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愛の試練編 カレ目線 加賀5話

サトコの記憶が、戻った。
“ P ” が仕掛けた爆弾が起動するまで、残り2秒のところで。

サトコ
「ん、っ···加賀さん···っ」

帰ってきて、ドアを閉めるなりサトコの唇を貪った。
サトコは、マンションの廊下から聞こえてくる声が気になっているらしい。

(だが、知ったこっちゃねぇ)
(今まで、どんだけ待たされたと思ってる)

唇を離すと、またいつでも触れ合いそうな距離を保ちながらサトコが口を開く。

サトコ
「ラブレター、ちゃんと取っておいてくれたんですね」

加賀
捨て忘れただけだ

サトコ
「またまた、そんなこと言って」
「加賀さん、私が思ってるよりも私のこと好きですよね」

加賀
···さすが、頭湧いてる奴は言うことが違うな

サトコ
「へへへ、そんな褒めなくても」

加賀
褒めてねぇ

だがそれは、ようやく見ることができたサトコの笑顔だった。

(記憶なんざどうでもいい···そう思ってたはずなのに)
(結局、一番 “ こいつ ” を待ってたのは俺だったってことか)

サトコ
「でも私、ひとつだけすごく不思議なんです」

再び始まったキスの合間に、サトコが頬を火照らせながら俺を見上げる。

サトコ
「加賀さん、リモートでパスワード入れられるように準備してきてくれましたよね」
「それって、私が絶対にパスワードを入力するって思ってたんだなって」
「···記憶がない私を、どうしてあんなに信じてくれたんですか?」

加賀
······

(んなもん、決まってるだろ)
(言ったはずだ。記憶があってもなくても、お前はお前だってな)

サトコの頭を引き寄せて、額に唇を押し当てる。
唇を離して、いつもより小さく告げた。

加賀
···生きてさえいるなら、なんだって構わねぇ

サトコ
「···え?」

どうやら俺の声は聞こえなかったらしく、それよりもキスに照れたのか両手で額を覆う。

加賀
隠すな。弾きやすいデコじゃねぇか

サトコ
「わ、私のおでこはデコピン用じゃないですから!」

加賀
嬉しいんだろ

サトコ
「キスは嬉しいですけど、デコピンは嬉しくないです···!ただただ痛い!」

そんな喚きも、今はもっと聞きたいとすら思える。

(何で信じられたか、か)
(···愚問だな)

加賀
どうせ、お前は俺を選ぶ
結局、そうだろ

寝室に連れ込むと、片手でサトコの服と下着をひん剥いた。

サトコ
「きゃああ、追いはぎーーー!」

加賀
色気のねぇ声だな

サトコ
「加賀さんの脱がし方だって全然色気ないですよ!」
「ペッ、ペペペッ、って!」

加賀
いいからさっさと全部脱げ

ベッドにサトコを投げてやり、自分も衣服を脱ぎ捨てる。
追いかけるようにベッドになだれ込むと、細い身体を後ろから抱きしめた。

(···久しぶりだな)

体温の境目がなくなる心地。
どんな柔らかいものも敵わない、サトコの素肌の感触。
思えば、記憶を失くしたと聞いたあの日から常に眠りは浅かった。

(もともと、そんなに深い方じゃねぇが···)
(それでも、最近じゃ少なくとも、こいつといる時は···)

ひとりの時より眠れたし、実際、眠りは深かった。
こうして抱き締めて眠っている時は、特に。

(抱き枕が、勝手にちょろちょろしやがって)

二の腕を触っていると、急激に睡魔に襲われた。
流石に今回ばかりは、性欲よりも疲労の方が強い。

加賀
もう二度と···逃げ出すんじゃねぇぞ···

サトコ
「加賀、さん···?」

(···やっと、取り戻せた)
(こんなに長い間触れなかったことは···今まで···)

サトコ
「···ごめんね、兵吾さん」

遠くに聞こえる、サトコの声。

(もし、次同じ事があったら···そのときは、今度こそ捨て犬にしてやる)

できもしないとわかっていながら、サトコがようやく帰って来た安堵から取り留めなく考えた。
サトコの声と自分の思考が溶けあい、どちらがどちらのものなのかわからなくなっていく。

サトコ
「好きです。大好きですよ、何があっても」
「記憶なんて関係なく、私は···最後には、兵吾さんを選ぶんです」

(そうだ。どうせお前は俺を選ぶ。結局はそうだろ)
(それに···俺も、同じだ)

記憶の有無は関係ない。本能が、感情が、心がーー

(お前を、選ぶ)

ーー懐かしい夢を、見た。

石神
訓練は潜入捜査だ。5つのチームに分かれ、それぞれの教官に従うように
教官から指示された人物の情報を収集するのが任務だ

(うるせぇな···ぐだぐだ説明なんざいらねぇだろ)
(使えそうなヤツを現場に連れて行く。やれるかどうか見る。できねぇなら捨てる)
(ただそれだけだ)

石神
チーム分けは今回の書類審査で上位だったものから決めてもらう
1番は···
···氷川サトコ

ざわめきが大きくなり、訓練生たちの中からひとりの女が前に出てきた。

石神
氷川、誰と組むか決めろ

サトコ
「は、はい···」

弱々しい返事をした後、女は戸惑ったようにこちらを見た。
視線をさまよわせ、俺と目が合うと怯えたように顔を伏せる。

加賀
······

サトコ
「あ、あの、私···」

颯馬
大丈夫ですよ。誰を選んでも恨みっこなしです

石神
取って食ったりはしない。早くしろ

東雲
襲いそうな人はひとりいますけどね

(俺のことか)
(歩、余計なこと言うんじゃねぇ)

後藤
ちゃんと俺たちがフォローする。心配するな

サトコ
「あ···」

女の視線が、後藤に向いた。

(···夢の中でもクズだな、テメェは)
(テメェがよそ見しようが、関係ねぇ)

歩き出し、女の前で立ち止まる。
驚いたように顔を上げた女と、今度こそ視線が絡んだ。

加賀
俺を選べ、サトコ

サトコ
「······!」

その目が、みるみるうちに見開かれーー

(何度だって、選ばせてやる)

サトコ
「···はい!」

サトコは、笑顔で大きく、うなずいた。

to be continued

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