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離れるの禁止! 東雲



ぼんやりとした視界の中、おずおずと歩みを進める。

(あっ、いた!)

すっかり見慣れた、大好きな背中。

サトコ
「東雲教官!」

教官はゆっくりと振り返った。

東雲
ねえ、オレのこと好き?

サトコ
「はい、大好きです!」
「雨が降っても槍が降っても、加賀教官が100人振っても···」
「私は···東雲教官についていきます!!」

東雲
そう?じゃあ···

ガチャリ

サトコ
「!?」

いつの間にか、2人の手首が手錠で繋がれている。

東雲
こうやって、ずっと一緒にいようか

サトコ
「えっ。いや、これはちょっと···」

(食事とかお風呂とか、不自由すぎるし)
(何より、さすがにアブノーマルすぎるっていうか···)

東雲
大丈夫。心配しないで···
一緒にいられることが一番大事。そうでしょ?

(素直に『はい』って頷けない何かがあるんですけど···)
(っていうか、これ誰?)
(ホントのホントに、あの東雲教官?)

思わず、ごくっと息を呑む。
そんな私に構わず、教官の笑顔がゆっくりと近づいて···

東雲
サトコ
もう、離さない···
死ぬまでずっと、一緒だよ···

サトコ
「···っ」



【教官室】

サトコ
「い···いやーっ!」

自分の叫び声で目が覚める。

サトコ
「!?」

(そうだ。私、昨夜、教官と徹夜仕事してて···)

ようやく仕事が終わったところで、安心して寝入ってしまったらしい。

(ということは、あれは夢···?)

ゆっくりと記憶をたどっていると、教官の呆れた声がした。

東雲
随分うなされてたね
まあ、キミが隣でうるさくしてくれたおかげで起きれたけど

サトコ
「すっ、すみません」
「おはようございます、教官。すみません、私居眠りしちゃったみたいで」

東雲
いいけど。オレも寝てたし
で、一体どんな夢見てたの?

サトコ
「教官が私に手錠をかけるんです」

東雲
ふーん···?

サトコ
「それだけじゃないんです!『これでずっと一緒にいられるね』って、嬉しそうに笑うんです。
「おまけに笑顔も教官っぽくなくて、教官なのに教官じゃないっていうか」
「一緒にいると、なんだか真綿でジワジワ首を絞められてるみたいで···」

(うう、思い出すだけでゾクッとする)

東雲
···色々つっこみたいけど、それは後にして

サトコ
「人の話を勝手に後回しにしないでください!」

東雲
だってある意味夢じゃないし

サトコ

「えっ」

東雲
ほら

教官が片手を上げる。
なぜか私の手まで持ち上がって···

(うそっ)

そこには銀色に輝く手錠が、しっかりとかけられていた。

サトコ
「な、ななななんで···」

東雲
知らない
まあ、大体の見当はつくけど

サトコ
「見当、ですか?」

ガチャッ

黒澤
あっ、おはようございまーす。2人とも起きたんですね

サトコ
「!?」

手錠を慌てて隠したかったけれど、遅かった。
黒澤さんが「あっ!」と声を上げる。

黒澤
思った通り、手錠がよく似合ってますね~

サトコ
「!?」

東雲
ということは、やっぱり透の仕業か

黒澤
はい。お2人があまりに仲良しさんだったので、つい···

東雲
意味わかんないし
早く外せ

サトコ
「そうですよ!私、このあと講義が···」

壁の時計は、講義開始10分前を指している。
そしてその講義の担当はーーよりによって、あの加賀教官だ。

(遅刻や欠席だって絶対ダメだけど)
(こんな姿で出席したら、どんな仕打ちを受けるか···!)

黒澤
ハイハイ、分かってますって
ほら、ここにあるカギで、すぐに···

黒澤さんは内ポケットからカギを取り出す。

???
「ニャッ!」

パシッ

黒澤
···あっ

いつの間に入り込んだのか、ブサ猫が黒澤さんの手に飛びかかる。
まんまとカギを奪って窓枠に飛び乗った。

黒澤
こら、返しなさい

ブサ猫
「ニャー」

サトコ
「そうだよ!それが無いと私たち···あっ」

ブサ猫は、そのまま外へと逃げてしまった···

サトコ
「······」

東雲
······

黒澤
······と、いうことで!
スペアを取ってくるまで、それで過ごしてくださいね★

黒澤さんもヒラリと逃げるように部屋から出て行った。

(そ、そんな···!!)

東雲
···これじゃ仕事にならない

サトコ
「私だってそうですよ···」
「どうしよう···。こんな姿じゃ講義に出られない···」

東雲
はあ?

