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ふたりの絆編 後藤4話



【バス】

肩を負傷し、病院に通い始めて4日目。
寮の最寄駅から病院行のバスに乗る。

(病院行のバスって年配の方が多いから田舎のバスを思い出すなぁ)

心なしか気分も落ち着いたものになる。
いくつかのバス停を過ぎると、座席も全て埋まっていた。

サトコ
「こちらどうぞ」

停留所から乗ってきたおばあちゃんに私は席を譲る。

おばあちゃん
「あらあら、いいのよ。あなた、腕をケガしてるじゃない」

サトコ
「もうほとんど治ってるので、気にしないでください」

おばあちゃん
「そうなの?それじゃあ、お言葉に甘えようかしら···」
「あら?この席の下にあるのは、あなたのお荷物?」

サトコ
「え?いえ、私の荷物はこのバッグだけですけど···」

おばあちゃんに言われて座席の下を見ると、アタッシュケースが置かれていた。

(誰かの忘れ物?それなら運転手さんに届けないと···)
(大事な書類とかが入ってるかもしれないし)

席の下からアタッシュケースを取ると、大きくバスが揺れる。

サトコ
「あ!」

バスが曲がる反動で持っていたアタッシュケースはパカッと開いてしまった。

サトコ
「え?」

おばあちゃん
「あらあら···小さな筒が1つ入ってるだけ?」

アタッシュケースの中のほどんどは緩衝材が占めていた。
中央に置かれた透明な筒状の入れ物には液体が入っている。

(まさか危険物···)

得体のしれない液体を前に警戒心が高まる。

サトコ
「おばあちゃん···後ろの方に行っててもらっていいですか?」

おばあちゃん
「ええ···構わないけど···どうしたの?」

サトコ
「ちょっと気になることがあって···」

私はアタッシュケースを慎重に閉じると、運転手さんに通報するようにお願いした。
次の停留所でパトカーと合流し、私はアタッシュケースと共にバスを降りた。



【教官室】

颯馬
さっき莉子さんから連絡ありましたよ。バスで見つかった物は危険物に間違いないと

サトコ
「本当ですか!?何か起きる前でよかった···」

アタッシュケースを抱えてバスを降りた後は、駆けつけた颯馬教官にすべてをお任せした。
病院に行ってから教官室に顔を出し、颯馬教官の言葉にホッと胸を撫で下ろす。

後藤
お手柄だったな

サトコ
「偶然なんです。私が座った席の下にアタッシュケースが置いてあって···」

東雲
偶然じゃなかったりして

サトコ
「ど、どういう意味ですか?」

東雲
キミが座る席だとわかってて仕掛けられた可能性もあるよね
キミの性格からして、バスで乗る席はいつも決めてるんじゃない?

サトコ
「そ、それは···空いてれば同じ席に座りますけど、いつも空いてるわけじゃないし···」

後藤
歩、むやみに不安にさせるようなことを言うな

東雲
可能性のひとつを言っただけですよ

サトコ
「あの···私が狙われてる可能性もあるんでしょうか?」

後藤
ゼロとは言えないが、可能性は低い。今のところはバス路線を狙ったテロの可能性で追っている

颯馬
各バス会社に連絡して、不審物のチェックを行っているところです
莉子さんの方で調べが進めば、より詳しいことが分かって来るでしょう

東雲
石神さんも兵吾さんもいない日に面倒なことにならないといいんだけど

後藤
しばらくは警戒が必要だ。氷川も今日と同じバスに乗るときはくれぐれも注意しろ

サトコ
「はい!」

(バスを狙ったテロなんて···それが本当なら絶対に防がなきゃいけない)
(今の私じゃ事件が起こっても満足に動けない···1日も早く肩のケガを治さないと)



【裏庭】

それから2日後。
今日の診察で三角巾も取れ、ほぼ普段と変わらない生活が送れるようになった。

サトコ
「よかった~!」

(石神教官に報告したら、捜査復帰の許可もおりたし···また気を引き締めて頑張ろう!)

