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クリスマス2018 東雲

クリスマスプレゼントの中身を確認しようとしたその瞬間だった。

東雲
この後、抜けるでしょ?

サトコ
「へ···」

(ま、まま、まさか歩さんの方からお誘いが···!?)
(え、夢じゃないよね?)

試しに頬を抓ってみるも、間違いなくそれは痛かった。
それと同時にじわっと、頬に熱が集まってくる。

東雲
答えは?

(本当に夢じゃない!?)

じとっとこちらを見てくる歩さんを呆然と見つめる。

(えーなんだか今日の歩さん、積極的!?)
(まさかこんな、神様仏様ありがとうございます!)
(いや、むしろ今日はサンタさん···?ありがとうございます!)

東雲
え、キモ···何急に拝んでるの···

サトコ
「あ、いえ、今日という日に感謝をして···」

難波
よし、お前らもラーメン食いに行くぞ

サトコ
「わっ!?」

突然後ろから現れた難波さんに、私も歩さんも肩をガシッと掴まれる。

(相変わらず気配を感じなかった···!)

東雲
行くって、オレもですか?
結構お腹いっぱいで···

難波
ラーメン屋に行くまでに腹も減るだろ?氷川は行くよな

サトコ
「あ、えーっと···」

(せっかく歩さんに誘ってもらったのにー!)

結局、ほぼ強制連行のようにラーメン屋へとやってきた。
他にも津軽さんや、後藤さんたちが並んでラーメンを啜っている光景は少し異様だ。

(クリスマス、ラーメン啜る、イケメンか···)
(鳴子なら嬉々として、むしろラーメンが美味しくなる、くらい言いそうだけど)

隣でラーメンを啜る歩さんは、時折時計を確認して落ち着かない様子だった。

(···まさか私と抜けたかった、とか···?)
(でも時間を気にしてるってことは、もしかして何か予約してたり)
(···クリスマスに予約···それって···!)

津軽
さっきから1人百面相してどうしたの?

サトコ
「え!?あ、いや、ラーメンが美味しいなぁ、と!」
「それより津軽さん、グラス空いてるじゃないですか。お注ぎしますね」

津軽
うん、お願い

サトコ
「室長もいかがですか?」

難波
お、気が利くな~

普段の仕事ぶりとは打って変わって。
ラーメンとお酒をどんどん進める平和な時間は過ぎて行った。

難波
俺たちは倉庫に戻るが、氷川はどうする?

東雲
彼女はオレが送って行きますよ。だいぶ酔ってるみたいだし

後藤
そうなのか?

(そこまで酔ってないけど、これは口実を作るチャンス!)

サトコ
「そ、そうなんれふ~!すみましぇん」

東雲
······

(うっ、ひんやりした視線が···)
(この演技が私の精一杯です···!!)

後藤
そうか···気を付けて帰れよ

東雲
というわけで、オレもそのまま帰ります

難波
じゃあ、ま

ふと室長の視線が私で留まる。

難波
送られ狼になるなよ

(え、私が狼!?)

津軽
そうだよ、歩くん気を付けてね

東雲
そうですね。気を付けます

サトコ
「なりませんから!」

ニヤニヤと室長たちに見送られながら、その場を後にする。
その時もやはり、歩さんは時計を確認しているのだった。

東雲
早く行くよ、狼さん

サトコ
「お···だから、なりませんからー!」

サトコ
「うわぁ···!」

妙に急ぎ足の歩さんに連れられてこられたのはイルミネーション煌めく公園だった。

東雲
ギリ間に合った···

(もしかしてさっきまで時間を気にしてたのって···この光景を見せたくて?)
(そんなデートプランを考えてくれてたなんて···!)
(あぁ、サンタクロース様本当にありがとうございます···!)

サトコ
「ラーメン屋も、いつもより早い解放で良かったですね!」

東雲
そうなるように調整したから

サトコ
「え!?」

(そんなのいつの間に···)

東雲

サトコ
「え···?」

歩さんに手を差し出され、一瞬ポカンとしてしまう。

(はっ!これはまさか···!?)

<選択してください>

手を繋ぐ

(今日はオレがエスコートするよ、みたいな!?)

浮き上がったテンションのまま、差し出された彼の手に自分の手を重ねる。

サトコ
「もう、本当に今日の歩さんは積極的ですね!」

東雲
バカ、違うから

ベシッと手を振りほどかれ、もう一度手を差し出される。

東雲
早く渡して、って言ってるの

サトコ
「渡す?あ、クリスマスプレゼントですか?」

東雲
違う
···もしかして見てないの?

