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エピローグ 颯馬3話

私たちは手を繋ぎながら、ゆっくりと園内を歩いていた。

颯馬
暗くなってきましたね

サトコ
「そうですね」

(もうこんな時間になるんだ···)

いろいろなところを見て回り、時間が経つのが早く感じる。

サトコ
「今日はたくさん乗り物に乗りましたね」

颯馬
はい。中でも楽しかったのは、やはりお化け屋敷でしょうか
あんなに怯えるサトコさんを見たのは、新鮮でしたよ

サトコ
「あ、あの時のことは忘れてください!」

颯馬
フフ

私の反応を見て、颯馬さんは楽しそうに笑う。

颯馬
サトコさん、パレードまで時間があります。それまでの時間、あれに乗りませんか?

颯馬さんがそう言いながら指差したのは、観覧車だった。

向かい合わせになるように座ると、ゴンドラはゆっくりと上がっていく。

サトコ
「わぁ···」

窓から広がる景色に、思わず感嘆の声が漏れた。

サトコ
「あっ、あっちに一番初めに乗ったジェットコースターが見えますよ!」

颯馬
あそこに見えるのは、お化け屋敷ですね。最後にもう一度行ってみますか?

サトコ
「もう、颯馬さん!」

颯馬
冗談ですよ

(お化け屋敷は怖かったけど···抱き寄せられたりして、緊張したな)
(他のアトラクションも楽しかったし···)
(いつになるかは分からないけど、また2人で来れたらいいな)

サトコ
「······」

颯馬
······

私たちの間に、静かな時間が流れる。

颯馬
···サトコさん。隣に座りませんか?

サトコ
「は、はい···」

颯馬さんに誘われ、隣に座った。

(席はそんなに広くないし···なんだか、変に意識しちゃうよ···)

颯馬
緊張しているんですか?

サトコ
「あ···」

(颯馬さんが、私の肩を抱き寄せて···)

颯馬さんの温もりを感じ、心臓が早鐘を打つ。

颯馬
身体がまだ固いですね。サトコさんは、あまりこういうことに慣れてないんですね

サトコ
「そ、そんなこと···」

颯馬
そんなことない、ですか?じゃあ、男馴れしてるってことでしょうか

サトコ
「お、男馴れ···!?」

思わず声が裏返る私に、颯馬さんはくすくすと笑った。

颯馬
まぁ、貴女の反応を見る限り、それはないと分かりますよ

サトコ
「ん···」

(颯馬さんの指が、私の唇をなぞって···)

颯馬
そろそろ、頂上ですね。観覧車の頂上と言ったら、やはり定番のあれでしょうか

颯馬さんは微笑むと、ゆっくりと顔を近づけてくる。
私もそれに合わせて目を閉じ、唇に温かい感触があった。

サトコ
「颯馬さん···」

私は無意識に、潤んだ瞳で颯馬さんのことを見上げる。

颯馬
···そんな顔をして、もしかして、オレのこと誘ってる?

サトコ
「あ···」

悪戯に微笑みながら、颯馬さんは私の背中をツーッと指でなぞる。

サトコ
「そ、颯馬さん···」

颯馬
誘ったのはサトコ、だよ

サトコ
「っ···」

颯馬さんの指使いがこそばゆく、背中がピクリと反応してしまう。

颯馬
···なんて、ここは密室とはいえ、一応人の目がありますからね

そして颯馬さんは私の耳元に唇を近づけ、囁く。

颯馬
この続きは···人目がないところで、ね

観覧車に乗った私たちは、パレードを見る。
輝くイルミネーションの中で、キャラクターたちが手を振ったり踊ったりしている。

サトコ
「あ、颯馬さん!あそこにいるの、昼間に買ってもらったキャラクターですよ!」
「あっちにいるキャラクターも可愛いなぁ···あ、手を振った!」

私は童心に返り、思う存分パレードを楽しんだ。
パレードが終わり、私たちは遊園地の出口に向かって歩く。

サトコ
「すごく可愛かったですね!イルミネーションも綺麗でしたし···」

颯馬
フフ

サトコ
「颯馬さん···?」

颯馬
子どものようにはしゃいでいましたし、よほど楽しかったようですね

サトコ
「あっ···」

途中からデートだってことも忘れて、私はパレードにはしゃいでいた。

サトコ
「す、すみません、つい···」

颯馬
謝ることなんてないですよ
もちろんパレードも良かったですが
楽しそうにしているサトコさんを見ている方が楽しかったですしね

サトコ
「うう···」

(今日は大人っぽくキメようって思ってたのに···)

颯馬
サトコさん、この後ですが食事に行きませんか?