いい気分で裏庭を歩いていると、後藤さんの背中が見えた。

サトコ
「後藤さん!」

後藤
···病院に行ってきたのか?

私の腕からなくなった三角巾に後藤さんが気付く。

サトコ
「今日でほぼ完治です。縫わずに済んだのがよかったみたいで」
「石神教官からも捜査に復帰していいと言われました」

後藤
そうか。それはよかった
だが、無理はするなよ。治ったばかりだというのを忘れるな

サトコ
「はい!あの、後藤さんはまだ『タディ・カオーラ』の事件を担当してるんですか?」

後藤
ああ。金山は俺の手で捕まえる。ただ···

サトコ
「ただ?」

後藤
サトコがバスで見つけた不審物だが
さっき木下さんから連絡があってバイオテロ兵器だということが分かった

サトコ
「バ、バイオテロ兵器!?」

後藤
周囲半径1キロに拡散するよう、起爆装置も含まれているようだ
今は木下さんと加賀さんの班で対応しているが
場合によってはそっちに駆り出されることになりそうだ

サトコ
「大きな事件にならないといいですね···」

後藤
俺たちにできることは目の前の任務を着実にこなしていくことだけだ

サトコ
「はい!あの···後藤さんは大丈夫なんですか?」

後藤
ん?

サトコ
「私を助けたことの処分は···」

後藤
処分は保留中だ。それなりの成果を残せというプレッシャーだろう
もちろん、俺もこのまま引き下がるつもりはない
それに···アンタにケガを負わせたんだ。必ず捕まえる

微笑む後藤さんに気負いは感じないけれど、気にしないというのも難しい。

(私も結果で認めてもらうしかないのかな)

後藤
それより、今日の夜は空いてるか?

サトコ
「大丈夫ですけど···さっそく捜査ですか!?」

後藤
いや···来れば分かる
6時頃、駅前で待っていてくれ

サトコ
「わかりました」

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【レストラン】

サトコ
「素敵なお店···」

夜、後藤さんが連れてきてくれたのはピアノの生演奏が響くおしゃれなレストランだった。

後藤
快気祝いだ

サトコ
「このお店、先週テレビの『オヒルナンデスネ』で紹介されてましたよね!」
「学食のテレビで観ました!」

後藤
そうらしいな

サトコ
「予約殺到のお店って言われてたのに···普通に予約できたんですか?」

後藤
手配は黒澤に頼んだ。あいつはその手のことに妙に長けているんだ

サトコ
「後藤さんが黒澤さんに頼みごとするなんて···その、交換条件とかは···」

後藤
秘密、だ
···気に入ってくれたか?

<選択してください>

A:無理しちゃって···

サトコ
「無理しちゃって···」

(後藤さん、流行のお店とか疎いのに···)

後藤
たまには···仕事以外でも無理させろ

サトコ
「ありがとうございます!テレビを観て行ってみたいと思ったんです」

B:一生の思い出にします!

サトコ
「今日のことは一生の思い出にします!」

後藤
大袈裟だな。これから先、これ以上の店に連れて行かないみたいじゃないか

サトコ
「そういうつもりじゃなくて···凄くれしいってことです!」

後藤
俺も流行の店くらいは調べるようにする

C:居酒屋でもいいんですよ

サトコ
「快気祝いなんて居酒屋でもいいんですよ」

後藤
アンタならそう言うと思ったが···俺にも少しくらい期待してくれ
アンタだって、こういう店に憧れたりしないのか?

サトコ
「それはもちろん···テレビで観た時に行ってみたいって思いました」
「後藤さんと来られて、すごく嬉しいです!」

後藤
それならよかった

テレビでも紹介された和牛を使った創作フレンチのコースを楽しむ。

(こんなにデートっぽくなるなら、もっとオシャレしてくればよかったな···)

後藤
もう食べるのに不自由はないのか?