お金を渡す

(はっ!まさかタダでオレとデートできると思ってんの?的な?)
(確かに歩さんを独占なんて、いくら払っても代えられるものじゃないけど···!)
(でも、今さら?付き合ってるのに?)
(あ、もしかして今日のための美容室代とか···?)

様々な疑問を頭に浮かべながら、鞄から財布を取り出す。

東雲
はっ!?

サトコ
「えっ?」

東雲
···しまって

サトコ
「でも···」

東雲
いいからしまえ

サトコ
「は、はい!」

(お、怒らせちゃった?)

東雲
···もしかして見てないの?

飲み物を渡す

サトコ
「どうぞ、ピーチネクター常温です!」

東雲
時間ないって言ってるでしょ?

(えぇ!絶対これだと思ったのに、全然目が笑ってないー!)

むしろ射殺されそうな視線で突き返される。
そして、再び私に向けて手を差し出してきた。

東雲
早く出せ

(ダ、ダメだ、これ以上違うものを渡せば本当に逆鱗に触れてしまう)
(でも、何を渡せば?)

東雲
······
···もしかして見てないの?

サトコ
「見てない?」

東雲
手紙

サトコ
「てが···ああっ!」

そこまで言われて、先日届いた2通の手紙。
その片方がまだ未開封のままだったことを思い出した。

(Team・Kが気になり過ぎて、すっかりそっちのこと忘れてた···!)
(差出人の名前はなかったけど、この言い方だと歩さんが送ったってこと?)

東雲
···
その中に今から始まるショーの招待状入ってたんだけど

サトコ
「あ、あります!ありますから、そんな怖い顔で見ないでください!」
「時間を気にしてたのって、このためだったんですね」

東雲
まさか見てないなんて思わなかったけどね

サトコ
「うっ···!」

念のために、と常に鞄に入れておいた封筒のお陰で中へと入れた。

(持ち歩いてて、本当に良かった···)

家にあります、なんて言ったらどんな目に合うか想像するのも恐ろしい。
それは、今始まったばかりのショーを眺める歩さんの表情に裏付けされる。

東雲
···!

(すごく歩さん楽しそう、目がキラキラしてるし)

ショーは恐竜をテーマにしたプロジェクションマッピングだった。
壮大な曲に合わせて、大迫力の映像がくるくると目を楽しませてくれる。

(確かにこれは、歩さんほど恐竜が好きじゃなくても楽しめるかも)
(でも、妙に積極的だったのは、恐竜が絡んでいたからかぁ···)

そこまで考えて大きく頭を振る。

(いやいや!デートに誘ってくれたのは間違いないんだし!)
(2人でイルミネーション見て、ショーを見て、って完璧なデート!)

デート、と改めて思い直すと、彼と触れそうになる肩がこそばゆかった。

東雲
すごかった···

まだ歩さんの脳内にはショーの残像が流れているようで、瞳は輝いたままだった。

東雲
正直、期待以上···

サトコ
「迫力とかすごかったですよね!」
「びゅーんって飛んで行ったり、ぐわーっと襲い掛かってくるのとか!」

東雲
擬音ばっかだけど、言いたいことはわかる

お互い興奮冷めやらぬまま、今は駅へと続く道を歩いていた。

東雲
チケット受け取れる郵便ポストが増えてくれてよかったよ

サトコ
「それってもしかして、我が家のこと言ってます?」

東雲
他にないでしょ?

サトコ
「でも、自分で受け取った方が確実なんじゃ···」

東雲
自分の家の場所とか知られたくないし

サトコ
「ひどい···!」

(うぅ、でも歩さんはそういう人だった···)

東雲
じゃあ、キミがオレの家に来れば問題ないんじゃない?

サトコ
「歩さんの家に···?」

(この場合の “来る” ってまさか、“住む” ってこと···?)
(一緒に住んでるってバレなければ、確かに私の家って思われるだろうし!?)

