カテゴリー

魅惑の!?恋だおれツアー 後藤2話

皆さんへのお土産について『せーの』で話し始めたところ。

サトコ
「皆さんの安全を願って、お揃いのーー」

後藤
俺たちの思い出に、お揃いのーー

食い違った意見に、誠二さんの顔がさーっと赤く染まっていく。

( “私たちの思い出” ···!そうだ!そういうのもあったんだ!)
(私ってば、もう···!)

サトコ
「すみません!そうですよね!今日はプライベートなんだから···」

後藤
いや、そうだよな···皆、命を張って仕事をしてるんだから···

サトコ
「違います!正解は誠二さんです!」

後藤
アンタが···

サトコ
「誠二さんが···!」

後藤
······

サトコ
「······」

再び数秒の沈黙が落ちーー小さく噴き出したのも同時だった。

後藤
両方買っていこう。俺たちの分も、皆の分も

サトコ
「それが一番ですね!」
「じゃあ、私が “安全祈願” のお守りを買うので···」

後藤
···俺がこっちか

誠二さんが視線を向けたのはカップル向けの “恋愛成就” のお守り。

(自分で言っておきながら照れくさそうな顔をするんだから···)
(今の横顔、写真に撮っておきたいけど!)

サトコ
「黒澤さんじゃあるまいし···」

黒澤
呼びました?

サトコ
「!?」

後藤
黒澤!?

黒澤
はい、あなたの黒澤透です★

幻ではなく、にゅっと黒澤さんが私たちの間から顔を出してきた。

後藤
どうしてお前がここにいる

黒澤
ハハッ、目だけで殺せそうな熱い視線をもらうと、透、照れちゃう

サトコ
「もしかして、石神さんたちと···?」

黒澤
いえ、俺は颯馬さんと歩さんと百瀬さんとです

颯馬
······

東雲
······

百瀬
「······」

黒澤さんが振り返った先には、
笑顔で手を振る颯馬さんと全く興味の無さそうな東雲さん百瀬さんコンビ。

後藤
どうして、お前 “ら” がここにいる

黒澤
神様のお導きじゃないですかね

後藤
罰当たりが

黒澤
痛たた···っ、耳引っ張らないでください!
あながちウソじゃないんですよ。ほら、このおみくじ!

サトコ
「黒澤さんのおみくじ···『待ち人きたる』って書いてありますね」

黒澤
俺の待ち人は、いつだって後藤さんですよ★

後藤
······

黒澤
いだだっ!こめかみにウメボシはやめてっ!

(皆さんでおみくじを引いたのか···百瀬さんのあの顔は、さては『凶』か『大凶』?)
(颯馬さんと東雲さんは読めない···颯馬さんのあの笑顔は吉と出てるのか凶と出てるのか···)

後藤
行こう

黒澤
何か···こめかみ押してもらったことで、肩のコリがとれたような···?

黒澤さんを解放した誠二さんは、神社裏にある小さな滝を目指して歩き始めた。

サトコ
「黒澤さんたちまで来てるのに、私たちだけ呼ばれないって···大丈夫でしょうか?」

後藤
必要があれば、すぐに呼び出される
休みだからって、遠慮するような上司でもないだろう

サトコ
「まったくもって···」

(どちらかというと、嬉々として呼び出しそう)

サトコ
「でも、ちょっと気になるんですよね···」

後藤
ん?

考えるように立ち止まった私に誠二さんも足を止めてくれた。

サトコ
「海の家で津軽さんに会った時、かなりあっさりと退いたのが···」
「仕事中なら手伝わされそうだし、そうでなければしつこく絡んできそうなのに」

後藤
アンタ···津軽さんの下で苦労してるんだな···

サトコ
「いえ、それほどでは!」

酷く気の毒そうな顔をされてしまい、私は両手を振った。

後藤
まぁ···

誠二さんは社の方に視線を移しながら、小さく呟く。

後藤
向こうから連絡がない限りは、必要ないと思って意識を遮断することだ
休みの日まで気を回すことはない

清々しいまでにオンオフを切り分ける誠二さん。

(さすが!これが公安刑事を長く続けられる秘訣なのかも!)

