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魅惑の!?恋だおれツアー 後藤1話

待望のバスツアー。
乗り込んだバスの中にいたのはーー

後藤
······

サトコ
「誠二さん!?」

後藤

よかった。このバスで合ってたんだな

サトコ
「合ってたって···え?あれ?」

(私、誠二さんのこと誘ってたっけ?)

サトコ
「あの、誠二さんに今日のこと話してましたっけ?」

後藤
いや、アンタからは聞いてないんだが···

やや照れくさそうに逸らされた視線の先にあるのは、このバスのチケット。

(座席番号も、ちゃんと私の隣だ)

後藤
少し前のことだ。朝デスクにメモと、このチケットが置いてあって
アンタがこのバスに乗るから、必ず付き添うようにーーというメモが貼られていた

サトコ
「どうして···私がこのバスツアーに参加することは極秘のハズなのに」

驚きを隠せないまま、とりあえず誠二さんの手が私を隣の席に座らせる。
そして顔を寄せられた。

後藤
他班のことだ。大きな声では聞けないが···仕事か?

ひそめられた声に私は小さく首を振る。

サトコ
「いえ、これは完全にプライベートでして···」

後藤
そうか

私の答えを聞いた誠二さんはほっとした顔を見せた。
それから次に、やや複雑そうな顔をする。

後藤
···ということは、この『T・K』は、やはりあいつか

サトコ
「『T・K』···?」

(どこかで聞いたことがあるような···)

後藤
アンタの隣の席をわざわざ調べて予約するような男は、あいつしかいない

サトコ
「ああ···」

私たちの目が同時に遠くなる。

黒澤
恋する乙女の味方★黒澤透です★

サトコ
「今、目元でピースする黒澤さんの姿が···」

後藤
まさに···な···

二人で遠い目になりかけ···発車のアナウンスにハッと意識を戻した。

後藤
とりあえず、こっちに座れ

誠二さんは立ち上がると窓際の席にかわってくれた。

サトコ
「でも···」

後藤
ここなら、俺はアンタを見られる

(誠二さん···!またそんな爆弾を落として!)

微笑む誠二さんに、こちらも外の景色どころではなくなる。

後藤
俺も休みだったから、つい来てしまったんだが···
···ストーカーみたいか?

サトコ
「いえ、全然!全く!」

(誠二さんだったら、ストーカー化も大歓迎ですが!)

流石にそれは呑み込んで、ブンブンと首を振る。

サトコ
「心配して来てくれたんですよね」

後藤
当然、仕事の危険も考えた。だが···

言おうかどうしようか唇を迷わせてから、それでも誠二さんは口を開いた。

後藤
アンタと仕事抜きで小旅行に行けるかも···という邪念があったのも本当だ

己を恥じるような顔に、私は隠れてぐっと拳を握る。

(邪念だなんて、そんなこと全然ないのに!)
(もっと彼氏としての自信を持って···いや、私が持たせないと!)

サトコ
「私も誠二さんと出掛けられるのは嬉しいです!」
「嬉しいのですが···」

後藤
問題があるのか?

サトコ
「これ、『海の幸山の幸食い倒れツアー』なんです···」

後藤

(ああ、ですよね。デートっぽくないというか、そういうのは気にしないですよね)
(だけど···)

サトコ
「このツアーは基本的に、ひとりで食べまくるんです!」
「だから、その、二人で食事という空気とは程遠く···」

後藤
美味いものを食えるのは俺も嬉しい
それに···

誠二さんは座席の背に挟まれているツアーパンフレットを手に取った。

後藤
自由時間もあるみたいだ。この間は二人で居られるんだろう?

それで満足だと微笑む誠二さんの顔が愛おしすぎて、ゴンっと額を窓にぶつけた。

後藤
大丈夫か?

サトコ
「はは、ちょっと揺れたので···大丈夫です」
「でも、そうですよね。自由時間の間はデートできます!」

後藤
ああ

この旅行を承諾してもらえたと思ったのか、誠二さんは肩の力を抜いてそっと手を重ねてきた。
車内の冷房で冷えた指先と温もりの残る掌が、どちらも心地良い。

サトコ
「何だか、ちょっと逃避行気分ですね」

後藤
何からの逃避行だ?

サトコ
「ええと···」

津軽
ウーサちゃん♪

サトコ
「頭の中も腹の中も読めない上司からとか···」

後藤
時には息抜きも必要だな

ギュッと握られた手からは思いやりが伝わってくる。
それは想像以上に私の心を和らげてくれた。

(一緒で良かった)

サトコ
「来てくれて嬉しいです」

後藤
···そうか

その腕に身を寄せると、軽く髪にキスが落とされる。

後藤
来て良かった

(美食でストレス解消するつもりが、思わぬ幸福に···)
(ここで運を使うなら本望!いい旅になりますように!)

サトコ
「わー、潮の匂いしますね!」

後藤
陽射しが強いな

(海を前にした誠二さんの方が眩しいです···!)

目元に手をかざし、眩しそうにする誠二さんにまず視覚が満たされる。

後藤
ここでは何を食べるんだ?

