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Season3 プロローグ3話



【公安課】

後藤
緊張してるのか

サトコ
「え···」

馴染みのある声が聞こえた瞬間、ふっと心が和らいだ。
トンと腕に何かが当たって振り返ると、そこに立っていたのは···

後藤
気疲れしたろ

サトコ
「後藤教官!」

手に冷たい感触が触れ、視線を落とすと缶のミルクコーヒーが手渡された。

サトコ
「ありがとうございます···!」

(地獄に仏とは、まさにこのこと···!)
(···って、思わず “教官” 呼びしてしまった!)

しまったと思ったものの、後藤教官が気にしている様子はない。
後藤教官の登場に心の中で手を合わせると、今度はスッと横から手が伸びてくる。

颯馬
さ、こちらですよ

サトコ
「え、あ···颯馬···警部!」

颯馬
ふふ、優秀ですね

階級呼びを誉めるように微笑まれると、思わずドキッとする。

(階級で呼ぶのは慣れないけど、慣れていかなきゃいけないんだよね)

ぎこちなさで強張った頬を何とかしようとしていると···

石神
不自然さが態度に出過ぎだ。公安刑事として生き残りたいなら、その癖をそろそろ改めろ

(石神教官!)

斜め後方から飛んでくる厳しい言葉すら、この環境では有り難かった。
そう簡単に馴染んだ呼び名を変えることはできず、心の中では教官呼びで許してもらうことにする。

(ん?でも、このメンバー···石神班?違う所属でも部屋は同じとか···?)

そうだったらいいなと思っていると、今度は真正面からあるいてくるよく知る顔。

東雲
ねぇ、暇なら手伝ってほしいんだけど、ウラグチさん?

サトコ
「もうウラグチじゃありませんから!」

小さい声で言いかえしたものの、東雲教官の視線は私の後ろに流れた。
そこにはデスクの上に積まれた大量の書類。

東雲
あとで、お願いね

サトコ
「は、はい···」

(さっそく···いや、こういうところで失敗しないように、しっかり頑張らないと!)

さりげなく書類の量を確認しようと後ずさると···今度はドンッと背中が誰かにぶつかってしまった。

サトコ
「すみませ···」

加賀
いい度胸じゃねぇか

サトコ
「か、加賀警視!」

(よりによっての人に、ぶつかってしまった···!)

加賀
クズの分際で配属初日から、俺に因縁つけるとはな

サトコ
「い、いい因縁なんてつけてないです···!」

ズンズンと押し切られるように壁際まで追いつめられる。

捜査員A
「おい、あれ···」

捜査員B
「目を合わせるな。関わるな」

(う···このままじゃ、配属初日から浮くことに···!)

サトコ
「あの···っ」

馴染みの顔に会えたことは嬉しいけれど、なるべく穏便に過ごしたい旨を話そうとすると···

黒澤
あ!サトコさん!

公安課に似合わない明るい声が、再びこちらに視線を集めてしまう。

黒澤
わー、やっとオレにも念願の後輩ができました!透、感激☆

後藤
気が早い

石神
氷川の配属は···

黒澤さんのもとに後藤教官と石神教官が近寄り、教官室の空気を再現しかけた、その時だった。

???
「ここは動物園か」

(え···)

聞いたことのない重い響きを持つ声が空気を震わせた。
同時に室内の温度が一瞬にして下がったような錯覚を覚える。

石神
銀室長、お疲れさまです


「ああ」

(この人が、銀室長···)

加賀
······

黒澤
······

銀室長の登場に加賀教官と黒澤さんまで居住まいを正すのがわかった。

(この人、只者じゃない···)

息を呑むも、銀室長は私に一瞥をくれることすらなく前へと立った。


「本日より、銀室を新たに編成する」
「銀室は今回特別に組まれた、警察庁公安課の精鋭を集めた特殊実働部隊である」

(特殊実働部隊···難波室も警察庁公安課の実働部隊だって聞いたけど)
(石神教官と加賀教官が、ここにいるのは、どうして?難波室は···)


「銀室の編成を受け、難波室は当座の間、凍結扱いとなる」

サトコ
「え···」


「難波は別の任務に就くため、その期間」
「難波室の人員については銀室で預かることになった」

石神
······

加賀
······

石神教官と加賀教官が驚く様子はなく、その件はすでに難波室の各班に伝達済みのようだった。

(難波室が凍結されて、銀室預かりになるってことは···)
(実質、教官たちと同じチームに配属されたってこと?)

緊張の中に一縷の望みを見つけたのも束の間。


「銀室では、各班の慣れ合いは不要だ」
「仲間意識を捨て、常に相手を蹴落とす心づもりで上を目指せ」

(同じ公安課で仲間意識を捨てろって言うのは···)

これまで公安学校で教官たちの見事な連携を見てきた私には、素直に頷けないことだった。


「万が一にも···」

その時、スッと銀室長の目が私を捉えた。
感情の読めない冷たい視線に絡め取られるように動けなくなる。


「女が入ったことで風紀が乱れるようなことがあれば···」
「その時は二度と公安課には戻れないものだと思え」

サトコ
「!」

即刻の部署異動を意味する言葉に、全身が強張った。

東雲
同室内での恋愛なんて、もっての他ってことだね

私の心の声を代弁するように、東雲教官が小さく付け足す声が聞こえる。

(つまり、彼との関係を知られたら···)

お互い公安には、いられない―――


「以上、各班の任務に当たれ」

全員
「はい!」

敬礼のあとには、先程よりも張り詰めた空気でそれぞれの仕事が始まっている。
先程の銀室長の言葉が頭に響いていたけれど、それを意識的に切り替えた。

(各班と言われても、班の配属はまだわかってない)
(銀室長に、改めて挨拶をして配属班を聞かないと)

当然のことながら緊張に襲われるけど、ここで躊躇っていては社会人失格だ。
小さく深呼吸すると、そのまま退室しようとした銀室長を呼び止めた。

サトコ
「本日、銀室に配属になりました、氷川サトコです!よろしくお願い致します」


「······」

大きく頭を下げてから顔を上げると、銀室長の無機質な視線を感じる。


「ここでは女の力は通用しない」

サトコ
「!」

銀室長の視線が、わずかにかつての教官たちに向けられた気がした。

(『ここでは』って···)
(公安学校では、まるで女だったことが通用したような言い方···)

銀室長相手でなければ、すぐに反論の言葉が口をついて出ていたかもしれない。
それをさせないのが、銀室長の有無を言わせぬ威圧感だった。


「お前は津軽班だ。初めての配属だろうと関係はない」
「使えなければ、即外す」

to be continued

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