サトコ
「食事、ですか?」

颯馬
はい。この近くに、いいお店があるんですよ

颯馬さんが運転する車に乗ってやってきたのは、オシャレなレストランだった。
ビルの最上階にあるレストランに入ると、窓際の席に案内される。

(颯馬さん、受付で名前言ってたけど···予約してたんだ)

窓の外には綺麗な夜景が広がっている。

サトコ
「綺麗···」

颯馬
ここのレストランは友人に教えていただいたんです
話を聞いて貴女と来てみたいと思いまして

ウェイターがやって来ると、颯馬さんは慣れた様子で注文する。
そしてしばらくすると、料理が運ばれてきた。

サトコ
「いただきます」

(えっと···ナイフとフォークは外側から使うんだよね)

慣れないテーブルマナーに苦戦しながらも、料理を口に運ぶ。

サトコ
「···ん、美味しいです!」

颯馬
そうですね。この料理ももちろん美味しいですが···
昼間に食べたサトコさんの料理の方が、比べ物にならないくらい美味しいですよ

サトコ
「あ、ありがとうございます···」

私は照れ隠しに料理に集中しようとする。
ふと視線を颯馬さんに向けると、優雅な手つきで料理を口に運んでいた。

(颯馬さん、こういうお店に慣れてるんだな···)

颯馬
どうかしましたか?

サトコ
「い、いえ···」

(私もいつか颯馬さんのように、慣れる日が来るのかな···)

料理を堪能した私たちは、颯馬さんの車に乗って帰路に就いていた。
颯馬さんは私を寮の近くまで送ると言い、車を走らせている。

(今日は、颯馬さんとの初めてのデート···迷惑かけちゃったけど、すごく楽しかったな)
(だけど···もうすぐ、この時間も終わりなんだ···)

楽しかった時間が駆け巡り、終わりが近付くことに寂しさを感じてしまう。

サトコ
「······」

颯馬
······

どちらがしゃべるわけでもなく···
車内はスピーカーから流れる音楽で満たされていた。

(できることなら、颯馬さん共っと一緒にいたいって思うけど···無理を言ったら、ダメだよね)

颯馬
「···サトコさん」

サトコ
「はい?」

颯馬
今日は···

サトコ
「?」

颯馬
······

(颯馬さん、どうしたんだろう?いつもと雰囲気が違うというか···)

いつもの余裕ある雰囲気とは違い、どこか言い辛そうにしていた。

(こっちから聞き返した方がいいのかな···?)

サトコ
「あの···颯馬さん、どうかしましたか?」

颯馬
あの···サトコさん、この後なんですが···まだ一緒にいれますか?

颯馬さんは少しだけ頬を赤らめ、だけどはっきりとした口調で言った。

(颯馬さんも、私と同じ気持ちだったんだ···)

サトコ
「っ、はい!」

颯馬
ありがとうございます。では···私の家に行きましょう

颯馬さんはハンドルを切り、寮とは逆方向に向けて車を走らせた。

颯馬さんの部屋に、落ち着かずキョロキョロしてしまう。

颯馬
そんなに部屋を見回して、何か珍しいものでもありましたか?

サトコ
「い、いえ!その···すみません」

颯馬
今日は一日歩き回っていましたからね。疲れたでしょう?
どうぞ、遠慮せずソファに座ってください。私はお茶を淹れて来ますね

ソファに座ると、キッチンからカチャカチャとお茶を用意している音が聞こえてきた。
緊張から大きく深呼吸すると、愛しい彼の匂いが鼻腔をつく。

(颯馬さんの匂いだ···なんだか、安心するな···って、今の何だか変態くさい!?)

颯馬
何、百面相しているんですか?

サトコ
「そ、颯馬さん···」

颯馬
フフ、貴女はいつでも楽しそうですね

(笑われちゃった···)

颯馬
はい、お茶をどうぞ

サトコ
「ありがとうございます···」

カップを手に取りふーっと息を吹きかけると、お茶の香りが辺りに広がる。

サトコ
「···美味しいです」

颯馬
それはよかった

颯馬さんは寄り添い合うように、私の隣に座った。

サトコ
「っ···」

颯馬さんの部屋で二人きりの中、彼を身近に感じて委縮してしまう。

颯馬
······

サトコ
「······」

(ど、どうしよう···何か話した方がいいよね?でも、何を話せば···)

颯馬
サトコ

サトコ
「は、はい!?」

颯馬
···もしかして···緊張してる?

(う、裏の颯馬さん···!)

サトコ
「そ、そんな、緊張なんて···」

颯馬
なら···どうして視線を逸らすんです?

サトコ
「あ···」

颯馬さんはくいっと私の顎を持ち上げ、瞳を覗き込んでくる。

颯馬
もしかして、私だけですか?
こうしてサトコとふたりきりでいれて、嬉しいのは···

サトコ
「わ、私も···颯馬さんと一緒にいられて嬉しいです!」

颯馬
フフ···よかった

サトコ
「ん···」

颯馬さんは私の唇に、小さなキスを落とす。

颯馬
···このまま···一緒にお風呂に入ろうか
サトコと入りたいなぁって思って

サトコ
「······」

颯馬
ダメ?

