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あの夜をもう一度 颯馬3話



~カレ目線~

【颯馬マンション リビング】

サトコ
「はぁ···」

(サトコ···すっかり落ち込んでいるな)

自分だけ捜査の作戦を知らされていなかったことに、彼女はショックを隠し切れずにいた。
そんなサトコを放っておけず、俺は自宅に連れ帰った。

颯馬
お風呂が沸いたので、先に入って身体を休めてください

サトコ
「···じゃあ、お言葉に甘えてそうさせていただきます」

颯馬
ゆっくり浸かってリフレッシュしておいで

肩を落としたサトコを見送りながら、ソファに腰を下ろす。

(そんなに落ち込むことはないのに)
(貴女の演技力の問題ではなく、力量を買っての抜擢だったんだから···)

あれはサトコの卒業が決定した数日後のことー



【教官室】

石神
今回の捜査の目的は銃の密売組織の逮捕だ

難波
この組織は密売に精通しているかなり厄介な連中だ。一筋縄ではいかない相手かもしれないぞ

颯馬
「何か特別な策があった方がいいですね

石神
そこでだ、潜入先で一人が囮として捕まり、奴らを油断させる作戦で行こうと思うんだが···

颯馬
石神班のみでの潜入となると人員的に厳しいのでは?

黒澤
そうなんですよ。普通ならオレが囮役になるところなんですけど

石神
当然それも考えたが、お前は突入時の要因として残しておきたい

黒澤
ハハ、突入班ってイッチバン危険な役ですからね~

(黒澤を使えないとなると···)

難波
氷川はどうだ?あいつなら臨機応変な対応できるだろう

(フッ、先に言われてしまったな)

石神
確かに、卒業試験でも咄嗟の対応力は光ってましたからね

後藤
何より物怖じしないタフさがある

(他の皆もサトコの力量を高く評価してくれているようだな)

当然のように彼女の抜擢を考えてくれていることに、誇りと喜びを感じる。

石神
どうだ、颯馬

颯馬
いいと思います。パーティーへの潜入は女性同伴の方が動きやすいですし

後藤
そういえば周さん、以前にも彼女とパーティーへの潜入捜査してますよね

颯馬
ええ。今の彼女ならあの時以上の力を発揮してくれること間違いないでしょう

難波
颯馬のお墨付きもいただけたことだし、氷川の参加は決定だな

石神
ただひとつ、室長の言うように今回の敵は一筋縄ではいかない相手だ
氷川には『おとり作戦』の詳細を伝えずにリアルなリアクションを引きだせ
より相手を油断させたい

黒澤
えっ、それってサトコさんが可哀想じゃないですか?

後藤
慎重に慎重を重ねてということだ

(確かに敵を欺くにはいいかもしれない。しかし···)

颯馬
では、私も彼女を助けるフリをして一緒に捕まりましょう
作戦とはいえ、一人にしておくのはリスクが高すぎます

難波
だな。では、その線で作戦を練ってくれ

一同
「はいっ」

こうしてサトコには詳細を伝えないまま捜査に参加してもらうことに決まった。



【颯馬マンション】

(俺が推薦するまでもなく、皆がサトコを評価してくれていたのは嬉しかったな)

だが、当の本人はこの大抜擢を喜べずにいるらしい。

(作戦を伝えられなかったことは自分に原因があると思っているのだろう)
(···もしや、前に俺が『隠し事が下手』なんて言ったからか?)

ふと先日のデートの時のことを思い出した。

(だとしたら悪いことをしたな···)
(そもそも本当は監禁中に全てを話して計画を共有する予定だったんだが···)

そうもいかない事情が、あの監禁部屋にはあったのだー

【倉庫】

(貴女にとっては少々手荒な捜査になってしまったね)

薬で眠らされたサトコの髪をそっと撫でた。

(目を覚ましたら全てを話してあげよう)

そう決めて、彼女が目覚めるのを待つ間に室内をチェックする。
ドアはしっかり施錠され、窓ひとつない倉庫のような部屋。
後から黒澤たちが突入するとわかっていなかったら、パニックになりそうな部屋だ。

(ん?これは···)

棚の陰に怪しい小さな箱状の物を見つけた。

(盗聴器か···さすが手慣れた連中、用意周到だな)
(しかし、これではここでサトコに計画のことを話すわけにはいかないな···)

その時、サトコが目を覚ました。

颯馬
お目覚めですか?

