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加賀 Season2 エピローグ3話


【加賀マンション】

東京に戻ってきた私たちは、そのまま加賀さんの部屋にやって来た。

サトコ

「加賀さん、私やっぱり帰った方が‥」

玄関のドアを閉めながら、加賀さんの背中に話しかける。

でもカチッとドアが閉まる音がした瞬間、腕を強く引かれて壁に背中を押し付けられた。

サトコ

「っ‥‥」

何か言う前に、加賀さんが私の唇を深いキスで塞いだ。

息つく暇もなく、何度も何度も、激しいキスが降ってくる。

サトコ

「待っ‥」

加賀

実家では我慢してやっただろ

サトコ

「が、我慢‥!?」

(そんな素振り、全然っ‥ず、ずっと余裕そうに見えたのに)

もつれ合うように部屋に上がり込み、寝室へと連れて行かれた。

【寝室】

私をベッドに押し倒すと、腕を掴んだまま加賀さんが上着を脱いだ。

サトコ

「か、加賀さん!疲れてるんじゃ‥」

加賀

‥‥‥

思わず身構える私に、ネクタイを緩めた加賀さんが覆いかぶさる。

でもなぜか、私の肩に額を置いてため息をついた。

(いつもは、『待ってください』って言っても気にしないのに‥今日は何だか違う気が)

サトコ

「‥加賀さん?」

加賀

‥‥‥

サトコ

「あの‥お、重いんですけど‥」

加賀

黙れ

一蹴されて、言われた通りに黙って加賀さんの体重を受け止める。

ようやく落ち着いたのか、私の服をゆっくりと脱がすと、

二の腕やウエストをつまんで楽しみ始めた。

サトコ

「そ、そこはやめてください‥!」

加賀

うるせぇ

テメェの身体は、どこも全部、俺のもんだ

サトコ

「それに対しては、異論はないんですけど‥」

(でも、おなかだけは勘弁してほしい‥)

だけど加賀さんの、さっきまでの疲れた表情‥

そして今の、どこかリラックスしているような態度のギャップが愛しくて、

何も言えなかった。

サトコ

「仕事だった上、うちに来るなんて‥疲れましたよね。無理させてすみません」

加賀

そうじゃねぇ

サトコ

「え?」

加賀

‥女の実家に行くってのは、初めてだったからな

たった一言そう言うと、加賀さんが私の胸に顔を埋める。

その言葉を頭の中で反芻して、驚きのあまり身を起こそうとした。

サトコ

「はっ、初めて!?」

加賀

テメェ‥なんの真似だ

私の身体でくつろいでいるところを邪魔されて、加賀さんがお怒りに眉を寄せる。

慌てて身体を横たえながら、恐る恐る加賀さんの顔を覗き込んだ。

サトコ

「あの‥じ、実家は初めてって」

加賀

なんだ

サトコ

「昔お付き合いしてた彼女とか、そういう人のご実家には‥」

加賀

行くか。めんどくせぇ

(じゃ、じゃあ私の実家はめんどくさくないってこと?)

(それって‥)

サトコ

「‥もしかして、だからずっと疲れた顔してたんですか?」

加賀

疲れてたわけじゃねぇ

‥気を張ってただけだ

(気を張ってた‥あの加賀さんが!?)

(どんな凶悪犯を前にしても、余裕を崩さない、あの加賀さんが‥)

加賀

まあ、そう考えりゃ、先に翔真に会っておいたのは悪くなかったかもな

サトコ

「確かに、翔真のおかげで緊張が解けましたよね」

「そこは否定しませんけど‥でも、そんな簡単に名前で呼んでいいんですか!?」

加賀

なんの話だ

(男同士だと、あっさり名前で呼んでもらえるんだ‥いいなあ、私も男に生まれれば‥)

(いや、そうしたら加賀さんとこんなふうにできなかったし)

私の身体を触っているうちに癒されてきたのか、加賀さんの唇が少しずつ熱を帯びていく。

広い背中を抱きしめると、柔らかい唇が首筋を這った。

サトコ

「‥私、女でよかったです」

加賀

あ?

サトコ

「だって、だから加賀さんとこうしていられるんですよね」

加賀

‥‥‥

じっと私を見下ろして、加賀さんがニヤリと笑う。

加賀

煽るとは、いい度胸だ

サトコ

「え!?あ、煽ってなんか‥」

加賀

喚くな

さっきまでのリラックスした表情はどこへやら、噛みつくように加賀さんが私の肌を求める。

(え、獲物を狙う獣の眼をしてる‥!)

(‥でも、すごく優しい)

重なる肌が気持ちよくて、加賀さんにもたらされる快感を一身に受け止め‥

その夜は加賀さんが満足するまで、奥に熱を注ぎ込まれた。


【教官室】

翌日、長野のお土産を持って改めて教官室を訪れた。

サトコ

「失礼します。氷川です」

東雲

あれ?やっぱり留年しちゃった?

私の顔を見るなり、東雲教官が意地悪な笑みを浮かべる。

サトコ

「やっぱり、ってどういうことですか‥!?」

東雲

最後の演習を放り出していなくなったのに

卒業できるなんておかしいと思ったんだよね

石神

室長のおかげで卒業できたのかもしれないな

サトコ

「お情け‥!?」

(いや‥そ、そんなはずない‥だって、卒業生代表で答辞も読ませてもらったし)

(‥お情けなんかじゃないよね!?)

助けを求めるように、後藤教官と颯馬教官を見る。

でもふたりとも、なぜか気まずそうに目を逸らした。

サトコ

「ほ、本当にお情けだったんですか‥!?」

黒澤

そんなわけないじゃないですか~

サトコさんは優秀な成績を収めて卒業したんですよ!

公安学校はそんな甘いところじゃないですからね!

サトコ

「すみません、黒澤さんに言われても、説得力がないというか‥」

黒澤

ひどい!貴女の唯一の味方の黒澤透を!

それで、その手に持ってるのはなんです?

サトコ

「あ、お土産です。長野の実家に帰省したので」

お土産のお菓子を広げていると、加賀さんが教官室に入ってきた。

加賀

‥留年か

サトコ

「加賀さんまで!?」

加賀

来たなら、ついでに手伝ってけ

持っていたファイルを数冊、私に投げてよこすと、加賀さんが再び教官室を出て行った。

加賀

俺が戻ってくるまでに片付けとけ

サトコ

「私、もう訓練生じゃないのに‥」

黒澤

サトコさんは一生、加賀さんの補佐官なんですよ★

東雲

透が言うと、気持ち悪い

後藤

同感だな

黒澤

でも、本当のことじゃないですか

颯馬

手伝いはできませんけど、頑張ってくださいね

他の教官たちも気の毒そうに私を見るものの、手伝ってくれる気配はない。

(そんなことしたら、加賀さんに怒られるもんね‥わかってる‥わかってた‥)

(それに、教官たちも忙しそうだし‥)

空いてるデスクを借りて、加賀さんに言われた作業を進める。

それほど複雑ではなかったけど量が多かったので、思ったより時間がかかってしまった。

(や、やっと終わった‥うっかりここに来ると手伝わされるということが、よくわかった‥)

(次からは、来るタイミングを見計らおう‥)

ため息をつきながら片づけをしていると、教官室のドアが開いた。

入ってきたのは、科捜研の木下莉子さんだ。

莉子

「あ!やっぱりいたー」

サトコ

「えっ?」

莉子

「サトコちゃんが教官室にいるって聞いて、急いで来たのよ」

「卒業おめでとう!2年間、あの鬼畜の下でよく頑張ったわね」

サトコ

「莉子さん‥」

(もしかして、わざわざそれを言いに‥?)

サトコ

「ありがとうございます。何度も死にそうな目にあいましたけど、生きててよかったです」

莉子

「サトコちゃんも強くなったじゃない」

「まだ配属先は決まってないんでしょ?科捜研に来たら?」

「あの鬼畜もいないし、死にそうな目にあうこともないし」

冗談交じりの言葉を笑顔で受け止めていると、シャーッと椅子が滑る音が聞こえた。

振り返ると、さっきまで向こうのデスクにいた東雲教官が、滑ってきた椅子に座っている。

サトコ

「ど、どうしたんですか?」

東雲

‥‥‥

(な、なんか見られてる‥?主に、首辺りを‥)

東雲

ねえ、隠す気ないの?コレ

サトコ

「コレ?どれですか?」

莉子

「あらあら」

莉子さんが口に手を当てて、嬉しそうに目を細める。

それとは真逆に、東雲教官は汚い物でも見るような目だった。

サトコ

「あ、あの‥」

莉子

「はい。これで確認してみたら?」

莉子さんが渡してくれた鏡で、首筋を見てみる。

そこにははっきりと、赤い痕がついていた。

(これって、まさか‥き、昨日の!?)

(うそっ‥加賀さん、なんでこんな、見えるところに!?)

サトコ

「あ‥あー!実は昨日、虫に刺されちゃって!」

「か、かゆいなーって思ってたんですよ!」

東雲

その割には、腫れてないけど?

サトコ

「小さい虫だったんじゃないですかね‥!?」

黒澤

えー?むしろ、サトコさんよりも大きい虫でしょ?

莉子

「そうよねえ。それで、ものすごい鬼畜なんでしょ?」

「それとも、刺すときは意外と優しくなったりする?」

サトコ

「な、何を仰ってるのやら!」

加賀

うるせぇ

開いていたドアから、加賀さんが顔を出す。

全員の視線が集中しても、まったく気にする様子がない。

加賀

終わったのか

サトコ

「は、はい!全部終わりました!」

「というわけで、私はそろそろ‥」

東雲

ねえ兵吾さん。サトコちゃん、この辺を虫に刺されたらしいんですけどー

白々しく、東雲教官が私の首筋に触れる。

でもその瞬間、加賀さんの表情が険しくなった。

加賀

人のもんに気安く触るんじゃねぇ

黒澤

でもサトコさんはもう、加賀さんの専属補佐官じゃないですよね~?