サトコ
「そうですよね。私たちの時間を楽しみましょう!」

後藤
ああ。俺たちの時間と言えば、これ···

私の手に乗せられたのは、私たちの分のお守り。
“恋愛成就” のお守りだけあって、デザインも可愛らしさがある。

サトコ
「ありがとうございます!どこにつけようかな」

後藤
帰りのバスででも、ゆっくり考えるか

サトコ
「はい」

流れていく滝の水流を眺めながら、余計なモヤモヤもすべて流そう。
そう思い切り、待望の夕飯・肉食べ放題のキャンプ場に向かうとーー

津軽
ウサちゃん、こっちこっち

難波
大勢集まった時は、やっぱり肉だな

加賀
ぼーっとしてねぇで、さっさと焼け

サトコ
「え···」

後藤
はぁ···

(あ、誠二さんのため息めずらしいな)
(こういう反応も色っぽい···じゃなくて!)

石神
黒澤、肉だけじゃなく野菜も持ってこい

黒澤
キノコはどうします?

石神
······

東雲
···オレ、眼鏡越しの視線に見られてる気がするんだけど

百瀬
「キノコ奉行」

東雲
聞こえてますから

颯馬
はいはい、仲良くね

(勢ぞろいしてる···)

サトコ
「呼ばれるまでは気にしないって決めたのに」
「呼んでもないのに来る場合は、どうしたらいいんですか?」

後藤
···諦めるしかない

加賀
肉焼き係!

サトコ
「私ですか!?」

後藤
デジャブだな···

サトコ
「はい···」

去年の夏の暑さが頭を通り過ぎていく。

後藤
まあ、ここまで二人で楽しめたんだ。最後くらいはいいだろう

サトコ
「はは、逃げられるとも思いませんしね」

後藤
全くだ

サトコ
「焼肉奉行、参ります!」

後藤
俺も手伝う

サトコ
「すみません、いつも」

後藤
俺がアンタの傍にいたいんだ

(その一言で、いつまでも肉を焼き続けられます···!)

男の肉祭りがひと段落した頃ーー

サトコ
「そうだ、皆さんにお土産があるんです」

石神
土産?

サトコ
「はい。さっき山の上の神社で、皆さんの安全を願って···」

桜地のお守りを順に渡していく。

津軽
はは、乙女ちっく100%デザイン

加賀
こんなもん···

石神
加賀、お守りだということを忘れるな

加賀
ちっ

難波
なかなか一柳みのあるお守りだな。ありがとな、ひよっこ

サトコ
「いえ!皆さん、これからもどうぞお気をつけて!」

難波さんがさっそく持ってきていたカバンにお守りをつくれる。

津軽
お揃いのお守りかー。俺も難波室の一員になれたみたいで嬉しいな

難波
おいおい、冗談でもやめてくれよ

(難波さんがさりげなく津軽さんを切り捨てた!?)

石神
難波さんがつけるなら···

加賀
くそっ

サトコ
「あの、コッソリ持っていただくかたちでも···」

何も見えるところにつけてくれるとは···というより早く、皆さん見えるところにつけてくれる。

黒澤
いいですね!チームお揃いってカンジで!

東雲
頭悪そう

颯馬
そう言いながら、つけるんですよね

東雲
兵吾さんがつけたら、俺がつけないわけにはいかないですよ

百瀬
「100歩譲って津軽さんと同じだからだ」

サトコ
「はあ···」

微妙で複雑な反応の数々だけど、とりあえず受け取ってもらえてよかったことにする。

後藤
俺もカバンにつけた

サトコ
「じゃあ、私も···」

“恋愛成就” のお守りより一足先に、“安全祈願” のお守りをお揃いでつけたのだった。

黒澤
では、カラオケ大会を始めまーす!

帰りのバスの中。

サトコ
「あの、ツアー客の皆さんはどこに行ってしまったんでしょうか···」

後藤
考えても無駄なことだ

サトコ
「ですよね···」

車内にいるのは、知った顔ばかり。

(このメンバーでバスをチャーターしてきたの?)
(何の疑問も持たずに流れでバスに乗ったのが悪かった···)

サトコ
「逃避行は失敗ですね」

後藤
心配はいらない。次の手は考えてある

サトコ
「え?」

どういう意味かと隣の誠二さんを見ると。
ふわっと座席に用意していた腰掛を脚にかけられた。
そしてーー

後藤
······

サトコ
「!」

(腰掛の下で手を···!)

後藤
これはこれで悪くない

サトコ
「この上、小悪魔的な魅力を···!」

後藤
ん?ダメだったか?