サトコ
「まだ大きく動かしたりはしない方がいいと言われましたけど、それ以外なら平気です」
「このフィレステーキ···東京に来てから食べたものの中で一番美味しいです!」

後藤
テレビで紹介されるだけのことはあるな

サトコ
「でも、本当にいいんですか?私は何の役にも立てなかったのに···」

(金山を追ってケガをして、後藤さんに迷惑をかけただけだった···)

後藤
サトコは頑張っている。訓練生なら完璧にできなくて当たり前だ
アンタは優秀な生徒だ

微笑んだ後、後藤Sなはワインではなく水を口にする。

サトコ
「···ありがとうございます!」
「励みになります」

後藤さんと目が合って、その目はいつもより優しい。
教官としてではなく、私の恋人として一緒にいてくれるのだと感じる。

サトコ
「その···」

後藤
ん?

(恋人としての評価も知りたいな、なんて···)
(でも微妙な評価だったら、かなり落ち込む···)

サトコ
「本当に美味しいですね!」

後藤
ああ···だが、本当に言いたいのは違うことだろ?

サトコ
「う···」

(後藤さんを誤魔化せるわけないか···)

水を一口飲んで気持ちを落ち着けると、後藤さんを見つめた。

サトコ
「恋人としては···どうですか?」

後藤
聞きたいか?

(ちょっと怖いけど···聞いてみたい···)

付き合って3ヶ月、それなりに上手くやってるように私は思うけれど。

(後藤さんはどう感じてるのかな)

後藤
そうだな···

思案してから後藤さんが口を開く。

サトコ
「ま、待ってください!心の準備が···」

後藤さんを止めようと手を前に出すと、グラスにぶつかって水が零れてしまった。

後藤
ふっ···慌てるな。大丈夫か?

サトコ
「は、はい。少ししか入ってなかったので」

後藤
これを使え

後藤さんがポケットからクシャクシャのハンカチを貸してくれる。

後藤
···洗濯はしてある

サトコ
「ふふっ、ありがとうございます。肩も治ったのでアイロンかけも復帰しますね」

久しぶりに時間がゆっくりと過ぎている気がする。

(事件が続いて緊張してたから···こんな時間がすごく嬉しい)
(何よりの快気祝いです、後藤さん)

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【公園】

少量とはいえシャンパンを飲んだせいか、フワフワと気分がいい。
酔い覚ましがてらレストラン近くの公園を散歩する。

サトコ
「明日からまた頑張れそうです」

後藤
俺もだ

(手くらい繋いでもいいかな···)

歩きながら触れ合う指先に手を繋ごうとすると、後藤さんにぎゅっと手を握られた。
そのまま公園の木の陰に引っ張られる。

サトコ
「ご、後藤さん?」

後藤
恋人として何点か知りたいか?

サトコ
「え···」

突然の問いかけに答える間もなく、唇を重ねられる。

サトコ
「ん···」

いつもより長いキスに感じられた。
静かに唇が離されると、そのままコツンと額が合わせられる。

後藤
これが答えだ

サトコ
「はい···」

黒く大きな瞳と見つめ合うことは、まだ少し照れくさい。

後藤
もう少し、採点してもいいか?

その問いかけに答える前に、すでに後藤さんの唇は私のそれに触れていた。

(合格点には届いてるって思っていいのかな···)

ゆっくりと唇を離して、お互いがお互いを抱きしめる。

後藤
アンタは···満点の恋人だ

キスの終わりに告げられたひと言に熱い思いが込み上げて。
束の間の休息は私たちの距離を更に近づくてくれた気がした。

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【資料室】

翌日のお昼休み。
後藤さんの授業のために資料室で資料を探していると、石神教官がやってきた。

サトコ
「お疲れさまです」

石神
氷川か···レストランはどうだった?

サトコ
「!」

(レストランって···昨日、後藤さんと行ったレストランのこと?)

<選択してください>

A:美味しかったです!

サトコ
「美味しかったです!」

石神
あの後藤がテレビに出るような店に女と行くとはな。随分と余裕があるものだ

サトコ
「あ!」

(正直に答えたらマズかった!?)

サトコ
「き、昨日は私のケガが治った快気祝いで連れて行ってくれたんです!」
「黒澤さんが予約してくれたとかで···本当にそれだけなんです」

B:何の話でしょう?

サトコ
「何の話でしょうか?」

石神
ほう···お前も少しは捜査員らしい答えができるようになったじゃないか
まぁ、いい。素直に答えるとも思っていなかったからな

サトコ
「······」

(石神教官のこの目、絶対に後藤さんと食事に行ったことバレてる···)

C:尾行してたんですか!?

サトコ
「尾行してたんですか!?」

石神
されたらマズいことでもしていたのか?

サトコ
「そ、そんなことはありません···」

石神
ならば問題ないな

(昨日、後藤さんと食事に行ったことバレてるんだ···)

(公園でキスしたのも見られてた···?でも、夜だったし人気もなかったし···)
(後藤さんが尾行に気付かないわけないよね···)

内心動揺しながらも、平常心を装う。

石神
氷川、お前は後藤の弱点だ

サトコ
「え···」

石神
『タディ・カオーラ』の潜入捜査の件、お前たちを夫婦で潜入させる案も出たが···
後藤が捜査に集中できない可能性を考え中止した

サトコ
「それは···」

(私が傍にいると邪魔···?)

顔がこわばり、硬い声が出る。

石神
一概には言えないが···これだけは覚えておけ
お前は後藤の枷になる

突き放すような冷たい声だった。
けれど、それは上司として後藤さんを思っての言葉でもあるのだろう。

サトコ
「······」

石神教官が部屋を出てひとりになっても顔を上げられなかった。

(後藤さんの枷···)

石神教官の一言が鉛のように重く胸に沈み込む。
窓の外から聞こえてくる音に視線を移すと、いつの間にか雨が降り始めていた。

サトコ
「ひどい雨···」

雨粒がぶつかる音まで聞こえてくる。

(こんな時に雨まで降りだして、私の気持ちを暗くしなくても···)

暗い空を見ると、沈んだ後藤さんの横顔を思い出すことがある。
私が後藤さんの枷になるなら···それは彼の心を重くする雨と同じ存在だろうか。

【カフェテラス】

サトコ
「はぁ···」

鳴子
「またため息?」
「どうしたの?サトコ」

サトコ
「え、あ···ううん、ごめん···」

石神教官に釘を刺されてから数日、あの言葉が頭から離れない。

石神
お前は後藤の枷になる

(私は邪魔な存在でしかないのかな···)

石神教官は暗に別れろと言っていたのかもしれないと何度も考える。

(でも、私は後藤さんが好き···後藤さんだって私を···)

鳴子
「もしかして恋煩い?相手は後藤教官?」

サトコ
「ち、違うよ。もう鳴子は考えすぎ」

(恋煩いとは違う···恋人になったからこその悩み···)

後藤さんを想うなら···一番出したくない結論が頭を過っては、それを打ち消す。

校内放送
『緊急連絡。校内にいる教官、並びに補佐官は至急教官室に集合。繰り返す、校内にいる···』

鳴子
「緊急の呼び出し?事件?」

サトコ
「行ってくるね!」

鳴子
「ぼーっとしてるから、気を付けるんだよ!」

サトコ
「うん!」

(教官と補佐官を全員集めるなんて何が起こったんだろう)

緊迫した校内を私は教官室まで走った。

【教官室】

教官と補佐官が全員揃うと、前に難波室長が出てくる。
その表情はこれまでになく険しい。

(いったい何が···)

難波
都内地下鉄で爆発事件が発生した

サトコ
「!」

後藤

難波
負傷者の数については確認中だが···負傷者リストの中に石神の名前がある

全員
『!』

難波
全員、覚悟はしておけ

to be continued



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