サトコ
「え?」

東雲
出るに決まってる。訓練生の本分は?

サトコ
「···勉強です!」
「って、ええっ!?」


【教場】

講義が始まる前の教場は、いつになくざわついていた。
それもそのはずで···

サトコ
「教官、本当にいいんですか···?」

東雲
生徒に講義を受けさせるのも、教官の仕事のうちでしょ

(それはそうだけど···っ)

同期1
「なあ、アレ···」

同期2
「氷川さんと東雲教官って、そういう···?」

同期1
「びっくりだよな。単なる教官と補佐官じゃなかったんだ···」

同期2
「それにしたって大胆すぎるだろ。まだ卒業もしてないのに」

(うう···正面から聞いてくれれば、こっちも否定できるのに···)
(ここで大声で否定したら、なんか‥ホントっぽいし···!)

私の隣に座った教官は、涼しい顔で前を向いている。
みんなが囁きかわす声にも無反応だ。

サトコ
「教官、何とか言ってください」

東雲
『何とか』

サトコ
「じゃなくて···!」

東雲
あれくらい、気にすることないでしょ
氷川さんもオレも後ろめたいことはないんだし、ほっといたら?

サトコ
「後ろめたくなくても、誤解されるのはイヤなんです!」

そこへ千葉さんと鳴子がやって来た。

千葉
「いたいた、氷川···って、えっ?」

鳴子
「サトコ、いつの間に東雲教官とそんな仲に···」

サトコ
「ち・が・う・か・ら!!」

教官がよそゆきの笑顔を鳴子たちに向けた。

東雲
昨夜、氷川さんに仕事を手伝ってもらっててね
なかなか終わらなくて、結局徹夜になっちゃったんだけど···
ようやく終わって居眠りしてたら、透にイタズラされちゃったんだ

鳴子
「あー、なるほど!災難でしたね」

千葉
「それじゃ、黒澤さんがカギを持ってるんですか?」

サトコ
「それが、ブサ猫に取られちゃって···」
「今スペアキーを黒澤さんに探してもらってる···」

会話に聞き耳を立てていた人たちから、気の抜けたような声がもれた。

同期1
「なんだ、そんなことか」

同期2
「もっと色っぽい話かと思ったのに···」

(人の気も知らないでのんきなことを···)

鳴子
「でも、いいなー」
「たとえイタズラでも、東雲教官とずっと傍にいられるなんて♪」

(こっちにものんきな人がいた···!)

東雲
でも鳴子ちゃんとずっと一緒だと、オレも緊張しちゃうからさ

鳴子
「えっ、そうですか?嬉しいです!」

(ちょっと待って···)
(それ、私とは緊張しないってこと!?)

そこへ加賀教官がやってきた。
真っ先に私たちを見つけて眉を寄せる。

加賀
そこの2人、そういうプレイなら外でやれ

サトコ
「違います。プレイじゃないです!」

東雲
詳細は省きますが、透のイタズラです。今、カギを探させてます

加賀
···なるほどな
今日に限り、特別に許可する

東雲
ありがとうございます

加賀
とはいえ、見た目はまんま拘束プレイだな
相手がクズだってのが、少々物足りねぇが

(うう···)

加賀
今日は海外におけるテロの実例とその捜査についてだ

ノートを取り始めて、しばらくして。
隣に座る東雲教官がボソッと呟いた。

東雲
兵吾さんが話した重要事項のうち、3割は漏れてる
あーあ···そこ、もっと分かりやすく書けるでしょ
全部書けばいいってもんじゃない、非効率すぎ
キミ、こんな穴だらけのノートで試験をパスするつもり?天才?

サトコ
「ちょっと黙っててください···!」

その後も、教官はなにかと口を出してくる。

(ただでさえ、加賀教官の講義はついていくのが大変なのに)
(私だけ、2倍の厳しさ···うう···)

それでもなんとかノートを取り続ける。
しばらくすると、教官のツッコミは止まった。

(気のせいかな。視線が···)

東雲
······

チラッと見ると、教官はじっと私の顔を見つめている。

サトコ
「!」
「あの···どうかしました?」

東雲
別に。見とれてただけ

サトコ
「!?!?」

(見とれた?教官が私に!?)
(こんな反応、怖い···)
(私、本当はまだ夢の続きを見てるんじゃ···)

そんな予防線を張りつつ、感じる視線についドキドキしてしまう。

(もしかして、本当に私に見とれてるのかな)
(いやいや、そんなわけ···)

東雲
キミの考えてる顔、面白いなーと思って

サトコ
「······」

(···ないよね、やっぱり)
(ドキッとして損した···)

もう教官には構わないと決めて、加賀教官とノートに集中する。
講義が終わるまで、教官は面白そうに私を見つめたままだった。


【廊下】

(なんだかドッと疲れた···)

黒澤
あっ、いたいた歩さん、サトコさん!

