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カンタンにイチャイチャできると思うなよ 東雲2話

(もしかして、私の話に興味がない···!?)

手羽先事件の詳細を話しても、歩さんの顔色は全く変わらない。
変わらないところか、全く興味がない様子で···

東雲
······

(むしろ、自分のネイル気にしてるんですけど···!)
(曲がりなりにも彼女である私の首が、他の男の人に噛まれたのに!?)
(私のことより、ネイル···!?)

サトコ
「あの···噛まれたんですよ!?」

東雲
うん、さっき聞いた

サトコ
「じゃあ、ネイルじゃなくて私に持ってくれても···」

東雲
なんで?

(な、なんで···!?)

<選択してください>

一応、彼女の話···

サトコ
「一応···その、曲がりなりにも彼女の話ですし」
「もうちょっと興味持ってもらえたら、嬉しいなと」

東雲
···曲がりなりにも、ね
オレはキミ以外を彼女にした覚えないけど

サトコ
「!」

(す······好き···)
(って、違う!そうじゃなくて!)

サトコ
「だ、だったらもう少し気にしてくれてもいいと思います!」
「例えばですけど、浮気の心配とか···」

東雲
え、できるの?キミに
絶対にムリだよね

ネイルは綺麗ですから

サトコ
「心配しなくても、歩さんのネイルは綺麗ですから」

東雲
当然だよね
······

サトコ
「えっ、今私の爪見てため息つきました···!?」

(確かに歩さんに比べたら、ちょっとあれかもしれないけど、私なりに···)
(···って、そうじゃなくて!)

サトコ
「彼女が他の男性に噛まれたんですよ···?」

東雲
酔った透だし

サトコ
「そ、それでも心配じゃないんですか?」
「例えばですけど、う、浮気とか···」

東雲
できるの?キミに
ムリだよね、絶対

心配じゃないんですか?

サトコ
「···心配じゃないんですか?」

東雲
なんで?

サトコ
「ふ、振り出し···!」
「だからその、例えばですけど私の浮気とか···」

東雲
酔った透に噛まれたって言ったのはキミ
大体、キミに浮気ができるとは思えないんだけど

サトコ
「うっ···」

(それは、そうだけど···!)
(歩さん一筋の私に浮気なんて、できるわけがないけど!)

言葉に詰まる私とは対照的に、歩さんはいつも通りだ。

(浮気の心配はない、って断言してくれるのは信頼してくれてるってこと···?)
(でも、ちょっとくらい気にしてくれてもいいのに)
(隠してのは私だけど···興味を持って欲しいって思うのは、ワガママなのかな···)

東雲
つまり、気にしてもムダってこと

サトコ
「······」

(前言撤回···!これはバカにされている···!)
(こ、こうなったら、私だって···)

サトコ
「···できます!」
「わ···私だって浮気のひとつやふたつ、立派にやってみせますから!」

(······ん?)
(私、今、とんでもないことを口走ったような···)

東雲
······
ふーん、そう

サトコ
「いや、今のはですね···!」

東雲
ま、頑張って
ひとつやふたつと言わず、いくらでも

サトコ
「えっ」

(笑顔で応援された!?)

まさかの返しをされて戸惑っている間に、歩さんは休憩室を出て行ってしまう。

(どうしよう、引っ込みがつかなくなってしまった···)
(とは言っても···浮気って一体なに?)
(どこからどこまでが浮気!?)

浮気なんてしたことないし、しようと思ったこともない。

(こうなったら、誰かに話しを聞いてもらおう)
(口が堅そうで、なおかつ神経に相談に乗ってくれそうな人に···!)

後藤
···大事な相談があるといったな

サトコ
「はい···後藤さんにしか相談できない話なんです」

夕食時の賑やかなファミレスに似つかわしくない重い声が響く。
悩んだ末、退庁する後藤さんに声をかけ、話を聞いてもらうことにした。

(鳴子に断られた今、頼れるのは公安課の良心、後藤さんしかいない···!)

