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ヒミツの恋敵編 後藤1話



【教官室】

石神
では、ペアを発表する

公安学校に入り、1年の時が流れた。
進級したことにより、一度それぞれの教官に就いた補佐官を見直すことになったのだけど···

(私は後藤さんの補佐官じゃなくなるのかな)

緊張しながら発表を待っていると、後藤さんと目が合う。

後藤
······

(後藤さんも誰が補佐官になるのか、気にしてる?)

石神
次、氷川サトコ

サトコ
「はい!」

(ついに、私の番!)

石神
氷川には、引き続き後藤の補佐官をやってもらう

サトコ
「はい!よろしくお願いします!」

(後藤さんの補佐官のままでいられるんだ。よかった!)

後藤
······

後藤さんと目が合い、一瞬微笑んでもらえたような気がする。
私も笑い返そうとすると、石神教官の鋭い視線が私をとらえた。

(う、気の緩みを見抜かれた!?)

石神
カリキュラムの強化のため、特別授業も多く組んである
気を引き締め、訓練に励むように

訓練生全員
「はい!」

石神
これまで警視庁警備局から一柳警部が特別講師で来ていたが···
今回のカリキュラム強化のため、他にも特別講師を招くことになった
紹介では追って連絡することになるので、各自そのつもりで

訓練生全員
「はい!」

石神
以上、解散!

補佐官の発表が終わると、それぞれが担当教官のもとに向かう。

後藤
改めてよろしくな

サトコ
「よろしくお願いします!」

(また後藤さんの補佐官になれて、本当によかった)

後藤
組み合わせが変わらなかった組は他にもいるようだな

サトコ
「今回の補佐官は、どんな基準で決められているんですか?」

後藤
そこまでは俺にもわからない。恐らく、石神さんと加賀さんで話し合い···
いや、多分石神さんがひとりで決めたんだろう

サトコ
「なるほど···」

(石神教官と加賀教官が話し合う姿は想像できない···)
(加賀教官が石神教官に丸投げしてそう···)

黒澤
今度こそ、オレの補佐官になってくれると思ったんですけどね~

教官室にひょいと現れたのは、この1年ですっかりなじみになった顔。

サトコ
「黒澤さん!」

後藤
そもそも、お前は教官になっていないだろ

黒澤
そうなんですよね。新しい特別教官を呼ぶっていうのに···
そのメンバーにオレが入ってないって、どういうことですか!?

後藤
石神さんの英断だな

黒澤
また後藤さんは、そういう冷たいことを···
自分だけ幸せならいいんですか、そうですか

サトコ
「教官でなくとも、黒澤さんからは、たくさんのことを学ばせてもらってますよ」

後藤
こんなヤツに気を遣うな

サトコ
「本当ですよ」

黒澤
さすがサトコさんです!
オレのどんなところが、お手本になってますか?

<選択してください>

 A:教官たちへの対応

サトコ
「ええと···教官たちへの対応でしょうか」

黒澤
ですよね!オレのように愛される部下になるためには···」

サトコ
「黒澤さんを見ていると、何をすれば叱られるのかわかるので」

後藤
それは正しい判断だな

黒澤
···いいですよ、それでも。お役に立ててるなら

 B:後藤さんの扱い方

サトコ
「そうですね···後藤さんの扱い方···でしょうか」

後藤
俺の扱い方?

サトコ
「扱い方って言うと聞こえが悪いですけど···」
「後藤さんと黒澤さんの関係は、理想とする上司と部下のイメージに近いので」

黒澤
いやー、分かる人には、分かっちゃうんですね。オレと後藤さんの絆!

後藤
···それは考え直した方がいいかもな、氷川

 C:処世術

サトコ
「ええと···大ざっぱに言うと、処世術···でしょうか」

後藤
こいつの処世術を手本にするのか?

サトコ
「黒澤さんって、どなたとでも仲良くなれてる印象があるので」

黒澤
そうなんですよね~。オレって愛されキャラみたいで

後藤
お調子者の間違いじゃないのか?

後藤
とにかく、氷川は俺の補佐官だ。お前は余計な口を挟むな

黒澤
俺の “補佐官” ···本当にそれで合ってます?

ニヤニヤと笑う黒澤さんの襟を後ろから掴んだのは···

石神
そんなところで油を売ってるヒマがあるのか?黒澤

(石神教官!)

黒澤
油も適当に売らないと、オイル漏れしちゃうので

石神
ほう···それだけの余裕があるなら、お前には···

黒澤
おおっと、漏れたオイルで回転が良くなったみたいなので···これにて、ドロン!

