カテゴリー

本編① 津軽2話

“話を聞かないゴリラ” --もとい、津軽警視を探している私の前に現れた、ひとりの美形。

(イケメンは教官たちで見慣れてるつもりだった)
(でも、この人は···)

教官方とは “何か” 違った。

???
「ぽかんとしちゃって。俺、そんなに格好いい?」

サトコ
「はい。物凄く、驚くほどに」

???
「······」
「···そっか」

目の前の美形が微苦笑で髪を掻き上げた。

(きらきらって音が聞こえてきそう···)

???
「顔、見る?」

サトコ
「え?」

???
「見たかったら好きなだけ見ていいよ」

サトコ
「わ!」

ぐっと顔が近付いてきて、綺麗にカールした睫毛が目の前で瞬いた。
そんな反応には慣れているのか、愉しむように微笑む姿さえ様になっている。

(な、何なの、この少女漫画のヒーロー的な人は!)

???
「で、探し人は誰?」

サトコ
「あ、津軽さん!津軽警視を探しているんです」

???
「ああ、津軽さん···津軽さんね」

サトコ
「ご存じなんですか!?」

???
「うん。津軽さんの場所なら知ってるよ。おいで」

サトコ
「ありがとうございます!」

(この人、顔だけじゃなくて心も少女漫画のヒーローだ!)

直視したら目が潰れそうな笑顔を前に、心の中で手を合わせる。
歩き出す彼の少し後ろをついて行った。

サトコ
「津軽警視って、どんな方ですか?」

???
「んー、優しいんじゃない?」

サトコ
「優しい···?」

(そういう話は初めて聞いたな)

???
「何か、おかしい?」

サトコ
「いえ、全然!」

(人の話を聞かなくて通じないゴリラで···でも、優しい)
(優しさがあるっていうのは公安刑事にしたら、かなり有り難い···)
(いや、素敵なことだよね)

サトコ
「私、今日から津軽班の配属になったんです」

???
「ああ···」

サトコ
「なので、班長が優しい方ならよかったと思って」

???
「なるほどね」

サトコ
「ずっと探していたんですが、見つからなくて」
「津軽警視を知ってる方にお会いできてよかったです。あ、あなたのお名前は···」

???
「俺?」
「俺は···西園寺光太郎」

サトコ
「西園寺さんですか。名前までヒーローっぽいですね」

西園寺光太郎
「ヒーロー?面白いね、君」

西園寺さんは私のほうを向いてニコリと笑う。

(う、笑顔の破壊力もすごい···!)

眩しい···と、目を細めた時だった。

サトコ
「!」

(階段!?)

足元を見ていなかったせいで空足を踏む。

(落ちる!)

西園寺光太郎
「あぶなっ」

横から伸びてきた腕がガッと胸の下に回され、身体を支えられた。
フワッと浮くような感覚の後、横抱きにされていることに気が付いた。

(お姫様抱っこ!)
(やることまで少女漫画!)

西園寺光太郎
「!君···」

間近に迫っている西園寺さんが、小さく息を飲んで目を瞬かせた。

(え、これって···『近くで見ると可愛いね』とかって言われる展開!?)

夢見がちな歳は卒業したつもりだけれど、この展開はさすがに心臓にきた。

(心臓がつかまれるって、こんな感じ?)
(うそ、私、恋に落ちた!?)

自分の胸を押さえようとすると、そこにはすでに大きな手があった。

(え、これ···)

西園寺光太郎
「左右の胸の大きさ、違くない···?」

サトコ
「!」

確かめるように左右交互に胸を揉まれーー

(さりげない人のコンプレックスを!)

サトコ
「···っ!」

条件反射のようなものだった。
次の瞬間には、パッチーンという弾けた音が踊り場に響き渡っていた。

西園寺光太郎
「そんなに怒んなくてもいいのに」

サトコ
「どんなに顔が良くても、簡単に女性の胸を揉めると思わないでください!」

西園寺光太郎
「え、揉めないの?」

サトコ
「揉めません!」

(処女漫画の王子様だと思って完全に油断してた!)
(このセクハラ案件、ゴリラの津軽さんにきっちり報告して叱ってもらおう!)