東雲
カギ、見つかった?

黒澤
それがまだ···
一生懸命探してますから、もうちょっと待っててください

サトコ
「はい···できるだけ早めでお願いします···」

東雲
······

黒澤
やっぱ手が使えないと不自由ですよね···すみません
これ、買ってきました。お2人で食べてください

サトコ
「?」

黒澤さんから、近所のパン屋の袋を受け取る。

サトコ
「あっ、サンドイッチ!」

黒澤
これなら片手で食べられるでしょ

サトコ
「黒澤さん、あなたは神ですか···それとも仏···」

黒澤
いえいえ。オレなんて、しがないみんなのアイドルです★

東雲
は?

黒澤

じゃ、用も済みましたんでオレはこれで!

サトコ
「あのっ、スペアが見つかったら、すぐに持って来てくださいね!」

黒澤
はーい、任せてくださーい

東雲
······


【裏庭】

人の視線を避けて、裏庭のベンチでお昼を取る。
教官はブックカバーをかけた本を取り出した。

サトコ
「分厚いですね···何の本ですか?」

東雲
エロ本

サトコ
「えっ」

東雲
······
冗談だよ

(で、で、ですよね!)

東雲
仕事の資料。ちょっと急ぎで読まないといけないから
それに···確かにここは人気がないけど
2人きりで仲良くしゃべってるところに誰が通りかかったら?
それこそ、おかしなウワサを立てられかねないでしょ

(それもそうか···)

東雲
サンドイッチの具はなに?

サトコ
「アボカドとエビと、卵とツナです。どっちがいいですか?」

東雲
アボカドとエビ

サトコ
「ハイ、どうぞ」

東雲
ありがと

静かにページを操る教官の隣で、黙々とサンドイッチを食べる。

(こんな近い距離でたべるなんて初めてかも)
(教官は全然平気そうだけど···)

キレイな横顔をそっとうかがう。

(私はこっそりドキドキしてるのに)
(緊張、しないんだもんな···)

小さなため息を飲み込んだ時だった。

ペシャッ

サトコ
「えっ」

頭に何かがぶつかって、視野が緑色に染まる。

(何事!?)

振り仰ぐと、2階の窓から後藤教官が身を乗り出していた。

後藤
氷川か?悪い!

東雲
後藤さん。これ、カラーボールですよね?

後藤
ああ
訓練用の備品を整理していたら、手が滑ってしまって···

(な、なんだ、そういうこと···)

事件絡みじゃないと分かって肩の力が抜ける。

(でも、これはさすがに···)

東雲
とりあえず、シャワー浴びたら?

サトコ
「そうですね。じゃあ···」


【寮監室】

サトコ
「って、なんで寮監室なんですか?」

(てっきりシャワールームに行くんだと思ったのに)

東雲
手錠してたら、服を脱げないでしょ

サトコ
「そりゃそうですけど···えっ」

教官が取り出したハサミに、つい後ずさる。

東雲
こら、逃げない

サトコ
「でっ、でも」

東雲
このまま緑色でいたいなら、それでもいいけど?

サトコ
「うう···」

東雲
動いたら危ないよ

(ひー···)

服の袖にハサミが入る。
肌に刃が触れ、小さく震えた。

(冷たい···)

教官が私の耳に顔を寄せる。

東雲
じっとして

サトコ
「!」

ジョキ···ジョキ···

もどかしいくらい、ゆっくりと袖が切られていく。
いつの間にか息を詰めていたみたいで、
すべて脱ぎ終わる頃には、私は酸欠になりかけていた。

【バスルーム】

隙間に手錠の鎖を通して、浴室のドアをそっと閉じる。

サトコ
「絶っ···対、開けないでくださいね!?」

東雲
分かったから。早くして

すりガラスの上に手のシルエットが現れた。
一瞬、ビクッとしたけれど···

(あ、そうか。開かないように押さえてくれてるんだ···)
(でもこれだけ近いと、私のシルエットも教官に見えてるよね···?)

東雲
···そんなに気になるなら、目、閉じてるけど

サトコ
「!?」

(な、何で···私、いま口に出してた!?)

東雲
とにかく、早く

サトコ
「はい···っ」

ドアの方は見ないようにしつつ、不自由な片手で塗料を落としていく。
時々、手錠の鎖が小さな金属音を立てる。

(自分は裸なのに教官は服着てて、見えないけど、すぐ近くにいて···)
(この状況、教官はどう思ってるんだろう)

気になって、そっと振り向く。
それが見えていたように教官の声がした。

東雲
···まだ?

サトコ
「!! すみません、急ぎます···!」

ビクッとした拍子に強く手を引いてしまって、教官が低く呻く。

東雲
いった···っ

サトコ
「すすすみません···!!」

上ずる私とは正反対で、教官の声はいつも通りだ。

(こんなにドキドキしてるの、私だけなのかな)
(何だかちょっと···悔しいなあ)

(はぁぁぁぁ·········緊張した······)

身体の水気を拭いてバスタオルを巻く。

(この格好で出て行くのも恥ずかしいけど···仕方ない!)

【寮監室】

サトコ
「おっ、お待たせしました!」

東雲
···うん

バスタオルを巻いて出て行くと、教官はそっぽを向いていた。

(うう、気まずい)
(早く服を着ちゃおう···)

制服を手に取って、ハッと我に返る。

サトコ
「教官!」

東雲
なに

サトコ
「大変です。手錠してると着られません···!」

(そうだよ、脱げないということは、つまりは着られないということで···)
(ああっ、何でもっと早く気付かなかったんだろう!)
(私、スペアキーが見つかるまで、このまま全裸!?)

東雲
ちょっと、落ち着い···

コンコン

サトコ
「!」

黒澤
歩さん、サトコさん、黒澤でーす
見つかりましたよ、スペアキー

(やっ···った!)
(さすが黒澤さん、ナイスタイミング!)

サトコ
「はーい!いま出ま···」

ドアに向かおうとした所で、手錠のかかっている腕をぐっと引かれた。

東雲
···出なくていいから

サトコ
「え?でも···」

カシャン

なぜか、一気に腕が軽くなった。

サトコ
「···!?」

東雲
···あー、肩凝った

教官も、自由になった腕を軽く振る。

サトコ
「!?!?!?」

東雲
説明は後
オレが出るから、キミはここにいて

私が死角にいることを確かめてから、細くドアを開ける。

ガチャッ

黒澤
お待たせしました。お待ちかねのスペアキーでっす★
あれ、あれれー?サトコさんはどこに······

東雲
遅い。手錠なら、もう外したし

黒澤
うわ、すごい。どうやったんですか?

東雲
あの型なら解除するの簡単だった。その辺のハリガネで

黒澤
あらら。でも、念のためコレ、渡しときますね」

東雲
は?なんで

黒澤
なんでって、仲良しの2人には必要じゃないですか~?

東雲
邪推するな。いらない。持って帰れ

黒澤
まあまあ、そう言わずに
じゃ、ごゆっくり★

パタン···

東雲
······
···だって。いる?

サトコ
「いりません!」
「ていうか、いつから外し方分かってたんですか!?」

東雲
さっき、昼休みに本を読んでから

サトコ
「えっ」
「で、でも『急ぎの仕事の資料』だって····」

東雲
オレ、ウソは言ってないはずだけど?

(確かに仕事のうちかもしれない···けど)

サトコ
「それならそれで、もっと早く外してくださいよ!」
「わざわざハサミなんか使って···。手錠が無ければ普通に脱げたのに···!」

東雲
キミの顔、近くで見てるのも悪くなかったから

サトコ
「えっ···」

東雲
ほんとサイコーだよね、キミの百面相

サトコ
「!?」
「···教官のバカ!もう知りません!!」

(なんか、いつも教官に転がされっぱなし···)
(私がどれだけ焦って···ドキドキしたと思って!)

東雲
誰かさんはオレから早く離れたかったみたいだけどね

サトコ
「!?」

東雲
『早くスペアキーを持って来てください』って、透に何度も念押ししてたっけ

サトコ
「あれは···そういう意味じゃないです!」
「講義とか食事とか、色々不自由だから!」
「教官に迷惑かけたくないから、だから···!」

東雲
······
···分かってるよ

開いたままの唇を塞がれる。
宥めるみたいに啄まれて、ついつい身体の力が抜ける。
その隙をつくみたいに口づけが深まって行った。

(もう···敵わないな)
(なんだか『ごめんね』って言われてるみたい)
(···気のせいかな)
(気のせいでも、いいや···)

教官のキスが優しいから、私の怒りも行き場所が無くなる。
2人を繋ぐものは無くなった後も、私たちはしばらく離れなかった。

Happy  End



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