笑顔のまま、ささっと黒澤さんは教官室を出ていく。

(やっぱり、黒澤さんから学ぶことは多い···)

石神
後藤、氷川

後藤
はい

サトコ
「はい!」

石神
お前たちのペアを変えなかったのは、これまでの実績が評価されている反面···
まだ課題も多いと判断したからだ

石神教官の厳しい目が、私と後藤さんを見据える。

石神
訓練生ではなく、一人前の公安刑事として後藤と組めるようになれ

サトコ
「はい!」

(それが私の一番の目標···)

後藤さんの相棒······
そこが私の目指す場所だった。



【階段】

後藤さんの補佐官に再任し、最初の仕事は資料室からのファイル運び。

(これまで以上に結果を出せるように頑張ろう!)
(後藤さんにも、成長したって胸を張れるように)

過去の事件資料をまとめたファイルを抱えながら、階段を下りていると···

サトコ
「ん?」

着地するはずの階段がない。

サトコ
「わっ!」

(一段踏み外してる!)

空足を踏んだことに気付いた私は、慌てて残した足の方で跳び着地する。

(危なかった···)

何とか体勢を立て直し転げ落ちることはなかったが、無理な体勢で下りてしまった。

サトコ
「···っ」

(足首、ちょっと捻ったかも?)

ファイルを片手にしゃがみ込んでいると、すっと目の前に差し出される手。

サトコ
「え?」

???
「大丈夫か?」

(この声、どこかで聞いたことがあるような···)

顔を上げると、目の前に立っていたのは······

サトコ
「一柳教官!」

一柳昴
「お前は···後藤の補佐官か」

サトコ
「はい。氷川サトコです」

一柳昴
「階段を一段抜かし跳びで降りるとか、ガキかよ」

呆れた声を出しながらも、一柳教官は私の手を掴んで立たせてくれた。

サトコ
「階段を踏み外しそうになって、慌てて飛んだんですけど···」
「思ったより上手く着地できませんでした」

一柳昴
「そそっかしいとこは変わってねぇな」
「そんなんで後藤と2人、上手く捜査できてんのか?」

サトコ
「そそっかしいのは本当なので、返す言葉もありません···」
「でも、後藤さんの補佐官としては、しっかり頑張っていきたいと思ってます!」

一柳昴
「やる気 “だけ” は充分か?」

サトコ
「う···な、中身も伴うように努力中です」

一柳昴
「剣道以外も頑張るって話だったもんな」
「あんま進展ねーみたいだけど?」

サトコ
「そ、そんなことは···!これでも少しずつ進歩···してると思いたいです!」

(前に『お前、本当に剣道しか取り柄がないんだな』なんて言われたことあったけど)
(それを覚えてるなんて、一柳教官って結構厳しい!)

一柳昴
「足、見せてみろ」

サトコ
「え?」

一柳昴
「捻ったんだろ?左足庇うようにして立ってただろ」

一柳教官は屈むと、私の足首を見る。

サトコ
「大丈夫です!本当に軽く捻っただけなので」

一柳昴
「捻挫を甘く見るな。警官が全力で走らなきゃいけねー時に走れなかったら意味ねーんだぞ」

サトコ
「それは···はい···」

(今、全力で走れるかって言われたら、キツイ)

一柳昴
「それ、貸せ」

サトコ
「え···」

一柳教官は私が持っているファイルを取り上げる。

サトコ
「一柳教官に持っていただくわけにはいきません!」

一柳昴
「その前に、お前はやることがあんだろ。こっちにこい」

サトコ
「い、一柳教官?」

私の腕を肩に回させ、一柳教官が向かった先は······

暮らしをおトクにかえていく|ポイントインカム

【裏庭】

一柳昴
「ほら、とりあえず、これで足首冷やしとけ」

サトコ
「すみません。ありがとうございます」

階段からすぐ近くにあった裏庭の水道で、一柳教官が自分のハンカチを濡らして手渡してくれた。

(わ、綺麗なバラの透かしが入ったハンカチ!)
(前にも素敵なハンカチ持ってたし、一柳教官、彼女さんのハンカチよく使うのかな)

サトコ
「クリーニングに出して、お返しします」

一柳昴
「気にすんな。ちゃんと、あとで医務室行けよ」

サトコ
「はい」

裏庭のベンチに座り、私はしばらく足首を冷やす。
そんな私の前に、一柳教官はファイルを片手に立っていた。

サトコ
「一柳教官は特別授業のために、学校に?」

一柳昴
「ああ。また面倒な仕事を任されっちまった。この忙しいときに」

サトコ
「通常の仕事と教官の仕事を兼任するのは、やっぱり大変ですか?」

一柳昴
「まあな。それはお前も分かってんだろ?普通の仕事と訓練生の仕事、両方やってんだから」

サトコ
「はい。でも、教える立場の教官方のほうが大変だろうなって···」

(後藤さんも毎日すごく忙しそうだけど···全然、顔には出さないからな)

誰かが止めなければ果てしなく無理をしそうな後藤さんのことが、時々心配になる。

一柳昴
「···オレに聞くフリして、誰のこと考えてんだよ」

サトコ
「!」

一柳教官が身を屈め、その顔をぐっと近づけてくる。

サトコ
「そ、それは···」

<選択してください>

 A:一柳教官のこと 

(後藤さんのことを考えていたとは言えない···)

サトコ
「も、もちろん一柳教官のことを考えてましたよ」
「SPの任務に加えて特別講師なんて大変だろうなと···」

一柳昴
「へえ···」

ニヤリと笑いながら、ますます近づく一柳教官の顔。

(わ、まつ毛長いっ!···って、そんなこと考えてる場合じゃなくて!)

