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総選挙2016① KISS or KILL:加賀2話

加賀
残念だったな

冷たい声が聞こえて来て、頭に銃口が突きつけられる。
私の腕を掴んでいるのは‥間違いなく加賀さんだった。

サトコ
「っ‥‥‥」

加賀
今すぐ死ぬか、一生俺の駒になるか‥1分以内に決めろ
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あまりにも突然のことで、頭が回らない。

(どうして、お風呂に入ってたはずなのに服を着てるの‥?)
(もしかして、私が何をしようとしているのか気付いたってこと?)

パニックに近い心理状態で、正常な判断などできるはずもない。
でも、加賀さんに言い渡された時間は刻々と迫る。

(暗殺は失敗した‥加賀さんを裏切ったことも、知られた)

加賀
さっさと決めろ。俺は気が長くねぇ

サトコ
「っ‥‥‥」

加賀
10、9、8‥

加賀さんのカウントダウンが始まる中、突然、窓ガラスが割れた。

サトコ
「!?」

(まさか‥襲撃!?)

加賀
チッ‥時間切れだ

返事をする間もなく、加賀さんに腕を引っ張られて部屋を飛び出した。

【車】

短時間で起きた予想外の出来事の数々に、状況が掴めないまま‥
加賀さんに押し込められるように、助手席に座らされた。
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サトコ
「加賀さ‥」

加賀
舌噛むぞ

運転席に乗り込んだ直後、加賀さんが思いきりアクセルを踏む。
急発進に思わずシートベルトを掴むと、慌てて加賀さんを振り向いた。

サトコ
「こ、これは‥」

加賀
アレだ

運転しながら、加賀さんが顎でバックミラーを指す。
そこには、猛スピードで追いかけてくる1台の車の姿があった。

サトコ
「まさか‥」

(あれが、さっき部屋を襲撃した犯人?)
(でも、あの助手席の男は‥)
(確かあれは、ボスの下で動いている成田とかいう男だったはず‥)
(普段、他の殺し屋とはあまり接点を持たないから、ほとんど見たことないけど)

その彼が、窓から身を乗り出してこちらに銃口を向けている。
私たちが乗った車を狙っていることは確かだった。

(なんで?同じ組織の人間が、どうして私が乗ったこの車を)
(もしかして、私が失敗することを見越して、ボスが加賀さん暗殺のために寄越したの‥?)

加賀
伏せろ!

突然、頭をグイッと押さえつけられた。
うずくまると同時に、何かが頭スレスレに飛んでいく感覚。
その直後、フロントガラスにひびが入った。

加賀
チッ

片手でハンドルを操作しながら、加賀さんが窓から後ろの車に向けて発砲した。
運転が乱れて、車が大きく左右に揺れる。

東雲
兵吾さん、暴れすぎです

加賀
うるせぇ、歩

東雲
落ち着いてくださいよ。次の角を右です。裏道に入ってください

加賀
テメェは黙って指示だけしてろ

車の無線から、若い男性の声が聞こえてくる。
どうやら、加賀さんの仲間らしい。

(そうだ‥加賀さんはうちの組織と敵対するところに雇われたスナイパー‥)
(味方がいたって、おかしくない)

『歩』という人の案内のおかげで、成田の車をまくことができた。

車が止まると、車内に沈黙が落ちる。
でも、意を決して加賀さんに問いかける。
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サトコ
「私が、加賀さんを暗殺しようとしたこと‥気づいてたんですね」

加賀
気付かねぇバカがいるか

サトコ
「だけど‥加賀さんの暗殺命令は、私に出ていたはずなのに」
「どうして成田が‥もしかしてボスは、私が失敗するって思ってたんでしょうか」

加賀
テメェは相変わらずクズだな

サトコ
「え?」

加賀
‥狙われてるのは、テメェだ

その言葉は、すんなりとは頭の中に入ってこない‥

サトコ
「私が‥?」

加賀
最初からそのつもりだったんだろ
俺と相打ちになって両方死ねば儲けもの
俺を殺せても、失敗しても‥テメェはあのクソ野郎に殺される運命だった

(クソ野郎‥って、まさか、ボスのこと‥?)
(ボスが私を裏切った‥?これまでずっと、育ててくれた人だったのに)

加賀
テメェは、組織のことを知り過ぎた
難波の組織で、長期間存在していた奴はいねぇ

サトコ
「それって‥」

加賀
下手に力をつける前に、始末されてんだろ

(そんな‥そんな)
(じゃあ、加賀さんはそれを知って私を助けてくれた‥?)

