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3周年スペシャルストーリー 加賀・石神1話



【室長室】

卒業間近のある日、私と鳴子、千葉さん、そして石神教官と加賀教官が室長室に呼ばれた。

難波
ってわけで、お前らには子ども向けの防犯教室を仕切ってもらう

サトコ
「子ども向けの防犯教室···」

難波
本来なら公安がやるようなことじゃないんだけどなあ
まあ、学校教育の一環として、こういう実績を作っとくのもいいだろ

千葉
「具体的には、どんなことをするんですか?

難波
都内の動物園のイベントスペースでの司会進行だな
そこの動物園で、この前双子のパンダが生まれたらしいんだよ

サトコ
「あっ、もしかして···ガミガミとヒョンヒョンですか?」

難波
おっ、さすがひよっこ、詳しいな

鳴子
「ガミガミと」

千葉
「ヒョンヒョン···?」

石神
······

加賀
······

思わず、私たちの視線が班長ふたりに向けられる。

石神
···なんだ

サトコ
「いえ···」

難波
そのガミガミとヒョンヒョンの着ぐるみを新しく作ったから
ぜひ、それを着て寸劇をやってくれって動物園側からの頼みでな

千葉
「でもそれって、公安の仕事じゃないのでは···」

難波
まあなあ。実際は向こうも公安が引き受けたとは知らん
もともとは警視庁の警察学校への案件だったんだけどな、訓練が重なって無理らしい

石神
···なるほど

加賀
取引ですか

難波
まあそう言うな。向こうに恩を作っとくのは、悪くねぇだろ?
そういうわけで、悪いがよろしく頼む

千葉
「着ぐるみには誰が入るんですか?」

難波
それはもう、別の訓練生に頼んである
当日は監督者として、お前らも同行しろよ

室長の視線を追いかけて、再びガミガミとヒョンヒョ···
ではなく、石神教官と加賀教官に全員の視線が注がれた。

石神
わかりました

加賀
······

難波
当日、非番なのはお前らしかいねぇんだよ
休みのとこ悪ぃけど、頼んだぞ

石神
了解です

加賀
······

石神
おい、返事くらいしろ

加賀
チッ
···了解です

あからさまに不服そうな加賀教官の横で、石神教官もいつもより表情が硬い。

(きっと、ガミガミとヒョンヒョンが原因だろうな···)
(ものすごくふたりとも名前が似てるもんね。でもあの双子のパンダ、かわいいんだけどな)

話が終わった後、室長に頭を下げる。
部屋を出ようとして、東雲教官がドアのところにいることに気付いた。

サトコ
「東雲教官···?何してるんですか?」

東雲
別に、通りかかっただけ

なんでもないような顔で、東雲教官が廊下を歩いていく。

東雲
ガミガミ···ヒョンヒョン···着ぐるみ···
やばい···面白そう

その不穏なつぶやきを、私は決して聞き逃さなかった···


【イベント会場控室】

イベント当日、園内の控室ではすでに千葉さんと鳴子が待っていた。

サトコ
「ふたりとも、遅くなってごめん」

鳴子
「全然。私たちも今来たとこ」

千葉
「イベントまで時間もなくてどうなることかと思ったけど、なんとかなりそうだな」

サトコ
「うん。ほんと、ギリギリのスケジュールだったけどね···」

(大急ぎで作った寸劇も、着ぐるみの訓練生がなんとか動きを覚えてくれたし)
(リハーサルも昨日のうちに終わらせてあるから、あとはここで軽く打ち合わせするだけ···)

鳴子
「着ぐるみ担当のふたりが来る前に、他の準備済ませた方がいいかもね」

サトコ
「そうだね。じゃあ私たちは、着ぐるみのチェックしよっか」

千葉
「じゃあオレは、会場の設営のほう行ってくる」

鳴子
「うん、よろしく~」

千葉さんと別れ、鳴子と一緒に着ぐるみのチェックを始めた。

すべての準備が終わり、あとは着ぐるみ担当のふたりを待つばかりとなった。

(けど···)

サトコ
「···来ないね」

鳴子
「うん···ちょっと遅すぎない?」

千葉
「ふたりに連絡してみるよ」

携帯を取り出して、千葉さんが電話してくれる。
でもすぐに、その表情が険しくなった。

千葉
「···え?病院?ふたりとも?」
「···生ガキに当たった!?」

鳴子
「なんか、嫌な予感···」

サトコ
「うん···ひしひしとするね···」

電話を終えた千葉さんが、がっくりと肩を落とした。

千葉
「昨日、ふたりで “双子パンダ決起会” を開いたらしいんだけど」
「そこで食べた生ガキに···」

サトコ
「当たったの···!?」

鳴子
「なんでこの大事な時に、生ガキなんて食べるかな!」

サトコ
「とりあえずどうしよう?着ぐるみ担当がいないと、寸劇が」
「さすがに私と鳴子が入るには、着ぐるみが大きすぎるし」

鳴子
「そうだよね···千葉さんにお願いしちゃうと、裏方がいなくなるし」

千葉
「でも、もう時間もないよ。今から代役を探すのも無理じゃないか?」

難波
どうした?何揉めてんだ?