サトコ
「あ、歩さん···!」

東雲
え、何その目···

サトコ
「今の言葉、最高のクリスマスプレゼントでした!いつでも再生できます」

東雲
キモ···

サトコ
「あ、そうだ!クリスマスプレゼント!」
「歩さん、何が欲しいですか?」

東雲
本人に聞くなら、クリスマス前に聞きなよ

サトコ
「そ、それはそうなんですけど···!」

(手紙のせいで、まさか今日こんなことになると思わなかったし···)

サトコ
「恐竜のオーナメントととか、いろいろ悩んだんですけど···」

東雲
ふ~ん···
じゃあ、その袋の中身によっては、それで

サトコ
「え、これですか?」

歩さんに示されたのは、ビンゴ大会の景品でもらったプレゼントだった。
2人で道端に立ち止まり、袋の口を開く。

サトコ
「!······!?」

東雲
······

すると、中にあったエグい形をした “それ” に無言の間が広がる。

(そういえば、黒澤さんが大人のおもちゃがどうとか···)

東雲
ふーん···
もしかして、オレじゃ満足できてないってこと?

詰め寄るような言い方に、思わず両手を上げる。

サトコ
「ち、違います!大大大満足してます!」

東雲
そんな大声で言わなくていいから···

サトコ
「それにプレゼントはランダムだったじゃないですか~···」

東雲
津軽さんのと交換してきて

サトコ
「え!?なんでよりにもよって···!」

東雲
あの人、石神さんと話しててまだ透が渡せてなかったはずだし

(二次会にも戻る、って言ってたし···確かに倉庫に行けばまだ···)
(いや、でも津軽さん···だよね?)
(······)
(······失敗する未来しか見えません!)

東雲
オレが手伝うんだから、失敗はないと思って

サトコ
「心読みました!?」

東雲
顔に書いてた
ほら、もたつかない。はい、ゴー!

サトコ
「は、はいぃ!」

パーティ会場に戻ると、まだ中から楽しそうな声が聞こえてきた。
歩さんがパーティの輪に戻っていくのを見ながら、私は物陰に隠れる。

難波
なんだ、歩。戻って来たのか?

東雲
ちょっと忘れ物をしたので

津軽
ね~透くん、プレゼント早くちょうだいよ~

黒澤
ちょっと待ってください!さっきラッピングが解けちゃってですね

津軽
どうせ解くんだし、いいよ、それくらい

黒澤
せっかくのプレゼントですし!幹事の威信にかけて、ここはキチッと!

黒澤さんが背で隠すようにしてプレゼントをテーブルの上に置いている。
それが恐らく津軽さんのプレゼントで間違いなかった。

(あれと取り替えればいいんだよね···)

物音を立てないよう、出来るだけプレゼントへと近づいていく。
事前の打ち合わせ通り、場所を確認できた私は歩さんに電話を掛けた。
1コール鳴らしたところで、通話を切る。

(ワン切りから10秒後に作戦開始···6、5、4···)
(3、2···)
(1···)

東雲
あー、向こうの家にサンタクロースがー

(えええ!?ビックリするくらい棒読み!?)
(こんなの絶対失敗······)

黒澤
えぇ!?急にどうしたんですか、歩さん!?

津軽
酔っちゃった?

そこにいる全員の視線が歩さんへと向かう。

(そ、そっちですか···!)

それに合わせて、プレゼントを取り替えるとざわつく会場の中を飛び出した。

歩さんの家に取り替えたプレゼントと共にやってきた。

東雲
良いのと取り替えられたんじゃない?

サトコ
「多少の罪悪感は拭いきれませんが···」

プレゼント袋の中に入っていたのは、ダイシンの高機能ヘアドライヤーだった。
スタイリッシュな見た目のそれを手に、ひとまずホッとする。

東雲
これで髪乾かすの楽しみかも

サトコ
「え、まだこれをプレゼントにするとは一言も···」

東雲
確かに中身の衝撃で、それどころじゃなくなったからね

サトコ
「そうですね···」
「あ、そうだ!」

私の言葉に、歩さんは露骨に不審げな視線を私に向ける。

サトコ
「クリスマスプレゼントの話は置いといて」
「このドライヤー、歩さんの家に置いてもいいですよ」

東雲
···その言い方、何か条件でも出すつもり?

サトコ
「はい!今日は私に歩さんの髪を乾かさせてください!」

東雲
······

(うわぁ、この世の終わりみたいな顔ー!)
(でも、せっかくのチャンスをここで引き下がるわけには···!)
(押してダメなら引いてみろ!)