サトコ
「そ、颯馬さん!?」

颯馬
異変を感じてすぐに駆け付けたのですが、不覚にも私まで一緒に捕まってしまいました

(計画通りの運びなんだが···ごめん、騙すようなことになってしまって···)

後ろめたさを感じつつ、俺は石神さんたちが自ら連絡を絶ったことを告げる。

颯馬
石神さんたちは、私たちをおとりにして逃げたのでしょう

サトコ
「そんなはず···!」

颯馬
貴女も聞いていましたよね?彼らの会話を

サトコ
「あれは、おそらく敵を油断させるため、敵を欺くための演技だと思います」

(その通りだよ、サトコ。公安の仕事をよく理解しているね)

しかし、ここでその事実を明かすわけにはいかない。
俺は敢えて蔑んだような笑みを浮かべる。

颯馬
フッ···貴女らしい見解ですね

サトコは一瞬悲しげな目をするも、すぐに力強く言った。

サトコ
「石神教官たちは私たちを見捨てたりしません」

(貴女ならそう言うと思ってたよ)

『その通りだ』と言ってあげたい気持ちを抑え、俺は心を鬼にしてサトコを追い詰めていく。

颯馬
私たちは裏切られたのです

サトコ
「······」

颯馬
···やはり公安なんて信じるんじゃなかった

俺が並べ立てた嘘の数々に言葉を失ったサトコに、とどめを刺すように呟いた。
遠い過去の自分を振り返りながら···

【颯馬マンション】

(あの一言でサトコは完全に俺の嘘を信じてしまったな···)

酷なことだと分かっていても、そうするしか他に手はなかった。
いや、逆にサトコのあの素直さこそが今回の任務の成功につながったのだ。

(だからこそ、落ち込む必要など全くないんだが···)
(素直さも貴方の武器だってこと、教えてあげないと)

そんなことを思いながら、サトコが風呂から出てくるのを待つ。
バスルームから聞こえてくるシャワーの音が、なんとなく心地いい。

(一緒に風呂に入るのもいいが、たまには別々に入るのもいいものだ)

そう思ってふと、前にもこんな風にサトコを待った時のことを思い出した。

(そうか、あの時もパーティーへの潜入捜査を終えたあとだったな···)

サトコと初めての夜を迎えた時のことが蘇る。

【寝室】

別々に風呂に入った後、そっと手を引いて彼女をベッドに座らせた。
2人並んで座り、まだ少し濡れている髪に触れる。

(何だろう··この幸福感。こうして貴女が隣にいてくれるだけで心が満たされていく···)

妹を失ってから、こんな穏やかな気持ちになれる日はもう二度とないと思って生きてた。
あの事件で公安を信頼できなくなり、誰のことも信じて来なかった。
誰かに執着することも、幸せを望むこともなかった。

(でも···そんな一切の光を失った闇の中から、サトコは俺を救い出してくれたんだ···)

そっと触れた髪を優しく撫でる。
恥らっているのか、サトコは俯いたまま俺を見ようとしない。

(もっとちゃんと顔を見せて欲しい···)

たまらず額にキスを落とすと、サトコは小さく肩を震わせた。

サトコ
「っ······」

颯馬
···怖いですか?

顔を覗きこむと、ようやく目が合った。

サトコ
「き、緊張してるんです。まさか教官に想いが通じるなんて思ってなかったから」

颯馬
そうですか?俺はいつか、こうなると思ってたよ

余裕たっぷりに微笑んで見せるも、本当は今にも心臓が飛び出しそうだ。

(まるで思春期の少年みたいだ···)

こっそり自嘲する俺を、サトコは真っ直ぐに見つめてくる。
曇りない瞳と、彼女が言ってくれた一途な言葉が重なる。

『私は、教官が大切なんです!ずっとそばにいたいんです!』

(あの時の貴女の言葉は、俺の心の奥深くまで沁み込んできた···)
(まるでつきものが落ちたかのように肩の力が抜け、温かな光に包まれたような気がした)
(そして気付いたんだ、俺も同じ気持ちだと···)

俺もいつしかサトコを大切に思っていた。
このままずっとそばにいてほしいと願っていた。

(俺も···幸せを望んでもいいのかもしれない···初めてそう思えた瞬間だった)
(それからずっと···貴女を抱きしめたくて仕方なかったんだ···)

サトコ
「······」

真っ直ぐな瞳を向けたままのサトコに、優しく微笑みかける。

颯馬
···そんなふうに見られると、俺も男だから

サトコ
「え?」

颯馬
そろそろ、限界なんだ

(本当にもう···我慢できそうにない)

再び額にキスを落とした。
サトコはまた同じように小さく肩を震わせる。
その仕草が可愛くて、つい頬にもキスをしてしまう。

(柔らかい···)

わざとチュッと音を立て、反対側の頬にもキスを落とす。
感触を味わいながら、そっとサトコの反応を盗み見る。

(そんなにぎゅっと目を閉じて···本当に可愛いな)

可愛さ余っていじめてみたくなってきた。

(そろそろ唇にしてあげようと思ったけど、もう少し焦らしてあげようか)

今度は軽く啄むように鼻の頭にキスを落とす。

サトコ
「···っ!」

(おや、びっくりさせてしまったかな?)
(じゃあ、お詫びのキスはここに···)

サトコ
「ん···」

首筋をそっと食むようにキスすると、サトコはわずかに身をよじった。

颯馬
···これくらいで感じてる?