サトコ
「浜焼きがメインですね。イカ焼きに貝類にお刺身、塩焼き···メインは海鮮釜飯です!」

後藤
これが昼飯になるのか

サトコ
「はい。それから自由時間とサービスエリアでおやつ、夕飯は別の場所ですから」
「上手くペース配分しないとですね」

(イカ焼きは美味しいけど、お腹に溜まるから控えめにして消化効率優先で···)

戦略を練っていると、隣で小さく笑う気配が伝わって来た。

サトコ
「どうかしましたか?」

後藤
随分真剣だなと思って

サトコ
「誠二さん、食い倒れを舐めちゃいけませんよ」
「食い倒れていいのは完走した時のみです。その前に倒れるのは負け犬···」

後藤
わかった。俺もアンタにしっかりついていけるように頑張る

コクリと頷き合い、上げた視線の先には磯の香豊かな海の家。
海の幸に存分に舌鼓を打つはずがーー

難波
お、ひよっこに後藤

サトコ
「え···」

後藤
難波さん···?

津軽
俺もいるよー

サトコ
「!?」

(逃避行できてなかった!?)

津軽
や、ウサちゃん

石神
後藤か

加賀
何でテメェらがここにいんだ

(班長ズまで···)

サトコ
「そういう班長たちこそ、どうしてここに!?」

加賀
あ゛?文句あんのか

後藤
文句ではなく正当な疑問です

(誠二さん!)

まるで班長たちの視線から私を守るように半歩前に出て答えてくれる。

石神
俺たちは難波さんに呼ばれてきた

津軽
俺は呼ばれてないけど、秀樹くんと兵吾くんについてきちゃった

難波
津軽、お前、黒澤みが強くなってきてねーか?

津軽
やだな難波さん。そんな無理して若者っぽく話さなくていいのに

加賀
リンゴ、てめぇ

石神
加賀

津軽
ははっ、ほんと忠犬ってどこにでもいるね

津軽さんに食って掛かりそうな加賀さんを抑える石神さん。
素知らぬ顔でビールを煽る難波さん。

(そして私たちは、どうすれば···)

後藤
サトコ

私にだけ聞こえるように耳元で囁き、軽く手を引っ張った。

後藤
向こうに行こう

誠二さんが視線で皆さんから死角になりそうな席を差して歩き出す。

サトコ
「いいんですか?離れた場所に行ってしまって···」

後藤
難波さんに目礼しておいた。向こうも任務中の可能性がある

サトコ
「あ、確かに···」

(室長に班長たちが集まってるってことは、かなりの事件···)

加賀
おい、そのサザエは俺んだ

石神
名前でも書いてあるのか?

加賀
俺の前にあるもんは全部俺のもんに決まってんだろ

津軽
えー、じゃあ兵吾くんの前に座ってる俺も兵吾くんのもの?

難波
幸せになれよ。お二人さん

サトコ
「······」

(かなりの事件···?)

後藤
こっちはプライベートで来てるんだ
巻き込まれたくない

サトコ
「ごもっとも···」

後藤
俺たちは何を食べる?

サトコ
「パンフに載ってた “浜焼き贅沢てんこ盛りセット” がいいです!」

後藤
よし、それにしよう

時折感じる班長ズの視線を意識的にカットしながら、私たちは海の幸に舌鼓を打った。

昼食を食べ終わったあとの自由行動の時間。
私たちは海近くにある山にロープウエイで登っていた。

後藤
山の上の神社は、霊験あらたかな気がするな

サトコ
「海の匂いも山の匂いも両方感じられるのが良いですね」

後藤
だが、よかったのか?自由時間に行く先が神社と滝で

サトコ
「私ひとりでも、ここに来たと思います。誠二さんのことを考えながら」
「だから、一緒に来られてもっと嬉しいですよ」

後藤
「さっそくご利益があったみたいだ」

サトコ
「どうしてですか?」

後藤
今の言葉で幸せな気持ちになった

(本当にもう、誠二さんは!)
(私だって、めちゃくちゃ幸せですよ!)

班長たちも上手くかわせたし、今日という休日が幸せ過ぎて怖いくらいだ。

サトコ
「参拝したら、お土産も見ましょうか」

後藤
そうだな

念のためか、誠二さんは周囲に視線を巡らせてから歩き始める。
先ほど班長ズに会ったせいか手は繋がなかった。

サトコ
「さて···お参りもしましたし、お土産は···」

(お守りとか、どうだろう?皆さん危険がつきもののお仕事だし)
(あ、この桜地のお守り華やかでいいかも)

サトコ
「あの···」

後藤
今、アンタと同じことを考えてた

サトコ
「え···」

誠二さんが私の目を見つめながら、コクリと頷く。

(そういえば、今日は誠二さんと同じ気持ちを共有してる感が強いし!)
(一心同体···じゃなくて以心伝心も可能かも!)

サトコ
「それじゃあ、『せーの』で言いましょう!」

後藤
ああ

サトコ
「せーの!」
「皆さんの安全を願って、お揃いのーー」

後藤
俺たちの思い出に、お揃いのーー

サトコ
「え」

後藤
あ···

(誠二さんは、私たちの思い出にって···)

落ちた沈黙の中···
さーっと誠二さんの顔が赤くなっていった。

to be continued

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