(お風呂って···たしあk、教官たちからもアドバイス貰ってたよね···)
(で、でも一緒にお風呂だなんて、恥ずかしいし···!)

颯馬
「そんなに恥ずかしがらないで」

サトコ
「っ!?な、なんで···」

颯馬
顔に書いてある

サトコ
「そ、その···私は···」

颯馬さんは囁くように言葉を繋げる。

颯馬
お風呂に入るのに恥ずかしがるなんて、今さらだろ?
もう、サトコの全てを知っているのに

サトコ
「っ!!そ、颯馬さん!」

(うぅ···完全に遊ばれてる···)
(教官たちからもアドバイス受けたし···)

サトコ
「···わ、分かりました」
「一緒に···お風呂入りましょう!」

私の言葉に、颯馬さんはいつものように優しい笑みを浮かべる。

颯馬
いいんですか?

サトコ
「はい···」

そして私の手を取ると、浴室へと向かった。

私たちは身体を洗うと、浴槽へ浸かる。

(うぅ···いくらアドバイスとはいえ、なんであんな大胆なこと言っちゃったんだろう···)

私は恥ずかしさのあまり、颯馬さんに背中を向けていた。

颯馬
サトコ、こっちを向いて?

サトコ
「きゃっ」

颯馬さんは、私を後ろから抱きしめてくる。
背中越しに颯馬さんを感じ、鼓動が速くなった。

サトコ
「そ、颯馬さん···」

颯馬
寂しいでしょう?
もっとくっつかないと、一緒に入ってる意味がない

サトコ
「っ···」

耳元にかかる吐息に、声が漏れそうになる。

颯馬
今日は随分と頑張るね。おねだりをしたり、上目遣いで誘ってきたり···
ああ、普段はしないような格好もしてたし···

サトコ
「あっ···」

ふっと耳に息を吹きかけられ、今度は小さく声を漏らしてしまう。

颯馬
いつものサトコからは考えられないような行動ばかりで···
それって、手加減しなくていいってこと??
こうやって···

サトコ
「ひゃっ!」

ツーッと上から下へ脇腹を触られ、変な声が出てしまう。

颯馬
オレに触れて欲しかった?

サトコ
「あ、あれは···教官たちからのアドバイスで···」

颯馬
アドバイス?

サトコ
「はい···そ、その···」
「ちょっと前にテレビで『付き合いたてのマンネリ特集』みたいなことやってて···」
「それに、颯馬さんにとったら私は子どもっぽいんじゃないかって、そう思って···」

颯馬
それでアドバイス、ですか···

颯馬さんは、私の顔を覗き込みながら口を開く。

颯馬
そんなことしなくても、サトコは充分魅力的なのに

サトコ
「っ···!」

颯馬
あと、今日のような格好は外ではしないように
他の男性に可愛い貴女を見せるのは嫌ですから

サトコ
「颯馬さん···」

颯馬
こんなに意識しているのに···
何度でも言います
オレは···サトコを、愛してるって

サトコ
「ん···」

颯馬さんは私の顎を持ち、少しだけ強引にキスをする。
だけど、何よりも甘くて蕩けそうになる。

サトコ
「颯馬、さん···ん···」

私の腰をもう片方の腕で抱き、何度も何度もキスを繰り返す。
お互いを求め合うように、キスはどんどん深くなっていった······

翌日。

サトコ
「う、ん···」

(なんだか、温かいような···)

温もりを感じ、ゆっくり目を開けると颯馬さんの微笑みが目に映った。

サトコ
「颯馬、さん···?」

颯馬
おはようございます、サトコさん

サトコ
「あれ?私、いつの間にベッドにいて···」

颯馬
覚えていないんですか?
まあ、昨日はいろいろと手加減も出来ませんでしたからね

サトコ
「!」

昨日の夜のことをもいだし、一気に顔に熱が上がった。

サトコ
「あ、あのあのあの···!」

颯馬
そんなに照れて···私の恋人は、本当に可愛いですね

サトコ
「ん···」

颯馬さんは私の頬をそっと撫で、頬にキスを落とす。

颯馬
まだ朝は早いですし···

サトコ
「あっ···」

そして颯馬さんは、私を腕の中に閉じ込めた。

颯馬
もう少しだけ、こうしていてもいいですか?
このまま、貴女の温もりを感じていたいんです

サトコ
「はい···」

私は返事をし、颯馬さんの胸に顔を埋める。
お互いの温もりを感じながら、もう一度だけ、私たちは優しい時間を過ごした···

Happy End

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