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テーマパーク 後藤



(えっ、後藤さん?)

難波
どうした、後藤
黒澤への制裁はもういいのか?

後藤
加賀さんと周さんに任せた方がよさそうなので···

難波
そうか。だったら少し遊んで来たらどうだ
彼女と一緒に

(えっ?)

室長が、ドンッと私の背中を押す。

サトコ
「し、室長?」

難波
なぁ、後藤。お前の補佐官、かわいそうだろ
せっかくの休みなのに、黒澤の策略に巻き込まれて

後藤
それは···

難波
だったらフォローしてやれ。『黒澤の先輩』としてな

後藤
······
···そういうことであれば
氷川、行くぞ

サトコ
「は、はい···!」

難波
今日はこのまま直帰でいいぞー



【パーク内】

そんなわけで、ようやく後藤さんと2人きりになれたものの‥

後藤
······

サトコ
「あの···」

後藤
すまない。黒澤が迷惑をかけた

サトコ
「そんなことないです。いろいろ楽しかったですよ」

後藤
······

サトコ
「それに、その···」
「今は2人きりでいられるわけですし」

後藤
···そうだな

(あ、やっと笑ってくれた···)

サトコ
「後藤さんはなにか乗りたいものはありますか?」

後藤
俺は、特には···
アンタこそ、なにかないのか?

サトコ
「私もそれほどでも···」
「正直さっきの脱出ゲームで力尽きたっていうか···」

後藤
あれはなかなかハードだったな

サトコ
「そうですよね。謎解き以外にも、いろいろありましたし」

後藤
いろいろ?

サトコ
「その···壁ドンとか···」

後藤
···ああ

サトコ
「あれは、なんていうか恥ずかしかったですね···」
「石神教官や颯馬教官の目の前だったし」

後藤
気付かれなかっただろうか

サトコ
「えっ」

後藤
その···俺たちの関係について···

サトコ
「ど、どうでしょう···」

(なんか、最近いろんな方面にバレている気が···)

ふと、後藤さんが足を止める。

サトコ
「どうかしましたか?」

後藤
ああ、少し懐かしいと思ってな

(へぇ、ゴーカート···)

サトコ
「私、乗ったことないんですよね」

後藤
そうなのか?

サトコ
「はい···何度か乗ろうとしたんですけど、皆に反対されて」
「両親からも友だちからも『絶対ダメ!』って」

後藤
···だったら乗ってみるか?

サトコ
「えっ、いいんですか?」

後藤
ああ

サトコ
「じゃあ、行きましょう!」



【ゴーカート】

意外にもゴーカートの前には列が出来ていた。

スタッフ

「1人乗りの方は右の列、2人乗りの方は左の列にお並びください」

後藤
どうする?
お互い1人用に乗って、競争することもできるようだが···

サトコ
「うーん···」

(それも面白そうだけど···)

サトコ
「やっぱり2人乗りがいいです」
「初めてだし、せっかくだから一緒がいいなぁ、なんて」

後藤
そうか。運転はどうする?

サトコ
「もちろん、私が···」

すると、後ろに並んでいた女性が「ええ~」と声をあげた。

女性
「ほんとに平気~?絶対怖くなーい?」

男性
「当たり前だろ。俺の運転テクニックを信じろって」

女性
「でもぉ‥」

男性
「じゃあ、お前が運転するか?」

女性
「やだ!それこそ、ありえないでしょー」

(そっか···普通は男の人が運転席···)

後藤
安全運転だ

サトコ
「!」

後藤
それだけは守ってくれ

ポン、と頭を撫でられる。
思わず顔を上げると、優しい眼差しとぶつかった。

(後藤さん···)

サトコ
「ありがとうございます。任せてください!」

後藤
ああ

スタッフ
「次の方、どうぞ」

サトコ
「はい!」

後藤
······

サトコ
「えっと···これがアクセルでこっちがブレーキなんですね」
「ギアはなし···っと」

後藤
そうだ。アクセルを踏むだけでいい

サトコ
「わかりました。じゃあ···」

ゴゴゴ···ゴゴゴ···

(あれ···全然スピードが出ない···)

後藤
もっと踏み込んでいい

サトコ

「はいっ!」

ゴオオッ!

(うわ···結構スピードが出るんだ···)

後藤
いい調子だな

サトコ

「はいっ」

(あ、前のカート、追い越しちゃった)
(他のカートは···当分見当たらないよね)
(だったら、もう少しスピードを出しても···)

ゴオオオオオッ!