サトコ
「あくまで、私の友人の話として聞いて頂きたいのですが」

後藤
?···ああ

コーヒーを口に運んだ後藤さんが居住まいを正す。

サトコ
「わ···彼女には付き合っている恋人がいるんです」
「でも、その···浮気をしたいらしくて」

後藤
!!?
ごほっ···ごほっ!

サトコ
「だ、大丈夫ですか!?」

後藤
あ、ああ···

コーヒーカップを置いた後藤さんが、咳払いをして口を拭う。

後藤
···すまない、もう一度頼む

サトコ
「はい、お聞きしたいのは浮気の方法についてです」
「どこからが浮気なのか、そして何をすれば浮気になるんでしょうか」
「悩みすぎて、もうどうしたらいいのか···」

後藤
待て。段階を踏んで説明してくれ
氷川···の友達が、どうしてそういった考えに至ったのか

サトコ
「あっ!すみません···」
「実はーー」

酔っ払った同じ職場の男性(黒澤さん)に、うなじに噛みつかれたこと。
それを恋人に話しても、全く興味を示してもらえなかったと説明する。

サトコ
「わ···彼女は少しでも気にしてほしかったみたいで」
「自分に興味がないんじゃないかって心配になった···みたいです」

後藤
···

サトコ
「気にならないのか尋ねたんですけど」
「『浮気なんてできる訳ない』と言われてしまっ···たみたいで」

後藤
···そうか
いろいろと考えることはあるだろうが、まず、浮気は最低なことだ

後藤さんの真面目な表情が、ますます引き締まる。

後藤
俺は、自分の大切な人が傷つけられたら黙っていないな
興味を持たないなんて、無理な話だ

サトコ
「······」

(後藤さんがモテる理由が分かった気がする···)
(これは皆ときめいてしまうし、好きになる···)

後藤
だが、それは俺に限った話ではない
恐らく、氷川···の友人の恋人も俺と同じタイプじゃないか?

サトコ
「···そうでしょうか」

後藤
ああ
自分の大切な人が傷つけられて無関心でいられる人間なんていないだろ

サトコ
「······」

(歩さんも、そうなのかな)
(興味なさそうな素振りだったけど、ほんとは気にしてくれてた···?)

後藤
···大丈夫だ

サトコ
「!」

大きな手に、そっと頭を撫でられる。

(しょ···少女漫画···!!?)
(······ど、どうしよう、あまりにも慣れない経験過ぎて照れる···)

触れた温もりからは、後藤さんの優しい気遣いが伝わってくる。

(あまりにもナチュラルすぎて、一瞬少女漫画の主人公になってしまった···)
(さすがは後藤さん···これはモテる···)
(でもきっと、私のことを安心させようとしてくれたんだよね)

サトコ
「ありがとうございます···」

後藤
拝まれるほどのことをしたつもりはないが

サトコ
「いえ、今の私にとっては神さまのようです」
「あっ!でも、今のはあくまで友人の話ですから···!」
「彼女もきっと、この場所にいたらそう言うだろうなと!」

後藤
そうだったな

微かに笑みを浮かべた後藤さんが、再びコーヒーカップに口をつける。
今度こそ、吹き出すことなくすべてを飲み終えた。

後藤
······

サトコ
「···?」

(後藤さん、スマホを気にしてる?)
(そういえば、ファミレスに入った時もメールか何か送ってたみたいだけど)

サトコ
「すみません、忙しいですよね。大丈夫ですか?」

後藤
いや···そうじゃない。気にするな
···氷川こそ、大丈夫か?

サトコ
「はい、もう一度恋人と話してみます···って、友人も言うと思います」

後藤
ああ

サトコ
「後藤さんに聞いていただけて良かったです」

頭を下げると、柔らかさを含んだ静かな声が返ってくる。
その優しさに感謝をしても、少女漫画のサトコ体験をしたとしても···

(やっぱり、私は歩さんのことが好きなんだ)
(こんなにも好きなのに、浮気なんてできるはずないよね···)

to be continued

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