だったら別に、誰が触ってもいいんじゃないですか?

黒澤さんまで参戦して、莉子さんと颯馬教官は面白そうにそれを眺めている。

石神教官と後藤教官だけは表情が変わらなかったものの、

こちらを気にしているのはわかった。

(加賀さん、いつもなら『知るか』とか『なんのことだ』とか、しらばっくれるのに)

なぜか今日は、苦々しげにみんなを見るばかりだ。

そして、舌打ちまじりに口を開く‥‥‥

加賀

自分の女を好きにして、何が悪い

サトコ

「‥‥‥」

「‥え!?」

加賀

出るぞ

私に短くそう告げると、加賀さんはさっさと先に教官室を出て行った。

取り残された私は、呆然とその背中を見つめる‥

サトコ

「‥えええ!?」

東雲

なんでキミがそんなに驚いてんの

莉子

「ふふ、やっぱり兵ちゃんを変えたのはサトコちゃんだったわね」

黒澤

それより、追いかけなくていいんですか~?

サトコ

「お、追いかけます!あの、失礼しました!」

加賀さんを追って、急いで教官室を出る。

その後から、教官たちや莉子さんの声が聞こえてきた。

東雲

あーあ、まさか卒業まで本当にもつなんてね

あの子がついていけなくなるか、兵吾さんが面倒になるかだと思ったのに

黒澤

それとも、ボロが出てみんなにバレるか‥楽しみにしてたんですけどね~

後藤

ボロなら出てただろ、かなり

颯馬

そうですね。本人は気付かれてないと思っていたようですが

石神

はあ‥知らないフリをするこっちの身にもなれ

莉子

「もう。応援してあげなさいよ、アンタたち」

(や、やっぱり教官たちにはバレてた‥!)

(でも、卒業まで黙っててくれたんだ‥)

心の中で教官たちへの感謝が止まらない私だった。

【校門】

サトコ

「‥‥‥加賀さん!」

校舎を出たところでようやく追いついた加賀さんに、後ろから声を掛ける。

先を歩いていた加賀さんが、ゆっくりと振り返った。

加賀

うるせぇ

サトコ

「すみません、でも‥」

「ど、どうして教官たちの前であんなこと‥」

加賀

言いたいっつったのはテメェだろ

サトコ

「でも加賀さんは、言いふらすのは好きじゃなかったんじゃ」

加賀

‥‥

サトコ

「‥‥もしかして、私のため、ですか?」

加賀

どうとでも好きに取れ

それは、加賀さんなりの肯定の意味だった。

(加賀さんが、自分から私たちの関係のことをみんなに言ってくれるなんて‥)

突然、ぐいっと手首を引っ張られた。

大好きな人の顔が、すぐ目の前に迫る。

加賀

締まりのねぇ顔だな

サトコ

「う、生まれつきです」

「それに、嬉しくて‥」

正直にそう伝えると、ほんの一瞬、加賀さんの顔に優しい笑みが浮かんだ気がした。

(え‥)

加賀

なんだ

サトコ

「い、今‥笑いました?」

加賀

寝言は寝て言え

サトコ

「寝言‥」

加賀

‥この程度で喜ぶとは、簡単な犬だな

サトコ

「この程度じゃないです‥加賀さんだから嬉しいんです」

加賀

‥‥‥

少しの間私を見つめて、加賀さんが手を離す。

そして再び、校門に向かって歩き出した。

サトコ

「あ、待ってください!」

加賀

俺は待たねぇと、何度言えば分かる

サトコ

「それでも‥私はどこまでも、加賀さんを追いかけ続けますから!」

加賀

‥望むところだ

(いつかきっと追いついてみせる‥隣に並んで、一緒に歩けるように)

2年前、この校舎の門をくぐったとき‥私は刑事を夢見る、まだ現実を知らない人間だった。

何度も壁にぶつかり、挫折しそうになって、

それでも顔を上げると、加賀さんの背中があった。

(ずっと、この背中を見てきた‥言葉にしてくれなくても、態度は乱暴でも)

(いつも私を励まして、立ち上がらせてくれるって知ってるから)

ここを卒業して、これからどこへ配属になるのか‥そこでどんな事件が待ち受けているのか。

でもどんなことがあっても、きっと乗り越えていける。

サトコ

「もうっ‥加賀さん!本当に、ちょっとくらいは待ってくれても!」

加賀

キャンキャン喚くな、駄犬が

必死に走って、加賀さんを追いかける。

優しい風に舞う桜は、私たちの新たな出発を祝福してくれているようだった。

Happy  End


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