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ときめきノベル大賞 加賀1話



(どっちがって···私はどっちも好きなんだけど)
(でも、強いて言うなら···)

サトコ
「わ、私は大福が好きです···」

石神
······

サトコ
「···が!プリンも好きです!」

加賀
······

ふたりに睨まれ、ハラハラしながらも喧嘩両成敗を狙う。
少しして、石神教官がフッと笑った。

石神
補佐官の方が、空気を読めるらしいな
部下に倣って、お前も柔軟性を身につけたらどうだ

加賀
テメェ···

加賀さんが文句を言おうとしたその瞬間、石神教官がスプーンを加賀さんの口に突っ込む!

(あのスプーンには、プリンが···!)

石神
どうだ、美味いだろう

加賀
こんな甘ったるいもんが食えるか

盛大に舌打ちして、加賀さんが手の甲でぐいっと口を拭った。
そのあと、大福を手に取り石神教官に挑む。

加賀
あんな不味いもん食わせやがって···テメェも食いやがれ
テメェにゃ、もったいないがな

石神
悪いが、粉まみれになる趣味はない
どうしても食べてほしければ、半分に切って楊枝を刺せ

加賀
んなお上品なタマかよ

その後しばらく、大福VSプリンの攻防は続いた。

(うう···甘味差し入れ作戦は大失敗だった···)
(加賀さん用に “アレ” も買ったんだけど···渡さない方がいいかな)

結局、“アレ” のことは加賀さんに伝えられないまま、その日の会議は続いた。

その日の、夜遅く。

加賀
なら最初からそう言やいいだろ、このクソ眼鏡が

石神
俺は最初から言っていた。歪曲して捉えていたのはお前の方だ

加賀
チッ···わざと遠回しな言い方しやがって
これだからカスタード好きな奴は信用できねぇ

石神
貴様のような奴に好まれるとは、求肥も気の毒だな

加賀
だいたい、なんにも包まねぇでそのまま食うってのが邪道だ
甘味は、柔らかいものに包んでこそだろうが

石神
最近は貴様がバカにするカスタードを包んだ大福もあるようだが···?

加賀
あんなもん、大福に対する冒涜だ

(えっ···私、あれ大好きなんだけどな···)
(いちごカスタード大福なんて、最高に美味しいと思うけど···)

サトコ
「って、そうじゃなくて···」
「あの、さっき途中まで話してた作戦の話しはどうなったんでしょう···?」

石神
あれなら、もう決まっただろう

サトコ
「え?」

加賀
歩と颯馬が、情報操作のやり方と潜入方法を指導
そこで拾った情報をもとに、俺と眼鏡と後藤が現場演習の奴らを指揮する
その流れで訓練するって話をしただろうが

サトコ
「···いつですか!?」

(さっきからずっと、大福とカスタードプリンの話しかしてなかったよね···!?)
(もしかして、ふたりの会話の間に私が知らない暗号が隠されていた···?)

サトコ
「いや、そんなわけないか···班長同士とはいえ、犬猿の仲だし」

石神
何か言ったか?

サトコ
「いえ、なんでもありません···」

結局その後はスムーズに役割分担をして、会議が終わる。
さっきの甘味バトルはなんだったのかと思うほどの早さだった。

(最初はどうなることかと思ったけど、さすが公安の班長同士···)
(なんだかんだ言って有事のときは息ぴったりだもんね。普段はアレだけど···)

その迷いのない判断など、今日は勉強になることも多かった。
なんとか今後の方針もまとまり、会議はそこで終了する。

サトコ
「おふたりとも、お疲れさまでした」

石神
ああ。休みの日に悪かったな
週明けに確認するから、書類に起こしたものはそこに置いておいてくれ

サトコ
「わかりました」

私に指示を残すと、石神教官が教官室を出ていく。
でもその姿がなくなった瞬間、背後から後頭部をわしづかみにされた。

サトコ
「ぐっ···う、後ろから!?」

加賀
何カスタード野郎に指図されてんだ

サトコ
「いや、だって···じょ、上官じゃないですか···!」

ギリッと、加賀さんの指に力がこもる。

サトコ
「痛い!痛いです、加賀さん!頭蓋骨が割れる!」

加賀
試してみるか

サトコ
「ひいぃ···」

ようやく解放してくれると、頭を押さえる私に加賀さんが顎でドアを指した。

加賀
帰るぞ

サトコ
「あ、は、はい···」

(···ってことは、もしかして今日はこのまま加賀さんの部屋にお泊まり···?)
(なら、“アレ” も持って帰ろう。もったいないし)

クーラーボックスを回収して、加賀さんの後を追いかけた。


【加賀マンション】

途中で軽く食事を済ませ、そのまま加賀さんの部屋にお邪魔した。
ソファに並んで座り、くつろぎながらテレビを見る。

テレビ
『話題沸騰!カスタードプリンとティラミスの絶妙なハーモニー!』

加賀
······

(あ···これ絶対、石神教官のこと思い出してる···)
(加賀さん用にと思って、せっかく “アレ” を買ってきたけど···)

石神教官にプリンを買うときに見つけた、桜抹茶のプリン。
きっと加賀さん好みだと思って買ったものの、それ言い出せずにいる。

(せっかくだから、自分で食べよう)
(さっき冷蔵庫に入れておいたんだよね、取って来ようかな)

席を立ち、キッチンへ向かう。
冷蔵庫から取り出したプリンを持って戻ると、加賀さんが鋭い視線を向けた。

加賀
テメェも、眼鏡に寝返ったか

サトコ
「もう、そんなんじゃないですよ」
「······」

(一度食べてみれば、きっとこの美味しさを分かってもらえるはず···)
(というか昔風邪ひいたとき、確か食べてくれたよね···つまり···)
(加賀さんのプリン嫌いは野菜と同じで、ほぼ食わず嫌いと言っていい!)

スプーンに生クリームと抹茶プリンを乗せて、加賀さんの様子を窺う。
頑なにテレビを見たままこちらを振り向かない加賀さんに、恐る恐るスプーンを差し出した。

サトコ
「···あーん」

加賀
······
···なんのつもりだ

サトコ
「絶対美味しいですよ。ほら、ぷるんぷるんだし」

加賀
興味ねぇ

サトコ
「確かにプリンは、加賀さんの言うように噛まなくてもいいくらいの硬さですけど」
「逆に言えばそれは、加賀さんが好きな “柔らかい” ってことになるんじゃないでしょうか!」

加賀
······

私の必死の訴えにも耳を貸さない加賀さんだったけど、それでも根気よく待ってみる。
小さな舌打ちが聞こえて、加賀さんがソファに肘をつきながらこちらに身体を預けた」

サトコ
「······!」

驚く間もなく、スプーンを口に含まれる。
私の『あーん』で、加賀さんがプリンを食べた瞬間だった。

(な、何に対して驚いていいのか分からない···!)
(あの加賀さんが、プリンを···!『あーん』で!!)

サトコ
「···美味しいですか?」

加賀
甘ったるい

サトコ
「ふふ···でも、抹茶だから甘さ控えめですよ」

加賀さんに食べさせてあげながら、私も一緒に食べる。
ふたりで食べるプリンは美味しくて、あっという間になくなってしまった。

サトコ
「これなら、ふたつ買ってくればよかったですね」

加賀
あんなもん、ひと口で十分だ
だが···デザートが足りねぇな

サトコ
「え?でも今、甘いもの食べましたよね?」

振り返る前に、加賀さんが私の手を取った。
そのままソファに押し倒し、私の上に馬乗りになる。

サトコ
「な···っ」

口を塞ぐようなキスに、思考が停止する。
両手で顔を包み込み···というよりも固定され、身動きが取れない。

サトコ
「な、何すっ···」

加賀
チッ···甘ったりぃ
あんなもん食わせやがって

低い声が、耳をくすぐる。
私の耳たぶを指でいじる加賀さんの吐息が、頬や耳にかかった。

(こ、こんなことされたら···っ)
(っていうか、耳···くすぐったい···!)

鼓動が速くなると同時に、頬も熱を持っていくのがわかる。
覆いかぶさるように私の上に乗った加賀さんが、さらに顔を近づけてきた。

(こんなに近いと、ドキドキしてるのがバレる···!)

加賀
発情してんのか

サトコ
「は、発情って言わないでください···!」

加賀
テメェの考えなんざ、隠そうとしてもお見通しだ

まるで挑発するように、加賀さんが私を見下ろす。
いつもの強気な視線とどこか色気のある笑みに、動悸は収まってくれない。

(声が出ない···こんなふうに見つめられたら)

手を掴まれて微動だにできない私を小さく笑うと、加賀さんが静かにキスをくれた。

加賀
今のテメェにゃ、これくらいで十分だろ

サトコ
「あ···」

まさか『足りない』とも言えず、またも言葉に詰まる。
ブラウスのボタンをひとつ、ふたつと外して、覗く肌に加賀さんが唇を押し付けた。

サトコ
「ひゃっ···」

加賀
素直に発情してますって言えよ、クズが

サトコ
「っ······」

まだ指先で耳たぶを悪戯しながら、加賀さんがさっきよりもさらに低く囁く。
そんなふうに言われたら、もう抵抗することなんてできない。

加賀
テメェが俺に隠し事なんざ、1000年早ぇ

サトコ
「---ぁっ」

強引にスカートの裾から手を入れると、その大きな手が太ももをなぞる。
悲鳴のような微かな嬌声に気を良くしたのか、その指はさらに奥へと進んだ。

サトコ
「加賀さっ···せめて、電気···っ」

加賀
クズが
···全部見えてるからいいんだろうが

サトコ
「や、ぁっ···」

明るい部屋に、私の甘い声が響く。
ソファに組み敷かれ、加賀さんにすべてを暴かれる夜の始まりだった···

Happy End



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