一柳昴
「一人前の公安刑事になりたければ、ウソはもっと上手くつくんだな」

サトコ
「!」

一柳昴
「目を見て見抜かれるようじゃ半人前どころか、素人だ」

サトコ
「は、はい···」

(一柳教官を誤魔化そうなんて、私が甘かった···)

 B:後藤さんのこと 

(一柳教官のことは誤魔化せないよね)

サトコ
「···後藤さんのことです」

一柳昴
「このオレをないがしろにするとは、いい度胸だな」

サトコ
「そ、そういうわけではなくて!後藤さんは疲れていても顔に出ないから···」
「実際のところ、どれくらい大変なんだろうと、ずっと思っていたので」

一柳昴
「まあ、アイツはいろいろとわかりづらい男だからな」
「けど補佐官なら、それくらいオレに聞かなくても分かるようになれよ」

サトコ
「はい」

(一柳教官の言う通り···誰かに聞くんじゃなくて、自分自身で分かるようにしないと)

 C:ブサ猫のこと 

(後藤さんのことを考えてたとは言えない···)

サトコ
「ブ、ブサ猫のことです!」

一柳昴
「···オレの話を聞いてブサイクな猫を思い出すって、どういうことだよ」

一柳教官の眉がぴくりと動く。

サトコ
「い、一柳教官から連想したわけではなくて!」
「この裏庭でよく会うノラ猫がいるんです」

一柳昴
「···どうでもいいけど、ウソをつくなら、もう少しマシなウソをつけ」

サトコ
「え···」

一柳昴
「オレに簡単に見抜かれるようじゃ公安刑事失格だ」

サトコ
「すみません···」

(やっぱり一柳教官のことは誤魔化せないか)

一柳昴
「補佐官に心配されるようじゃ、後藤のヤツもまだまだだな」
「オレがお前を引き抜いてやろうか?」

サトコ
「え!?」

一柳昴
「後藤の補佐官なんかやってるより、オレの下に来た方が上へ行けるぜ」

一柳教官は腰に手を当てて不敵な笑みを浮かべる。

サトコ
「からかわないでください」

一柳昴
「からかってるつもりはねーけど?」

サトコ
「そもそも一柳教官は警視庁で、全然畑違いじゃないですか」

一柳昴
「人事に掛け合うことくらいできる」
「この公安学校ができてから、警察内部もいろいろと変わり始めてるからな」

一瞬、遠い目をした一柳教官が私に視線を戻した。

一柳昴
「そろそろ行くか?これ、届けないとマズイんだろ?」

サトコ
「あ、そうでした!すみません。一柳教官に持たせたままで!」

一柳昴
「いいから。ついでだから、最後まで付き合ってやるよ」
「ほら、腕」

私を立たせて、一柳教官は先程と同じように肩を貸してくれる。

サトコ
「いえ、本当に大丈夫ですから」

一柳昴
「ハンカチで冷やしただけだろ。手当てするまでは油断すんな」
「肩を借りるのが不満なら、抱き上げてってやろうか?」

一柳教官はニヤリと口角を上げる。

(こ、この笑い方は本気でやりそうな笑い方!)
(一柳教官に抱き上げられた日には、学校でどんな話になるか···!)

サトコ
「肩、お借りします···」

一柳昴
「最初から、素直にそう言えよ」

結局、私は裏庭まで来た体勢と同じ形で学校の中に戻ることになってしまった。


【学校 廊下】

一柳昴
「行き先は教官室でいいんだな?」

サトコ
「はい。その近くまででいいので···」

一柳昴
「他の教官に見られたら面倒か?まあ、それにはオレも同意してやる」
「なら、そこの角で···」

一柳教官が視線を先に動かし、その動きを止めた。

サトコ
「一柳教官?」

一柳昴
「どうも、お前はトラブルの神様に好かれてるらしいな」

サトコ
「え?」

前を見たままの一柳教官の視線を追うと······

後藤
サトコ、一柳···

サトコ
「後藤さん!」

ちょうど角を曲がり、そこで足を止めているのは後藤さんだった。

to be continued



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