サトコ
「今日だけ···」
「今日だけ私に任せてくれたら、明日から毎日使い放題ですよ?」

東雲
いい

サトコ
「今ならマッサージ付きです!」

東雲
キミの力加減痛いし

(うううっ···)

サトコ
「すみません···」
「ほんとはせっかくのクリスマスだから···」
「ドライヤーに託けて、ちょっとイチャイチャしたかったんだけなんです···」

東雲
······

その後、なぜかお許しをくれて···
ようやく私は濡れ髪の歩さんの後ろに立っていた。
そして、手にはゲットしたばかりのドライヤー。

サトコ
「じゃあ、乾かしますね!」

東雲
分かったから早く乾かして

サトコ
「はい!キューティクルが傷まないよう頑張ります!」

(と言われても、緊張するー!)

塗れた状態でも分かる手入れの行き届いた御髪。
それを指に通しながら、出来る限り丁寧に乾かしていった。

サトコ
「ど、どうですか?」

東雲
さすが、乾くのも早いし、風邪が不快じゃない

(確かに、音も静かだしマイナスイオンが···)
(って、私が聞きたいのはそういうことだけじゃなくて!)

東雲
ちょっと、同じところばっかり当てないで

サトコ
「!」

振り向きざまにこちらを見上げる彼の視線と、自分の視線がかち合う。
まだ僅かにしっとりとした前髪の隙間から、綺麗な瞳が無防備に覗いた。

(かっ···)
(かっこいい~~······!!)

ドライヤーを掴んでいた手を歩さんに取られ、そのまま後ろへと押し倒される。
静かになったと思えば、いつの間にかドライヤーも消されていた。

サトコ
「あ、歩さん!?」

いつもならもう少し受け身も取れるのに、戸惑いすぎて気付けば倒れていた。
私に馬乗りになるようにして、彼は私を見下ろしている。
床に縫いとめるようにした手は、ピクリとも動かせない。

(い、い、いきなりの急展開に頭が···!)

東雲
どうやら満足してもらってなかったみたいだから

サトコ
「え」

東雲
あの時、否定しなかったでしょ?

サトコ
「あ、いや、それは···」

東雲
まぁ、すぐに否定の言葉を言わせられないオレのせいだよね
だから次は即答してもらえるようにしないと

(目、目がなんだか真剣過ぎないでしょうか···!)

そんな視線に鼓動は高鳴り、彼に掴まれた手の指先まで熱を帯びる。
そうして近付いてくる唇に、ぎゅっと目を瞑った。

東雲
サトコ···

サトコ
「っ!」

静かに名前を呼ぶ声に、ドクンと心臓が音を立てて跳ねた。
そっと目を開くと、悪戯っぽく細められた視線とかち合った。

サトコ
「!」

その瞬間、唇が重なり、甘い感触に飲み込まれていく。

(やっぱり···)
(歩さんとのキス···気持ちいい···)

触れてくる指先も、寒さにかじかんだ身体が溶けていくような感覚。
何度も唇を重ねられ、いつしか溶け合うような幸福感が胸に広がっていった。

(次からは即答しよう···)

私もお風呂を頂き、さっぱりしてリビングへと戻ってくると、
すでにサラサラへやーの歩さんが待っている。

(ドライヤー本来の性能をいかんなく発揮していらっしゃる···!)

東雲
何突っ立ってんの?

サトコ
「すみません!つい見惚れてですね」

東雲
キモ···
とにかく、こっち

サトコ
「え?」

歩さんが自分の隣を指差す。
意図が分からず首を傾げていると、ドライヤーを取り出す。

東雲
キミの乾かし方、基本がなってないってよくわかったから

サトコ
「いいんですか···!?」

東雲
······
···託けていいんでしょ、これに

サトコ
「!!」
「それって私とイチャイチャしたいってことで···」

東雲
うるさい!さっさと座れ!

サトコ
「はいっ!」

スキップでもしそうな勢いで彼の隣に腰掛ける。
そして、彼の手に梳かれる髪の心地よさに、まだ夢現のようだと頬を抓った。

東雲
夢じゃないから

サトコ
「はい···噛み締めてます···」

東雲
あっそ

髪の隅々まで、歩さんの指に梳かれていく。
その優しい手つきに、ほうと息をついた。

(うわっ、うわー···好きな人に、髪を乾かしてもらってる···)
(私って、幸せ者だなぁ···)

しかし、触れているのか彼だと思うと落ち着かない自分もいた。

東雲
···何?

サトコ
「え、いや···なんだか緊張しますね···!」

東雲
さっきまで、もっとすごいことしてたのに?

サトコ
「!?」

東雲
はいはい、大人しく前向いてて

振り向きかけた頭は、歩さんの手によって正面へと戻される。
そしてまた後ろから髪を梳かれる感触に、頬がニヤけてしまうのを抑えるのだった。

Happy End

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