彼の頬に赤紅葉が残ってることに若干の罪悪感を覚えるものの。

(謝らなくていいよね···?)

西園寺光太郎
「さて、津軽さんはここだよ」

サトコ
「ここって、公安課···」

(津軽さん、戻って来てるの?)

どんなに捜しても見つからなかった公安課内を進んでいく西園寺さんの後ろを歩いていると。

???
「あ、津軽さん···その頬!?」

サトコ
「え···」

ガタッと立ち上がった男性が西園寺さんに向かって『津軽さん』と呼んだ。

サトコ
「この人、西園寺さんじゃ···」

颯馬
津軽警視、お疲れ様です

東雲
津軽警視、これからよろしくお願いします

サトコ
「!?」

(本当に、この人が津軽さんなの!?)

サトコ
「西園寺さん···?」

傍らの “西園寺さんであるはずの人” を見上げると、にっこりと笑われた。
またあの綺麗すぎる笑顔で。

津軽
ここがゴール
初めまして。津軽班班長、津軽高臣(つがる たかおみ)です

サトコ
「!」
「じゃあ、西園寺光太郎っていうのは!?」

東雲
ぷっ、何それ

サトコ
「嘘なんですか!?」

(この少女漫画世界のイケメンが津軽さんって!)
(全然ゴリラじゃないじゃないですかー!)

<選択してください>

津軽にどこがゴリラなのか聞く

サトコ
「津軽さんの、どこがゴリラなんですか!?」

津軽
ゴリラ?

サトコ
「どんな人か聞いたら、ゴリラみたいだって···」

津軽
まあ、この服の下はモジャモジャだからね

サトコ
「そうなんですか!?」

確かめるように元教官方を振り返ると、さっと目を逸らされてしまった。

元教官方を睨む

かつての教官方の方を見ると、見事なポーカーフェイスが返ってきた。

東雲
ホクロはあるよ

サトコ
「え」

言われて津軽さんの顔を見れば、口元に小さなホクロがある。

(このイケメンパーツの中で、ホクロなんておまけみたいなものでしょ!)

ぽかんと津軽を見上げる

(この美形のどこにゴリラ成分が?)

ゴリラの欠片を見つけられないかと、じっと見上げてしまう。

津軽
これからいくらでも、穴が空くほど見つめられるよ

サトコ
「いえ、見つめたいわけではなくて···!」

津軽
同じ班なんだから遠慮しないで

津軽
君がうちの新人ちゃんね。えーと···

???
「これです」

津軽さんが手を出すと、そこに最初に名を呼んだ男性が書類を渡した。

津軽
氷川サトコちゃんね。よろしく

サトコ
「よろしくお願いします。それで、偽名を使った理由は···」

津軽
こっちでガルガルしてるのが、百瀬尊(ももせ たける)
同じ津軽班の先輩だから、仲良くしてね

サトコ
「百瀬さん、よろしくお願いします!」

百瀬
「······」

(うわ、物凄い睨まれてる···!)

百瀬
「津軽さんの、その頬は」

津軽
今回の新人ちゃん、活きがいいみたい

百瀬
「てめぇ、覚えてろよ」

サトコ
「!」

(そういえば、津軽さんには···)

東雲
早く見つけた方がいいよ。津軽さんの忠犬よりも先に

サトコ
「犬も飼ってるんですか?ここで!?」

後藤
忠実な部下がいるという意味だ

(この百瀬さんが津軽さんの忠犬!)
(どうしよう、初日から好感度ダダ下がり···)

津軽
さて、お仕事開始といきますか

サトコ
「······」

この時、ようやくわかった。
津軽さんはゴリラではなかったけれどーー話が通じないし、人の話を聞かない。

to be continued

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする