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黒澤 出逢い編 シークレット1



Episode2.5
「縁のある名前」

【カフェテラス】

それは、黒澤さんのお仕事に初めて同行した数日後のこと。

鳴子
「潜入名?」

千葉
「俺たちの?」

サトコ
「うん、あれって自分たちで決めるものなの?」
「それとも、任務の度に『今回はコレ』って指定されるのかな」

鳴子
「さぁ、聞いたことないけど···」
「どうしたの、いきなり」

サトコ
「私、この間先輩の仕事に同行させてもらったでしょ」
「そのとき、急きょ、潜入名が必要になって···」

鳴子
「じゃあ、自分で付けたんだ?」

サトコ
「ううん、そのときは、先輩が付けてくれたんだよね」
「『石藤キャロライナ』って」

2人
「「えっ!?」」

鳴子
「石···なに?」

サトコ
「だから『石藤キャロライナ』だってば」

鳴子
「···なにそれ」
「そういうのって、もっと無難な名前を付けるんじゃないの?」
「『花子』とか『一子』とか···」

サトコ
「だよね。やっぱりおかしいよね。この潜入名」

(あのときは「妻」発言にばかり気を取られてたけど···)

千葉
「···いや、むしろ有りなんじゃないかな」

サトコ
「えっ、どこが?」

千葉
「だって、最近あまり聞かないだろ?」
「『花子』とか『一子』って」

サトコ
「そっか、たしかに···」
「今は、こういう名前の方がレアだよね」

鳴子
「だとしても、『キャロライナ』はないって!」
「明らかにインパクトありすぎだし」
「そもそもサトコ、『キャロライナ』って顔じゃないじゃん」

サトコ
「うっ」

(まさにそのとおりだけど···)

後藤
···何を騒いでいるんだ

サトコ
「あ、教官···」

千葉
「今、潜入名の話をしていたんです」
「氷川が、この間現場で『石藤キャロライナ』って名乗らせられたって···」

後藤
···『石藤』?
もしかして黒澤の現場に同行したのか?

サトコ
「そうですけど···」
「どうして黒澤さんだって分かったんですか?」

東雲
だって、透の潜入名じゃん。『石藤』って
石神さんの『石』と、後藤さんの『藤』で『石藤』

サトコ
「えっ、アレってそういう意味だったんですか?」

東雲
そうだよ
敬愛する先輩たちの名前を一文字ずつもらったってワケ

サトコ
「じゃあ、『ステファニー』は···」

後藤
周さんが大事にしている盆栽の名前らしい

(盆栽!?)
(そうだったんだ···それで『ステファニー』···)

千葉
「なんかいいですね、そういう潜入名」
「俺も、尊敬する先輩方の名前を一文字もらおうかな」

サトコ
「ね、なんか絆みたいなものを感じるよね」

東雲
うわ、おめでたすぎ···

サトコ
「えっ、今なんて···」

東雲
ううん、なんでもないよ。ただの独り言だから

鳴子
「ところで、教官たちの潜入名はなんですか?」

東雲
オレは、いくつかあるけど···
一番使っているのは『南雲駆』かな

鳴子
「へぇ、本名を少し変えただけなんですね」

後藤
···すまん、地味な名前だったな

東雲
いえ、むしろ有り難いですよ。正しい潜入名って感じで

(···うん?ってことは···)

サトコ
「東雲教官の潜入名は、後藤教官が付けたんですか?」

後藤
ああ

東雲
運の良いことにね

(···運の良い?)
(それって、どういう···)

鳴子
「ハイハイ!後藤教官の潜入名も聞きたいです!」

後藤
俺か?
俺もまぁ···いろいろあるんだが···

東雲
一番インパクトがあるのは『一柳玉三郎』ですよね

3人
「「えっ!?」」

(玉三郎?なんで、そんな名前···)

千葉
「え、ええと···」
「それも、先輩との絆とか、そういう理由で···」

後藤
いや、そうではなかったはずだ

鳴子
「『はず』ってことは、自分で付けたわけじゃないんですね」
「誰がつけたんですか?」

後藤
それが···

難波
なんだ、お前ら。こんなところにかたまって

後藤
!!

鳴子
「あ、室長!」

サトコ
「おつかれさまです」

難波
ああ、おつかれ
で、なんの話をしていたんだ?
いいキャバクラでも見つけたか?

千葉
「い、いえ!そういう話では···」

サトコ
「潜入名の話をしていたんです」
「あれ、どうやって決めているんだろうって」

難波
なんだ、ひよっこのくせに、もうそんな話をしているのか

後藤
ですが、今月中に現場に出る者もいますし
近日中に、石神さんや加賀さんと相談して···

難波
よーし、お前らの分は俺が考えておいてやる!

2人
「「!!」」

サトコ
「本当ですか?」

千葉
「ありがとうございます」

後藤
室長、それについては我々で···

難波
まあまあ、これも縁ってヤツだ

鳴子
「室長、私、可愛い名前がいいです」

難波
可愛い名前か。よーし、期待していろよ。佐々木
千葉と氷川も、お前らと縁のある名前を考えてやるからな

(縁のある名前···)


【寮 自室】

サトコ
「『縁』···か」

1輪の花が挿してある「ペットボトルの容器」に目を向ける。
もともとは、ミネラルウォーターが入っていた「ただのペットボトル」
けれども、私にとっては「大切な宝物」だ。

(そう、あれは上京初日···)

【電車】

(久しぶりの満員電車で、エライ目にあって···)

サトコ
「すみません、降ります!」
「降ろしてください!」

(必死に声を上げているのに、周囲に気付いてもらえなくて···)
(しかも厚着だったから、熱気で今にも倒れそうで···)

そんなとき、力強く腕を引いてくれた人がいたのだ。

???
「すみませーん、降りまーす!」

(で、あのあとミネラルウォーターをくれたんだよね)
(「困っている時はお互いさま」って···)
(なのに···なのに···)

サトコ
「あああっ!」

(なんで連絡先を聞かなかったんだろう)
(改めて、ちゃんとお礼を伝えたかったのに)
(それか、せめて顔だけでもちゃんと覚えていれば···)

けれども、あのときはのぼせる寸前で、頭が働いていなかった。
しかも、逆光で、相手の顔が見えにくかったのだ。

(5年前の、憧れの刑事さんのこともそうだ)
(後ろ姿しか覚えてなくて、連絡先なんてもちろん聞いてなくて···)

サトコ
「はぁぁ···」

どうやら私は、「私を助けてくれた人」と縁がないらしい。

(あの人たちは、今どうしているんだろう)
(今日も、誰かを助けているのかな)


【カフェテラス】

数日後ーー

難波
おお、氷川。いいところにいた
お前の潜入名が決まったぞ

サトコ
「本当ですか?」

難波
ああ。確かこのへんに···
あった。このメモだ
今後の潜入捜査では、この名前を使えよ

サトコ
「ありがとうございます!」

(どんな名前なんだろう)
(確か私と縁がある名前にするって···)

サトコ
「!?」

(えっ、この名前?)
(待って···嘘だよね、これ?)
(きっと、室長のちょっとした冗談で···)

???
「へぇ、『長野かっぱ』···室長らしいなぁ」

(この声は···)

黒澤
おつかれさまでーす
聞きましたよ、室長から。サトコさんの潜入名を決めたって
『長野かっぱ』なんて可愛い名前ですねー

サトコ
「は、はぁ···」

(···そうなの、可愛いの?)
(私のセンスが間違ってるってこと?)

黒澤
でも、たまにはオレが考えた『キャロライナ』も使ってくださいね
せっかくのご縁ですから

サトコ
「そ、そうですね···ご縁···」

(······あ)

ひとつ、気付いたことがあった。

(私、黒澤さんとは再会しているんだ)

昨日、私は「私を助けてくれた人」と縁がないと思っていた。

(でも、黒澤さんは違った)

しつこい勧誘に困っていた私を助けてくれた「前世男」さんーー
彼もまた「私を助けてくれた人」だったのに、こうして再会できたのだ。

(だったら、いつか他の人たちとも再会できるかも)
(「憧れの刑事さん」や「ペットボトルの彼」とも···)
(まだ「縁がない」って決まったわけじゃないよね)

黒澤
どうしたんですか、急にニコニコして
なにか『いいこと』でも思い出しましたか?

サトコ
「はい!あの···」
「黒澤さんは『希望の星』だなぁと思って」

黒澤
あーそれ、よく言われます
なにせオレ、『公安の新しい風』ですから★

窓の外では、キラキラと陽射しが輝いている。
なんだかこのあとも楽しい時間を過ごせそうだった。

Secret End



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