サトコ
「いえ!ごちそうさまです!」

後藤
ごちそうさまって···

私の反応に小さく噴き出した誠二さんが微笑で目を閉じた。
同時に手を握る力が強くなる。

サトコ
「寝るんですか?」

後藤
フリだけだ。今度こそ、アンタとの時間を邪魔されたくない

その寝たフリが回ってくるカラオケ対策だと知ったのは、数分後のことだった。

サトコ
「ふぅ···すみません、急にお邪魔して」

後藤
俺が呼んだんだ

結局、よくわからないまま謎のバスツアーは終了し、共に誠二さんの家へと帰って来た。

(結局、津軽さんたちは仕事だったのかな)
(最後全員で帰ったから、大きな問題はなかったんだろうけど)
(最初はひとりで行くつもりで、次は誠二さんとの小旅行気分だったのに···)

津軽
ウーサちゃん♪

(いやいや、でもそのあとは二人で神社に行けたんだし···)

黒澤
あなたの黒澤透です★

(山では黒澤さん一行に···)
(その後は全員集合の焼肉大会···)
(あれ···?今日のって課の慰安旅行だっけ···?)

後藤
サトコ

サトコ
「はい···んっ」

後ろから声をかけられ、振り返ると同時に唇を塞がれた。

後藤
······

サトコ
「誠二さ···っ」

零れた吐息も飲み込むように何度かキスが重ねられる。

後藤
俺とアンタの思い出に他の男を入れないでくれ

サトコ
「今日はゲストがてんこ盛りでしたからね···」

後藤
二人だけの思い出も作っただろう?

手が重ねられ、1本1本の指が絡められる。
バスの中、コッソリと手を繋いだ時のように。

サトコ
「今はもう、誠二さんのことしか頭に浮かびません」

至近距離で見つめ合い、目で頷くと軽く唇を啄まれた。

後藤
まだ足りない

サトコ
「え?」

後藤
今日という日を思い出にした時
俺のことしか思い出せないようにしたい

サトコ
「それって···」

意図を訪ねた時には抱き上げられていた。
ソファに寝かされると、クッションのブサ猫と目が合う。

後藤
···これはこっちだな

誠二さんはブサ猫クッションを裏返すと、ソファに後ろへと置いた。

後藤
これ以上、余計なものはいらない

こめかみに、耳に、頬に···私の頬に覚えさせるように口づけを落としていく。

後藤
···いいか?

私の顔の横に肘をつき、尋ねてくる彼の瞳はすでに熱っぽい。

サトコ
「ダメって言ったら、どうするんですか?」

後藤

ちょっとした悪戯心で聞いてみると、誠二さんが固まった。

後藤
···サトコが嫌なら無理強いはしない
その時はこうして寝る

顔が肩口に伏せられ、両腕が背中に回った。
身体を重ねるように抱き締められると、熱い体温が伝わってくる。

(誠二さんは時々驚くほど大胆だけど、最後はやっぱり優しくて···)
(そんな誠二さんだから)

サトコ
「ダメじゃないです。全部、誠二さんにしてください」

後藤
サトコ···

サトコ
「あ、でも、お風呂!」

後藤
ツアーの途中で日帰り温泉に入ったから、充分だろう

サトコ
「そのあと焼肉してますし···!」

後藤
食欲をそそる匂いかもな

サトコ
「!」

身体を起こして軽く唇を舐める誠二さんは肉食の顔をしていて。

(もうすでに誠二さんの思い出だけになりそう···)

今日1日で見た彼の顔は、本当にいろいろなもので。
夜に見せられた表情は···一際特別なものだった。

そして週明け。

佐々木鳴子
「ちょっと、サトコ」

千葉大輔
「聞きたいことがあるんだけど」

サトコ
「鳴子、千葉さん···」

ちょいちょいと人目のない廊下の隅に手招きされる。

サトコ
「どうしたの?」

佐々木鳴子
「千葉さん、聞いてよ」

千葉大輔
「あ、ああ···その、銀室が乙女趣味に目覚めたって本当?」

サトコ
「お、乙女趣味!?」

(なぜ、そんな噂が!?)

佐々木鳴子
「皆でお揃いの花柄のお守りをつけてるって」

サトコ
「!」

千葉大輔
「それとも、何か任務上大事なアイテムだったりするのか?」

サトコ
「い、いや、どーかな···」

(皆さん、あのお守り見えるところにつけて登庁してるんだ!?)

佐々木鳴子
「あ、サトコも同じやつ!」

千葉大輔
「いったい、銀室で何が···」

サトコ
「は、はあ···まあ、細かいことは気にしないで···はは···」

銀室が乙女趣味に染まったという噂が広まるのは瞬く間で、


「土産のお守り···か」

サトコ
「·········」

肝心の銀室長にお土産を買い忘れたことを海より深く後悔したのは、数時間後のことだった。

Happy End

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする