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逆転バレンタイン カレ目線 加賀2話







【寮】

サトコ

「かっ、加賀くんなんて‥加賀くんなんて‥!」

「セクハラ罪で、次の試験は失格ですからー!」

真っ赤な顔で涙目になりながらそう言い捨てると、氷川は逃げるように走り去った。

加賀

あの女‥

(セクハラ罪なんてねぇだろ)

(だいたい、なんで泣かれなきゃならねぇ)

起きているのがわかっていたから、キスをした。

それは、あの女に自分の気持ちを知らしめてやりたかったからだ。

(なのに、何を勘違いしたんだか)

(泣いて逃げ出した‥ってことは、違う解釈をしたか)

正直、ここまで言っても伝わらないとは、さすがに思ってもみなかった。

(だいたい、からかうためにキスするバカがどこにいる)

(起きてるってわかってて、面倒なことになるのも予想がつく‥なのにそうしたってことは)

加賀

常識的に考えりゃ、意味くらい分かるだろ

いや‥あいつに常識を求めても無駄か

ため息をつき、氷川が逃げて行った廊下の向こうから目を逸らせない。

(一番ムカついてんのは、あんな女に振り回されてるテメェ自身だ)

あいつ以外の女相手なら、こうはならないだろう。

分かっているが、気持ちをコントロールするのは不可能だ。

(‥他の女じゃ、意味がねぇ)

(どうしようもねぇな、俺も)







【個別教官室】

翌日、個別教官室へ行くと、よりにもよって歩に間違われた。

(今まで俺にやらせてたもんを、他の男に頼むとはな)

(クズが‥意識しろとは思ったが、方向性が違うだろ)

睨みつけると、氷川があからさまに怯える。

それでも目を逸らさず睨みつける姿は、まるで小動物のようだ。

サトコ

「かっ、加賀くんは、遊びでキスとか、できるかもしれないけど!」

加賀

あ゛?

サトコ

「ひぃっ!」

(誰が遊びだ‥勝手に決めつけてんじゃねぇ)

(遊びなら、テメェみたいな面倒な女はごめんだ)

サトコ

「そそそ、そんなに睨まれたって‥こっ、怖くないんだから!」

涙目になりながらも、氷川は目を逸らさない。

(‥全身で怖がってんじゃねぇか)

(怖ぇなら、逃げりゃいいものを)

苛立ちを通り越して、言いようのない感情が沸き起こる。

それが『愛しさ』なのだと気づいたものの、認めたくない。

加賀

‥デキの悪い上司が、さっさと自覚しねぇからだろ

サトコ

「え‥?」

(ここまで言ってもわかんねぇのか)

(これから苦労しそうだな‥)

加賀

なんだって、よりにもよってこんな面倒なのに惚れたんだかな‥

サトコ

「ほ、惚れた‥!?」

ようやくこちらの気持ちが伝わったのか、氷川が今まで以上に真っ赤になる。

サトコ

「そんなバカな‥!」

加賀

なんで気付かねぇ

あのサイボーグ野郎ですら、わかってたってのに

サトコ

「サイボーグって‥石神くんのこと?」

加賀

俺の前で他の男の名前を出すとは、いい度胸だな

サトコ

「か、加賀くんが先に言ったんでしょ!?」

加賀

そういや、さっきも歩と間違えたか

サトコ

「だから、あれは‥!」

焦る氷川に、手を差し出す。

『握手?』と明後日なことを尋ねてきた氷川は、

どうやらチョコなど用意していなかったらしい。

サトコ

「あ!食堂のおばちゃんにもらったチロリチョコが!」

加賀

‥‥‥

サトコ

「‥もしかして、加賀くんももらった?」

加賀

ああ

サトコ

「でも、今はこれしか‥ど、どうかこれでご勘弁を」

(テメェ以外の奴が用意したものをもらって、何が嬉しい)

(仕方ねぇ‥楽しみは来年までとっておいてやる)

肩をつかんで引き寄せ、強引に唇を重ねた。

氷川が身じろぎしたのが分かったが、離してやるつもりはない。

(覚悟しとけ。これまで散々待たされた分、手加減なしだ)

(他の男によそ見なんざしたら、ただじゃおかねぇ)

サトコ

「か、加賀、くっ‥誰か、来るかもっ‥」

力が抜けた身体でぐったりと俺に寄りかかり、氷川が呼吸を乱す。

加賀

だからどうした

サトコ

「や、やっぱり、学校でこういうのはよくないと‥その‥」

「私にも、加賀くんにも‥た、立場というものが」

加賀

くだらねぇ

サトコ

「く、くだらないなんて‥!」

加賀

テメェは、俺が好きじゃねぇのか

いい加減にしびれを切らしてそう尋ねると、氷川が俺を二度見した。

サトコ

「すっ‥」

加賀

‥‥‥

サトコ

「っ‥き、ですが‥!」

(‥なんで敬語だ)

(だが‥ずいぶんとしっくり来るな)

