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総選挙2016① KISS or KILL:加賀 カレ目線

俺が生まれた時から、家は貧しかった。
子どもでできる仕事といえば、新聞配達くらいで、街中を駆けずり回り、必死に金を稼ぐ毎日。

(一軒でも多く新聞を配れば、その分報酬が上がる)
(報酬が上がれば、同じ班の奴らにも少しはその分け前がいく‥)

自分のため、そして仲間のために、毎日汗水流して頑張っていた。
だが、『仲間のため』‥そう思っていたのは、自分だけだった。

仲間1
『なあ兵吾、お前、ちょっと目立ちすぎなんだよ』

仲間2
『成績がいいからって、調子に乗るなよ』

仲間3
『この前うちの班に入って来たやつの客を奪って、成果を上げただろ』

(違う‥あいつは、弟が風邪を引いて配達できないって言ってたから)
(俺がかわりに、あいつの担当地区まで配っただけなのに)

でも、俺を囲む“仲間”は、裏切者を見るような目だ。

(‥今更、何を言っても無駄か)
(結局、“仲間なんていない”‥誰も信じちゃいけないんだ)

幼心に、そう思った出来事だった。

(‥ガキの頃のことを思い出すなんざ、柄でもねぇ)

車の中で張り込みをしながら、少しぼんやりしてしまったらしい。
窓を開けてタバコをふかしていると、インカムに歩から連絡が入った。

東雲
兵吾さん、裏が取れました
やっぱり、難波は黒ですね

加賀
‥そうか

東雲
氷川サトコの両親を殺したのは、難波です
ちょうどその頃、女の手駒が欲しいと思ってたらしいです
女の方が、ターゲットも何かと油断しますからね

加賀
‥‥‥

(そんなくだらねぇ理由で、あいつの両親を殺して)
(あいつから、普通の幸せまで奪いやがったのか‥)

絶対に裏切らないように子どもの頃から育てて洗脳する‥なんとも卑怯なやり方だ。

東雲
難波は明日、氷川サトコに兵吾さんの暗殺を命じる予定です
成功すれば御の字、失敗してもミスしたことを理由にふたりまとめて消すつもりですよ

加賀
‥なるほどな

(サトコは組織のために十分役に立ったし、ここら辺でそろそろ消しておくって算段か)
(‥反吐が出そうだな)

俺がサトコを助けられるとしたら、このタイミング以外にないだろう。
あいつの洗脳を解き、事実を突き付けてあの組織から抜けさせる。

加賀
歩‥作戦は、明日決行だ

東雲
了解

(本当なら、あいつが俺に相談してくるのが一番手っ取り早いんだが)
(‥それだけは、ありえねぇだろうな)

この世界で生きている上で、ボスの命令は絶対だ。
自分や歩のように、どこの組織にも属していない人間とは違う。

(‥待ってろ、サトコ)
(必ず俺が、助けてやる)

【加賀のマンション】

翌日の夜、買ってきた大福を食っているとサトコが帰ってきた。
いつも通りの様子を装うのは、流石と言ったところだ。

(今、テメェはどういう心理状態にある‥?)

それを確かめるために抱き寄せたが、そばに置いてあった大福で応戦された。

サトコ
「わ、私‥今日は調子が悪くて」

(‥覚悟を決めたか)

組み敷かれながらも俺を見つめるその目は、どこか憂いを帯びている。
その瞳に、一瞬だけ、嫌な予感が過った。

(まさか、俺を殺すのをやめて逃げるなんて考えてねぇだろうな)
(‥いや、この世界で逃げられる場所なんざねぇ。それはこいつもわかってるはずだ)

浮かぶのは、最悪の事態。
俺を殺せず、逃げることもできず、自ら消えることを選択するというものだ。

(早まるなよ‥テメェは俺が助ける)
(それまでは、どんな方法でもいい‥必ず生き延びろ)

【バスルーム】

シャワーを浴びる振りをして、服を着たまま風呂で待機する。
すると勢いよくドアが開き、銃を構えたサトコが入って来た。

(‥面白れぇ)