サトコ
「どうして‥私は、加賀さんを‥」

加賀
‥クズが
なんでテメェを助けたか‥そんなこともわかんねぇのか

肩を抱き寄せられて、慈しむようなキスが落ちてくる。

加賀
だからテメェは、いつまで経っても駄犬だって言ってんだ
黙って、信じてろ

すべての不安を拭い去るようなその言葉に、加賀さんから目を離せない。
でも私たちを現実に引き戻すかのように、数台の車が私たちを取り囲んだ。

加賀
‥来たか

サトコ
「まさか‥」

加賀
大ボスのお出ましだ

促されて車を降りると、そこにいたのは‥ボスだった。

難波
いいムードのところ邪魔して悪いな
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加賀
‥なんでここがわかった

難波
坊ちゃんの教育が甘かったんじゃねぇか?

ボスが顎で合図すると、部下たちが車から誰かを引きずり下ろした。
ドサッと、加賀さんの前に金髪の若い男の身体が投げ捨てられる。

東雲
加賀さ‥すみませ‥
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加賀
‥‥‥

それは、さっき無線で聞いたものと同じ声だった。

(まさか‥加賀さんと私を殺すために、この人まで‥?)

難波
サトコ‥お前は忠実でいい手駒だったんだけどなぁ
まさか、ここまで長生きするとは思わなかった

サトコ
「それは‥どういう意味ですか‥?」

難波
ん?捨て駒にするために育ててきたのに、予想に反して根性があった、ってことだ
だが‥ここでそろそろ、消えてもらうぞ

(加賀さんの言ったことは、本当だった‥ボスは私を、家族とは思ってくれてなかった)
(それにすがってたのは‥私だけだったんだ)

ボスの部下たちが、銃口を向けながらゆっくりと私たちを囲む。
覚悟を決めた時、後ろ手に加賀さんが私に冷たいものをよこし、耳元で囁いた。

加賀
テメェの実力、見せてみろ

加賀さんに渡されたもの‥それは、さっき加賀さんが私から奪い取った銃だった。

サトコ
「加賀さん‥」

加賀
諦めるのは、まだ早ぇ
俺を殺せると思ったその実力、この目で見てやる

小声で会話する私たちに、ボスが眉を顰めて笑う。

難波
なんだぁ?最後の愛の語らいか?
心配しなくても、ちゃーんとふたりまとめてあの世に送ってやるからな

加賀
‥いくぞ

目配せして頷き合うと、お互いに地を蹴って逆方向へ飛ぶ。
加賀さんは歩さんの首根っこを掴んで庇いながら、次々に部下を仕留めていった。

(私だって‥これからも、加賀さんと一緒にいられるなら)

ボスの部下たち、かつての仲間たちに銃弾を浴びせる。
加賀さんの後ろを狙っている男も、一発で仕留めた。

加賀
やるじゃねぇか

難波
‥形勢逆転、か

ボスがため息をついた時、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。
ほんの一瞬、ボスの瞳に狼狽の色が浮かぶ。

(今だ!)

でも私より早く、加賀さんがボスの太ももを撃ち抜いた。
ボスが怯んだすきに、加賀さんが歩さんを車の後部座席に放り投げる。

(でも、私は行けない‥)
(加賀さんを裏切って、ボスに殺されそうになった‥もうこの世界に、居場所はない)

加賀
‥チッ
テメェはいい加減、クズを卒業しやがれ
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私の首根っこを掴むと助手席に押し込み、加賀さんは思いっきり、アクセルを踏んだ。

【ホテル】
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歩さんを闇医者に預けると、私たちはボスに知られないようにホテルの部屋を取った。
でもそのあとのニュースで、ボスは駆けつけた警察に逮捕されたことを知った。

(きっともう、誰も私なんて追いかけてこないだろうな)
(でも‥加賀さんを裏切った事実は消えない)

加賀
いつまでそうやってるつもりだ

ベッドに座った加賀さんが、私を睨んでいる。

サトコ
「加賀さん‥私を殺してください」

加賀
あ゛?

サトコ
「私は、この世界でやってはいけないことをしました」
「暗殺に失敗して、組織からも追い出されて‥」
「‥愛する人を、裏切ってしまった」

加賀
‥‥‥

罪悪感が消えない私の腕を引っ張り、加賀さんがベッドに組み敷く。

加賀
勝手に言ってろ

サトコ
「え‥」

加賀
俺は、昔のテメェと同じことをしたまでだ

サトコ
「昔の、私‥?」

乱暴にブラウスのボタンを外して、加賀さんが私の肌をまさぐる。

加賀
テメェの罪の意識なんざ、知ったことか

サトコ
「加賀さっ‥」

加賀
俺がテメェを助けた意味を、その足りねぇ頭で考えろ
テメェは俺にだけ忠実な犬だろうが
ボスだろうがなんだろうが、他の男に尻尾振ってんじゃねぇ

言葉は厳しいのに、唇も、絡まる指もすべて優しい。

(加賀さんが、私を助けた意味‥)
(もしかして、それって‥私を、愛してくれてるから‥?)

嬉しくて、ずっと我慢してきた涙が頬を伝う。
指でそれを拭いながら、加賀さんが肌に吸い付いた。

加賀
いくら痕を残しても、わからねぇらしいな
テメェは俺の下だけで啼いてりゃいい

背中に手を回すと、それに応えてくれるように加賀さんが私の中に身を埋める。
ずっと欲しかった“愛されている”という実感を全身で受け止めて、加賀さんの腕の中で乱れた。

(欲しかったのは、“組織”の中の家族じゃない)
(私の全部を受け止めてくれる、本当の家族だ‥)

加賀
‥サトコ

サトコ
「加賀、さっ‥」

加賀
サトコ‥

その夜、加賀さんは私の過去も含めてすべて愛してくれた。
加賀さんにすべてをさらけ出し、何度も何度も、愛する人が自分を求める声を聞いた‥‥

【カフェ】

事件の数日後、私がいた組織はボスを失い、壊滅状態になったことを風のうわさで知った。
今は加賀さんと住んでいた部屋を引き払い、少し離れた別の街に住んでいる。

鳴子
「まさか、サトコが急に引っ越ししちゃうなんてねー」

サトコ
「ご、ごめんね‥突然窓ガラスが割れるっていう怪奇現象があったもんだから」

鳴子
「それは怖いわ‥引っ越すしかないわ」
「そういえば、最近サトコの口から駄犬扱いするカレの話を聞かないんだけど」
「最近どうなの?」
「まさか、別れちゃったとか‥?」

サトコ
「ううん、そうじゃないんだけど‥」
「実は最近は、“犬”じゃなくて“駒”‥」

加賀
駒じゃねぇ

突然、後ろから低い声が聞こえてきた。
振り返る間もなく、肩を引き寄せられて振り向かせられる。

加賀
テメェは、俺の女だ

目の前で、ニヤリと意地悪に口の端を持ち上げる加賀さんの顔。
そのまま、鳴子の前で深く口づけられた。

サトコ
「!!!???」

加賀
喚くな
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サトコ
「わ、喚いてなっ‥」

鳴子
「わお‥刺激的‥」

暴れる私を押さえつけて、さらに加賀さんが深く私を求める。

(きっと私たちの未来は、平穏じゃないけど‥)
(どんな危険があったって、加賀さんとなら、生き抜いてみせる)

加賀さんからのキスを必死で受け止めながら、改めてそう決心した。

Happy  End

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