サトコ

「だけど、そういうことじゃなくて‥」

加賀

問題ねぇだろ

サトコ

「ありすぎるよ‥!」

加賀

いいじゃねぇか。これから卒業まで、楽しい秘密の恋愛の始まりだ

なあ?氷川教官

サトコ

「‥‥‥!」

肩を抱き寄せて、目元にキスをする。

口をパクパクさせて真っ赤になる氷川を見て、ようやく満たされるのを感じた。







【加賀マンション 寝室】

加賀

‥‥‥

目を覚ますと、隣でサトコが眠っていた。

サトコ

「うーん、加賀さん‥それは石神教官の眼鏡です‥」

「大福じゃないですよ‥柔らかいものじゃないですから‥」

加賀

‥‥‥

夢に他の男を登場させていることに腹が立ち、思い切り額を指で弾いてやった。

サトコ

「!?」

「‥‥‥」

一瞬目を覚ましそうになったものの、サトコは再び枕に頭を乗せて眠り始める。

(‥なんだ、さっきのくだらねぇ夢は)

サトコが教官で、自分がその補佐官。

あまりのもあり得ない内容に、ため息をついて身を起こした。

(なんだってあんな夢を見た‥)

(‥そういや、昨日は確か)

ベッドサイドのテーブルに視線を向けると、そこには小さな箱。

中には、サトコが作ったチョコが入っていた。

(ひとつ食って‥こいつが、物欲しそうなツラしやがるから)

キスで黙らせようとしたが、うっかりこっちの方が夢中になった。

ベッドに押し倒し、当たり前のようにサトコを抱き‥今に至る。

(相変わらず体力がねぇな。あの程度で音をあげるとは)

(‥まあ、そのあと一緒に寝ちまったんだから、こいつのことは言えねぇが)

『もう無理です』と火照った身体で泣き言をいうサトコを抱きしめ、

髪を撫でていた記憶がある。

だがその肌の柔らかさを味わっている間に、いつの間にかつられて眠ってしまった。

(‥誰かのそばで熟睡するなんざ、今までならあり得なかったが‥)

(なんだって、コイツがいると気が緩むんだろうな)

隣でのんきに眠っているサトコを眺めていると、さっきの夢がまざまざと蘇る。

加賀

‥何が『加賀くん』だ

手を伸ばして、サトコの頬に触れる。

そのままつまんだり伸ばしたりしていると、口を開けたままサトコが目を覚ました。

サトコ

「‥‥‥」

「‥痛い」

加賀

黙ってろ

サトコ

「いや‥」

寝惚けているのか、サトコはしばらく俺の好きにさせたまま、ぼんやりとこちらを眺めていた。

サトコ

「なぜ‥寝起きに、こんな仕打ちを‥」

「加賀さん‥痛い‥痛いです‥」

加賀

チョコを用意すんのを忘れた罰だ

サトコ

「す、すみませ‥」

「‥‥‥」

「!? 用意しましたよ!?」

テーブルの上のチョコと俺を何度も見比べて、サトコが慌てふためく。

その様子があまりにも滑稽で、笑いを堪えきれなかった。

加賀

そっちじゃねぇ

サトコ

「‥加賀さん、もしかして寝惚けてるんですか?」

加賀

あぁ゛?

起き上ったサトコの口を、キスでふさぐ。

まぶたや頬にもキスを落とすと、サトコがくすぐったそうに肩をすくめて笑った。

サトコ

「ふふ‥どうしたんですか?」

加賀

何がだ

サトコ

「だって、こういうの珍しいなって」

加賀

‥‥‥

嬉しそうにキスを受け止めるサトコの前で、目を閉じる。

サトコ

「え?」

加賀

サトコ

「!」

(俺が何を望んでるかくらい、わかんだろ)

少しためらったような気配の後、軽く唇が触れ合った。

目を開けると、顔を真っ赤に染めたサトコが俺と目を合わせないようにうつむいている。

加賀

何で今さら、この程度で照れてんだ

サトコ

「じ、自分からというは、ちょっと、その‥」

加賀

‥まあ、テメェにしては上出来だ

サトコ

「え?」

(夢の中のこいつは、現実以上に鈍かったからな)

目の前のコイツの方が、よっぽど俺のことをわかっている。

そう思うと、褒美でもくれてやりたい気分だった。

サトコ

「加賀さん、ご機嫌ですね」

加賀

冗談じゃねぇ

テメェがクズでノロマのせいで、どんだけ苦労したと思ってる

サトコ

「そ、それ‥今関係ありますか!?」

加賀

大アリだ

サトコの肩を軽く押して、もう一度ベッドに横たわらせた。

隣に寝転び、腕の中に閉じ込めるように抱きしめる。

加賀

寝ろ

サトコ

「はあ‥理不尽なのは、いつものことですからね‥」

加賀

言うようになったじゃねぇか

自分からもしがみついてくるサトコの髪を撫でてやると、少しして寝息が聞こえてきた。

(‥夢の中では、こいつを手に入れるところまでだった)

(それ以降は‥現実で積み上げてきゃいい)

振り返れば、箱に入った食べかけのチョコレート。

新しい夢を見るため、その頭に頬を乗せて目を閉じた。

Happy  End


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