その目にはもう、さっきの憂いはどこにもなかった。
躊躇する様子もなく、信念を貫く覚悟を持った真っ直ぐな視線。

(やっぱりテメェは、他の女とは違う)
(ガキの頃から‥殺し屋になる前から、変わらねぇ)

腕を掴み、あっという間に形勢逆転した。
義理堅いサトコの罪悪感を薄れさせるため、銃口を頭に突きつける。

加賀
1分やる

サトコ
「!」

加賀
今すぐ死ぬか、一生俺の駒になるか‥選べ

【ホテル】

銃撃戦のさなか逃げ出し、難波は駆けつけた警察に捕まったと情報が入った。
歩は闇医者のところで治療中だが、しぶといクソガキのことだからすぐに回復するだろう。

サトコ
「‥私を殺してください」
「私は暗殺に失敗して、組織からも追い出されて‥愛する人を、裏切ってしまった」

加賀
‥‥‥

(それがわかってりゃ、充分だ)
(大事なのは、俺がテメェにとってどういう存在か、ってことだろうが)

加賀
くだらねぇな

サトコ
「え?」

加賀
俺は、昔のテメェと同じことをしたまでだ

サトコ
「昔の、私‥?」

(あの時テメェが取った行動が、俺の人生を変えた‥)

(人はいつか裏切る‥信じちゃいけない)

仲間だと思っていた奴らに責められ、そう感じた時、

女の子
『ねぇ、さっきから聞いてたけど、ちょっとひどいんじゃない?』
『その子の話も聞かずに、一方的に責めるなんて』

突然、俺の前にたちはだかったのは、そう歳の違わない女だった。

加賀
お前‥

仲間1
『何だよお前、女のくせに!』

仲間2
『だいたい、関係ねーだろ!口出しすんなよ!』

女の子
『関係なくても、こんなの許せない!』
『よってたかって、この子の話も聞かないで!』

女が、俺の手を掴む。

女の子
『行こう!こんな奴ら、相手にしちゃダメだよ!』

加賀
‥‥‥

女に手を引かれるまま、奴らに背を向けて走り出した。

離れたところまで走ってくると、女が手を離す。

女の子
『はあ、はあっ‥あーすっきりした!』

加賀
お前‥なんで名前も知らねぇ俺のために、あんな‥

女の子
『だって、間違っていることは間違ってるって言って当然でしょ』
『それに、一度話したらもう友達だよ』

屈託のない笑顔で、女が手を差し出してくる。

女の子
『私、氷川サトコ!』

加賀
‥‥‥

(‥犬みてぇな女だな)
(握手なんて、柄じゃねぇのに‥)

そう思いながらも、女の笑顔に負けて渋々手を差し出した‥

【ホテル】

(思えば、昔っからあいつは犬だったな‥)
(負けん気が強ぇ、自分の信念を貫く犬)

それが、親を殺され、難波を妄信するようになってしまった。
サトコと再会したのは偶然だが、いつかそこから救い出してやりたいと思っていた。

(‥こいつは、あんな出会いなんざ覚えてねぇだろうが)
(俺にとっては、何があっても忘れられねぇ出来事だ)

サトコのおかげで、人を信じる心を失わずに済んだ。
だから歩と手を組んでいるし、今回サトコを救うこともできた。

サトコ
「ん‥加賀、さ‥」
「駄犬扱いは‥もう、やめ‥」

昨日の夜、飽きるほど抱いたせいで、サトコはベッドでぐったりしている。

(‥テメェはもう、俺だけのもんだ)
(ずっとそう願っていた‥初めて会った、あの時から)

眠るサトコの上に覆いかぶさり、何も身に付けていないその肌の柔らかさを愉しむ。
寝惚けながらも反応する身体に、ひとつずつ、痕を残した。

(二度と、離さねぇ)
(お前は、俺だけに忠実な‥俺の“女”だろ)

Happy  End

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