サトコ
「···室長!」

鳴子
「そうだよ、室長にやってもらえばいいんじゃない!?」

千葉
「いや、でもさすがに室長にアレは···」

難波
なんだなんだ?わけわかんねぇぞ

首を傾げる室長の後ろから、石神教官と加賀教官が入ってきた。
3人に、着ぐるみ担当のふたりが来られなくなったことを説明する・

石神
生ガキに当たった?

加賀
クズが···這ってでも来させろ

サトコ
「それは···いろんな意味で地獄絵図と化しますから!」
「とにかく、それで急きょ代役を立てなきゃいけなくなったんですけど」

難波
んなもん、石神と加賀が着りゃいいだろ

サトコ
「···え!?」

室長の提案に、思わずふたりを振り返る。
石神教官も加賀教官も、心底嫌そうな顔をしていた。

石神
我々が···ですか

加賀
千葉がやりゃいいだろ

千葉
「それが···裏方の仕事があって」

鳴子
「千葉さんが仕切ってくれないと、動物園のスタッフさんたちが困るんです」

サトコ
「それに、着ぐるみはふたつですから···」

石神
······

加賀
······

石神
加賀

加賀
冗談じゃねぇ

石神
それは俺も同感だ。だが···

難波
参ったなあ
じゃあ俺と千葉がやるか

千葉
「え!?」

難波
裏方の仕事は、他の奴にやらせろ

サトコ
「ほ、本当に室長が着ぐるみを着るんですか···?」

難波
ほかに方法がねぇからなあ

石神
······

加賀
······

室長が、パンダの着ぐるみを手に取る。
ハラハラする私たちに、加賀教官の舌打ちが聞こえた。

加賀
仕方ねぇ···

石神
室長、我々がやります

難波
おっ?いいのか?
悪いねぇ

持っていた着ぐるみを教官たちに渡した室長は、どこかご機嫌だ。

(もしかして、教官たちをその気にさせるために、わざと···?)
(さすが室長、部下を操るのがうまい···)

してやられた石神教官と加賀教官が、着ぐるみを持って衝立の向こうへと移動する。
しばらくすると、双子のパンダの着ぐるみが登場した。

ガミガミ
······

ヒョンヒョン
······

難波
ははは!こりゃいい
サイズもぴったりだし、お似合いじゃねぇか

サトコ
「し、室長···」

難波
じゃあな。頼んだぞ、ガミガミとヒョンヒョン
さーて、俺は会場で高みの見物と行くか

室長が部屋が出ていくと、控室が異様な威圧感の中、静まり返った。

(この沈黙···怖い!ふたりとも、完全に怒ってる···!)
(でも今はとにかく、イベントを成功させないと)

慌てて、持っていた台本を教官たちに見せた。

サトコ
「わ、私と鳴子が連行しますから」
「おふたりは動きだけ合わせてください。パンダなので、喋らない設定です」

ガミガミ
わかった

ヒョンヒョン
···チッ

千葉
「今日の加賀教官、いつも以上に舌打ちが多いな」

鳴子
「そりゃ、何しろ着ぐるみだからね···」

サトコ
「それでですね、子どもたちに受け入れてもらえるように、コミカルな動きで···」

東雲
おつかれー

不安に陥りながらも説明を続ける私の耳に、聞き慣れた声が届く。
なぜか、東雲教官が控室に入ってきたところだった。

サトコ
「東雲教官、どうして···今日のイベントの担当じゃないですよね?」

東雲
ちょっとね、兵吾さんを探してるんだけど
そういえば石神さんもいないけど、ふたりともどこ行ったの?

サトコ
「お、おふたりは···その」

思わず、鳴子と千葉さんと顔を見合わせる。
訝しげにする東雲教官に、恐る恐るパンダの着ぐるみを指差した。

東雲
···は?

サトコ
「いえ、ですから···」

東雲
······

東雲教官が、双子のパンダの着ぐるみを交互に見る。

ガミガミ
······

ヒョンヒョン
······

東雲
まさか···

to be contineud



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