後藤
お、おい···

サトコ
「教官、すごいです!めちゃくちゃ速いです!」

後藤
よそ見をするな。前方···

サトコ
「カーブですね!了解ですっ」

ギュンッ!

後藤
!?

(きた、直線コースだ!よーしっ)

後藤
サトコ···っ

サトコ
「任せてください!ギアをもう一段あげます!」

後藤
そうじゃない!そもそもギアは···

サトコ
「えい···っ」

後藤
···っ

スタッフ
「お疲れ様でした。見事な走りでしたね」

サトコ
「はい!ありがとうございま···」

後藤
······

サトコ
「あ、あの···後藤さん···?」

後藤
アンタの両親がカートに乗せなかった理由がよく分かった

サトコ
「後藤さん···っ!?」


【パーク内】

サトコ
「すみません。本当にすみません!」

後藤
······

サトコ
「最初は『ほどほどに』って思ってたんです!」
「でも、そのうち夢中になっちゃって、つい···」

後藤
スピード違反をするヤツの典型的な言い訳だな

(うっ···)

後藤
まさか、公道で運転する時も···

サトコ
「それはないです!」
「そのあたりは警察官ですから」

後藤
だったらいいが
刑事がスピード違反で捕まるなんてシャレにならな···
···っ

後藤さんは立ち止まると、ふっと疲れたように息を吐き出した。

後藤
すまない。少し休んでいいか?
頭がグラグラする

サトコ
「は、はい···っ」


【広場】

ひとまず、ピクニックエリアらしい場所で私たちは一息つく。

サトコ
「大丈夫ですか?」

後藤
ああ···

(そのわりに顔色が···)
(これって、さっきの私の運転のせいだよね)

サトコ
「あの···」

後藤
いいか?

サトコ
「えっ、なにが···」

軽く手を握られ、顔が近づいてくる。

(こ、これって···キス···)
(···あれ?)
(肩に寄りかかる···だけ···?)

後藤
······

(そ、そうだよね。すぐその辺を人が歩いてるし···)
(そもそも今ってキスする雰囲気じゃなかっ···)

後藤
膝を借りてもいいか?

サトコ
「あ、はい···」

(ん、膝?)

後藤
······

(えっ、膝枕?えっ···)

サトコ

「あ、えっと···ラクになりましたか?」

後藤
ああ

サトコ
「そ、それならよかった···です···」

ひとまず笑ってみせると、なぜか髪の毛を撫でられる。

サトコ
「後藤さん···?」

後藤
髪が乱れている
無茶な運転をするからだ

武骨そうな手が、ぎこちなくも髪の毛を整えてくれた。

(どうしよう···なんだかくすぐったい···)

後藤
···これでいい

サトコ
「ありがとうございます」

後藤
······

髪の毛を整えてくれていた手が、今度は私の頬に触れてくる。

サトコ
「あの···?」

後藤
アンタのことは、だいぶ分かったつもりでいた···
だが、知らない一面もまだまだあるんだな

サトコ
「これってゴーカートのこと···」

後藤
ああ
それにしてもアンタの膝枕は···寝心地がいいな

(後藤さん···)

頬に触れていた手が、するりと滑って顎の下をとらえる。

彼の眼差しに、それまでとは違う甘い色が滲む。

(あ、これって···)
(今度こそ、キス···)

サトコ
「······」

後藤
······

(···って、待って)

サトコ
「あの‥さっきから視線が···」

後藤
そうだな

同時に視線の先を見ると、小学生たちと目が合った。

サトコ
「えっと···キミたちは···」

小学生1
「しないの?」

小学生2
「ちゅーしないの?」

小学生3
「早くしろよ」

サトコ
「し、しません···!」

小学生1
「なんで?」

小学生2
「してよ、ちゅー」

小学生3
「度胸ねーなー」

サトコ
「う、うるさいから!キミたちはあっちに···」

後藤
行くぞ、サトコ

(えっ)

涼しげな様子で歩き出した後藤さんを、私は慌てて追いかける。

サトコ
「具合は?もう大丈夫なんですか?」

後藤
ああ

サトコ
「じゃあ、次はなんのアトラクションに···」

後藤
それより···
早くアンタと2人きりになりたい

サトコ
「!」

後藤
それでも···構わないか?

かすれ気味な声でささやかれて、心臓がどくんと大きく跳ねる。

サトコ
「は、はい···」

繋いだ手は、いつになく熱い。

その熱がどちらのものなのか、今はまったく分かりそうになかった。

Happy  End



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