニプニだけど

サトコ

「そ、そんなことは‥」

東雲

あーなんかプニプニしたものを食べたくなってきたなぁ

キミの二の腕並みにプニプニしたもの‥

(ひ、ひどい‥)

東雲

‥行く?外食

サトコ

「!」

C: 寂しかった

サトコ

「ええと、少し寂しかったかも‥」

東雲

ああ、長野に帰省できなかったから?

サトコ

「違います!そうじゃなくて‥」

「この1週間、教官と少ししか話せなかったから‥」

東雲

‥‥‥

‥ふーん

じゃ、行く?

サトコ

「どこにですか?」

東雲

どこかの店

東雲

東京に着くの、ちょうど夕方だし

解散したら、近所の店で食事でも‥

サトコ

「行きます!ぜひぜひ、ぜ‥っ」

東雲

前のめりすぎ

サトコ

「むぐ‥っ」

(だ、だからって、顔を押しやらなくても‥)

東雲

じゃ、考えといて

どの店に行くのか

サトコ

「えっ、いいんですか、私が決めても」

東雲

たまにはね

それじゃ、よろしく

サトコ

「はい!おつかれさまです!」

(教官と外食かぁ。ほんと、久しぶりだなぁ)

(どのお店にしよう‥いつもの定食屋さんがいいかなぁ)

(でも疲れすぎてて、あまり食欲がないし‥)

千葉

「‥いた!氷川!」

サトコ

「あ、おつかれさま‥」

千葉

「氷川、今回の合宿の幹事だったよな」

「もしかして、会計も担当してる?」

サトコ

「うん、してるけど‥」

千葉

「だったらすぐにフロントに行ってきてほしいんだ」

「フロントの人が、追加料金の発生がどうのこうのって言ってて‥」

サトコ

「ええっ!?」

【フロント】

フロント

「では、改めてお調べいたしますので、そちらでお待ちください」

サトコ

「‥はい」

(どうしよう。そろそろバスが出る時間だよね)

(でも、調べるのに時間がかかりそうだし‥)

(ひとまず、教官に報告しなきゃ)

東雲

‥つまり、まだ目処がたたないってこと?

サトコ

「そうです」

東雲

バスの返却って明日だっけ?

サトコ

「いえ、今日の18時です」

「なので、先に帰ってもらえますか?」

「私は、こっちを済ませてから電車で帰りますんで」

東雲

‥了解。終わったら連絡して

サトコ

「わかりました。それじゃあ、よろしくお願いします」

通話を切るなり、ため息がこぼれた。

(電車だと、東京に着くのって何時頃だろ)

(教官との食事は‥やっぱり難しいかなぁ‥)

結局、トラブルが解決したのは1時間も経ってからだった。

(まさか、こんなに時間がかかるなんて‥)

(お詫びに『水着無料レンタル券』をもらったけど、使う機会もないし‥)

サトコ

「‥ま、いっか」

(追加料金は発生しなかったわけだし!)

(とりあえず急いで帰らないと‥)

サトコ

「あっ!」

(その前に報告!)

スマホを取り出して、発信履歴から電話をかける。

コール5回ほどで『はい』と聞き慣れた声が聞こえてきた。

サトコ

「おつかれさまです。氷川です」

「追加料金のトラブルの件ですが、先ほど解決しました」

東雲

そう‥

じゃあ、あとは帰るだけ?

サトコ

「はい!今から駅に‥」

東雲

だったらプールに来て

(えっ‥?)

東雲

もしもし?聞こえてる?

プールに来てほしいんだけど

ホテル併設のプールに

サトコ

「は、はぁ‥」

東雲

ああ、聞こえてるね

じゃあ、10分以内に

それじゃ

(な‥っ)

サトコ

「待ってください!教か‥」

プツッ‥

(‥切れた)

たっぷり5秒ほど制止した後、私はおもむろに顔をあげた。

(「ホテル併設のプール」って、隣の白い塀に囲まれたアレだよね)

(あの、さっきから『きゃーきゃー』聞こえてくる‥)

サトコ

「‥え、どういうこと?」

to be continued

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