サトコ
「ち、ちが···」

颯馬
かわいいよ、サトコ

反論の隙を与えずにキスで唇を塞ぐ。
熱を持った2人の唇は、求めていたものを得たように深く重なり合う。

(ああ、誰かを大切に思う気持ちは、こんなにも幸せな気分にさせてくれるのか···)

忘れていたというより、初めて味わう感覚かもしれない。

(俺は···本当の幸せというものをまだ知らなかったのかもしれないな)
(それを教えてくれたのも、サトコ、貴女なんだね)

愛おしさがどんどん溢れ、深いキスを交わしたまま彼女をベッドに押し倒す。

サトコ
「······」

(貴女のすべてが欲しい···)

逸る胸の内を抑えきれず、彼女の胸元のボタンに手を掛けた。
彼女の身体が強張ったのがわかり、俺は柔らかく微笑む。

颯馬
力を抜いて···俺に、身を委ねて

サトコ
「颯馬教官···」

消え入りそうな声と共に、サトコはそっと目を閉じた。
1つ1つゆっくりとボタンを外し、露わになった素肌を見つめる。

(綺麗だ···)

サトコ
「んっ···」

頬と同じくらい紅潮させた胸元に、そっとキスを落とした。
続いて鎖骨に、肩先に、そしてまた胸元に落とす。
全身にキスの雨を降らせながら、指を絡めて手を握る。

サトコ
「颯馬···教官···」

(···こういう時に『教官』と呼ばれるのも、案外悪くないものだな)
(ついあれこれと教え込みたくなってしまいそうだが···)
(大切なことを教えてくれた貴女に、今度は俺が色々と教えてあげよう)

サトコ
「あ···っ···」

弓なりに反らせた背中が美しい曲線を描き、俺はたまらずその身体を抱きしめた。

(ちょっと意地悪し過ぎたか···)

愛を確かめ合った後、サトコは力尽きたように眠っている。

(演技下手を気にしている様子がなんだか可愛くて、ついいじめたくなってしまったよ)
(おまけにいつもよりちょっと激しく愛しすぎたかもしれないね···)

颯馬
ごめんね

そっと声をかけながら、優しく髪を撫でた。
サトコが風呂から出るのを待つ間に初夜のことを思い出していたせいか、
より熱が入ってしまった。

(あの時と同じ順番でキスを落としていったこと、気付いていた?)

颯馬
やっぱりこの順番が、一番感じる?

サトコ
「···?」

颯馬
最初から貴女はそうだった

(キョトンとしていたから、きっと分かってないだろう)

無防備な寝顔に癒されながら、ひとり目を細める。

(それにしても···あのサプライズ計画は見事なまでに失敗だったね)

俺にストールを買ってくれようとした時のことを思い出し、思わず頬が緩んだ。

(あの言い訳と慌てぶり···本当に可笑しかったし可愛かったな)
(とはいえ、それが原因で捜査の作戦を隠したわけではないことは、明日ちゃんと伝えてあげよう)

本当は風呂から出たら、盗聴器の存在のことなど、すぐに伝える予定だった。
だがサトコの可愛さに負け、ついからかって弄んでしまったのだ。

(貴女を前にすると、どうも予定や調子が狂ってしまうよ)

過去には、サトコにペースを乱されて疲れてしまい、難波さんに愚痴ったこともあった。

(その瞬間を貴女に見られてしまって···あの時は焦ったな···)
(それだけじゃない···)
(貴女といると自分がこれほどまでに独占欲が強かったのかと驚くこともしばしばだ)

サトコが同期の男子訓練生と剣道の練習をしているだけでモヤモヤしたりもする。

(全く···俺も変わったものだな)

何より、長い間抱え続けていた痛みを誰かと分かち合えたことは、俺にとって最大の変化だ。

(その誰かがサトコで、本当に良かった···)
(いや、サトコだからこそ分かち合えたんだ)
(そう考えると···弄んでいるようで、実際転がされているのは俺のほうなのかもしれないな)

ふと頭に浮かんだその仮説は、かなり説得力がある気がする。

(まあ、それならそれでいい···)
(一人憎しみに縛られていたあの頃より、今の方がずっと幸せだ)

そう実感しながら、サトコの柔らかな頬に触れる。

颯馬
···俺を変えたのは他でもない、サトコなんだよ

いつか伝えたことのある言葉を改めてそっと囁くと、
無防備な寝顔のサトコの額に、俺は静かにキスを落とした。

Happy End



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